関節リウマチに伴う間質性肺疾患の治療介入における医療費課題(静止画)

サイトへ公開:2025年08月01日 (金)

ご監修:三枝 淳先生(神戸大学医学部附属病院 膠原病リウマチ内科 病院教授・診療科長・リウマチセンター長)

近年、関節リウマチ(RA)では、生物学的製剤やJAK阻害薬などの登場によって疾患活動性をコントロールできる患者さんが増えています1,2。関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)の有病率は胸部HRCTを用いた検討で約28~67%程度とされており1、また、年々増加していることが報告されています3。ILDはRA患者さんの死因の11.1%を占め、予後に直接関連する重要な合併症であることから1,4、適切な治療介入が重要です。
ここでは、RA患者さんにおけるILD治療の重要性を改めて確認するとともに、RA-ILDの治療における患者さんの経済的な負担を軽減するための助成制度の利用についてみていきます。

RAにおけるILD治療の重要性

RA-ILD患者さんにおけるRA疾患活動性及び呼吸機能(%FVC)と生存率の関連が報告されています(図1)5。疾患活動性が中等度以上、あるいは呼吸機能の低下がみられる(%FVC 80%未満)患者さんでは、生命予後が悪いことが示されています。また、疾患活動性が寛解・低疾患活動性で呼吸機能の低下がみられる患者さんも予後は悪く、疾患活動性が中等度以上で呼吸機能が維持されている(%FVC 80%以上)患者さんと生存率は同等でした。このことから、RA-ILD患者さんにおいては、疾患活動性をコントロールするとともに、呼吸機能の低下を防ぐことが重要であると考えられます。

図1

RA-ILD患者さんのうち、進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)を呈する割合は26%と報告されています6。PF-ILDを呈するRA-ILD患者さんの予後は不良であり(図2)、生存期間中央値は3.5年とされています(図3)7。また、進行が確認された日を基準とした1年生存率は72.4%、3年生存率は54.6%であり(図3)7、PF-ILDの基準を満たす場合には早期の治療介入が必要です。膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2025では、線維化が進行性になっていると判断した際、特に胸部CTにおいてUIPパターンを呈するようなRA-UIPは特に予後が悪いため、タイミングを逸せず早期に開始することが重要であるとされています1

図2

図3

PF-ILDを呈するRA-ILDの治療選択肢として、抗線維化薬オフェブがあります。オフェブによる治療を開始する際には、既にRA治療を継続している患者さんも多く、新たな薬剤の追加によるさらなる経済的負担を懸念して、治療をためらう場合があります。そのため、医療費助成制度を利用するなど、患者さんの負担を軽減するためのサポートが重要です。

 

高額療養費制度の利用による医療費負担の軽減

RA患者さんが利用できる医療費助成制度のひとつに「高額療養費制度」があります8。本制度は、ひと月(月の初めから終わりまで)の間に、患者さんが医療機関や薬局の窓口で支払った医療費(入院時の食事負担や差額ベッド代等を除く)が限度額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。ひと月当たりの自己負担限度額は、年齢や所得によって異なります(図4)。また、過去12ヵ月以内に3回以上限度額に達した場合は、「多数回」該当となり、4回目以降の限度額が引き下げられます(図5)8

図4

図5

ILDの進行が確認されたRA患者さんにおいて、オフェブによるILD治療を開始する場合について考えてみましょう。関節リウマチ診療ガイドライン20249ではRAの薬物治療アルゴリズムについて、「6か月以内に治療目標である臨床的寛解もしくは低疾患活動性が達成できない場合には、次のフェーズに進む」ことが記載されています(図6)。フェーズIでは、「まずMTXの使用を検討し、すべてのフェーズにおいてMTXを基本的な薬剤として考慮すべき」とされています。フェーズⅡでは「MTX併用・非併用のいずれの場合もbDMARDまたはJAK阻害薬の使用を検討する」、フェーズⅢでは「他のbDMARDまたはJAK阻害薬への変更を検討する」、とされています。このように、オフェブによるILD治療を開始する場合、これらの薬剤による治療を受けていることが想定されます。

図6

ここでは、「70歳未満、年収500万円(自己負担割合3割)」の患者さんが、オフェブ 150mg 1日2回でILD治療を開始するケースを、複数のパターンを用いて考えてみましょう。

RAの治療などで既に高額療養費制度を利用しており多数回該当の場合(図7)、現在の医療費自己負担額は44,400円です。オフェブ治療を開始した場合、オフェブ治療にかかる医療費が高額療養費制度により払い戻されるため、自己負担額は変わらず44,400円となります。

図7

次に、高額療養費制度を利用しているものの多数回該当ではない場合(図8)、自己負担限度額は80,100円+(医療費-267,000円)×1%となり、それを超えた額が助成されます。オフェブ治療を開始した場合であっても自己負担額に変わりはなく、治療を継続して多数回該当になると、自己負担額は44,400円に引き下げられます。

図8

また、現在の医療費自己負担額が44,400~80,100円の場合(図9)、高額療養費制度の対象ではありませんので自己負担額は44,400~80,100円です。オフェブ治療を開始すると高額療養費制度が利用でき、自己負担は80,100円+(医療費-267,000円)×1%が限度額となり、それを超えた額が助成されます。その後、多数回該当になると、自己負担額は44,400円に引き下げられます。

図9

現在の医療費自己負担額が44,400円未満の場合(図10)、高額療養費制度の対象ではありません。オフェブ治療を開始すると高額療養費制度が利用でき、自己負担限度額を超えた額が助成されます。その後、多数回該当になると、自己負担額は44,400円に引き下げられます。

図10

高額療養費制度:世帯合算

高額療養費制度の「世帯合算」(図11)を利用できる場合は、さらに負担を軽減できる可能性があります8。世帯合算は、同じ医療保険に加入している同一世帯のご家族が同じ月に支払った自己負担額を合算することができる制度です。合算した額が自己負担限度額を超えた場合に、超えた分が払い戻されます。ただし、69歳以下の方については、1ヵ月の自己負担額が21,000円以上のものだけを合算することができます。

図11

このように、患者さんが現在支払っている医療費やご家族の医療費の状況によっては、高額療養費制度や多数回該当、世帯合算などを利用することで、医療費の負担が軽減される場合があります。そのため、患者さんごとの状況を詳しく把握し、実際の自己負担額を試算することが、経済的負担軽減の支援につながります。

利用できる可能性があるその他の制度

高額療養費制度以外にも利用できる可能性がある、さまざまな支援制度があります。

①付加給付(図12)

「付加給付」は、健康保険組合が健保法で定められた法定給付に上乗せして支給する独自の給付のことです10)。70歳未満、年収500万円の方で、加入している健康保険の付加給付で設定されている自己負担の上限額が25,000円の場合を例に考えてみます(図12)。医療費総額が100万円のとき、高額療養費制度を利用した場合の自己負担額は87,430円になります。このとき、付加給付の上限額を超えた62,430円が付加給付として支給され、最終的な自己負担額は25,000円となります。なお、患者さんが加入している健康保険ごとに制度の有無や自己負担の限度額は異なりますので、詳しくは患者さんの加入している保険組合に確認する必要があります。

図12

②難病医療費助成制度(図13)

「難病医療費助成制度」は、指定難病と診断され、重症度分類に照らして病状の程度が一定程度以上もしくは軽症高額該当の場合に、医療費助成を受けることができる制度です11。認定されると、所得区分に応じてひと月あたりの自己負担上限額が決まります(図13)。関節リウマチの患者さんが、全身性強皮症やシェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス(SLE)など他の指定難病を合併している場合、基準を満たすと本制度を利用できます。また、血管炎の症状がある場合、悪性関節リウマチの診断基準に該当し、対象となる可能性があります。本制度における助成対象は、認定された疾患に関わる医療費のみであることに注意が必要です11

図13

③身体障害者手帳(図14)

「身体障害者手帳」は身体機能に一定以上の障害があると認められた方に交付される手帳です(図14)12。認定された方は障害者総合支援法の対象となり、各自治体での医療費助成や障害年金、介護サービスの利用などさまざまな支援策を受けられる可能性があります。本制度では障害の種類とその程度に応じて等級が定められますが、関節障害と呼吸器障害が重複する場合は、等級が上がる可能性もあるため注意が必要です。

図14

④その他の制度(図15)

「医療費控除」は、その年の1月1日から12月31日までの間に、ご本人やご家族が支払った医療費が一定額を超えるときに所得控除を受けることができる制度です13。医療費の領収書から「医療費控除の明細書」を作成し、確定申告書に添付して申請します。
「介護保険制度」は、要介護・要支援認定を受けた場合に、居宅介護支援や訪問介護、訪問リハビリテーションなどの介護サービスを利用できる制度です14。介護サービスの自己負担割合は1~3割となります。関節リウマチは、介護保険制度における特定疾病に指定されており、40歳以上の患者さんは介護保険による助成を受けられる可能性があります。
「高額医療・高額介護合算制度」は、1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)の医療保険及び介護保険の自己負担合算額が著しく高額になった場合に負担を軽減する制度です15。医療保険や介護保険の種類、所得区分、年齢区分ごとに自己負担限度額が定められており、それを超えた額が保険者から支給されます。

図15

まとめ

RA-ILD治療では、疾患活動性のコントロールに加えて、呼吸機能の低下を防ぐことが重要です。PF-ILDを呈するRA-ILD患者さんの治療選択肢のひとつとしてオフェブがありますが、既存のRA治療に加えて新たな薬剤が加わることで、さらなる経済的負担を懸念し、患者さんが治療開始をためらう場合があります。そのため、高額療養費制度を中心に、付加給付、難病医療費助成制度、身体障害者手帳など、患者さん一人ひとりの状況に応じて利用できる支援制度を検討し、経済的負担の軽減を積極的にサポートすることが大切です。今回ご紹介した内容を、先生方の日常診療にお役立ていただけますと幸いです。

図16

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