膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2025改訂のポイント(静止画)

サイトへ公開:2025年04月11日 (金)

2025年4月、日本呼吸器学会・日本リウマチ学会の共同編集による「膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2025」(以下、CTD-ILD診断・治療指針2025年版)が発刊されました1。初版は2020年に発表され、世界初の膠原病に伴う間質性肺疾患(CTD-ILD)に関する診断・治療指針として注目を集めました。CTD-ILD診断・治療指針2025年版は、最新の国際的知見を加えるとともに、診療現場で役立つことを重視し、エビデンスを基本としつつも診療にかかわる呼吸器科医、膠原病科医などのエキスパート間の協議のもと作成されています。
今回は、CTD-ILD診断・治療指針2025年版の改訂のポイントについて紹介します。

CTD-ILD診断・治療指針2025年版の改訂ポイント

CTD-ILD診断・治療指針2025年版では、9つの改訂ポイントが示されました(図1)1

図1 

順番に詳しくご紹介します。

1. 第Ⅰ章(総論)を実臨床に即した項目順に変更

CTD-ILDにおける診療の流れをより把握しやすくなるよう、「第Ⅰ章 総論」の項目順が実臨床で行われる順番に変更されました。さらに「第Ⅰ章-A.Overview」ではCTD-ILD診療のフローチャート(図2)を、また、「第Ⅰ章-C.スクリーニング・リスク因子」では本邦のコンセンサスステートメントをもとにしたCTD-ILD の管理アルゴリズムが掲載され、診療において行うべきポイントが一目でわかるようになっています。
一般的にILDにおいては、線維化が進行して生じた構造改変を改善することはきわめて困難であり、早期診断と早期治療介入が有用とされています1。CTDには多彩な疾患が含まれており、疾患ごとや疾患内でのphenotypeによりILDの疾患挙動が異なることが報告されています。このため、CTD-ILDでは、診療フローチャートに基づいた評価を実践することが重要です1,2。 CTD-ILD診断・治療指針2025年版では、6段階に分けたフローチャートが示されています(図2)1,2

図2 

CTD-ILD(膠原病に伴う間質性肺疾患) の診療フローチャート
 

また、対象となるCTDにおけるILD 発症リスク因子を理解し、必要な症例に適切なスクリーニングや診療アプローチを行い、ILDと診断後に重症度評価、治療薬選択、疾患進行モニタリングなどを適切に行えるよう、CTD-ILD診断・治療指針2025年版の作成委員が中心となり、関連論文から作成したステートメントのDelphi法による合意形成によってコンセンサスステートメントを策定し、それらに基づくCTD-ILDの管理アルゴリズムも作成されました1-3

本邦のコンセンサスステートメントにおいて、疾患横断的な指標のポイントとして示されたものは、以下のとおりです(図3)1

図3 

CTD-ILD(膠原病に伴う間質性肺疾患) の診療フローチャート

2. 最新のガイドラインやコンセンサスステートメントの反映

本邦のコンセンサスステートメントや米国胸部学会(American Thoracic Society:ATS)、欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatic Diseases:EULAR)、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)による最新のガイドライン・レコメンデーションを反映し、最新のエビデンスによる診療指針が示されました。「第Ⅱ章 各論」では、疾患ごとに海外のガイドラインとCTD-ILD診断・治療指針2025年版における治療の推奨を併記し、より的確な治療選択を考慮できるよう記載されています。今回の改訂においては、2024年10月に発表されたEULARの全身性強皮症(SSc)のレコメンデーションまでが反映されています。

3. 新規項目の追加

「第Ⅰ章 総論」に「B.膠原病に伴う間質性肺疾患の捉え方」「C.スクリーニング・リスク因子」、「第Ⅲ章 合併症」に「D.急性増悪」、「第Ⅴ章 薬物療法以外」に「D.包括リハビリテーション」が追加されました。実臨床で必要となる知見・診療のポイントが最新のエビデンスをもとに記載されています。

4. 各疾患の治療アルゴリズムの更新

「第Ⅱ章 各論」の「A.多発性筋炎/皮膚筋炎」および「B.全身性硬化症(全身性強皮症)」の項目では、初版2020年版に掲載された治療アルゴリズムについて、最新のエビデンスや本邦の原疾患のガイドラインを踏まえ、より実臨床で実践しやすくなることを目的に更新されました。また、今回の改訂では「(案)」の文言が削除され、診断・治療指針が示す正式な治療アルゴリズムとして提示されました。

・多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)-ILD
CTD-ILD診断・治療指針2025年版では、治療アルゴリズム(図4)に治療薬や治療法の詳細が記載されました。ILDが慢性型の場合、ステロイド薬や免疫抑制薬などで一次治療に奏効しても経過で緩徐に肺線維化が進行し、PPF(PF-ILD)の基準を満たす場合には、抗線維化薬ニンテダニブ(オフェブ)の投与を考慮することなどが記載されています。

図4 

PM/DM-ILD(多発性筋炎/皮膚筋炎に伴う間質性肺疾患) の寛解導入時の治療アルゴリズム

・全身性強皮症(SSc)-ILD
CTD-ILD診断・治療指針2025年版の治療アルゴリズム(図5)では、「ILDあり」の場合の定期的な病勢評価が2020年版の「6~12ヵ月ごと」から、最新のガイドラインや本邦のコンセンサスステートメントなど2, 3に基づき、「3~6ヵ月ごと」または「3~12ヵ月ごと」となりました。また、Limited diseaseで治療介入を検討するためのリスク判定については、ILD進展の予測因子(表1)が病期、臨床像、バイオマーカー、呼吸機能検査に整理され、ILD進展の予測因子を参照し、複数の所見の総合的評価によってリスクを判定する内容にアップデートされました。
「Limited diseaseでILD進展高リスクまたは疾患進行あり」の場合および「Extensive diseaseで高度呼吸機能低下なし」の場合には、ニンテダニブ(オフェブ)を含む治療薬の使用を考慮すること、3~6ヵ月ごとのILDの進行評価を行うことが提案されています。

図5 

SSc-ILD(全身性強皮症に伴う間質性肺疾患) の治療アルゴリズム

表1 

SSc-ILD(全身性強皮症に伴う間質性肺疾患)の進展の予測因子

5. 新規治療アルゴリズム案の掲載

「第Ⅱ章 各論」において、「C.関節リウマチ」の治療アルゴリズム(案)(図6)が新規に掲載されました。原疾患である『関節リウマチ診療ガイドライン』との整合性を考慮したうえで、実臨床に即したRA-ILD診療の流れが示されています。
アルゴリズム(案)では、まずILDの発症様式が「急性・亜急性」か「慢性」かによって区別します。
RA-ILDの治療に対する判断においては、RAによる関節炎自体の活動性と、ILDの進行性と重症度の両者の評価が必須であるとされています。RAの高疾患活動性は、予後不良因子であるばかりでなく、ILD進行のリスク因子であるとの報告もあり、どちらかだけに重きを置いた治療では不良の転帰をたどる可能性があることが理由として挙げられています1, 4。そのため、まずはRAの臨床的寛解、低疾患活動性の達成を目指すべきであるとされています1, 5

ILD慢性においては、ILDの進行が明らかでない場合には関節炎の治療が優先されますが、ILDの進行が明らかな場合にはILDの治療が優先され、ILDの疾患挙動評価に移行してよいこととされています。呼吸器症状の悪化、呼吸機能の低下、胸部画像検査などでILDの進行が認められた場合には、炎症優位か線維化優位かにより抗炎症・免疫抑制療法の強化または抗線維化薬(ニンテダニブ[オフェブ])の投与を検討することとなっています。
また、ILDの評価および治療は、呼吸器科医との協議が望ましいとされています。

図6 

RA-ILD(関節リウマチに伴う間質性肺疾患) の治療アルゴリズム(案)

6. 「進行性肺線維症」に関する記載

世界的な「進行性肺線維症(progressive pulmonary fibrosis:PPF)」の用語使用に対する時流を鑑み、本邦における抗線維化薬の適応疾患名である「進行性線維化を伴う間質性肺疾患(progressive fibrosing interstitial lung disease:PF-ILD)」から「PPF」への用語変更の背景や概念・基準の類似点・相違点、今後の展望などが詳細に記載されています。
PPFは、2022年にATS、欧州呼吸器学会(European Respiratory Society:ERS)、日本呼吸器学会(The Japanese Respiratory Society:JRS)、ラテンアメリカ胸部医学会(Asociación Latinoamericana de Tórax:ALAT)のガイドラインで発表された新たな用語と定義です1, 6。本邦では、オフェブの保険収載疾患名がPF-ILDの日本語訳である「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」として効能又は効果が認められています。CTD-ILD診断・治療指針2025年版では、国際的な流れと本邦の状況を鑑みて、進行性線維化を来すILDの病態として特に規定しない場合はPPF(PF-ILD)と総称することとされました。
また、PPFは診断名ではなく、予後との関連がある疾患横断的な概念であり、抗線維化薬投与に適切な患者を見出す基準でもないことに留意が必要であるとされています1, 6。一方、2023年にPPFコンセンサスステートメントが発表され、適切な管理にもかかわらず進行することを強調して「PPF(despite management)」とする提案もあることが紹介されています7

7. 「多分野による集学的検討」への言及

多分野による集学的検討(multidisciplinary discussion:MDD)は、ILD診療における診断と診断の確信度のレベルの確立、肺生検やその他の検査の必要性の判断、管理方針の決定のために重要であり、ILDを含むびまん性肺疾患診断のゴールドスタンダードとされています1, 6, 8, 9
CTD-ILD診断・治療指針2025年版では、呼吸器科医、膠原病・リウマチ科医、放射線科医、病理医などによるMDD実施の重要性について言及し、MDDカンファレンスを行う際の推奨事項が記載されました。
CTDは、呼吸器疾患だけでも多様であり、ILD以外の呼吸器病変の評価も必要となります。さらに、全身に多彩な症状・所見を伴い、身体所見や自己抗体の評価、治療による有害事象も含めた病態修飾などについての総合的な判断が求められます。そのため、CTD-ILD診療でのMDDに膠原病・リウマチ科医を加えることの意義が注目されており1, 10-13、CTD-ILD診断・治療指針2025年版でも、MDDに呼吸器科医・放射線科医・病理医などとともに膠原病・リウマチ科医が参加することの有用性が示されています。

8. 評価の項目の記載順変更・追加

実臨床での流れを反映する形で項目の記載順が見直され、「患者中心型アウトカム」の記載がより充実されました。また、膠原病・リウマチ科、呼吸器科の両方の視点による治療介入のタイミングにも言及しています。
CTD-ILDで使用されている患者報告型アウトカム尺度(patient-reported outcome measures:PROMs)(表2)1, 14-46には、さまざまなものが存在します。CTD-ILDの症状について最も評価されるのは呼吸困難ですが、その代表的な指標として修正MRC息切れ質問票スケール(modified Medical Research Council dyspnea scale:mMRC)があります1, 14, 19。mMRCは、本邦のコンセンサスステートメントでもILDの重症度評価で考慮すべきとされており2、改訂指針でも紹介されました。

表2 

CTD-ILD(膠原病に伴う間質性肺疾患) で使用されている PROMs

9. 治療薬について

治療に関する最新のエビデンスが取り入れられ、治療薬の適応追加についても解説されています。また、抗線維化薬治療の実際について、エビデンスをもとに初版が発行された2020年以降から現在までの状況について詳しく解説されています。抗線維化薬については、CTD-ILDに対する抗線維化薬の開始時期とガイドラインにおける推奨などの項目が追加され、内容がアップデートされました。

今回ご紹介した内容を、CTD-ILD患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

本ページは会員限定ページです。
ログインまたは新規会員登録後にご覧いただけます。

会員専用サイト

医療関係者のニーズに応える会員限定のコンテンツを提供します。

会員専用サイトにアクセス​

より良い医療の提供をめざす医療関係者の皆さまに​

  • 国内外の専門家が解説する最新トピック
  • キャリア開発のためのソフトスキル
  • 地域医療と患者さんの日常を支える医療施策情報

などの最新情報を定期的にお届けします。​

P-Mark 作成年月:2025年4月