心血管イベントを考慮したCKD治療の4つの戦略とジャディアンスの臨床成績
サイトへ公開:2025年05月29日 (木)
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治療選択肢の増加等、CKDを取り巻く環境は近年大きく変化しています。今回は、長洲一先生に、CKDの治療戦略とジャディアンスの臨床成績についてご紹介いただきました。
【ご監修】
川崎医科大学 腎臓・高血圧内科学
准教授
長洲 一 先生

以下のような患者さんに対して、どのような治療を行われますか?

高血圧治療中で2型糖尿病の併発はなし、慢性腎臓病(CKD)ステージG3b、蛋白尿区分A2の患者さんに対して、先生方はどのような治療を選択されますか。
今回は、CKDにおける4つの治療戦略と、CKD治療の考え方を紹介します。
心血管イベントを考慮したCKD治療の4つの戦略

CKDは、eGFR 60mL/min/1.73m2未満または、蛋白尿等の腎障害の指標が3ヵ月を超えて認められる場合に診断されます1)。
日本人の成人の腎機能を推計したデータでは、CKDに相当する中で、最も人数が多いのはeGFRが軽度~中等度低下で蛋白尿が正常の群であり、それに続くのはeGFRが正常または軽度低下で蛋白尿が陽性の群であることが示されています。
2024年に公開されたデータでは、日本人の成人の5人に1人(約2,000万人)がCKDであると推計されていることから2)、腎機能が低下していながら、CKDと診断されていない潜在患者が多いのではないかと考えられています。CKDは、患者さんの予後を考慮して、適切なスクリーニングと治療介入を行うことが重要です。
1) 日本腎臓学会編: CKD診療ガイド2024, 東京医学社, 2024, p6.
2) 日本腎臓学会編: CKD診療ガイド2024, 東京医学社, 2024, p1.

国内で行われたCKDの患者さんの予後調査では、ステージG3bの場合、3年後の透析導入率3.9%に対し、心血管疾患および/または死亡が5.3%で発生していました。
また、別の調査では、ステージG3bの心血管死の発現リスクはステージG1の2.10倍に上ると報告されました。
このような疫学データから検討できるCKDの治療戦略の1つ目は、心血管疾患リスクを考慮した治療介入を行うことです。

CKDの治療戦略の2つ目は、eGFRの低下が認められる場合、治療介入を行うことです。
eGFRと心血管イベントの発現リスクを検討した解析において、CKDの診断基準の一つであるeGFR 60mL/min/1.73m2未満では心血管リスクのハザード比が1を超えることが示されました(p<0.05、Cox比例ハザードモデル)。

また、心血管イベントのリスクは、eGFRの低下速度の影響を受けるという報告があります。
日本人の匿名化データを利用した調査では、eGFRの低下速度を示すeGFRスロープが負の方向に急峻なほど、心血管イベントリスクが高くなると報告されました。
ここから、CKDの治療戦略の3つ目は、eGFRの低下速度(eGFRスロープ)を抑制するための治療を行うことです。
冒頭の患者像ではeGFRスロープを設定していませんが、実臨床においては、過去のeGFRからeGFRスロープを算出し、CKD治療を検討する際の判断材料に含めることが望ましいでしょう。

CKDの治療戦略の4つ目は、蛋白尿が認められる場合、治療介入を行うことです。
一般集団において、UACRと死亡リスクの関連を検討した調査では、UACRの倍化が生じると、心血管死のイベントリスクが1.29倍となる(p<0.001、Cox比例ハザードモデル)ことが示されました。
そのため、予後を改善するためには、eGFRにかかわらず、蛋白尿が認められた時点での治療介入が必要であると考えられます。

CKD治療の選択肢として、近年、SGLT2阻害薬が追加されました。
日本腎臓学会が公開している「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」では、患者像でお示ししたような、糖尿病を合併していないCKDで、蛋白尿がある場合は、クリニカルエビデンスを有するSGLT2阻害薬を開始することとしています。
なお、同recommendationでは、蛋白尿がない場合でもeGFR 60mL/min/1.73m2未満、つまりステージG3a以上の場合、SGLT2阻害薬のベネフィットを勘案し、使用を慎重に検討することとしています。
CKDの患者さんに対しては、ガイドラインの記載と、今回紹介した4つの治療戦略を検討し、適切な治療介入を行うことが望まれます。
腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPA-KIDNEY試験)

心血管疾患リスクを考慮すること、eGFRの低下速度を抑制すること、eGFRまたは蛋白尿いずれか一方が認められたら治療を開始することという3つの治療戦略を踏まえ、SGLT2阻害薬ジャディアンスのエビデンスをご紹介します。
EMPA-KIDNEY試験は、糖尿病合併の有無にかかわらず腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とし、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性をプラセボと比較検討しました。
なお、対象として、eGFR 20mL/min/1.73m2以上45mL/min/1.73m2未満の場合はアルブミン尿の有無にかかわらず組み入れることを事前規定しており、本試験にはアルブミン尿を呈していない症例を含みます。

EMPA-KIDNEY試験では、主要評価項目において、心血管疾患に対するリスクを含めて評価しています。
腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間を検討した結果、プラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.73(99.83%CI:0.59~0.89)、p<0.0001(Cox回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました。

本試験では図のように、複数のサブグループ解析を事前規定しており、日本人集団における解析結果や、eGFR 30mL/min/1.73m2以上45mL/min/1.73m2未満(ステージG3bに相当)における解析結果が示されています。
なお、日本人集団解析では、主要評価項目について、56%のリスク低下が認められました(p=0.0004、名目上のp値、Cox回帰モデル)。

また、EMPA-KIDNEY試験では、ジャディアンスのeGFRの低下速度への影響を、eGFRスロープを用いて検討しました。
ジャディアンス10mg群は、全体集団において、全期間、慢性期の両方で、eGFRの低下速度(eGFRスロープ)を有意に抑制しました(vs.プラセボ群、全期間、慢性期いずれもp<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。

eGFRスロープについてもサブグループ解析を行いました。
ジャディアンス10mg群は、UACRにかかわらず、慢性期におけるeGFRの低下速度(eGFRスロープ)を有意に抑制しました(vs. プラセボ群、正常群:p=0.0008、微量および顕性アルブミン尿群:各p<0.0001、いずれも名目上のp値、shared parameterモデル)

蛋白尿に対するジャディアンスの影響は、UACRで検討しました。
その結果、ジャディアンス10mg群は、プラセボ群よりも2ヵ月時で16%、36ヵ月時で18%、有意に低下しました(2ヵ月時:p<0.0001、36ヵ月時:p=0.0249、いずれも名目上のp値、MMRM)。

事前規定した非重篤有害事象および全ての重篤な有害事象に限定して有害事象を収集した結果、全体集団での発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風7.0%、コロナウイルス感染3.0%、急性腎障害2.8%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等でした。
なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

日本人集団での有害事象発現割合はジャディアンス10mg群で37.7%でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で低血糖3.1%、白内障手術2.7%、脱水2.1%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で白内障手術8例、末期腎疾患5例、動静脈シャント手術4例等でした。
なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。
国内発売後10年を迎えたジャディアンス

ジャディアンスは、慢性腎臓病※1、慢性心不全※2に対しては、1日1回10mg、2型糖尿病に対しては1日1回10mgまたは25mgの用量が設定されており、2型糖尿病に対しては治療強化が可能です。
※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
※2 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

ジャディアンスは、2015年に2型糖尿病の治療薬として国内で発売されました。今日までの10年間に、慢性心不全※2、慢性腎臓病※1に対する2度の適応追加の承認だけでなく、腎保護、心保護、血糖管理に関する複数の臨床成績を発表し、エビデンスを構築してきました。
※2 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

今回ご紹介したように、ジャディアンスは、CKDの治療戦略に必要なエビデンスを有しています。
EMPA-KIDNEY試験などの結果を踏まえ、CKDの患者さんに対して、ジャディアンスの処方をご検討ください。
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