CKD進行の特徴から見るCKD治療の考え方とジャディアンスのエビデンス
サイトへ公開:2025年04月28日 (月)
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2型糖尿病を併発していない慢性腎臓病(CKD)におけるCKD進行の特徴から、CKD治療で考慮する点や評価方法とともにジャディアンスのエビデンスを紹介します。

日本の成人の5人に1人がCKDであると推計されています

2024年の推計では、日本の慢性腎臓病(CKD)の患者数は、成人の5人に1人(約2,000万人)であるとされています。
CKDが進行すると、人工透析を含む腎代替療法が必要になります。医療費の削減が課題になっている近年、CKD治療は、人工透析に至る患者さんを減らすこと、ひいては医療費削減につながるという点が注目されていましたが、CKDに関する様々な疫学研究や医薬品開発が進んだ現在では、CKDの予後を左右する心不全のリスクを考慮した治療が重要となっています。
今回は、CKDの患者像を例として、疫学研究や臨床成績から、CKD進行の特徴や現在のCKD治療の考え方を紹介します。
以下のような患者さんに対して、どのような治療を選択されますか

高血圧治療中で、2型糖尿病を併発していないCKDの患者さんに対して、先生方はどのような治療を選択されますか。
高血圧(治療中)、尿蛋白陽性は、CKD進行のリスク因子です

高血圧治療は、CKD進行のリスク因子の一つであると報告されています。
図は、CKD進行のリスク因子を検討した国内の追跡調査の結果です。男女とも蛋白尿陽性(CKDステージ1~2)になるリスク因子であると報告されたのは、年齢、血尿、高血圧(治療中)、耐糖能障害、糖尿病(治療中)、脂質異常症、肥満、喫煙等でした。
また、CKDステージ3~5になるリスク因子であると報告されたのは、年齢、蛋白尿、血尿+蛋白尿、高血圧(治療中)、糖尿病(治療中)、喫煙等でした。
蛋白尿陽性(CKDステージ1~2)とCKDステージ3~5に共通するリスク因子のうち、高血圧(治療中)、糖尿病(治療中)、喫煙は、CKD進行を抑制するための治療介入が可能です。
CKD進行を抑制するために、喫煙中の患者さんに対しては禁煙指導を行うこと、高血圧や糖尿病で治療中の患者さんに対してはCKD治療を考慮した治療戦略を検討することが望ましいでしょう。
CKD進行に伴って、心イベントリスクも上昇します

CKDは、心不全と共通のリスク因子および病態生理学的機序を持つことから、心腎連関によって、両方の疾患が増悪する悪循環が形成されます。
CKD進行に伴って心不全等の心イベントリスクが上昇することから、心イベントを考慮したCKD治療が重要となります。

心イベントリスクは、糖尿病の有無にかかわらず上昇することが報告されており、糖尿病を併発していない群では、CKDステージG3aの場合、G1と比較した心血管死の発現リスクは1.48倍であったと報告されました。

CKDの重症度にかかわるeGFRの低下と蛋白尿は、図のように、それぞれが独立した心不全リスクであることが示されました。
eGFRの低下または蛋白尿陽性のどちらかが認められた際には、心不全リスクを加味した治療選択が望まれます。

そのため、糖尿病を併発していないCKDにおいても、日常診療のルーティーンとして尿検査を実施して尿蛋白およびeGFRを確認し、早期からCKDの重症度を把握することが重要です。
尿検査については、日本腎臓学会の『CKD診療ガイド2024』においても、「CKDの早期発見、診断、重症度判定に尿検査は簡便で有効な方法である。」と記載されています1)。
1) 日本腎臓学会編: CKD診療ガイド2024. 東京医学社, 2024. p14.
CKD進行を評価する指標の一つは、eGFRの低下速度(eGFRスロープ)です

CKD進行を評価する指標の一つに、eGFRの低下速度であるeGFRスロープがあります。
eGFRスロープは、1年あたりのeGFRの低下速度を示します。治療介入によってeGFRスロープの低下が0.5~1.0mL/min/1.73m2/年緩やかになると、腎疾患進行が抑制される可能性があります。
加えて、CKDは不可逆に進行することから、治療介入によりeGFRの低下速度が抑制されたとしても、治療介入のタイミングによっては、最終的に腎代替療法の導入が必要となる可能性があります。そのため、腎代替療法導入を回避するためにも、早期介入を行う必要があります。

eGFRスロープが負の方向に急峻なほど、つまり、eGFRの低下速度が速いほど、慢性心不全、心筋梗塞、脳卒中といった心血管イベントのリスクが高くなることが報告されています。
CKD治療では、eGFRスロープを緩やかにする薬剤が選択肢の一つとなると考えられます。
ジャディアンスのエビデンス
EMPA-KIDNEY試験

こちらは、糖尿病合併の有無にかかわらず、腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とし、ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性をプラセボと比較検討したEMPA-KIDNEY試験です。

主要評価項目である腎疾患進行または心血管死のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.73(99.83%CI:0.59~0.89)、p<0.0001(Cox回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました。
全体集団のサブグループ解析において、RAS阻害薬使用群では、ジャディアンス10mgの投与により、主要評価項目のリスクが29%低下しました(p<0.0001、名目上のp値、Cox回帰モデル)。

同じく主要評価項目について、日本人集団では、ジャディアンス10mgの投与により、主要評価項目のリスクが56%低下しました(p=0.0004、名目上のp値、Cox回帰モデル)。
なお、日本人集団のサブグループ解析における腎疾患進行または心血管死のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は、糖尿病非合併群で0.46(95%CI:0.24~0.91、Cox回帰モデル)、RAS阻害薬使用群で0.44(95%CI:0.27~0.74、Cox回帰モデル)でした。

EMPA-KIDNEY試験でもeGFRの低下速度に対する作用としてeGFRスロープを検討しました。
全体集団では、ベースラインから最終フォローアップ来院まで(全期間)において、ジャディアンス投与により、eGFRの低下速度を0.74mL/min/1.73m2/年緩やかにしました(vs.プラセボ群、p<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。
2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院まで(慢性期)において、ジャディアンス投与により、eGFRの低下速度を1.36mL/min/1.73m2/年緩やかにしました(vs.プラセボ群、p<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。

また、全体集団のサブグループ解析において、糖尿病の有無にかかわらず、ジャディアンス10mg群は、慢性期におけるeGFRの低下速度を有意に抑制しました(vs. プラセボ群、糖尿病合併・非合併:各p<0.0001、いずれも名目上のp値、shared parameterモデル)。

日本人集団での解析では、全期間、慢性期の両方で、ジャディアンス10mg群は、eGFRの低下速度を有意に抑制しました(vs. プラセボ群、慢性期:p<0.0001、全期間:p=0.0012、いずれも名目上のp値、shared parameterモデル)。

尿中のアルブミン量を検討した尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)については、ジャディアンス10mg群は、プラセボ群よりも2ヵ月時で16%低下、36ヵ月時で18%低下し、共に有意差を示しました(2ヵ月時:p<0.0001、36ヵ月時:p=0.0249、いずれも名目上のp値、MMRM)。

EMPA-KIDNEY試験において、事前に規定した非重篤有害事象および全ての重篤な有害事象に限定して有害事象を収集した結果、全体集団での発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風7.0%、コロナウイルス感染3.0%、急性腎障害2.8%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等でした。
なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

EMPA-KIDNEY試験における日本人集団での発現割合はジャディアンス10mg群で37.7%でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で低血糖3.1%、白内障手術2.7%、脱水2.1%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で白内障手術8例、末期腎疾患5例、動静脈シャント手術4例等でした。
なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。
実臨床におけるSGLT2阻害薬のCKD進行に対する効果(海外データ)

SGLT2阻害薬(エンパグリフロジンまたはダパグリフロジン)での治療介入によるeGFRスロープの変化について、糖尿病非合併のCKD患者を対象とした海外のリアルワールドデータをご紹介します。
全体集団のeGFRスロープは、SGLT2阻害薬投与前が-5.57mL/min/1.73m2/年、SGLT2阻害薬投与後が-1.66mL/min/1.73m2/年であり、SGLT2阻害薬の投与により、eGFRスロープは、SGLT2阻害薬投与前よりも3.91mL/min/1.73m2/年緩やかになりました(p<0.001、対応のあるt検定)。
また、RAS阻害薬使用群に対してSGLT2阻害薬を追加投与した群(SGLT2阻害薬+RAS阻害薬併用群)におけるサブグループ解析では、SGLT2阻害薬投与前が-5.60mL/min/1.73m2/年、SGLT2阻害薬投与後が-1.92mL/min/1.73m2/年であり、SGLT2阻害薬投与前後の差は3.68mL/min/1.73m2/年でした。
なお、論文中に、安全性についての記載がありませんでした。安全性情報については、各製剤の電子添文をご確認ください。

SGLT2阻害薬は拡張していた輸入細動脈を改善することで、RAS阻害薬の一つであるARBは収縮していた輸出細動脈を改善することで、糸球体内圧を低下させます。
SGLT2阻害薬とARBの効果は、糸球体内圧の低下という点では同一ですが、その機序が異なるため、高血圧治療としてARBを使用している患者さんに対してSGLT2阻害薬を追加することで、それぞれの効果が認められると考えられます。
国内発売後10年を迎えたジャディアンス

ジャディアンス錠10mg・25mgは、2015年に2型糖尿病の治療薬として国内で発売されました。その後、ジャディアンス錠10mgは2021年に慢性心不全※1、2024年に慢性腎臓病※2への効能又は効果、用法及び用量が追加承認されました。
今日までの10年間は、臨床成績の発表等を行い、エビデンスの構築に努めてきました。
※1 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

ジャディアンスのエビデンスは、ジャディアンス錠10mgの適応症である2型糖尿病、慢性心不全※1、慢性腎臓病※2の3領域のそれぞれについて示されています。
今回はジャディアンスの腎保護のエビデンスであるEMPA-KIDNEY試験をご紹介しましたが、心保護および血糖管理についてもジャディアンスの有効性と安全性が検討されていますので、これらの成績を踏まえて、実臨床でどのように役立てるべきか、ご検討ください。
※1 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

なお、ジャディアンスは、慢性腎臓病※2、慢性心不全※1に対しては、1日1回10mg、2型糖尿病に対しては1日1回10mgまたは25mgの用量が設定されており、2型糖尿病に対しては治療強化が可能です。
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
※1 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

今回は、国内におけるCKD進行のリスク因子や評価指標を踏まえたCKD治療の考え方と、ジャディアンスの有効性をご紹介しました。
ジャディアンスは、EMPA-KIDNEY試験のサブグループ解析にて、日本人集団や、2型糖尿病を併発していない群、RAS阻害薬使用群等に対するエビデンスがあります。
2型糖尿病を併発していない慢性腎臓病※2の患者さんの治療にジャディアンス錠10mgの処方をご検討ください。
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
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