SGLT2阻害薬の腎保護作用の機序とジャディアンスの臨床成績

サイトへ公開:2025年03月28日 (金)

エンパグリフロジンの腎保護作用を研究された大阪大学の山本毅士先生に、CKD治療におけるSGLT2阻害薬の作用機序とジャディアンスの臨床成績についてご紹介いただきました。

CKD治療には、心血管疾患の考慮と早期介入が重要

国内で実施された、CKDの患者さんの予後調査では、ステージG3bの場合、3年間で透析導入に至った患者さんの割合は3.9%、心血管疾患および/または死亡に至った患者さんの割合は5.3%であったと報告されました。
CKD治療においては、透析導入をいかに延期するかという点を重視しがちですが、透析導入前に心血管疾患を併発するリスクの高さも考慮した治療が重要です。

CKDのステージ別に心血管死の発現リスクを検討した調査では、ステージG3aの段階でステージG1の1.48倍であると報告されました。
また、別の観察コホート研究では、蛋白尿が高度になるほど心不全の発現リスクが高くなることが示されました。
CKDの進行が心血管疾患の発現に影響すると考えられることからも、心不全を考慮したCKD治療においては、CKDの進行が進む前の段階での早期介入が必要です。

CKDと心血管疾患の双方に共通した重要なリスク因子の一つである高血圧はCKDの進行にも大きく寄与する因子として挙げられることから1)、CKD治療として、血圧管理を重視されている先生がほとんどかと思います。
実際に、国内で実施されたCKD-JAC研究では患者背景として、81.5%が高血圧を併発しており、73.4%がARBを、27.5%がACE阻害薬を使用していたことが示されました。
また、CKD-JAC研究においてCKD進行(eGFRの50%低下または腎代替療法導入)のリスク因子を検討した論文では、収縮期血圧(10mmHg上昇毎)のハザード比が1.203(p<0.0001、Cox回帰モデル)であると報告されました2)。したがって、背景因子等により十分な投薬が行えない患者さん等では、血圧管理とは別のアプローチでの治療を検討する必要があると考えます。

1) 日本腎臓学会編. CKD診療ガイド2024. 東京医学社, 2024. p25.
2) Inaguma D, et al.: Clin Exp Nephrol. 2017; 21(3): 446-56.

その一つがSGLT2阻害薬です。
SGLT2阻害薬の腎保護作用の機序の一つは、輸入細動脈の拡張を改善することです。糸球体への血液の過剰な流入を抑えることで糸球体内圧を低下させます。
同じく糸球体内圧を低下させるという作用機序を持つARBとは、作用する部位が異なるため、SGLT2阻害薬はARBとの併用が可能です。

尿蛋白が軽度のCKD病態モデルマウスを用いて、エンパグリフロジンの腎保護作用の知見を発表

【参考情報】
大阪大学の山本毅士先生の研究班では、エンパグリフロジン投与による腎保護作用について、糸球体過剰濾過、アルブミン再吸収量や、尿細管のオートファジーへの影響を検討し、その研究結果が米国科学誌「Autophagy」に掲載されました。
本研究では、糸球体内圧は上昇するものの尿蛋白は少ないという特徴を持つ、高脂肪食を与えた野生型肥満マウスを疾患モデルとしました。健康な状態を示す通常食群、疾患モデルの高脂肪食群、高脂肪食+エンパグリフロジン群の3群において、単一ネフロン糸球体濾過量を比較した結果、高脂肪食群は通常食群よりも上昇し(p<0.01)、高脂肪食+エンパグリフロジン群は高脂肪食群よりも低下しました(p<0.05、いずれもone-way ANOVA followed by Tukey-Kramer test)。
次に、薬剤誘導性メガリンノックアウトマウスを使用し、メガリンを介したアルブミン再吸収に対するエンパグリフロジンの影響を検討しました。その結果、高脂肪食群のアルブミン再吸収量は、通常食群よりも上昇し(p<0.01)、高脂肪食+エンパグリフロジン群で高脂肪食群よりも低下しました(p<0.05、いずれもone-way ANOVA followed by Tukey-Kramer test)。

【参考情報】
さらに本研究では、エンパグリフロジン投与が尿細管のオートファジー障害に与える影響を検討しました。
オートファジーは、リソソームにおいて細胞構成成分を分解し、エネルギー再利用や細胞内小器官を修復することで、細胞を正常に保ちます。糸球体過剰濾過による尿細管へのアルブミン曝露が増加すると、ミトコンドリア障害等のストレスを介し、オートファジーが常に活性化してリソソームに負担が生じるため、必要な時に十分な活性が得られないオートファジー障害を呈し、虚血再灌流傷害等、急性ストレスに対する脆弱性につながります。
今回、腎臓の組織評価にて、高脂肪食群ではリソソームに負荷がかかることで生じる空胞病変が認められましたが、高脂肪食+エンパグリフロジン群では空胞病変が減少しており、エンパグリフロジンは、尿細管のオートファジー障害を減じ、急性腎障害に対抗することが示されました(p<0.01、one-way ANOVA followed by Tukey-Kramer test)3)
以上より、エンパグリフロジンは、近位尿細管へのアルブミン曝露を減らし(p<0.05)、オートファジー障害を減じることで腎保護に働くことを示しました(p<0.01、いずれもone-way ANOVA followed by Tukey-Kramer test)。

3) Matsui S, et al.: Autophagy. 2024 Oct 14:1-15. 本研究の一部は、共同研究として日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の支援により行われました。

10年間エビデンスを構築してきたジャディアンス

ジャディアンスは、2015年に2型糖尿病の治療薬として国内で発売されました。2021年には慢性心不全※1、2024年には慢性腎臓病※2への適応が追加承認され、今日までの10年間は、毎年、新たなエビデンスの発表や配合錠の発売、適応追加等を行ってきました。

※1 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

今回、作用機序について検討した腎保護に対する影響だけでなく、心保護や血糖管理についても、ジャディアンスの有効性と安全性を検討する複数の臨床試験が報告されました。
これらの成績を精査して、実臨床でどのように役立てるべきか、検討していきたいと思います。

なお、ジャディアンスは、慢性腎臓病※1、慢性心不全※2に対しては、1日1回10mg、2型糖尿病に対しては1日1回10mgまたは25mgの用量が設定されており、2型糖尿病に対しては治療強化が可能です。

※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
※2 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPA-KIDNEY試験)

EMPA-KIDNEY試験は、糖尿病合併の有無にかかわらず、また、アルブミン尿を呈していない症例も含めて、腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とし、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性をプラセボと比較検討しました。

腎疾患進行または心血管死のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.73(99.83%CI:0.59~0.89)、p<0.0001(Cox回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました。
事前規定された日本人集団解析では、主要評価項目について、56%のリスク低下が認められました(p=0.0004、名目上のp値、Cox回帰モデル)。
また、日本人集団のサブグループ解析におけるRAS阻害薬使用群のハザード比は0.44でした。

また、ジャディアンス10mg群は、日本人集団において、全期間、慢性期の両方で、eGFRの低下速度(eGFRスロープ)を有意に抑制しました(vs.プラセボ群、全期間:p=0.0012、慢性期:p<0.0001、いずれも名目上のp値、shared parameterモデル)。

UACRについて、ジャディアンス10mg群は、プラセボ群よりも2ヵ月時で16%、36ヵ月時で18%、有意に低下しました(2ヵ月時:p<0.0001、36ヵ月時:p=0.0249、いずれも名目上のp値、MMRM)。

事前に規定した非重篤有害事象および全ての重篤な有害事象に限定して有害事象を収集した結果、全体集団での発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風7.0%、コロナウイルス感染3.0%、急性腎障害2.8%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等でした。
なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

日本人集団での発現割合はジャディアンス10mg群で37.7%でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で低血糖3.1%、白内障手術2.7%、脱水2.1%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で白内障手術8例、末期腎疾患5例、動静脈シャント手術4例等でした。
なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

国内外のガイドラインにおけるSGLT2阻害薬の位置づけ

「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使⽤に関するrecommendation」では、今回の作用機序の研究で用いた病態モデルのような、蛋白尿のない糖尿病非合併CKDに対しては、「eGFR 60mL/分/1.73m2未満で SGLT2阻害薬のベネフィットを勘案し使用を慎重に検討」としています。

また、KDIGO2024では、SGLT2阻害薬を、慢性腎臓病の多くの患者に対する第一選択治療としています。
このように、近年のCKDガイドラインでは、SGLT2阻害薬の位置づけを明確にしています。

SGLT2阻害薬の腎保護効果については、作用機序がいまだ明確でない部分もありますが、今回ご紹介したように、現在でも研究が進められています。
また、ジャディアンスに関して、これからも様々なエビデンスが発表されることが期待されます。
EMPA-KIDNEY試験等、今までに構築されたエビデンスを検討し、適切な患者さんに対するジャディアンスの処方をご検討ください。

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