糖尿病関連腎臓病(DKD)の臨床経過から考える CKD治療の早期介入
サイトへ公開:2024年06月27日 (木)
クイックリンク
今回は監修の順天堂大学 腎臓内科 先任准教授の合田 朋仁先生とともに、多様化するDKDの臨床経過とそれに伴うCKD治療について考えます。


2型糖尿病合併CKDは正常アルブミン尿でもeGFRの低下により重症度リスクが上昇します

先生の患者さんに、図に示すような慢性腎臓病(CKD)を併発した2型糖尿病のある方はいらっしゃいますか?
2型糖尿病がある場合、eGFR 60mL/min/1.73m2未満であれば、正常アルブミン尿で顕在化するリスクがないとしても重症度ステージは上昇します。
今回はこのような方へのCKD治療の早期介入の意義について検討します。
アルブミン尿の顕在化よりも前に腎機能の低下は進行していることがあると考えられています

糖尿病関連腎臓病(DKD)において、これまでアルブミン尿の発現はDKDの初期症状とされていました。しかし、アルブミン尿の発現は、将来の腎機能低下を予測する感度や特異性に欠け、また、治療法の変化によりDKDの臨床経過が多様化していることから、図の③のように正常アルブミン尿のまま腎機能が徐々に低下するケースもあると考えられています。

また、2型糖尿病のある方では、正常アルブミン尿でも、eGFR低下により心血管イベントリスクが上昇することが示されています。
大血管疾患や末期腎不全のない2型糖尿病のある方を対象とした海外の前向きコホート研究では、アルブミン尿のない集団において、eGFR(mL/min/1.73m2)が30以上60未満の群は、eGFR 90以上の群に対する心血管イベントのハザード比が3.05であり、イベント発現リスクが有意に高くなりました(p=0.002、Cox比例ハザードモデル)。
こうした点を踏まえ、2型糖尿病のある方では、アルブミン尿の状態にかかわらず腎機能を考慮した治療を早期から行うことが望まれます。
CKD治療における国内外のガイドラインが示すSGLT2阻害薬の位置づけ

CKD治療において、国内では日本腎臓学会が2022年に発出した『CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使⽤に関するrecommendation』では、「SGLT2阻害薬は、糖尿病合併・非合併にかかわらず、CKD患者において腎保護効果を示すため、リスクとベネフィットを⼗分に勘案して積極的に使⽤を検討すること」が明記されました。さらに糖尿病合併CKDの患者に対しては、以下のrecommendationが示されました。
●糖尿病合併CKD患者:アルブミン尿(蛋⽩尿)、腎機能に関係なく腎保護効果が期待されるため、クリニカルエビデンスを有するSGLT2阻害薬の積極的な使⽤を考慮する。(eGFR 15mL/min/1.73m2未満では新規に開始しない。継続投与して15mL/min/1.73m2未満となった場合には、副作⽤に注意しながら継続する)。

海外でも2024年に発表されたKDIGO 2024において、CKD治療の包括的アプローチとして、食事や運動、禁煙、体重管理などの生活習慣の管理をベースに、薬物療法を行う際、SGLT2阻害薬が第一選択薬となっています。
ジャディアンスは、EMPA-KIDNEY試験において糖尿病合併の有無を問わずCKD患者に対する有効性が示されました

SGLT2阻害薬の1つであるジャディアンスは、2024年2月に慢性腎臓病※の効能又は効果の追加が承認されました。
その根拠となったEMPA-KIDNEY試験では、アルブミン尿や糖尿病合併の有無を問わず、幅広いeGFR値のCKD患者を対象に、有効性および安全性を検討しました。
※ ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

組み入れられたCKD患者のうち、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が正常アルブミン尿の方、eGFRが45 mL/min/1.73m2以上の方がそれぞれ約2割を占めていました。

主要評価項目である腎疾患進行または心血管死のジャディアンス10mg群のプラセボ群に対するハザード比は0.73で、イベントリスクが27%低下し、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(99.83%CI:0.59~0.89、p<0.0001、Cox回帰モデル)。

本試験では、eGFRの年間変化率(eGFRスロープ、負の値が小さいほど、1年あたりのeGFRの低下が少ないことを示す)を検討しています。
その結果、ベースラインから最終フォローアップ来院までの全期間のeGFRスロープは、プラセボ群 -2.90に対してジャディアンス10mg群 -2.16であり、2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院までの慢性期のeGFRスロープは、プラセボ群 -2.74に対して、ジャディアンス10mg群は -1.37でした。

また、慢性期において、ベースラインのUACR別にみたサブグループ解析では、推定されたeGFRスロープの差から、ジャディアンス10mg群は正常群、微量アルブミン尿群、顕性アルブミン尿群のいずれにおいても、プラセボ群に対してeGFRスロープの低下が小さかったことが示されました(正常群:p=0.0008、微量アルブミン尿群および顕性アルブミン尿群:各p<0.0001、いずれも名目上のp値、shared parameter モデル)。

安全性については、重篤な有害事象および事前に規定した非重篤な有害事象に限定して収集され、全ての有害事象の発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%(1,444/3,292例)、プラセボ群で46.1%(1,516/3,289例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風231例(7.0%)、コロナウイルス感染98例(3.0%)、急性腎障害93例(2.8%)等、プラセボ群で痛風266例(8.1%)、急性腎障害117例(3.6%)、コロナウイルス感染107例(3.3%)等でした。また重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等、プラセボ群で急性腎障害117例、コロナウイルス感染107例、血中カリウム増加87例等でした。投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

ジャディアンスの「慢性腎臓病※1」に対する用法及び用量は、1日1回10mgの経口投与です。朝食前または朝食後のどちらにおいても服用可能です。
ジャディアンスの適応症は慢性腎臓病に加え、慢性心不全※2、2型糖尿病※3となっており、全ての適応症において10mgで投与することが可能です。
2型糖尿病においては、「効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら25mg1日1回に増量することができる。」となっています。
※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
※2 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
※3 2型糖尿病の患者では、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら25mg1日1回に増量することができる。

DKDの臨床経過は多様化しており、図のような2型糖尿病のある方では正常アルブミン尿でも腎機能の低下を来しているケースもあり、腎機能にフォーカスして早期からの治療アプローチを検討することが望まれます。
近年の国内外のガイドラインでは、CKDに対する薬物療法としてSGLT2阻害薬の位置づけが明確になりました。
国内では、ジャディアンス10mgが慢性腎臓病※の効能又は効果が新たに承認を受け、こうした患者さんに対する新たな処方選択肢の1つに加わりました。
こうした状況から、新たな選択肢も含めて、2型糖尿病のあるCKD患者さんの最適な治療を考える機会となっているのではないでしょうか。
ご紹介した内容が、先生の診療のお役に立てば幸いです。
※ ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。