日常診療におけるeGFRスロープ低下抑制の重要性
サイトへ公開:2024年11月28日 (木)
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腎機能の低下は様々な疾患の併発につながることから、日常診療でeGFRの低下を緩やかにすることの重要性とその方法について、山下武志先生にご紹介いただきました。


先生は、日常診療において、腎機能をどの程度考慮されていますか。
加齢による腎機能低下は、体液の恒常性の維持の破綻や、様々な疾患の併発につながる恐れがあります。
そのため、図のように、高血圧治療を行っている慢性腎臓病の患者さんにおいては 、定期的に腎機能の評価を行う必要があると考えます。
今回は、日常診療における腎機能評価や腎機能低下のリスクについて、お届けします。
日常診療における腎機能評価にはeGFRを使用

腎機能評価には、一般的に、eGFRが使用されています。
腎機能の状態を最も正確に表すのは、イヌリンクリアランス測定によるGFR(糸球体濾過量)ですが、GFRは測定方法が煩雑であるため、日常診療での使用は困難です。そこで、GFRの代替として、血清クレアチニン値と年齢、性別から推算するeGFRが用いられています。
一方で、血清クレアチニン値は腎機能のバイオマーカーとして有用ですが、腎機能の軽度~中等度低下では変動が小さいため、腎機能低下の早期発見が困難です。また、性別と年齢の影響を受ける血清クレアチニン値は、同一の値であっても性別や年齢によって実際の腎機能は異なります[例:血清クレアチニン値1.0mg/dLのeGFRは、20歳男性では82.1mL/min/1.73m2(G2)、85歳女性では40.1mL/min/1.73m2(G3b)となる]。特に高齢の患者さんでは、血清クレアチニン値が基準値の範囲内であっても、実際の腎機能は低下していることがあります。
そのため、日常診療ではCKDの重症度の評価に適しているeGFRの活用が望ましいと考えます。

eGFRの低下は腎疾患のイベントのみならず、様々な心血管イベントリスクと相関していることが示されています。
一般集団コホートを含むメタ解析では、eGFR 60mL/min/1.73m2未満になると、eGFR正常または高値の範囲である95mL/min/1.73m2と比較して心不全、心血管死、冠動脈疾患 、脳卒中の全ての心血管イベントのリスクが上昇したことが示されました。
早期CKDの予後予測の指標として注目されるeGFRスロープ

eGFRはその時点での腎機能を評価するだけでなく 、最近はその推移、eGFRスロープが予後予測の指標として有効だと考えられています。
eGFRスロープとは、eGFRの年間変化率であり、腎機能の低下速度を示します。
複数の時点でeGFRが得られている患者さんに対し、eGFRの差を期間で除することで得られます。
一定の期間でのeGFRの差が大きいほど、すなわち、腎機能の低下速度が速いほど、eGFRスロープの負の値は大きくなります。
また、治療介入により、腎機能低下が抑制された場合、eGFRスロープの負の値は小さくなります。

2023年に公開された国内のガイドラインでは、eGFRスロープは早期CKDの治療薬に対する臨床的有効性評価方法のサロゲートエンドポイントになりうると報告されました。今後、CKD関連の臨床試験において、eGFRスロープを使用した報告が増えると考えられます。
なお、eGFRスロープの早期CKDの予後予測の指標としての基準は、治療介入によってeGFRスロープの低下が0.5~1.0mL/min/1.73m2/年、緩やかになることとされています。

米国で65歳以上の高齢者を対象に、eGFRスロープと全死亡リスクの相関を検討した追跡調査では、eGFRスロープが-3mL/min/1.73m2/年以下の急峻な群では全死亡率63%、それよりも緩やかな-3mL/min/1.73m2/年超の群で47%と、eGFRスロープが急峻な群で全死亡率が高くなりました。また、図のように、eGFRスロープの負の値が大きいほど、全死亡リスクは高くなることが示されました。

また、うっ血性心不全、急性心筋梗塞、脳卒中のいずれにおいても、eGFRの年間低下幅が大きいほど発症リスクが高まることが報告されました。
心血管疾患の発症リスクは、腎機能低下速度に規定されるといえます。

なお、eGFRの低下速度についてのリスク因子について、私は、年齢、糖尿病合併、BMI高値、高血圧、eGFR、UACRに注目しています。
CKDを対象とした国内の大規模多施設コホート研究では、eGFR 50%低下または腎代替療法導入までの時間に関連するリスク因子として図のような結果が報告されています。
これらのリスク因子をお持ちの患者さんにおいては、特に定期的な腎機能評価を行い、適切な治療につなげましょう。
ジャディアンスのエビデンス①
腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPA-KIDNEY試験)

慢性腎臓病*の効能又は効果の追加承認を受けたジャディアンスでは、慢性腎臓病患者を対象として、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性をプラセボと比較検討するEMPA-KIDNEY試験が行われました。
対象患者全体の主な患者背景は、糖尿病合併ありが45.8%、糖尿病合併なしが54.2%、RAS阻害薬使用中が85.2%、RAS阻害薬使用せずが14.8%、65歳以上が54.6%、65歳未満が45.4%、BMI 25kg/m2未満が24.4%、25kg/m2以上30kg/m2未満が34.8%、30kg/m2以上が40.6%でした。
また、腎機能については、eGFR 20mL/min/1.73m2以上を対象としており、その内訳は表のとおりです。
*ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

主要評価項目である腎疾患進行または心血管死のリスクは、全体集団において、27%低下しました(HR=0.73、99.83%CI:0.59~0.89、p<0.0001、Cox回帰モデル)(検証的な解析結果)。この主要評価項目に対して事前規定した日本人集団の解析ではHR=0.44(95%CI:0.28~0.69)でした。
全体集団のサブグループ解析では、ベースラインのeGFR別の全ての部分集団でハザード比の95%CIの上限は1.00を下回りました。ベースラインの糖尿病合併の有無別では、糖尿病合併の有無にかかわらずジャディアンス10mg群とプラセボ群の有意差が認められました(糖尿病合併:ハザード比0.64、p<0.0001、糖尿病非合併:ハザード比0.83、p=0.0443、いずれも名目上のp値、Cox回帰モデル)。
65歳未満と65歳以上のいずれにおいてもジャディアンス10mg群とプラセボ群の間に有意差が認められました(65歳未満:ハザード比0.75、p=0.0015、65歳以上:ハザード比0.69、p<0.0001、いずれも名目上のp値、Cox回帰モデル)。
BMI(kg/m2)にかかわらずジャディアンス10mg群とプラセボ群の間に有意差が認められました(25未満:ハザード比0.70、p=0.0036、25以上30未満:ハザード比0.79、p=0.0367、30以上:ハザード比0.69、p=0.0002、いずれも名目上のp値、Cox回帰モデル)。
また、RAS阻害薬使用ありの群ではハザード比0.71となり、ジャディアンス10mg群とプラセボ群の間に有意差が認められました(p<0.0001、名目上のp値、Cox回帰モデル)。
その他のサブグループにおける解析結果は図のとおりでした。

eGFRスロープについて、全体集団では、ベースラインから最終フォローアップ来院まで(全期間)において、ジャディアンス10mg群ではプラセボ群よりも0.74mL/min/1.73m2/年、負の値が小さくなりました(p<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル) 。
また、2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院まで(慢性期)において、ジャディアンス10mg群ではプラセボ群よりも1.36mL/min/1.73m2/年、負の値が小さくなりました(p<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。
日本人集団では、全期間において、ジャディアンス10mg群ではプラセボ群よりも1.05mL/min/1.73m2/年、負の値が小さくなり(p=0.0012、名目上のp値、shared parameterモデル)、慢性期において、ジャディアンス10mg群ではプラセボ群よりも1.85mL/min/1.73m2/年、負の値が小さくなりました(p<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。
全体集団のサブグループにおける解析結果は図のとおりであり、全てのサブグループでジャディアンス10mg群はプラセボ群よりも負の値が小さくなりました。

安全性については、事前に規定した非重篤有害事象および全ての重篤な有害事象に限定して有害事象を収集した結果、それらの発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%(1,444/3,292例)、プラセボ群で46.1%(1,516/3,289例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風231例(7.0%)、コロナウイルス感染98例(3.0%)、急性腎障害93例(2.8%)等、プラセボ群で痛風266例(8.1%)、急性腎障害117例(3.6%)、コロナウイルス感染107例(3.3%)等でした。また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等、プラセボ群で急性腎障害117例、コロナウイルス感染107例、血中カリウム増加87例等でした。投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。
ジャディアンスのエビデンス②
左室駆出率が低下した(LVEF≦40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPEROR-Reduced試験)

LVEF≦40%の慢性心不全患者を対象としたEMPEROR-Reduced試験では、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性についてプラセボ群との比較検討を行いました。
全体集団における、心血管死または心不全による入院の初回発現までの期間のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.75(95.04%CI:0.65~0.86)、p<0.0001(Cox比例ハザード回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(主要評価項目)。さらに、CKD合併の有無別に事前規定したサブグループ解析を行った結果、CKD合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.78(95%CI:0.65~0.93)、CKD非合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.72(95%CI:0.58~0.90)(交互作用のp値:0.63、名目上のp値)でした。
【参考情報】
腎機能への影響を示すeGFRスロープは、ジャディアンス10mg群で-0.546mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で-2.278mL/min/1.73m2/年であり、ジャディアンス10mg群とプラセボ群の差は1.733mL/min/1.73m2/年でした。
安全性については、全体集団での有害事象の発現割合が、ジャディアンス10mg群で76.2%(1,420/1,863例)、プラセボ群で78.5%(1,463/1,863例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全332例(17.8%)、低血圧130例(7.0%)、腎機能障害105例(5.6%)等、プラセボ群で心不全444例(23.8%)、低血圧119例(6.4%)、高カリウム血症、高尿酸血症各115例(6.2%)等でした。重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全332例、心室性頻脈55例、肺炎53例等、プラセボ群で心不全444例、肺炎62例、急性腎障害55例等でした。なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。
ジャディアンスのエビデンス③
左室駆出率が保たれた(LVEF>40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPEROR-Preserved試験)

また、LVEF>40%の慢性心不全患者を対象としたEMPEROR-Preserved試験でも、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性についてプラセボ群との比較検討を行いました。
全体集団における、心血管死または心不全による入院の初回発現までの期間のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.79(95.03%CI:0.69~0.90)、p<0.001(Cox比例ハザード回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(主要評価項目)。さらに、CKD合併の有無別に事前規定したサブグループ解析を行った結果、CKD合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.80(95%CI:0.69~0.94)、CKD非合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.75(95%CI:0.60~0.95)(交互作用のp値:0.6682、名目上のp値)でした。
【参考情報】
腎機能への影響を示すeGFRスロープは、ジャディアンス10mg群で-1.253mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で-2.616mL/min/1.73m2/年、ジャディアンス10mg群とプラセボ群の差は1.363mL/min/1.73m2/年でした。
安全性については、全体集団での有害事象の発現割合が、ジャディアンス10mg群で85.9%(2,574/2,996例)、プラセボ群で86.5%(2,585/2,989例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全449例(15.0%)、尿路感染236例(7.9%)、低血圧232例(7.7%)等、プラセボ群で心不全594例(19.9%)、高血圧256例(8.6%)、心房細動223例(7.5%)等でした。重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全448例、肺炎100例、心房細動92例、急性腎障害81例等、プラセボ群で心不全594例、肺炎119例、急性腎障害107例、心房細動80例等でした。なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

今回紹介した、EMPA-KIDNEY試験、EMPEROR-Reduced試験、EMPEROR-Preserved試験をはじめとして、ジャディアンスは、慢性腎臓病※1、慢性心不全※2、2型糖尿病に対する適応とエビデンスを有しています。
慢性心不全※2と慢性腎臓病※1に対するジャディアンスの用法及び用量は1日1回10mgの経口投与です。朝食前または朝食後のどちらでも服用可能です。
腎機能の低下は、全身の臓器に影響を与えます。特に心血管疾患への影響から、心血管死や全死亡リスクの上昇につながっています。
日常診療では、血清クレアチニン値から推算できるeGFRで腎機能評価を定期的に行い、適切なCKD治療につなげましょう。
慢性腎臓病※1、左室駆出率を問わない慢性心不全※2に対するエビデンスを有するジャディアンス錠10mgの処方をご検討ください。
※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
※2 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。