慢性腎臓病患者に対する腎機能評価とSGLT2阻害薬による早期治療介入
サイトへ公開:2025年08月28日 (木)
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慢性腎臓病による将来の心・腎イベント発生を予防するための、適切な腎機能評価とSGLT2阻害薬による治療介入について藤田医科大学の林先生に解説いただきました。
【ご監修】
藤田医科大学 医学部 腎臓内科学 臨床教授
林 宏樹 先生


eGFRだけではなく蛋白尿もCKD患者の心・腎イベントの発生リスク

今回は、図に示すような2型糖尿病を併発していない慢性腎臓病(CKD)の患者モデル[腎機能ステージG3b、eGFR 40mL/min/1.73m2、尿蛋白(1+)、高血圧あり、ARB服用中]を例に、現状患者さんが抱えているリスクおよび将来のリスク、適切な治療介入について考えます。

国内の外来患者を対象に行った健康保険のデータベース研究では、eGFR別、蛋白尿の有無別に将来の透析導入のリスクを検討した結果、糖尿病を併発していない患者において、eGFR<60mL/min/1.73m2で透析導入リスクが高くなり、eGFR<45mL/min/1.73m2の場合、eGFR≧90mL/min/1.73m2の場合と比べて、透析導入のリスクが171.94倍になることが報告されました(p<0.05、Cox比例ハザードモデル)。
また、同じく糖尿病を併発していない患者において、軽度蛋白尿を認める場合、蛋白尿なしの場合と比べて、透析導入のリスクが3.77倍になることが報告されました(p<0.05、Cox比例ハザードモデル)。

腎機能の低下や蛋白尿およびアルブミン尿の存在は、将来の透析導入のリスクとなるだけではなく、心不全発症リスクの上昇とも関連することが示されています。
日本人を含む24コホートを対象に心不全の病歴がない患者のデータを抽出して行ったメタ解析において、eGFR 95mL/min/1.73m2をreferenceとした時、45mL/min/1.73m2まで低下すると、心不全発症のハザード比は2を超えていました(p<0.05、Cox比例ハザードモデル)。
また、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR) 5mg/gCrをreferenceとした時、UACR 30mg/gCrで心不全発症のハザード比は約1.5、300mg/gCrでは約3となりました(いずれもp<0.05、Cox比例ハザードモデル)。

心血管イベント発生のリスクには、eGFRスロープも関連しています。eGFRスロープとは、腎機能の低下速度を示します。
中等度から重度のCKD患者を対象とした試験において、線形混合効果モデルを用いて解析した結果、eGFRスロープは、全死亡および心血管イベント発生のリスクと関連し、負の方向に急唆なほどリスクが大きくなることが示されました(p=0.00038およびp=0.00164、カイ二乗検定)。
また、eGFRスロープが-1.5mL/min/1.73m2/年の場合と比べた際の全死亡および心血管イベント発生のハザード比は、-3.5mL/min/1.73m2/年の場合で1.23および1.19、
-5.5mL/min/1.73m2/年の場合で1.60および1.44でした。
このように、CKD患者において、腎機能の低下や低下速度、蛋白尿およびアルブミン尿の存在が、腎イベントだけはなく心血管イベント発生のリスクになり、進行するほどそのリスクが高まります。そのため、このような将来の心腎イベントの発生を予防するために、早期からCKDに対する治療介入が求められます。
CKD患者に対するジャディアンスの有効性・安全性を検討したEMPA-KIDNEY試験

ジャディアンスは、EMPA-KIDNEY試験において、2型糖尿病の有無を問わず、進行性のCKD患者に対して、1日1回経口投与した時の有効性と安全性が報告されました。

主要評価項目である腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間の、プラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.73(99.83%CI:0.59~0.89)、p<0.0001(Cox回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました。
また、RAS阻害薬を使用している方にジャディアンス10mgを投与した場合でも、主要評価項目のリスクが29%低下しました(p<0.0001、名目上のp値、Cox回帰モデル)。

eGFRスロープは全期間と、Initial dipを呈した2ヵ月目の来院から測定した慢性期の両方で検討されました。
その結果、いずれの期間においても、ジャディアンス10mg群は、プラセボ群と比べてeGFRの低下速度を有意に抑制しました(いずれもp<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。

さらに、ジャディアンス10mg投与によるUACRの経時変化をプラセボと比較した結果、ジャディアンス10mg群のUACRは2ヵ月時で16%、36ヵ月時で18%低下しました(2ヵ月時:p<0.0001、36ヵ月時:p=0.0249、いずれも名目上のp値、MMRM)。

安全性について、事前に規定した非重篤有害事象および全ての重篤な有害事象に限定して有害事象を収集した結果、全体集団での発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風7.0%、コロナウイルス感染3.0%、急性腎障害2.8%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等でした。
なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。
SGLT2阻害薬のCKDに対する実臨床データとRAS阻害薬の併用

糖尿病を併発していないCKD患者に対するSGLT2阻害薬のCKD進行抑制効果は実臨床においても示されています。
本研究では、CKD進行の指標としてeGFRスロープを用いて、eGFR別(25~45mL/min/1.73m2、または45~60mL/min/1.73m2)およびRAS阻害薬の使用の有無別のサブグループ解析を行いました。
結果をみると、糖尿病を併発していないCKD患者におけるeGFRスロープは、SGLT2阻害薬投与前で-5.57mL/min/1.73m2/年であったのに対して、投与後は-1.66mL/min/1.73m2/年となり、eGFR低下の抑制が観察されました(p<0.001、名目上のp値、対応のあるt検定)。
さらに、RAS阻害薬併用群でのサブグループ解析におけるeGFRスロープはSGLT2阻害薬投与前で-5.60mL/min/1.73m2/年であったのに対して、投与後は-1.92mL/min/1.73m2/年でした。

SGLT2阻害薬とRAS阻害薬のARBは、糸球体での作用部位が異なります。
ARBは収縮していた輸出細動脈を改善するのに対して、SGLT2阻害薬は輸入細動脈の拡張を改善し、糸球体への血液の過剰な流入を抑えることで糸球体内圧を低下させます。
こうした作用メカニズムやエビデンスの観点から、CKD患者さんの血圧管理としてRAS阻害薬を使用しているようなケースに対して、より積極的なCKD治療のためにSGLT2阻害薬は選択肢の一つになり得ると考えられます。
国内外のガイドラインにおけるSGLT2阻害薬の位置づけ

ここで、国内外のガイドラインにおけるSGLT2阻害薬の位置づけを確認してみましょう。
「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使⽤に関するrecommendation」では、糖尿病非合併CKDで、蛋白尿のある場合、「eGFR 15mL/分/1.73m2以上でクリニカルエビデンスを有するSGLT2阻害薬を開始」することが記載されています。

また、KDIGO2024では、「eGFR 20~45mL/min/1.73m2かつUACR<200mg/g(<20mg/mmol)の成人慢性腎臓病患者に対してSGLT2阻害薬の投与を提案する(2B)」としています。

なお、ジャディアンスは、慢性腎臓病※1、慢性心不全※2に対しては、1日1回10mg、2型糖尿病に対しては1日1回10mgまたは25mgの用量が設定されています。
※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
※2 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

CKDは進行すると透析を要する末期腎不全の原因となるだけでなく、比較的軽度のCKDであっても心血管疾患の発症や死亡のリスクとなります1)。
こうしたリスクをできるだけ回避するために、腎機能評価としてはeGFRだけではなく、蛋白尿の存在も注視し、早期から積極的なCKD治療を行うことが大切です。そして、その治療選択肢としてはジャディアンスを始めとしたSGLT2阻害薬がその一つになると考えます。
- 日本腎臓学会編: CKD診療ガイド2024, 東京医学社, 2024, pⅳ.
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