これからの心不全治療で実践すべき、心腎連関を考慮した治療とGDMT

サイトへ公開:2024年08月29日 (木)

岸拓弥先生、松川龍一先生ご監修のもと、心腎連関を考慮した慢性心不全治療の重要性と診療ガイドラインに基づく標準治療(GDMT)を支援するsimple GDMTスコアを紹介します。

心不全患者の腎機能が予後に与える影響と心腎連関

心不全治療にあたって、先生は腎機能をどの程度考慮されますでしょうか? 
心不全患者においては、腎機能と予後に相関があることが知られており、国内で行われた観察研究では、腎機能の臨床的指標の一つである eGFRが低いほど、全死亡や心不全による再入院のリスクが高くなることが報告されています。

腎機能が心不全の予後に影響する理由として、心腎連関が挙げられます。 
心臓と腎臓は、病態生理学的な機序が共通している、疾患のリスク因子が共通しているといった特徴を有し、心不全の進展は腎機能低下を進行させ、腎機能障害は心不全を悪化させると考えられます。 
日本循環器学会/日本心不全学会による合同ガイドラインでも心腎連関について言及しており、心不全患者では腎機能低下を合併 していることが多く、急性心不全・慢性心不全ともに腎機能低下が最も重要な予後規定因子であり、心不全治療では腎機能を加味した治療戦略を立てることが望ましいとしています1)

1) 日本循環器学会, 日本心不全学会.: 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)2022年4月1日更新. 
 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf (2024年7月9日閲覧)

心不全における診療ガイドラインに基づく標準治療(GDMT)は、左室駆出率(LVEF)によって異なります。 
国内における左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)に対するGDMTは、ACE阻害薬/ARB+β遮断薬+MRAへのSGLT2阻害薬の上乗せと、効果不十分な場合のACE阻害薬/ARBからARNIへの切替えです2)。 
しかしながら、これらの薬剤の処方割合は、心不全による入院をした患者において退院時で β遮断薬76.4%、ACE阻害薬/ARB 63.0%、MRA 46.8%、SGLT2阻害薬14.3%、ARNI 3.1%であったと報告されました。 
GDMTが十分に実践されているとはいいがたく 、心不全の増加が問題になっている現在では、さらなるGDMTの普及が望まれます。

2) 日本循環器学会, 日本心不全学会.: 2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版. 急性・慢性心不全診療, p13, 2024年1月15日更新 
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf (2024年7月9日閲覧)  
 

GDMT導入をサポートするsimple GDMTスコア 

GDMTの実施が十分でない理由の一つに、患者の背景によってはGDMTを実施できないという状況があると考えられます。そのような状況であっても、より適切な薬剤選択を行うためのサポートツールとして、福岡赤十字病院 松川龍一先生が「simple GDMTスコア」を考案されました。 
Simple GDMTスコアは、心不全患者(HFrEF/HFmrEF)の内服しているGDMTの内容を点数化したものです。 SGLT2阻害薬を導入すると2点、MRA、ARNIは用量を問わず加点、 β遮断薬とACE阻害薬/ARBは用量が最大量の50%以上か50%未満かで点数を分けて加点するという方式で、RAS阻害薬、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の全てを導入している場合は6点(β遮断薬とACE阻害薬/ARBの両方を最大量の50%未満とした場合)以上になります。

福岡赤十字病院では、simple GDMTスコアの有用性を評価するための後ろ向きコホート研究を実施しました。心不全による入院をしたHFrEFまたはHFmrEFの患者1,054例の退院時処方におけるsimple GDMTスコアを計算、 GDMT高スコア群(5点以上)とGDMT低スコア群(4点以下)に分けて、各群の観察期間1年での予後を評価した結果、GDMT高スコア群において、低スコア群よりも全死亡、心不全による再入院、複合アウトカム(全死亡および心不全による再入院)のリスクが低下しました。 
なお、GDMT低スコア群に対する高スコア群のハザード比は、全死亡が0.123(95%CI:0.053~0.284、p<0.001、Log-rank test)、心不全による再入院が0.550(95%CI:0.405~0.746、p<0.001、Log-rank test)、複合アウトカム(全死亡および心不全による再入院)が0.432(95%CI:0.324~0.576、p<0.001、Log-rank test)でした。 
[論文中に安全性に関する記載はありませんでした。]

本研究にて、心不全治療においてはGDMTに含まれる薬剤を全て導入することが難しい場合でも、simple GDMTスコアが5点以上となる薬剤選択を行うことが望ましいことが示されました。 
図に示した例のように、患者背景と薬剤の特性を考慮しつつ、simple GDMTスコア5点以上を達成する薬剤の組み合わせを検討することが重要であると考えられます。

なお、simple GDMTスコアを日常診療で活用していただくため、ポケットサイズの「simple GDMTスコア」をご用意しています。処方を検討している薬剤にチェックを入れることで簡単にsimple GDMTスコアを計算できる仕様です。ご興味のある先生は、是非日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 DIセンター[TEL:0120-189-779 受付時間:9:00~18:00(土・日・祝日・弊社休業日を除く)]までご連絡ください。

ジャディアンスのエビデンス① 
左室駆出率が低下した(LVEF≦40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験 
(EMPEROR-Reduced試験)

Simple GDMTスコアで「2点」に設定されているSGLT2阻害薬ジャディアンスについて、HFrEFに対する有効性をご紹介します。 
LVEF≦40%の慢性心不全患者を対象としたEMPEROR-Reduced試験では、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性についてプラセボ群との比較検討を行いました 。

全体集団における、心血管死または心不全による入院の初回発現までの期間のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.75(95.04%CI:0.65~0.86)、p<0.0001(Cox比例ハザード回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(主要評価項目)。さらに、CKD合併の有無別に事前規定したサブグループ解析を行った結果、CKD合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.78(95%CI:0.65~0.93)、CKD非合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.72(95%CI:0.58~0.90)(交互作用のp値:0.63、名目上のp値)でした。  

【参考情報】 
腎機能への影響を示すeGFRスロープ(負の値が小さいほど、1年あたりのeGFRの低下が少ないことを示す)は、ジャディアンス10mg群で-0.546mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で-2.278mL/min/1.73m2/年であり、ジャディアンス10mg群とプラセボ群の差は1.733mL/min/1.73m2/年でした。

なお、安全性については、全体集団での有害事象の発現割合が、ジャディアンス10mg群で76.2%(1,420/1,863例)、プラセボ群で78.5%(1,463/1,863例)でした。 
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全332例(17.8%)、低血圧130例(7.0%)、腎機能障害105例(5.6%)等、プラセボ群で心不全444例(23.8%)、低血圧119例(6.4%)、高カリウム血症、高尿酸血症各115例(6.2%)等でした。重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全332例、心室性頻脈55例、肺炎53例等、プラセボ群で心不全444例、肺炎62例、急性腎障害55例等でした。なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表の通りでした。

ジャディアンスのエビデンス② 
左室駆出率が保たれた(LVEF>40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験 
(EMPEROR-Preserved試験 CKDの有無別解析)

また、LVEF>40%の慢性心不全患者を対象としたEMPEROR-Preserved試験でも、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性についてプラセボ群との比較検討を行いました。

全体集団における、心血管死または心不全による入院の初回発現までの期間のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.79(95.03%CI:0.69~0.90)、p<0.001(Cox比例ハザード回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(主要評価項目)。さらに、CKD合併の有無別に事前規定したサブグループ解析を行った結果、CKD合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.80(95%CI:0.69~0.94)、CKD非合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.75(95%CI:0.60~0.95)(交互作用のp値:0.6682、名目上のp値)でした。  

【参考情報】 
腎機能への影響を示すeGFRスロープは、ジャディアンス10mg群で-1.253mL/min/1.73m2/年、プラセボ群で-2.616mL/min/1.73m2/年、ジャディアンス10mg群とプラセボ群の差は1.363mL/min/1.73m2/年でした。

なお、安全性については、全体集団での有害事象の発現割合が、ジャディアンス10mg群で85.9%(2,574/2,996例)、プラセボ群で86.5%(2,585/2,989例)でした。 
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全449例(15.0%)、尿路感染236例(7.9%)等、プラセボ群で心不全594例(19.9%)、高血圧256例(8.6%)、心房細動223例(7.5%)等でした。重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全448例、肺炎100例、心房細動92例、急性腎障害81例等、プラセボ群で心不全594例、肺炎119例、急性腎障害107例等でした。なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表の通りでした。

ジャディアンスのエビデンス③ 
腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験 
(EMPA-KIDNEY試験)

ジャディアンスは、慢性腎臓病の効能又は効果も承認されています。 
EMPA-KIDNEY試験では、慢性腎臓病患者を対象として、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性をプラセボと比較検討しました。

その結果、腎疾患進行または心血管死のリスクは、全体集団において、27%低下しました(HR=0.73、99.83%CI:0.59~0.89、p<0.0001、Cox回帰モデル)(検証的な解析結果)。この主要評価項目に対して事前規定したサブグループ解析として行われた日本人集団の解析ではHR=0.44(95%CI:0.28~0.69)でした 。

また、eGFRスロープは、ベースラインから最終フォローアップ来院まで(全期間)において、プラセボ群-2.90mL/min/1.73m2/年 に対してジャディアンス10mg群-2.16mL/min/1.73m2/年、2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院まで(慢性期)において、プラセボ群-2.74mL/min/1.73m2/年に対してジャディアンス10mg群-1.37mL/min/1.73m2/年であり、ジャディアンス10mg群はプラセボ群に対してeGFRスロープの低下が小さかったことが示されました(いずれもp<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。

なお、安全性については、事前に規定した非重篤有害事象および全ての重篤な有害事象に限定して有害事象を収集した結果、それらの発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%(1,444/3,292例)、プラセボ群で46.1%(1,516/3,289例)でした。 
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風231例(7.0%)、コロナウイルス感染98例(3.0%)、急性腎障害93例(2.8%)等、プラセボ群で痛風266例(8.1%)、急性腎障害117例(3.6%)、コロナウイルス感染107例(3.3%)等でした。また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等、プラセボ群で急性腎障害117例、コロナウイルス感染107例、血中カリウム増加87例等でした。投与中止、死亡に至った有害事象は表の通りでした。

*ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

ジャディアンスは1日1回10mgで慢性心不全※1、慢性腎臓病※2、2型糖尿病※3に対して投与することが可能です。 
慢性腎臓病※2に対する効能又は効果の追加が2024年2月に承認されました。 
慢性心不全※1と慢性腎臓病※2に対するジャディアンスの用法及び用量は1日1回10mgの経口投与です。朝食前または朝食後のどちらでも服用可能です。

Simple GDMTスコアでは「用量を問わず2点」と位置付けられているジャディアンスは、左室駆出率を問わず慢性心不全※1に処方可能です。慢性心不全の患者に投与した際の腎機能に対する影響についても、臨床試験によるエビデンスが報告されています。 
また、慢性腎臓病※2に対する適応とエビデンスがあります。 
左室駆出率を問わず、慢性心不全※1の標準的な治療を受けている患者に対する心腎連関および腎機能を考慮した心不全治療として、ジャディアンス錠10mgの処方をご検討ください。

※1 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。 
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。 
※3 2型糖尿病の患者では、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら25mg1日1回に増量することができる。

本ページは会員限定ページです。
ログインまたは新規会員登録後にご覧いただけます。

会員専用サイト

医療関係者のニーズに応える会員限定のコンテンツを提供します。

会員専用サイトにアクセス​

より良い医療の提供をめざす医療関係者の皆さまに​

  • 国内外の専門家が解説する最新トピック
  • キャリア開発のためのソフトスキル
  • 地域医療と患者さんの日常を支える医療施策情報

などの最新情報を定期的にお届けします。​

P-Mark 作成年月:2024年8月