CKD診療ガイド2024における主な改訂ポイント ~DKDの第一選択薬となったSGLT2阻害薬~

サイトへ公開:2024年07月29日 (月)

ご監修: 
CKD診療ガイドライン改訂委員会 委員長 
名古屋大学医学系研究科腎臓内科学 教授 丸山彰一先生

SGLT2阻害薬は2型糖尿病をはじめ、一部の薬剤で慢性心不全、慢性腎臓病へと適応を拡げ、領域を超えて各種ガイドラインの推奨を塗り替えてきました。「CKD診療ガイド2024』の主な改訂ポイントをCKD診療ガイドライン改訂委員会 委員長である丸山彰一先生にご解説いただき、腎アウトカムへの影響を示したジャディアンスの臨床試験データについてもご紹介します。

CKD診療ガイド2024における主な改訂ポイント

CKD重症度分類と進行評価
【定義とCKD重症度分類】
慢性腎臓病(CKD)の診断の定義については2012年版から大きな変更はなく、下記のいずれか、または両方が3ヵ月を越えて持続することで診断します。
①    尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らか、特に0.15g/gCr以上の蛋白尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)の存在は重要である。
②    糸球体濾過量(GFR)<60mL/分/1.73m2

CKD重症度分類(表1)において、これまでの記載から原疾患が「糖尿病」から「糖尿病関連腎臓病」、「高血圧」から「高血圧性腎硬化症」に変更されました。GFR区分については、ステージG5が「末期腎不全」であったのが、わが国の透析導入時の推算糸球体濾過量(eGFR)が5mL/分/1.73m2と、G5に至ってもただちに腎代替療法を導入しない状況を踏まえて、「高度低下~末期腎不全」の記載へ変更になりました。

なお、原因疾患と腎機能障害の区分(G1~G5)、蛋白尿区分(A1~A3)を組み合わせたステージの重症度に応じ、専門医への紹介、あるいは適切な治療を行うことが明記され、「専門医への紹介」が追記されたことで、適切なタイミングでの連携による早期介入を重視する方針が窺えます。
また、CKDの原因によって治療や腎臓・生命予後、臨床経過が異なるため、診断時には原因疾患検索を行い、原因疾患をCKD重症度に併記することが、医療連携や予後改善に有用であるとされています[記載例:CKD G3aA2(IgA腎症)]。

【eGFRスロープと尿検査によるCKDの進行評価】
CKD進行の指標としては、末期腎不全を予測する1~3年間での血清クレアチニン(Cr)の倍化(eGFR 57%低下に相当)とeGFR 40%もしくは30%の低下に加え、腎機能の年間変化率であるeGFRスロープ(図1)が腎予後の予測に有用とされています。eGFRスロープが-5mL/分/1.73m2/年以上の変化を示す場合をrapid progression(急速進行例) と捉えています。
なお、eGFRはRA系阻害薬とSGLT2阻害薬投与初期には通常一時的に低下するものですが、3ヵ月以内に30%以上の低下を認める場合は腎臓専門医に紹介するように明記されています。

また、尿検査はCKDの早期発見、診断、重症度判定に簡便で有効な方法であり、eGFR測定とともに蛋白尿・アルブミン尿の定期的な評価を行うことが推奨されます。蛋白尿・アルブミン尿を減少させる治療としては、減塩、減量、RA系阻害薬に、新たにミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA) 、SGLT2阻害薬が有用であることが追加されています。
有用な治療薬が登場してきた一方で、全国レセプトデータベースを用いて糖尿病患者に対して推奨される検査の実施率を調べた研究2)では、尿定性検査の実施率は200床未満の施設で67.3%、尿アルブミンまたは尿蛋白の定量検査は19.4%と低いことが指摘されており、実施率の向上が今後の課題と言えます。

糖尿病関連腎臓病
DKD(diabetic kidney disease)の訳語は、2023年10月に日本腎臓学会と日本糖尿病学会の両学会において「糖尿病関連腎臓病」とすることが決定されました。典型的な糖尿病性腎症と顕性アルブミン尿を示さずGFRが低下する非典型例を含むDKDについて、糖尿病の関連の程度にかかわらず包含する意図を明確にし、概念として理解されやすくなることを目指しています。
尿中微量アルブミンの検出は糖尿病性腎症の早期発見に役立ち、アルブミン尿を低下させることは末期腎不全・透析導入のリスク減少につながることから、糖尿病のある方では少なくとも半年に1回は尿アルブミン定量検査を実施し、診断確定後も3ヵ月に1回の定期的な定量検査が推奨されています。

DKD患者に対しては、腎予後の改善と心血管イベント発症抑制が期待されるSGLT2阻害薬が今回新たに第一選択薬とされました。eGFR<60mL/分/1.73m2もしくは微量アルブミン尿(ACR 30mg/gCr以上)が確認された場合に投与が推奨されます(図2)。アルブミン尿が多いほど有効性が高いとされますが、正常アルブミン尿患者でもある程度の有効性が期待されており、アルブミン尿が持続する場合には非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)が新たに選択肢として挙げられています。

SGLT2阻害薬は腎アウトカムを評価したランダム化比較試験(RCT)に登録された患者より、eGFR≧20mL/分/1.73m2での投与とされます。またRA系阻害薬と同様に、投与開始後早期の一時的なeGFRの低下を認めるため(図1)、開始2週間~2ヵ月程度はeGFRを評価し、その後もeGFRの維持とアルブミン尿の抑制を確認することとされています。

DKDの第一選択薬であるSGLT2阻害薬ジャディアンスは、腎予後の改善と心血管イベント発症抑制が期待される

ジャディアンスのエビデンス①
正常アルブミン尿およびeGFR値20以上のCKD患者を組み込んだEMPA-KIDNEY試験
EMPA-KIDNEY試験の結果に基づき、ジャディアンスに「慢性腎臓病」の適応が追加されました。本試験は、腎疾患進行のリスクのあるCKD患者を対象としたジャディアンスの国際共同第Ⅲ相・検証試験であり(図3)、「慢性腎臓病」の適応取得を目的とした大規模臨床試験において、初めて正常アルブミン尿の患者を組み入れ、eGFR≧20 mL/分/1.73m2の患者が登録された試験です。本試験にはアルブミン尿や糖尿病の合併の有無、心血管疾患既往の有無を問わず、幅広いeGFRのCKD患者6,581例が含まれました。このうち、糖尿病のある方は45.8%、心血管疾患既往のない方は73.2%、尿アルブミン正常は20.2%、微量アルブミン尿は28.3%、顕性アルブミン尿は51.5%でした。
※ ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

主要評価項目である腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間において、ジャディアンス10mg群のプラセボ群に対するハザード比は0.73で、イベントリスクが27%低下し、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました[99.83%信頼区間(CI):0.59~0.89、p<0.0001、Cox回帰モデル](図4)。

本試験では、eGFRの年間変化率であるeGFRスロープについても検討しています。その結果、ベースラインから最終フォローアップ来院までの全期間のeGFRスロープは、プラセボ群-2.90に対してジャディアンス10mg群-2.16であり、2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院までの慢性期のeGFRスロープは、プラセボ群-2.74に対して、ジャディアンス10mg群-1.37でした(図5)。

また、慢性期において、ベースラインの尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)別にみたサブグループ解析では、推定されたeGFRスロープの差から、ジャディアンス10mg群はUACRにかかわらず、プラセボ群に対してeGFRスロープの低下が小さかったことが示されました(正常群:p=0.0008、微量アルブミン尿群および顕性アルブミン尿群:各p<0.0001、いずれも名目上のp値、shared parameter モデル)(図6)。

安全性については、重篤な有害事象および事前に規定した非重篤な有害事象に限定して収集され、すべての有害事象の発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%(1,444/3,292例)、プラセボ群で46.1%(1,516/3,289例)でした(図7)。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風231例(7.0%)、コロナウイルス感染98例(3.0%)、急性腎障害93例(2.8%)など、プラセボ群で痛風266例(8.1%)、急性腎障害117例(3.6%)、コロナウイルス感染107例(3.3%)などでした。また重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例など、プラセボ群で急性腎障害117例、コロナウイルス感染107例、血中カリウム増加87例などでした。投与中止、死亡に至った有害事象は表の通りでした。

ジャディアンスのエビデンス②
2型糖尿病における心腎イベントへの影響をみたEMPA-REG OUTCOME試験
CKD、心不全のリスク因子は共通しており、それぞれの疾患は相互に関連しているとされています。ジャディアンスはEMPA-REG OUTCOME試験において、心血管イベント高リスクの2型糖尿病患者における心血管イベントへの影響が検証されています(図8)。

【参考情報】
主要評価項目である3P-MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中) の発現率は、プラセボ群に対してジャディアンス群で14%有意に低いことが示されました(ハザード比:0.86、95.02%CI:0.74~0.99、p=0.04、Cox比例ハザードモデル)(図9)。

さらに同試験では、腎アウトカムにおけるジャディアンスの影響も検討されました(図10)。

【参考情報】
顕性アルブミン尿への進展、血清クレアチニン値の倍化、透析などの腎代替療法の開始、腎疾患による死亡を含む腎複合イベントの1,000人・年あたりの発現率は、ジャディアンス群で47.8、プラセボ群で76.0でした(ハザード比:0.61、95%CI:0.53~0.70、p<0.001、名目上のp値、Cox回帰モデル)(図11)。

本試験における有害事象発現割合は、ジャディアンス10mg群2,112/2,345例(90.1%)、ジャディアンス25mg群2,118/2,342例(90.4%)、プラセボ群2,139/2,333例(91.7%)でした(図12)。
重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群876/2,345例(37.4%)、ジャディアンス25mg群913/2,342例(39.0%)、プラセボ群988/2,333例(42.3%)に認められました。
主な有害事象は、低血糖がジャディアンス10mg群656/2,345例(28.0%)、ジャディアンス25mg群647/2,342例(27.6%)、プラセボ群650/2,333例(27.9%)、尿路感染がそれぞれ426/2,345例(18.2%)、416/2,342例(17.8%)、423/2,333例(18.1%)に認められました。
※投与中止に至った有害事象および重篤な有害事象の内訳について、論文に記載はありませんでした。

ジャディアンスの臨床試験では、顕性アルブミン尿(A3)だけでなく、正常(A1)や微量アルブミン尿(A2)を含む、さまざまな患者が含まれており、幅広い重症度のCKDがカバーされています(図13)。

新たに、慢性腎臓病の効能又は効果が承認されたジャディアンス10mgを、糖尿病を合併したCKD患者さんの治療にお役立てください。
※ ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

References

  1. 日本腎臓学会 編. CKD診療ガイド2024. 東京 : 東京医学社 ; 2024.
  2. Sugiyama T, et al. Diabetes Res Clin Pract. 2019 ; 155 : 107750.

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