『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』のポイントと、心不全の併存症として追加された慢性腎臓病について

サイトへ公開:2025年07月30日 (水)

『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』の要点と心不全の併存症である慢性腎臓病について、ジャディアンスのエビデンスとともに北井 豪 先生にご解説いただきました。

国立循環器病研究センター
心不全・移植部門 心不全部
部長 北井 豪 先生

『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』では、
心不全への進展防止や併存症について、薬剤の使用を含めた介入の推奨が追加されました

2025年改訂版では、「心不全ステージの治療目標と病の軌跡」が更新されました。
適切な治療介入や早期発見のためには、心不全の病期の進行について、全体を軌跡としてとらえることが重要です。今回から、心不全が進行して辿る軌跡に加え、治療介入によりその進行の程度が抑制された場合の軌跡が描かれ、治療の意義がより明白に示されています。また、ステージAからの介入が心不全発症・突然死の予防につながることも強調されました。
さらに、ステージA「心不全リスク」とステージB「前心不全」の記載が充実し、これらの段階での治療目標が「心不全発症・突然死を予防する」と明確にされました。

「心不全のステージ分類」も更新され、ステージAには、心不全の危険因子として、慢性腎臓病が新たに加えられました。
従来から心不全の危険因子とされていた高血圧、動脈硬化性疾患、糖尿病と同様、慢性腎臓病を有する患者さんについても、心不全リスクのある患者さんと考え、早期からの心不全発症予防を目的とした疾患管理が必要であることを示しています。

「心不全予防アルゴリズム」が新しく提示され、ステージAおよびBにおける介入について示され、併存症によっては薬剤の推奨についても明記されました。
ステージAおよびBでは、生活習慣の管理、構造的/機能的心疾患の治療とともに、心不全の危険因子の疾患管理が重要となります。ステージAからの疾患管理における推奨薬剤の一つとしてSGLT2阻害薬が明記され、その対象は、2型糖尿病かつ心血管疾患の既往のあるもしくは心血管リスクの高い患者さんや、2型糖尿病かつ慢性腎臓病の患者さんとされました。
なお、これらの患者さんに対する心不全発症のリスク低下を見据えたSGLT2阻害薬の使用は、推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAです。

また、「心不全治療のアルゴリズム」が更新され、ステージCおよびDへの治療介入について示されました。
従来は個別に設定されていた左室駆出率(LVEF)別の治療薬について、今回は薬剤の推奨クラスがグラデーションで描かれており、LVEF別の推奨薬剤の違いを視覚的に判断できるようになっています。
HFrEF(LVEF≦40%)、HFmrEF(41~49%)、HFpEF(LVEF≧50%)のいずれにおいても推奨クラスⅠとされた薬剤にSGLT2阻害薬があります。SGLT2阻害薬は、いずれの分類でもエビデンスレベルAです。
また、HFrEFの治療のポイントは、基本となる4種類の薬剤(ACE阻害薬・ARB・ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)をできるだけ早く導入し、忍容性がある限り目標量まで増量することが明記され、HFpEFに対する推奨薬剤はエビデンスのあるSGLT2阻害薬であることが示されました。
 

疫学研究においても、慢性腎臓病は、心不全発症のリスクであることが報告されています

今回、心不全診療で問題となる併存症の一つに挙げられた慢性腎臓病は、近年、身近な疾患となっており、日本人の成人の5人に1人が慢性腎臓病であると推計されています。 
高齢であること、治療中であっても高血圧であることは、慢性腎臓病と診断される蛋白尿陽性(ステージ1~2)およびステージ3~5となるリスク因子であると報告されたことから、高血圧治療を行っている患者さんや高齢の患者さんでは、定期的に腎機能を検査することが望ましいでしょう。

慢性腎臓病の患者さんの予後を検討した調査では、ステージG3a以上となるeGFR 60mL/min/1.73m2未満の場合、および蛋白尿陽性の場合、心不全リスクが高いことが示されました。
eGFRの低下と蛋白尿陽性は、それぞれが独立した心不全リスクであるため、eGFRの低下または蛋白尿陽性のどちらかが認められた際には、心不全リスクを考慮した治療選択が望まれます。

日常診療における腎機能検査は、血液検査と尿検査でのeGFRおよび尿蛋白の確認です。
なお、尿検査については、日本腎臓学会の『CKD診療ガイド2024』においても、慢性腎臓病の早期発見、診断、重症度判定に尿検査は簡便で有効な方法であると紹介されています1)

1) 日本腎臓学会編: CKD診療ガイド2024. 東京医学社, 2024. p14.
 

慢性腎臓病※1に対するジャディアンスのエビデンス EMPA-KIDNEY試験

※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

 

慢性腎臓病の治療においては、エビデンスのある薬剤選択が重要です。
ジャディアンスは、EMPA-KIDNEY試験にて、慢性腎臓病※1に対するジャディアンス10mgの有効性および安全性を検討しています。

※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

全体集団において、ジャディアンス10mgの投与により、腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間のハザード比は0.73(99.83%CI:0.59~0.89)、p<0.0001(vs. プラセボ群、Cox回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました。
日本人集団においても、ジャディアンス10mgの投与により、主要評価項目のリスクが56%低下しました(p=0.0004、名目上のp値、Cox回帰モデル)。

EMPA-KIDNEY試験では、eGFRの低下速度に対する作用としてeGFRスロープを検討しました。
日本人集団では、ベースラインから最終フォローアップ来院まで(全期間)において、ジャディアンス投与により、eGFRの低下速度を1.05mL/min/1.73m2/年緩やかにしました(vs.プラセボ群、p=0.0012、名目上のp値、shared parameterモデル)。
2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院まで(慢性期)において、ジャディアンス投与により、eGFRの低下速度を1.85mL/min/1.73m2/年緩やかにしました(vs.プラセボ群、p<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。

また、ジャディアンス10mgの蛋白尿に対する効果について、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の経時変化を検討しました。
ジャディアンス10mg群は、プラセボ群よりも2ヵ月時で16%低下、36ヵ月時で18%低下し、共に有意差を示しました(2ヵ月時:p<0.0001、36ヵ月時:p=0.0249、いずれも名目上のp値、MMRM)。

EMPA-KIDNEY試験において、事前に規定した非重篤有害事象および全ての重篤な有害事象に限定して有害事象を収集した結果、全体集団での有害事象の発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風7.0%、コロナウイルス感染3.0%、急性腎障害2.8%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等でした。
なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

EMPA-KIDNEY試験における日本人集団での有害事象の発現割合はジャディアンス10mg群で37.7%でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で低血糖3.1%、白内障手術2.7%、脱水2.1%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で白内障手術8例、末期腎疾患5例、動静脈シャント手術4例等でした。
なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。
 

慢性腎臓病※1および慢性心不全※2への適応を有するジャディアンス錠10mg

※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
※2 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

 

ジャディアンスは、2015年に2型糖尿病の治療薬として国内で発売されました。現在までの10年間で、腎保護・心保護・血糖管理の3つの領域でのエビデンスを構築し、現在、ジャディアンス錠10mgは、慢性腎臓病※1、慢性心不全※2、2型糖尿病の3つの適応症を有しています。

※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
※2 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

なお、慢性腎臓病※1および慢性心不全※2の治療において、ジャディアンス錠10mgは、eGFR 20mL/min/1.73m2以上の患者さんに対して投与可能です。

※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
※2 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

今回は、『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』のポイントと、心不全で特に問題となる併存症の一つに加えられた慢性腎臓病関連する疫学とジャディアンスの臨床成績についてご紹介しました。
日常診療において、心不全発症のリスク低減を考慮して、慢性腎臓病※1の患者さんの治療にジャディアンス錠10mgの処方をご検討ください。

※1 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

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