心腎連関に基づく慢性腎臓病治療について考える

サイトへ公開:2025年10月31日 (金)

2型糖尿病を併発していない慢性腎臓病(CKD)における心血管イベントリスクに関する疫学データを紹介した後、EMPA-KIDNEY試験の結果をお伝えします。

こちらは、2型糖尿病を併発していない慢性腎臓病(CKD)患者さんです。

この患者さんのeGFRは55mL/min/1.73m2であり、蛋白尿は定性(1+)です。また、高血圧と診断されており、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)で治療中です。

ARBは腎機能低下抑制のエビデンスを持つ薬剤ですが、治療強化の余地はないでしょうか。
このような背景を有する患者さんの治療を考える上で、着目すべき点を紹介します。

最初に、eGFRの低下は、2型糖尿病の有無を問わず心血管死のリスク上昇と関連しています。

ステージG1を対照とした場合、ステージG3a、ステージG3bへeGFRが低下するに従い、心血管死のハザード比は約1.5、約2へと増加しました1)

eGFRの低下をもたらすCKDは、心血管死の増加要因となります。したがって、CKDの管理においてはeGFRの低下を抑制することが大切です。

こちらは糖尿病を併発していない慢性腎臓病(CKD)患者さんのデータです。

臨床的経過をみると、微量アルブミン尿と顕性アルブミン尿群ではそれぞれ正常アルブミン尿群と比較し腎機能が低下しやすい可能性が示唆されています。

具体的には、正常アルブミン尿群ではeGFRの年間低下速度が-0.46mL/min/1.73m2であったのに対し、微量アルブミン尿群では-1.41mL/min/1.73m2、顕性アルブミン尿群では-2.63mL/min/1.73m2となっていました2)

糖尿病を併発していない慢性腎臓病(CKD)患者さんでもアルブミン尿や蛋白尿によってeGFRが低下しやすくなるという経験はないでしょうか。

昨今注目されている1つの重要な指標としてeGFRの年間変化率を示す、eGFRスロープというものがあります。

日本人のデータベースを利用した調査では、eGFRスロープが-1mL/min/1.73m2より大きく1mL/min/1.73m2以下である場合と比べ、-1mL/min/1.73m2以下の場合、すなわち負の方向に急峻なほど心血管イベントのリスクが高いことが示されました3)

eGFRスロープを確認いただくことは、心血管イベントリスクを見逃すことなく、CKDへの治療介入をすることにつながります。

EMPA-KIDNEY試験データ

本スライドより、ジャディアンスのエビデンスを紹介します。

EMPA-KIDNEY試験4)は腎疾患進行のリスクのあるCKD患者を対象に、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間に対する有効性および安全性を、プラセボと比較検討した試験です。

有効性・安全性の評価項目、解析計画は記載の通りとなります。

本試験の特性として注目いただきたい点は、慢性腎臓病の適応取得を目的とした大規模臨床試験において初めて蛋白尿区分A1を組み入れ、eGFR値20以上の患者が登録された点です。

こちらにお示しのように、アルブミン尿、糖尿病の有無にかかわらず、幅広いeGFR値の慢性腎臓病患者が組み入れられております。

糖尿病を併発していない患者が54.2%、RAS阻害薬使用中の患者が85.2%でした。

こちらが全体集団とRAS阻害薬使用群における主要評価項目に対する結果です。

全体集団においては、ジャディアンス10mgの投与によって腎疾患進行または心血管死の初回発現リスクが27%低下しました。また、既にRAS阻害薬を投与中の患者においてもジャディアンス10mgの追加投与により、腎疾患進行または心血管死の初回発現リスクが29%低下しました。

こちらは日本人集団におけるベースラインの糖尿病の有無、RAS阻害薬使用有無別に見た主要評価項目に対する結果です。

日本人においても、ジャディアンス10mgの投与により主要評価項目のリスクが56%低下しました。

さらに、冒頭で心血管イベントとの関連性についてお示ししたeGFRスロープに関するジャディアンスのデータをご紹介いたします。

全期間におけるeGFRスロープは、プラセボ群に比べてジャディアンス10mg群で0.74mL/min/1.73m2/年と有意に負の傾きを緩やかにしました。

そして、2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院までの慢性期で見た際には、プラセボ群に比べてジャディアンス10mg群で1.36 mL/min/1.73m2/年とeGFRスロープの負の傾きの有意な改善が示されました。

なお、eGFRのベースラインからの変化量の経時推移は、右側の図のとおり、18ヵ月でクロスしていました。

また、eGFRスロープについては、ベースラインの糖尿病有無別、そしてeGFR、UACR別のサブグループ解析も行われました。

結果といたしましては、ジャディアンス10mg群のeGFRスロープの負の値は、糖尿病合併の有無にかかわらずプラセボ群よりも有意に小さくなりました。

加えて、いずれのeGFR、UACRの群においても同様に、プラセボ群と比べてジャディアンス10mg群で有意に小さいことが示されました。

安全性について、事前に規定した非重篤有害事象およびすべての重篤な有害事象に限定して有害事象を収集した結果、全体集団での発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%でした。

主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風7.0%、コロナウイルス感染3.0%、急性腎障害2.8%等でした。
また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等でした。

なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

今回は、2型糖尿病を併発していない慢性腎臓病(CKD)の患者さんにおける腎機能と心血管イベントリスクとの関連性、およびEMPA-KIDNEY試験について解説しました。

慢性腎臓病の進行は心血管イベントリスクを増加させ、アルブミン尿や蛋白尿があるとeGFRが低下しやすくなることが示されています。
また、eGFRの年間低下率であるeGFRスロープが急峻になるほど、心血管イベントリスクが増加します。
心血管イベントリスクを見据えた慢性腎臓病の治療選択肢として、ジャディアンス10mg※1をぜひご検討ください。
※1ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く

<参考文献>

  1. Fox CS, et al. Lancet. 2012 ; 380 : 1662-73.
  2. Shulman R, et al. Am J Kidney Dis. 2024 ; 84 : 742-750.e1.
  3. Zhang L, et al. BMJ Open. 2022 ; 12 : e052246.
  4. 社内資料. 腎疾患進行リスクのある慢性腎臓病患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験(承認時評価資料).
  5. ジャディアンス電子添文2025年9月改訂(第8版).

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