心×腎クロストーク 慢性腎臓病の早期診断・治療の重要性とeGFRスロープの有用性

サイトへ公開:2025年10月30日 (木)

大学の同級生である、循環器内科医の心野先生と腎臓内科医の腎崎先生。
ある日の午後、医局で顔を合わせた二人は、互いの近況を語り合います。
二人の会話は、やがて心野先生の慢性腎臓病(CKD)治療の悩みへと移っていきます。

心野先生

実は最近、担当している心不全の患者さんのことで、少し方針に迷うことがあってね…ちょっと相談してもいいかな?

腎崎先生

もちろん、どうしたんだい?

心野先生

担当しているのは、70歳で高血圧と脂質異常症があり、心疾患の既往がある慢性腎臓病(心不全ステージB)の患者さんだ。
ARBとスタチンを内服中で、eGFRは47.5 mL/min/1.73m2程度。他の情報はこのようになっているんだ。

腎崎先生

なるほど。

心野先生

『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』でステージAにCKDが加わったことからも、腎機能低下は抑制した方がいいと頭ではわかっているんだ。ただ、原疾患の管理もしなきゃいけないうえに、eGFRもまだ極端に悪いわけではないから、CKDに対してどこまで積極的に介入すべきか、つい迷ってしまうんだ。

腎崎先生

ふむ、その気持ちはよくわかるよ。ただ、その判断が患者さんの予後に影響する可能性があるんだ。CKDが心不全リスクを上げることは、心野くんも知っていると思うけど、実はそのリスクは早い段階から始まっていることも考えられるよ。

心野先生

というと、どのくらいのeGFRからリスクが上がるんだい?

腎崎先生

心不全の病歴がない患者さん105,127例のデータのメタ解析によりeGFRと心不全の関連を検討した研究では、eGFRが75mL/min/1.73m2に低下した段階で心不全リスクが上昇し始め、45mL/min/1.73m2まで低下すると2を超えたという報告もあるんだ。

心野先生

eGFR 75mL/min/1.73m2から上昇し始めているのか…。それは確かに、早い段階からリスクは始まっているんだな。

腎崎先生

うん。さらに、腎機能の低下による予後への影響を予測するための指標にはeGFRだけでなく、eGFRスロープがあるんだ。eGFRは単時点での腎機能を点で見る一方、eGFRスロープはeGFRの年間変化率を線で見ることで、腎機能の低下速度がわかるんだ。
そして、このeGFRスロープが急峻なほど、心血管イベントのリスクが高くなることが報告されているんだ1)。たとえば、年間-5mL/min/1.73m2/年以上低下するような、いわゆる “Rapid decliner”では、eGFRが安定している群(eGFR年間変化量 0mL/min/1.73m2/年の群)と比べて、心不全の発症リスクが2.57倍になるという報告もある。

心野先生

将来の心血管イベントリスクを評価する上では、eGFRスロープを見ることも重要なんだね。

腎崎先生

そのとおり。しかも、心野くんが日常的に診ている心房細動や心筋梗塞の患者さん。こういう方々がCKDを合併すると、心不全の発症リスクが高くなることも報告されているんだ。

心野先生

なるほど…。腎機能の低下による心不全リスクはよくわかった。
ただ、もう一つ難しいのが、同じように治療を始めても、その後の進行には個人差があるだろう?症状のない多くのCKD患者さんの中から、特に誰に、どのように治療介入を行うべきか、その見極めが難しいことがあるんだ。

腎崎先生

そこで、eGFRスロープを確認することがそれぞれの患者さんに合った治療方針を検討する上で、ひとつの参考になるよ。
最近では、このeGFRスロープの低下を緩やかにすることが、末期腎不全の進展抑制のサロゲートエンドポイントになりうると提唱されているんだ。

心野先生

つまり、eGFRスロープは予後予測の指標としてだけでなく、治療効果の指標にもなりうる、ということだね。

腎崎先生

うん。そして、心腎連関の観点から、eGFRスロープを緩やかにして腎機能の低下を抑えることで、ひいては心不全イベントの抑制にもつながる可能性があると考えられるんだ。

心野先生

心疾患を有する患者さんにおけるCKD合併のリスクや、CKD治療における具体的な視点(eGFRスロープ)について知ることができて、とても勉強になったよ。今後の診療の参考にするね。

EMPA-KIDNEY試験

ここからは、CKDの治療選択肢のひとつであるSGLT2阻害薬ジャディアンスの有効性および安全性を検討した国際共同第Ⅲ相試験 EMPA-KIDNEY試験についてご紹介します。
※ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く

試験概要

本試験は、腎疾患進行のリスクのあるCKD患者6,581例を対象に、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間に対する有効性および安全性をプラセボと比較検討しました。

主要評価項目は、腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間でした。その他の評価項目、安全性評価項目、解析計画はご覧のとおりでした。

本試験は、CKDの適応取得を目的とした大規模臨床試験において初めて蛋白尿区分A1を組み入れ、eGFR値20以上の患者が登録された試験です。
また、本試験には糖尿病合併、心血管疾患の既往、併用薬の有無にかかわらず、幅広い患者背景のCKD患者が組み入れられました。

有効性

主要評価項目である腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間について、全体集団では、ジャディアンス10mgの投与により、主要評価項目のリスクが27%低下し、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(99.83%CI:0.59-0.89、p<0.0001、Cox回帰モデル)(検証的な解析結果) 。
また、RAS阻害薬使用群においては、ジャディアンス10mgの投与により、主要評価項目のリスクが29%低下しました(95%CI:0.62-0.82、p<0.0001、名目上のp値、Cox回帰モデル)。

本試験ではその他の評価項目(探索的)としてeGFRスロープ(mL/min/1.73m2/年)について検討されました。
その結果、ベースラインから最終フォローアップ来院まで(全期間)のeGFRスロープは、プラセボ群-2.90に対してジャディアンス10mg群-2.16であり、事前規定された2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院まで(慢性期)のeGFRスロープは、プラセボ群-2.74に対してジャディアンス10mg群-1.37でした。
このことから、ジャディアンス10mg群は、全期間、慢性期の両方でeGFRスロープを有意に抑制したことが示されました(いずれもp<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。

安全性

全体集団における、ジャディアンス10mg群の治験薬投与期間中央値21.82ヵ月での有害事象発現割合は、43.9%(1,444/3,292例)でした。 主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風231例(7.0%)、コロナウイルス感染98例(3.0%)、急性腎障害93例(2.8%)等、プラセボ群で痛風266例(8.1%)、急性腎障害117例(3.6%)、コロナウイルス感染107例(3.3%)等でした。
重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等、プラセボ群で急性腎障害117例、コロナウイルス感染107例、血中カリウム増加87例等でした。
投与中止、死亡に至った有害事象はご覧のとおりでした。

今回は、心腎連関を考慮したCKDの早期治療介入の重要性とeGFRスロープの有用性、ジャディアンスの有効性を検討した第Ⅲ相試験 EMPA-KIDNEY試験についてご紹介しました。
CKDの治療選択肢のひとつとしてSGLT2阻害薬 ジャディアンス10mgをぜひご検討ください。
※ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く

【参考文献】

  1. Zhang L, et al.: BMJ Open. 2022; 12(2): e052246

本ページは会員限定ページです。
ログインまたは新規会員登録後にご覧いただけます。

会員専用サイト

医療関係者のニーズに応える会員限定のコンテンツを提供します。

会員専用サイトにアクセス​

より良い医療の提供をめざす医療関係者の皆さまに​

  • 国内外の専門家が解説する最新トピック
  • キャリア開発のためのソフトスキル
  • 地域医療と患者さんの日常を支える医療施策情報

などの最新情報を定期的にお届けします。​

P-Mark 作成年月:2025年10月