代謝性疾患
多臓器ネットワークで捉える代謝性疾患診療における「肝臓」の重要性
サイトへ公開:2026年09月11日 (金)
ご監修:田中 智洋 先生(名古屋市立大学大学院医学研究科 消化器・代謝内科学 准教授)
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)から代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)への疾病概念の進化を経て、脂肪肝と代謝性疾患の関わりはますます注目されています。
今回は、代謝性疾患のエキスパートである名古屋市立大学大学院医学研究科 消化器・代謝内科学 准教授の田中 智洋 先生に、多臓器ネットワークとして捉える代謝性疾患と「肝臓」の位置付け、そして実臨床における「肝臓」を意識した実践的アプローチについてお話を伺いました。
Summary
- 代謝性疾患診療の目標は、代謝臓器がそれぞれの役割を果たせる状態に戻し、多臓器ネットワーク全体のバランスを回復することにある
- 中でも、代謝の「ハブ」として機能する肝臓の健康は、代謝性疾患診療の「インジケーター」ともいえる
- 肝臓を良くすることは、巡り巡って全身の血管や腎臓、心臓を守ることにもつながり、全身の代謝病態の制御とリンクする
01 代謝性疾患の診療における「肝臓」の重要性について、先生はどのようにお考えですか?
私たちの身体はさまざまな臓器が密接に関わり合うことで健康が維持されています。これに対し、代謝性疾患の病態ではその「臓器ネットワーク」のどこかに不調をきたすことで、全体がうまく機能しなくなっています。そのため、代謝性疾患診療の目標は特定の臓器のみを治すことではなく、すべての代謝臓器がそれぞれの役割を果たすことができる状態に戻すことにより、ネットワーク全体のバランスを回復することにあると考えています。
この「臓器ネットワーク」において、代謝の「ハブ」として機能しているのが肝臓です。肝臓は摂取した栄養素を処理し、適切なタイミングで適切な量を全身に送り届ける役割を果たしているため、その機能が低下すると、メリハリのある適材適所な栄養素の分配が行われなくなり、栄養素の過不足から全身の不調を引き起こします。
糖尿病も脂質異常症も、代謝性疾患の根幹には栄養素の代謝異常が深く関わっています。したがって、栄養素の分配器官である肝臓の状態を把握することなしには代謝性疾患の的確な診療はできないというのが私の考えです。
肥満症においても肝臓は特別な位置を占めています。肥満は糖尿病や脂質異常症、脂肪肝などより上流に位置する病態と考えられていますが、肥満においては、脂肪組織に収まりきらない過剰なエネルギーが行き着く先のひとつが肝臓です。その結果、脂肪肝が起こり、肝臓の機能障害を来すことから、肥満症診療においてもやはり肝臓に目を向けることが重要です。

02 NAFLDからMASLDへの名称変更は、実際の診療や病態の捉え方にどのような影響をもたらしましたか?
従来の「NAFLD」という病名は、単に「お酒を多飲しない方の脂肪肝」を意味し、その診断もアルコール摂取量の多い人を除く、除外診断のようなものでした。これに対し、新たな病名、「MASLD」では、心代謝系危険因子の合併という背景が明確に示され、代謝機能の観点から病態が分かりやすく整理されました(図1)。これは肝臓のはたらきと代謝疾患の密接な関係性の理解を促進するという点で、非常に意義深い変更だったと感じています。
実際に、これまでは「NAFLD」という病名を電子カルテに登録するのに躊躇することもしばしばでしたが、新たな「MASLD」の病名と診断基準が登場したことにより、代謝内科医として自信を持って病名を付けられるようになりました。また、糖尿病や脂質異常症、高血圧などのいわゆる生活習慣病で通院されている方を「MASLDに該当するかどうか」という目で捉え直す、重要なきっかけにもなっています。
図1

一方、病態解明の観点からは、個々の代謝性疾患とMASLDの密接な関連性の背後にある分子メカニズムに注目が集まり、さかんに研究がなされています。MASLDの合併は、糖尿病の新規発症リスク1)や糖・脂質代謝異常の悪化のリスクにとどまらず、心臓・腎臓・血管・筋肉などといった全身の臓器における臓器障害のリスクやその進行を如実に物語る、いわば代謝性疾患診療の「インジケーター」ともいえます。
さらに最近では、肝臓への脂肪蓄積や炎症・線維化の進展、あるいは風船様変性といった病理学的変化が、糖尿病の悪化や動脈硬化性疾患の病因となりうる可能性も指摘されるようになりました2)。
肝臓の病理・病態がどのような機序で代謝性疾患を悪化させているのか、また逆に、併存する代謝リスクがMASLDから代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)への肝疾患の進展にどのように関わっているのか。こうした、目に見えない臓器間のリンクは、“臓器ネットワークの病”である代謝性疾患を考えるうえで根源的な疑問であることから、今後の解明に興味が持たれます。
03 代謝内科医の立場から、先生が日々実践されている「肝臓」を意識したアプローチについてお聞かせください
私が意識して実践しているのは、定期的なリスク評価と、それに基づく患者さんへの丁寧なフィードバックです。日本肝臓学会の「奈良宣言」ではALT30U/L超がひとつの指標となっていますが(図2)、巷間既に議論されているように、これだけでは対象者数が非常に多くなります。そのため、肝臓病の進行リスクからも、あるいは代謝性疾患や心血管疾患の悪化リスクの側面からも、特段の注意を要するハイリスク例として、炎症や線維化の進展が示唆される症例の拾い上げに重点を置いたアプローチをしています。
具体的には、代謝内科医の立場からでも理解しやすい「血小板数」や「FIB-4 index」を指標として、外来採血で必ずチェックしています。FIB-4 indexが2.67超、あるいは血小板数が10万/μL前後まで低下している場合は、見過ごしてはならない強いアラートとして捉え、肝臓専門医と連携しています。
患者さんには、こうした肝臓が出す危険サインと、なぜ注意が必要なのかを病態の観点からご説明しています。たとえば肥満症をもつ方であれば、肥満症という複雑で多臓器を巻き込む病態の核(コア)をなす臓器が肝臓であり、数値の悪化は肥満症の病態のステージが確実に進んでしまっていることを示すメッセージだとお伝えすることで、肝臓を通してその背後にある代謝異常全体と向き合うイメージを持って頂くことが可能になると考えて説明をしています。
MASLDから肝硬変・肝がんに進行するのはごく一部と考えられます。一方で、MASLDは母数が大変大きい疾患であるため、多くの生活習慣病の患者さんをご診療されている先生方の場合、少なくとも1人や2人の進行例のご経験がおありなのではないでしょうか。私自身は過去に、一般的な肝酵素(ASTやALTなど)の値はほぼ正常範囲内なのに、気付いたときには肝硬変がかなり進行してしまっていた、という苦い経験をしています。毎年健診で指摘されていながらも深く気に留めておられないような楽観的な患者さんには、こうした話も交えて丁寧な説明を行い、定期的なフォローアップが行えるようにしています。
図2

04 ご施設における肝臓医との具体的な連携方法について教えてください
先ほど述べた、FIB-4 indexが2.67超、あるいは血小板数が10万/μL前後まで低下しているような方に加え、若くしてFIB-4 indexが2.0を超えるケースでは、まずは当科でIV型コラーゲン・7SやM2BPGiなどの線維化マーカーを測定し、肝臓医に紹介しています。最初からFIB-4 indexが著しく高値を示す場合は、その段階で直接肝臓医に紹介します。
そのほか、経過中にASTやALT、γ-GTPなどが上昇してくるケースで、代謝性疾患の側面からの理解のみでは説明しにくい予期せぬ数値の挙動を認める場合は、肝炎ウイルスや自己抗体のチェックを一通り済ませたうえで、たとえ結果が陰性であっても早期に肝臓内科へ紹介し、意見を伺うようにしています。
一方で、連携体制の構築においては、今後さらなる整備が必要と感じている課題も存在します。特に紹介が必要なハイリスク例の絞り込みは、現状では、われわれの主観的な危険察知に依存している面が否めません。代謝内科医がそうした能力を磨くことは重要ですが、主観的な判断には限界があり、誰もが同じように拾い上げることも困難です。今後はエビデンスに基づいた明確な基準をもってハイリスク症例の二次、三次スクリーニングを行い、適切なタイミングで肝臓医と連携できるようなシステム作りが必要だと考えています。

Take home message
私が一番お伝えしたいのは、「肝臓は代謝性疾患の窓」であるということです。肥満症、糖尿病、脂質異常症や高血圧といった疾患のマネジメントにおいては、この「窓」を意識することによって、巡り巡って全身の血管や腎臓、心臓を守ることにもつながると考えられます。肝臓を良くすることは全身の臓器ネットワークを良くすることだ、という視点を、ぜひ持っていただければと思います。
そして何よりも、無症状のまま気が付いたときには手遅れ、といった悲劇を一人でも減らすために、日々の代謝性疾患の診療にも「肝臓」への視点を取り入れ、「何年も気付かず…」ということがないようにせねばなりません。私自身も過去の苦い経験を胸に、改めて「肝臓」を意識した日々の診療に向き合っていきたいと考えています。
- Kamada Y, et al.: Hepatol Res. 2026; 56(4): 436-445.(COI:本研究は日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社による資金提供を受けている)
- Gehrke N, et al.: Gastroenterology. 2020; 158(7): 1929-1947.