代謝性疾患

病態の多様性から紐解く肝臓を中心としたMASLD診療アプローチ

サイトへ公開:2026年08月07日 (金)

ご監修:中川 勇人 先生(三重大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授)

代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の病態は多様であり、患者さんごとの病態把握と適切なフォローアップの重要性が指摘されています。
今回は、本領域のエキスパートである三重大学大学院医学系研究科 消化器内科学 教授の中川 勇人 先生に、最新の『MASLD診療ガイドライン2026』の知見を交えながら、肝臓への介入を通じて全身の疾患リスクを低減するMASLDの診療アプローチについてお話を伺いました。

Summary

  • MASLDの病態の多様性はアウトカムの多様性を生み、病態に応じた適切なフォローアップが求められる
  • 近年、MASLDを将来的な臨床経過に基づき「肝臓型」と「心血管型」の2つのサブタイプに分類する考え方が注目されている
  • MASLDでは肝臓における分子病態が全身のリスクを規定している可能性があり、肝臓への適切なアプローチは全身の疾患リスクを低減することが期待される

01 先生は現在、どのような研究に注力されているのでしょうか?

私たちは、アルコール関連肝疾患(ALD)や代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD)も含む脂肪性肝疾患(SLD)において、その後のアウトカムまで紐付けた1,000例規模の大規模な日本人データベースを構築し、このデータベースを用いたマルチオミクスコホート研究による“次世代型プレシジョンメディシン”の構築に取り組んでいます。
MASLDは肝細胞への脂肪蓄積を特徴とし、肝硬変や肝細胞がんに至る進行性の疾患ですが、どのような症例で将来的に進展を来すのかはいまだ十分に解明されていません。また、MASLDにもさまざまなタイプが存在し、その背景には、肥満や生活習慣・併存疾患に加え、遺伝性素因、免疫調節異常、細胞内ストレスなどが複雑に絡み合っています。したがって、その病態は非常に多様であり、患者さんごとに疾患進行のリスクや治療反応性も大きく異なるため、分子病態に基づく層別化と、適切なフォローアップを含めたテーラーメイド医療の確立は喫緊の課題といえます。

海外でもさまざまな研究が行われていますが、MASLDの病態は人種差が大きく、特に日本人は「non-obese MASLD」の割合が多いという特色もあるため、日本人データベースを用いた研究が非常に重要であるとわれわれは考えています。

02 MASLDの病態とアウトカムの多様性について、近年はどのように考えられていますか?

MASLDの病態のベースにあるのは食事や運動、肥満などですが、そこへ糖尿病、高血圧、脂質異常症などの併存疾患や遺伝性素因、腸内細菌叢の変化といった多様なファクターが複雑に介入してきます1。どのファクターが最も強く病態を規定しているかは患者さんごとに異なっていると考えられ、私はその違いが最終的なアウトカムの差を生んでいるのだと考えています。たとえば、MASLDの診断にはBMIもしくはウエスト周囲長、血糖、血圧、脂質に関する5項目で構成される心代謝系危険因子を1つ以上有することが条件とされますが、それぞれの因子が異なる形で肝臓の病態と関連しており、結果としてアウトカムに与える影響も変わってくる可能性があります(図1)。
※ BMI・ウエスト周囲長[BMI≧23kg/㎡(アジア人以外は≧25kg/㎡)又はウエスト周囲長 男性>94cm、女性>80cm]
 血糖[空腹時血糖≧100mg/dL又は食後2時間血糖値≧140mg/dL又はHbA1c≧5.7%又は2型糖尿病又は2型糖尿病治療]
 血圧[≧130/85mmHg又は降圧薬治療]
 中性脂肪[空腹時血清中性脂肪≧150mg/dL又は脂質異常症治療]
 HDL-C[血清HDL-C値 男性≦40mg/dL、女性≦50mg/dL又は脂質異常症治療]

図1

今、注目されているのが、MASLDは将来的な臨床経過に基づき「肝臓型」と「心血管型」の2つのサブタイプに分類される、という考え方です。2024年に『Nature Medicine』に掲載された報告では、臨床的パラメーターおよび遺伝子多型の両側面から、MASLDが将来肝臓関連イベントを起こしやすい群と、心血管イベントを起こしやすい群に分けられる可能性が示されていて非常に印象的でした2,3
私たちのグループでは、これらの2つのサブタイプの裏側に存在する分子メカニズムの違いを解明し、どのような理由でアウトカムが分かれるのか、より根源的な違いを明らかにしたいと考えています(図2)。

図2

03 病態とともにアウトカムも多様なMASLDでは、どのようなアプローチが求められるのでしょうか?

MASLDでは肝臓における分子病態が全身性のリスクを規定している可能性があるため、肝臓への適切な介入によって全身の疾患リスクを低減させるようなアプローチを目指していくべきだと思います。
肝臓は非常に大きな臓器で、脂質や炎症性サイトカイン、液性因子、ホルモンといったさまざまな物質を介して全身に影響を与えています。たとえば糖尿病とMASLDの関係を考えた場合、肝臓に脂肪が蓄積するとインスリン抵抗性が生じ、高インスリン血症を引き起こします。インスリンは肝臓における脂質生合成を促進するため、高インスリン血症はさらなる脂肪の蓄積を招き、「悪性サイクル」が形成されてしまいます4。したがって、糖尿病治療ではMASLDの管理が不可欠であり、その逆もまたしかりです。こうしたほかの病態との密接なつながりを意識して診療にあたることは非常に重要だと考えています。
糖尿病の併発がMASLDに悪影響を及ぼすことは広く知られてきている一方で、MASLDの改善が糖尿病の疾患管理にも寄与することはまだ十分知られていないかもしれません。肝臓内科医としては、肝臓へのアプローチが巡り巡って全身の疾患制御につながるという視点が、より広く浸透することを期待しています。

04 2026年4月に刊行された『MASLD診療ガイドライン2026』では、併存疾患についてどのようなアップデートがありましたか?

今回の改訂では、前版(2020年版)から内容を大幅にアップデートし、非常に充実した記載となりました。これは、病名変更に伴い疾患定義に心代謝系危険因子が組み込まれたことで、各併存疾患がMASLDの病態や予後に与える影響を示したエビデンスが、ここ数年で急激に蓄積されてきたことが背景にあります。
ガイドラインでは、2型糖尿病、肥満、脂質異常症、高血圧といった併存疾患について個別項目を設けて解説していますが5、中でも重要なのは「肥満」と「糖尿病」です。最近の報告では、肝臓の硬さや脂肪沈着の程度といった中期的なアウトカムに最も影響するのがこの2つだとされ6、これらの併存疾患の有無は臨床できわめて重要な視点になると思います。
ただし、脂質異常症や高血圧も決して軽視できません。たとえば、高血圧は線維化進展の独立したリスク因子として報告されていて7、どのような機序で影響を与えているかはよくわかっていないものの、疫学データからはその重要性が示唆されます。また、脂質異常症も心血管イベントに直結するため、死因として同イベントの多いMASLDでは同様に重要な併存疾患であるといえます。

今回、併存疾患の記載を充実させた背景には、MASLDの診療において「木を見て森も見る」重要性を広く訴求したいという、ガイドライン作成委員会の強い思いもありました。われわれ肝臓内科医は肝臓だけを注視してしまいがちですが、MASLD患者さんの最終的な死因は第1位が心血管イベント、第2位が他臓器がんです8。共通のリスクファクターに介入することで、将来的な肝臓関連および肝臓外のイベントリスク低減を目指す――。これが、今回のガイドラインが示すMASLD診療のコンセプトです。

Take home message

脂肪肝では、肝臓の脂肪量が多いほど糖尿病の発症リスクが高く、脂質異常症や高血圧以上に糖尿病発症のリスクであることが示されています9。これは、いわゆるメタボリックドミノの中でも脂肪肝がより上流に位置し、最初の代謝異常のサインである可能性を示唆しています。幸い、肝臓の脂肪は異所性脂肪で比較的落としやすいので、この段階で患者さんへの意識付けと適切な介入を行い、脂肪肝を改善できれば、将来のさまざまなアウトカムの予防につながると考えられます。一方で、これはMASLDが肝臓だけの病気ではないということでもあります。そのため、心血管イベントや他臓器がん、腎障害といった全身の合併症に注意を払って診療にあたっていただきたいというのが、私からのメッセージです。
肝臓は代謝の中心を司る「肝心要」の臓器であり、肝臓自体が病気にならなくても他臓器に影響を与えていることは間違いありません。肝臓を起点に、さまざまな診療科が連携して全身の疾患制御を目指していく。そんな診療のあり方を実現できたらと思います。

  1. Iruzubieta P, et al.: Metab Target Organ Damage. 2025; 5:10. doi: 10.20517/mtod.2024.143.  
  2. Jamialahmadi O, et al.: Nat Med. 2024; 30(12): 3614-3623. 
  3. Raverdy V, et al.: Nat Med. 2024; 30(12): 3624-3633. 
  4. Stefan N, et al.: Lancet Diabetes Endocrinol. 2025; 13(2): 134-148. 
  5. 日本消化器病学会・日本肝臓学会 編:MASLD診療ガイドライン2026(改訂第3版). 南江堂,2026  
  6. Dukewich M, et al.: J Hepatol. 2026: S0168-8278(26)00063-2. doi: 10.1016/j.jhep.2026.02.002. 
  7. Singh S, et al.: Clin Gastroenterol Hepatol. 2015; 13(4): 643-654.e1-9. 
  8. Younossi ZM, et al.: Hepatology. 2023; 77(4): 1335-1347.  
  9. Nakatsuka T, et al.: Hepatol Res. 2025; 55(8): 1101-1110. 

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P-Mark 作成年月:2026年8月