吸入指導の普及には地域での吸入連携がカギ

サイトへ公開:2022年08月30日 (火)

薬剤師の在り方が見直されている中、かかりつけ薬剤師として、処方箋調剤にとどまらず、健康相談などの取り組みにも期待が高まっています。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんへの吸入指導の取り組みを考える今回は、滋賀県の医師と薬剤師が共同で取り組まれている滋賀吸入療法連携フォーラム(SKR)を取材させていただき、吸入指導の重要性や、地域の薬剤師会の取り組みなどを解説いただきました。

開催年月日:2022年3月10日  開催地:オンライン会議形式

Doctor & Physiotherapist
中野 恭幸 先生
(滋賀医科大学 内科学講座 呼吸器内科 教授)
× 野口 哲男 先生(市立長浜病院 呼吸器内科 責任部長)
× 小熊 哲也 先生(おぐまファミリークリニック 院長)
× 永井 智宏 先生(かも調剤薬局 管理薬剤師 / 滋賀県薬剤師会 副会長)

吸入連携で県全体の吸入指導のレベルアップを

― 滋賀県では、2012年に滋賀吸入療法連携フォーラム(SKR)が設立され、調剤薬局の薬剤師を中心とした吸入指導の勉強会や研修会が開催されています。今回は、SKR設立に携わった4人の先生方にその成り立ちや経緯、立ち上げの苦労や現在の取り組みについてお聞きします。
最初に、SKRの成り立ちや経緯についてお話をお聞かせください。
中野先生:近年、さまざまな吸入薬が登場し、COPDの患者さんの症状改善に貢献していますが、吸入薬は正しく吸入しないと効果が出ません。そのため、吸入指導が大変重要です。しかし、吸入指導を行うための仕組みや人的リソースの不足が、全国的に課題となっています。
そのような中、滋賀県北部の湖北地域では、市立長浜病院の野口先生が、2011年に湖北吸入療法病薬連携研究会(KKR)を発足させ、研修会や勉強会を通して吸入指導の普及に尽力されていることを知りました。この仕組みを滋賀県全域に広められないかと考え、野口先生にご協力を仰ぎ、2012年にSKRを立ち上げました。

中野 恭幸先生中野 恭幸先生

― 次に、KKRの立ち上げとSKRへの発展に至るまでの経緯についてご説明ください。
野口先生:私が市立長浜病院に赴任してすぐに、緩和ケアの研修会に参加する機会があったのですが、そこには看護師や薬剤師が大勢参加しており、緩和ケアの領域では多職種連携が進んでいる印象を強く受けました。そこで「COPDの吸入指導でも医療連携を促進できないだろうか。薬のプロである薬剤師の力を借りたい」と考え、湖北の薬剤師会などに相談し、調剤薬局の薬剤師中心の吸入研修会を立ち上げました。
その研修会に参加した薬剤師が、積極的に活動している姿を見て、「これは湖北地域だけにとどめておくのはもったいない」と思っていたときに、ちょうど滋賀県全域で吸入指導の普及を考えていた中野先生からお声がけいただき、県全体の吸入指導のレベルアップを図る目的でSKRが発足しました。

野口 哲男先生野口 哲男先生

― KKRとの出会いからSKRが誕生したということですが、SKRがここまでの取り組みとして広げられた要因はどこにあるのでしょうか。
中野先生:薬剤師を中心に多くの医療従事者が協力してくれました。滋賀医科大学出身で現在はおぐまファミリークリニック院長の小熊先生、同大学の医師や看護師、滋賀県薬剤師会や病院薬剤師会の薬剤師など大勢のサポートを得ることで、維持、発展が可能となったのです。

― 続いて、小熊先生と永井先生がSKRに合流した経緯をお聞かせください。
小熊先生:滋賀医科大学で吸入指導に携わっていたときにKKRの取り組みを知り、興味を持ちました。そこで野口先生の施設を見学して、KKRの仕組みなどを教えていただきました。その経験を参考に、中野先生のもとでSKR設立に参加したのですが、同じ頃、滋賀県薬剤師会で若手の薬剤師を集めて吸入指導の普及に取り組んでいたのが同薬剤師会の永井先生です。永井先生も同じ目的や考え方を持っておられ、SKR設立に共感してくださり、滋賀県の吸入指導の発展に力を貸していただけることになりました。

小熊 哲也先生小熊 哲也先生

永井先生:私は、近江八幡市のかも調剤薬局の管理薬剤師ですが、10年程前から地域の若手の薬剤師を集めて「びわ湖薬剤師ネットワーク」という勉強会を開催していました。また、吸入指導のデモンストレーションのため全国でも活動していたのですが、多くの地域で薬剤師同士の連携やネットワークが構築されている現状を見て、「滋賀県でも連携が必要だ」と考えるようになりました。ちょうどその頃、吸入指導の普及に力を入れている小熊先生と出会い、SKR設立のことを知り、立ち上げに参加させていただきました。

永井 智宏 先生永井 智宏 先生

― 吸入指導での医師や薬剤師の連携の重要性を強く感じていた4人の先生が結集した結果、SKRができたということですね。では次に、吸入連携の意義やメリットについて教えてください。
中野先生:吸入連携では、“餅は餅屋”ということで、吸入薬について薬剤師がその専門性を発揮して患者さんを指導してくださるため、大変心強いです。薬剤師は、医師が見落としがちなところを補い、的確に指導してくださるので、医師と薬剤師がチームを組むことには大きな意義があるのです。
一方、吸入連携は患者さんにもメリットがあり、医師と薬剤師の両方から繰り返し指導を受け、反復することで、しっかり手技を身に付けることができます。
野口先生:最初の診察では、医師が病気や吸入薬の説明を行い、その後、調剤薬局の薬剤師が継続的に薬剤の吸入の仕方などを実演しながら説明する、という役割分担が、吸入連携では重要です。薬剤師は、患者さんにわかりやすい言葉で説明するのに慣れているので、吸入デバイスの具体的な使い方の説明などでは、薬剤師による吸入指導のほうが患者さんにとっては理解しやすいと考えています。
小熊先生:クリニックは地域の調剤薬局と近く、お互いに密な吸入連携が可能となります。例えば、調剤薬局の薬剤師は、我々が送付した吸入指導の依頼書に、医師が気付かない患者さんの情報を記入して戻してくれます。「この患者さんにはこの吸入デバイスがよいだろう」と思って提案した吸入デバイスが、実は患者さんに合っておらず、吸入できていなかったということを薬剤師に教えてもらったこともあります。
永井先生:小熊先生が仰ったように、我々薬剤師は医師が気付かないところに気付き、サポートできると考えています。吸入連携の意義は、医師と薬剤師が、それぞれ違った目線でCOPDの患者さんを見られることだと思います。
医師と薬剤師の吸入連携が活発になっていく中、専門性を活かして吸入指導を行うという薬剤師の役割は、ますます高まってきていると感じます。 
中野先生:今回、先生方にお話いただいたSKRも今、コロナ禍で過渡期を迎えています。対面で集まって勉強会や研修会ができない中、オンラインも含めた新たなかたちの模索が求められています。コロナで皆が集まれない中でも、医師や薬剤師は、どんどん入れ替わりますし、治療薬も、新しいものが出てきますので、この取り組みは、継続していく必要があると考えています。今後も滋賀県の吸入連携の活性化のためにこのネットワークを活かしていきたいと思います。

中野 恭幸 先生

Doctor
中野 恭幸 先生

滋賀医科大学 内科学講座 呼吸器内科 教授

地域連携パスで開業医と協力して患者さんをフォロー

― 最初に、滋賀医科大学医学部附属病院の地域での役割、診療体制や特徴についてお聞かせください。
滋賀医科大学医学部附属病院は、教育・診療・研究を行う大学病院で、高度の専門的な医療の開発と実践にあたる特定機能病院に指定されています。本院の目指すところは、医師、看護師、保健師などの育成と地域医療への貢献です。また、高度医療を担う病院としてがん医療や難病医療などの充実に力を入れています。
滋賀県唯一の大学病院における呼吸器内科として、感染症から肺がんまでさまざまな呼吸器疾患に対応していますが、私の専門がCOPDですので、COPDの患者さんも多く診ています。その中で、当科は「COPD地域連携パス」を運用し、地域の開業医の先生と一緒に患者さんを診療しています。

― COPD治療において重要視しているポイントは何でしょうか。
COPDは、不可逆的な疾患なので、患者さんのQOLをいかに保つかが重要です。軽症のCOPD患者さんでは、それ以上病気を進めないように、禁煙や吸入療法をしっかり行っていくことが求められます。症状が進行したCOPD患者さんは息切れが強いので、呼吸リハビリテーションなどを行いながら、呼吸を少しでも楽な状態にしていくことが大切です。

― 滋賀医科大学では、COPD地域連携パスを用いて、地域の診療所との連携に力を入れていますが、パスの成り立ちや今後の取り組みなどをご説明ください。
COPDの診断のために呼吸機能検査を行いますが、地域の診療所における検査の実施率はあまり高くありませんでした。そこで、診療所で診てもらっているCOPDの疑いのある患者さんに本院に来てもらい、われわれが検査・診断を行い、その後、再び地域の診療所に戻って治療を続けてもらう取り組みを始めました。それがCOPD地域連携パスの始まりです。
COPDと診断された患者さんは、CTや呼吸機能検査などを定期的に実施しフォローしていく必要がありますので、普段は診療所で診てもらい、半年に1回などの頻度で本院に検査に来てもらっています。そして患者さんを診察し、症状に応じて診療所の先生へフィードバックしています。COPD地域連携パスは、専門医と開業医が協力して患者さんを診ていく地域での取り組みです。

― 最後に、調剤薬局の薬剤師へ期待することや応援メッセージなどがありましたらお願いします。
調剤薬局の薬剤師の中には医師に意見するのは少し敷居が高いと思っている方もいるようですが、われわれ医師も間違うこともあります。そのときに適切なご指摘やご意見をいただければ、医師も大いに勉強になります。薬剤師の専門性を信頼していますので、今後ともサポートしていただき、さらに良い関係を築いていけたらと思います。

野口 哲男 先生

Doctor
野口 哲男 先生

市立長浜病院 呼吸器内科 責任部長

薬剤師からの積極的な疑義照会も重要な連携の一部

― 最初に、市立長浜病院の地域での役割、診療体制や特徴についてお聞かせください。
市立長浜病院は、滋賀県長浜市に位置する湖北圏域の総合病院です。県より「地域医療支援病院」の承認を受け、湖北圏域の基幹病院として地域医療を担っています。2005年には厚生労働省より「地域がん診療連携拠点病院」の指定を受けました。
当院は、呼吸器内科を有する湖北圏域で唯一の総合病院で、地域の呼吸器診療を一手に担っており、肺がんやCOPD、間質性肺炎などさまざまな呼吸器疾患を診療しています。同地域は、医療の人的リソースがあまり多くないため、地域の診療所などとの医療連携に力を入れており、その一環としてKKRが設立され、それがSKRへと県全域での連携へ広がっていったという流れがあります。

― そのKKR、SKRを通じて吸入指導の普及に力を入れられていますが、薬剤師との吸入連携のメリットとしてはどのようなことが挙げられますか。
調剤薬局の薬剤師は、医師とは異なる“薬剤師ならではの視点”で患者さんを見てくださいます。実際に薬剤師からフィードバックをもらうときに「こういうことは、なかなか医師では気付かないな」と思うことがよくあり、大いに助かっています。
一方、吸入連携は複数の医療従事者から説明を受けられるという点で、COPDの患者さんにもメリットが大きいといえます。例えば、医師は多忙で、吸入デバイスの操作まで時間をかけて指導することが難しい場合もありますが、調剤薬局の薬剤師が吸入デバイスをうまく操作できない患者さんに対して実演を交えながら丁寧に指導してくれるため、患者さんにとっても頼れる存在であると思っています。

― 調剤薬局の薬剤師の役割として先生が重要視していることはありますか。
調剤薬局の薬剤師には、医師に対して積極的に疑義照会をしていただきたいと思います。調剤薬局の薬剤師の中には疑義照会をためらう方もいるようですが、正しい処方につながるため、結果的には患者さんのメリットになります。薬剤師による疑義照会は医師に対するサポートであると私は考えていますので、必要な場合は遠慮することなく、ぜひお願いしたいと思います。

― 最後に、調剤薬局の薬剤師へ期待することや応援メッセージなどがありましたらお願いします。
医師が処方した吸入薬を、COPDの患者さんが実際に正しく吸入しているかどうかを、調剤薬局の薬剤師はよく見てくれています。薬剤師から「正しく吸入できていますよ」などとフィードバックをもらうと、われわれ医師は安心できますし、また治療の効果が確認できますので、とても助かっています。
積極的にフィードバックや疑義照会をかけていただくことが、ひいては、患者さんのためになりますので、今後も、調剤薬局の薬剤師とわれわれ医師が密に連携して、COPDの患者さんの吸入のサポートができたら理想的だと思います。

小熊 哲也 先生

Doctor
小熊 哲也 先生

おぐまファミリークリニック 院長

吸入連携を地域全体で広めていくことがライフワーク

― 最初に、おぐまファミリークリニック開業までの経緯、地域での役割や特徴についてお聞かせください。
私はこれまで大学病院や地域の総合病院などで呼吸器内科の診療を中心に行ってきました。滋賀県にはまだまだ呼吸器の専門医や内科医が少なく、また、呼吸器を専門にしている開業医も少ないため、吸入療法は普及しているとは言えません。滋賀医科大学在職中にSKRの活動を通じて呼吸器専門医の必要性を痛感していたことから、2016年に南草津で開業しました。
当クリニックは内科全般、小児科などの診療を行っていますが、専門の呼吸器内科や在宅医療には特に力を入れており、在宅での吸入療法なども行っています。

― 日常診療に加え、SKRをはじめとする地域での吸入療法の普及活動にも積極的に参加されていますが、その原動力は何ですか。
私は、吸入療法の普及活動を通して、医療従事者同士の連携や人とのつながりを地域全体で広めていくことをライフワークの1つにしています。限られた時間の中で、県内の各地域に足を運んで活動するのは大変ですが、協力してくださる調剤薬局の薬剤師など皆さんが一生懸命に取り組んでくださるので、大いに楽しんでいます。
各地域での吸入指導の研修会や勉強会のほか、健康フェアや健康フェスティバルなどのイベントを通してCOPDの早期発見にも力を入れています。

― SKRの研修会や勉強会に参加される調剤薬局の薬剤師の方との交流についてお聞かせください。
薬剤師はとてもまじめな方が多く、研修会や勉強会に参加する際は、10分前には全員揃っているといった具合です。ただ、控えめな方が多く発言が少ない傾向がありますので、積極的に質問や発言をしてもらえると、会がより活性化すると思います。実際に薬剤師からの質問や発言から、われわれ医師は重要な気付きをもらうことも多いので、お互いを高め合うという意味でもディスカッションは重要と考えます。

― 最後に、調剤薬局の薬剤師へ期待することや応援メッセージなどがありましたらお願いします。
近年、医師と調剤薬局の薬剤師のコミュニケーションの手段が増えてきて、トレーシングレポートなどの方法でより頻繁に連絡がとれるようになったのは良いことだと思います。「こんなことがあったのか。それでは返信しないと」といった具合にコミュニケーションが密になっており、今後も続けてもらいたいです。
薬剤師は、医師に比べて患者さんにより近い存在です。患者さんは、先生には言えないことも薬剤師には話せることも多いようです。医師が気付かない患者さんの日頃の状態や気持ちを共有してもらうことが治療に役立ち、患者さんの症状改善にもつながりますので、今後もともに患者さんを診ていきましょう。

永井 智宏 先生

Pharmacist
永井 智宏 先生

かも調剤薬局 管理薬剤師 / 滋賀県薬剤師会 副会長

薬剤師による定期的かつ継続的な吸入指導がカギ

― 最初に、滋賀県薬剤師会の地域での役割や取り組みについてお聞かせください。
滋賀県薬剤師会は、病院や薬局などの薬剤師が、県民の皆さんの医療や福祉、公衆衛生や健康の向上に寄与することを目的に1926年に設立されました。薬剤師には服薬情報の把握やそれに基づく薬学的管理・指導などの役割がありますが、滋賀県薬剤師会では、県民の方々の健康づくりのサポートや国が進めている「かかりつけ薬剤師・薬局」の普及にも力を入れており、県民の皆さんが、自分のかかりつけ薬剤師・薬局を見つけてもらえるよう、積極的に取り組んでいます。

― COPDの吸入指導では、薬剤師の役割が期待されていますが、薬剤師として吸入指導で重要視されていることは何ですか。
重要視していることは、定期的な吸入指導の実施です。それは薬剤師が担うべき大切な役割だと考えています。吸入指導の目的は、COPDの患者さんの「今までできなかった“正しい吸入”を、できるようにする」ということですが、吸入を開始して1年ほど経過すると正しい吸入法を忘れたり自己流になったりして「今までできていた“正しい吸入”が、逆にできなくなる」という患者さんも出てきます。そのため、薬剤師による定期的かつ継続的な吸入指導が欠かせないのです。

― SKRを通して吸入療法の普及活動にも積極的に関わっていらっしゃいますが、これまでどのようなご苦労があり、また乗り越えるための工夫をしてきましたか。
吸入指導は昨今、全国的に研修会や勉強会が開催されていますが、実際の運営や多職種連携を継続していくにはさまざまな問題があります。滋賀県も例外ではなく、地域で吸入指導の研修会や勉強会を開催する場合、人的リソースやサポート体制などに地域差があり、県全体で一律の運営は難しい状況にありました。例えば、マンパワーが少なく、その地域の薬剤師会だけでは活動が難しいエリアでは、活動をサポートしてくれるスタッフの確保に苦労しました。そのようなときには、われわれが立ち上げた「びわ湖薬剤師ネットワーク」の薬剤師がその地域に出向き、吸入指導の普及活動をサポートしてくれたので、大いに助かりました。

― そのSKRの活動は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で難しい状況ですが、現在の活動状況や今後の展望について教えてください。
新型コロナウイルス感染症が流行する前は、年に1回、各地域で吸入療法の勉強会を開催していました。そこでは、地域の薬剤師会の薬剤師だけでなく、滋賀県病院薬剤師会の病院薬剤師、また看護師など多職種を交えて活発に活動していましたが、現在はコロナ禍のため、年に1回の集合研修の開催のみとなっています。滋賀県薬剤師会としては厳しい状況が続きますが、地域での勉強会が早く再開できるよう、今後も多職種連携を通じて活動を継続し、発展させていきたいと考えてます。

滋賀県薬剤師会の取り組み 
かかりつけ薬剤師は県民の健康アドバイザー
~ 健康イベントなどでC O P D の早期発見にも注力~

滋賀県薬剤師会では、県民の健康づくりのサポートや「かかりつけ薬剤師・薬局」の普及に力を入れると同時に、COPDの患者さんに対する吸入指導にも積極的に取り組まれています。
今回は、かも調剤薬局管理薬剤師 / 滋賀県薬剤師会副会長である永井智宏先生に、薬剤師会での取り組みについてお聞きしました。

Pharmacist  永井 智宏 先生

Pharmacist
永井 智宏 先生

Q. 滋賀県薬剤師会としての吸入指導の取り組みについてご紹介ください。
A(永井先生). 
滋賀県薬剤師会では、滋賀吸入療法連携フォーラム(SKR)の講演会などを開催し、多職種による吸入療法の連携および吸入指導の普及に努めています()。講演会では毎回、医師や薬剤師に講演していただいていますが、2021年3月の会では、私も、「デバイス毎の吸入指導箋使用のすすめ」のタイトルで講演しました。

Q. 県民の皆さんへの健康サポートに関する取り組みについて教えてください。
A(永井先生). 
滋賀県薬剤師会としては、2017年から調剤薬局の健康サポート機能の“見える化”を目的として「まかせてよ!もっと身近に 薬剤師」推進事業を始めました。県民の皆さんに自分の健康を自発的に考えていただくために、もっと積極的に薬剤師を活用してもらおう、という取り組みです()。厚生労働省が策定した「患者のための薬局ビジョン」に沿ったもので、かかりつけ薬局・薬剤師の普及や健康サポート薬局の取り組みを推進するための環境整備を行っています。
COPDに関しては、健康イベントや学園祭などに「肺の力ゲーム」というブースを出展して、COPDの早期発見にも力を入れています。

Q. 滋賀県薬剤師会として、電子お薬手帳「harmo®」の推進等、先進的な取り組みをされているとうかがっています。それらの取り組みをご紹介いただけますか。
A(永井先生). 
県民の皆さんの健康サポート機能の充実を目指して、2014年から電子お薬手帳「harmo®」の事業をスタートさせました()。
お薬手帳には、薬剤のパーソナルレコードとしての役割もありますが、お薬手帳を持つことで「自分の健康を自発的に考えるきっかけになる」というヘルスリテラシー向上のメリットもあるため、県内での普及に力を入れています。
その他の取り組みとしては、「在宅ホスピス薬剤師」という県独自の認定制度や医療材料共有システムなどがあり、また、残薬をなくす活動にも積極的に取り組んでいます。

滋賀県薬剤師会として、電子お薬手帳「harmo®」の推進等、先進的な取り組みをされているとうかがっています。それらの取り組みをご紹介いただけますか。

Key points for communication 
健康サポート薬局実現のために薬剤師が心がけたいこと

健康サポート薬局の認定を受けている薬局も、これから認定を受けようと考えている薬局も、地域の方々が気軽に立ち寄り、何でも相談できる薬局を目指したいですね。
調剤薬局を利用したことがない人の多くは、調剤薬局を「処方箋がないと入ってはいけない」と思ったり「敷居が高い」と感じたりするようです。
そんな人に気軽に立ち寄ってもらうためには、薬局への最初の一歩を踏み出すきっかけが必要です。
そこで大切なのが、日ごろからの地域の方々とのコミュニケーション。まずは通りがかりの人に挨拶することから始めてみてはいかがでしょうか。

村尾 孝子 先生

Pharmacist
村尾 孝子 先生

株式会社スマイル・ガーデン 代表取締役
薬剤師
医療接遇コミュニケーションコンサルタント

見ず知らずの人に挨拶するのは、最初は勇気がいるかもしれませんが、挨拶されると誰でも嬉しい気持ちになるものです。たとえば、開店準備の時間。薬局周辺の掃除をしたり、出入口等に飾った花に水やりをしたりするタイミングですれ違う人がいれば、自分から積極的に「おはようございます」などと声を掛けましょう。名前を呼んだり、「今日は朝から暑いですね」などとプラスアルファのひと言を加えたりすると、より親近感がわき印象に残りやすくなります(図)。

処方箋や相談事の有無とは関係なく、地域の人々とのコミュニケーションを楽しむのがコツ。顔なじみになった人には、さりげなく「処方箋がなくてもいつでもお立ち寄りくださいね」「急な雨に降られたときや、重い荷物があるときなど、気軽に休憩していってください」「●●さんのお話を聞くのはとても楽しいので、いつでもお待ちしています」などと伝えることで、相手の記憶に残りやすくなります。

すでに薬局を利用している患者さんには、処方薬をお渡しする際に「気になることがあれば、いつでもご相談くださいね」とひと言付け加えるのをお忘れなく。薬剤師にとってはいつものひと言ですが、患者さんに何か困りごとが起きたときに、薬局や薬剤師をパッと思い浮かべるきっかけになるのです。小さな行動の積み重ねを大切にしましょう。

Key points for communication  健康サポート薬局実現のために薬剤師が心がけたいこと

Report 
【解説】 薬剤師が注目すべきCOPDガイドライン第6版のポイント

監修 : 福島県立医科大学医学部 呼吸器内科学講座
主任教授 柴田 陽光 先生

『COPD診断と治療のためのガイドライン』が改訂されました。2018年に作成された第5版から4年ぶりの改訂となる第6版では、薬物療法に新たに「吸入指導」の項目が追加されました(図)。また、セルフマネジメント教育の重要性がより強調されており、薬剤師の積極的な介入が期待されています。

吸入指導の項目追加は今回の改定の大きなポイントです。吸入療法はCOPD管理の根幹をなす一方、アドヒアランスの低下が問題となっていますが、吸入療法をより効果的に行うためには、患者さんに適した吸入デバイスの選択、吸入手技やアドヒアランスに対する患者教育が重要です。しかし、COPD患者さんは高齢者の割合が高く、吸入器を正しく操作できるようになるためには、1回だけでなく繰り返しの吸入指導が必要です。第6版で吸入指導が新たに項目として追加された背景には、その重要性の強調があるといえるでしょう。

一方、吸入指導の重要性が増す中、医師と薬剤師の病薬連携が望まれています。2020年度診療報酬改定において薬剤師による吸入薬指導加算の算定が認められるようになったことは、吸入指導で薬剤師が積極的な役割を担うことが期待されていることを意味しています。第6版では、地域の状況に合わせて、病院と医師会・薬剤師会の情報共有や吸入手技の画一化を目指した勉強会など、病薬連携の推進が望ましいとされています。

さらに、第6版では、COPD診療におけるプライマリケア医と呼吸器専門医のそれぞれの役割と立場を明確にし、病診連携を中心とした地域レベルでのチーム医療の実践を目指すよう求めています。その中で、薬剤師に期待することとして、吸入薬をはじめとする薬剤の適正使用やアドヒアランスの維持・向上に加え、複数の慢性疾患を併存した高齢患者のポリファーマシーの見直しや調整の役割についても触れています。

非薬物療法については、呼吸リハビリテーションとセルフマネジメント教育の意義や効果を強調すると同時に、栄養管理にも言及しています。セルフマネジメント教育の学習項目には、薬物療法・吸入手技はもちろん、日常生活の工夫と息切れの管理など、日々の生活の中での行動に関することが多く含まれており、吸入指導などでCOPD患者さんと接する薬剤師もセルフマネジメントのためのアクションプランを実施する際の指導者・支援者の1人となり得ます。セルフマネジメント教育においても、薬剤師の積極的な参加がこれまで以上に求められてくるでしょう。

Report  【解説】 薬剤師が注目すべきCOPDガイドライン第6版のポイント

柴田 陽光 先生 監修

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P-Mark 作成年月:2024年6月