PFAの展望とダビガトランによる適切な抗凝固療法の重要性(静止画)
サイトへ公開:2024年11月28日 (木)
近年、新たなカテーテルアブレーションのアプローチとしてパルスフィールドアブレーションが注目を集めています。今回は、従来のアブレーション手法との違いを検討したメタアナリシスの結果とともに、パルスフィールドアブレーションへの期待と課題についてご紹介します。
アブレーションの発展と課題
心房細動の治療において、アブレーションは重要な役割を担っています。循環器疾患診療実態調査(JROAD)によれば、アブレーションの施行件数は増加傾向にあり、2023年には112,870件まで増加しています1)。
アブレーションは、新しい技術や戦略的アプローチの導入によって発展を続けてきたものの、依然として有効性と安全性の双方に向上の余地が残されています。
アブレーション1年後の治療成功率は、発作性心房細動で57~74%2,3)、持続性および長期持続性心房細動で43%4)と報告されています。
一方で、アブレーションによる合併症としては空気塞栓や無症候性脳梗塞、心房食道瘻、心タンポナーデ、冠動脈狭窄などがあります5)。これらの発生は比較的まれではあるものの、重大な合併症や死亡に至るリスクが存在しています。
パルスフィールドアブレーションとは
このような状況の中、新たなアブレーション技術としてパルスフィールドアブレーションが近年注目を集めています。
パルスフィールドアブレーションとは、瞬間的に高電圧をかけることで電界パルスを発生させ、細胞透過性の増加によって不可逆的に細胞膜に微小な穴が開くことで細胞死が惹起される現象を利用したアブレーションです6)。
影響を受ける電界の強さは組織によって異なり、不可逆的な細胞膜の穿孔(irreversible electroporation, IRE)が生じる閾値は心筋細胞で低く、神経細胞や血管平滑筋細胞ではそれより高いことが明らかにされています6)。そのため、パルスフィールドアブレーションは心筋細胞を選択的に標的とすることができ、周辺臓器への障害が少ないことが期待されています。
パルスフィールドアブレーションと熱アブレーションを比較したメタアナリシス
パルスフィールドアブレーションを、従来用いられてきた高周波または低温エネルギーを利用した熱アブレーションと比較した研究結果も複数報告されています。ここでは、それらの結果をもとにして今年報告されたメタアナリシスについてご紹介します7)。
このメタアナリシスでは、発作性、持続性心房細動患者におけるパルスフィールドアブレーションならびに熱アブレーションの比較試験であり、かつ初めてアブレーションを受ける患者を対象とした研究18件、4,998例が解析されました。
解析の結果、手技時間はパルスフィールドアブレーション(RFA)の方が短く、透視時間は熱アブレーション(TA)の方が短い結果となりました。ただし、I2はそれぞれ95%および97%でした。
一般的に75%以上のI2は異質性が高いと解釈されます8)。つまり、この解析では試験ごとの結果のばらつきが大きいことが示されており、このことから、パルスフィールドアブレーションで手技時間や透視時間の短縮を得るためには、手技に対する高度な習熟が必要と考えられます。
治療成功率
続いて、治療成功率は、1年未満・1年後とも差はなかったものの、両者を統合した解析ではパルスフィールドアブレーションの方が高い結果となりました。
しかし、持続性心房細動では、クライオバルーン(CB)アブレーション、高周波(RF)アブレーションのいずれに対しても差が認められませんでした。
さらに、有害事象については、食道損傷の発生率はパルスフィールドアブレーションの方が低かった一方、心タンポナーデの発生率は熱アブレーションの方が低い結果となりました。
心タンポナーデの発生率の増加について、筆者らは、カテーテルを送達するために使用されるガイドワイヤーが非常に硬いためであろうと考察しています。4例において、肺静脈を通す際にガイドワイヤーによる不慮の左心耳穿孔が発生しており、関係する臨床施設ではJチップワイヤーを使用するようになったと述べられています。
以上のように、パルスフィールドアブレーションが他アブレーションと比較して同等またはより良好な長期アウトカムをもたらすかどうかを判断するには、さらなる研究が必要です。
技術や機器の発展にともない有効性・安全性が改善されているものの、リスクが0になるわけではありません。
アブレーション周術期の抗凝固療法
アブレーションによる有害事象を最小限とするために、術前、術中、術後の適切な抗凝固療法は重要です。
不整脈非薬物療法ガイドライン(2018年改訂版)では、周術期の抗凝固療法について図のように推奨事項が掲げられており、プラザキサ(ダビガトラン)は、DOACの中で唯一、推奨クラスⅠ、エビデンスレベルAとされています9)。
また、プラザキサの特異的中和剤としてプリズバインド(イダルシズマブ)があり、出血性の有害事象が生じた場合の対処として使用できます。
こうしたことから、アブレーション周術期の抗凝固療法として、プラザキサは有用な選択肢のひとつと考えられます。
まとめ
- アブレーションには新しい技術や戦略的アプローチが導入されてきているものの、依然として有効性・安全性の向上余地が残されている
- メタアナリシスの結果から、パルスフィールドアブレーションは熱アブレーションと比較して、手技時間の短縮や治療成功率の向上が示唆された
- また、パルスフィールドアブレーションでは、食道損傷の発生率低下と心タンポナーデの発生率増加がみられた
- プラザキサは、アブレーションによる有害事象を最小限とするための周術期の抗凝固療法として有用な選択肢のひとつと考えられる
【引用】
- 日本循環器学会. 2023年実施「循環器疾患診療実態調査報告書」. http://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/#rep ( 2024年7月アクセス)
- Andrade JG, et al. N Engl J Med. 2021;384: 305-315.
- Wazni OM, et al. N Engl J Med. 2021;384:316-324.
- Clarnette JA, et al. Europace. 2018;20(3):f366-f376.
- 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)p62-65.
- Ramirez FD, et al. Circ Res. 2020;127:170-183.
- de Campos MCA, et al. Heart Rhythm O2. 2024;5(6):385-395.
- Shiroshita A, Kataoka Y, et al. Jpn J Psychosom Med. 2021; 61:694-700.
- 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治療ガイドライン(2021 年 JCS / JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版) https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf(2024年7月閲覧)