医師・患者アンケートから考えるPF-ILD/PPFの早期診断・治療介入の意義と課題(静止画)

サイトへ公開:2025年10月30日 (木)

ご監修・ご出演:金子 祐子 先生(慶應義塾大学 医学部 リウマチ・膠原病内科 教授)

進行性肺線維症(PPF)は予後不良な疾患挙動であることから、早期診断および治療介入が重要です。また、患者さんの認知が低いことから十分な説明も必要です。今回は、私たちが実施した診療実態に関するアンケート調査の結果から示唆されるPF-ILD/PPFの早期診断・治療介入の意義と課題についてご紹介します。

1 PPFの早期診断・治療介入の重要性

PPFは進行性の肺線維化という疾患挙動を表す概念であり、特発性肺線維症(IPF)を除く進行性の線維化を示すあらゆる間質性肺疾患(ILD)を表します1)。「進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)」は、進行性の肺線維化を特定する特定の基準を満たしたILDを指します。

PPFには、オフェブの国際共同第Ⅲ相試験であるINBUILD試験2,3)で定義された「進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)」を含め、複数の疾患進行基準がありますが、いずれも進行性が認められた場合の予後は不良です。

実際にこちらの多施設コホート研究では、3つの臨床試験の基準と2022年のATS/ERS/JRS/ALATガイドラインの基準を用いてPPFとされたIPF以外の線維性ILD患者さんの無移植生存率が評価されました。その結果、4つ中3つの基準でPPFと判断された患者群の無移植生存率は、IPF群と有意な差が認められませんでした(図1)。

図1

このように、IPF同様PPFは予後不良であることから早期診断と治療介入が重要です。

しかし、実臨床においては診断の遅延が課題となっています4)。そこで私たちの研究グループでは、医師とPF-ILD患者さんを対象としたオンラインアンケート調査を実施し、診療実態や早期診断・治療介入を妨げる要因について検討しました4)

調査概要

本調査では、医療従事者向けポータルサイトに登録のある医師パネルを介して候補医師を募集しました。また、候補患者さんは、登録対象医師から紹介されたPF‒ILD患者さんから募集しました(図2,3)。
126名の医師に同意説明文書が送付され、選択基準・研究中止基準を踏まえて21名の医師を解析対象医師集団としました。また、アンケートを依頼したPF‒ILD患者さん220名のうち、102名を解析対象患者集団としました(図4)。

図2

図3

図4

結果の概要

本調査では多岐にわたる項目について調査を行っていますが、今回は、早期診断・治療介入の意義と課題に関連する結果および考察についてご紹介します(図5)。

 

図5

本調査の結果からは、現在受けているPF-ILD治療に対する患者さんの満足度は高く、患者さん・医師ともに、より早期の診断や治療介入が望ましいと考えている傾向が見られました。
また、早期診断・治療介入における課題として、患者さんや非専門医・かかりつけ医における疾患の認知の低さなどのほか、無治療経過観察期間の長期化による治療介入の遅延が示唆されました。
それぞれ、以下で詳しく見ていきましょう。

2 治療満足度と早期診断・治療介入の意義

本調査における患者さんの背景疾患は、IPFを除く特発性間質性肺炎54.9%、関節リウマチ17.6%、全身性強皮症(全身性硬化症)10.8%などでした(図6)。

図6

現在受けているPF-ILD治療の満足度について、患者さんの56.9%が「大変満足」または「満足」と回答し、また84.3%が現在のPF-ILD治療を継続したいと回答しました(図7)。

図7

さらに、現在受けているPF-ILD治療をもっと早く受けたかったと思うかという質問に対して、「とてもそう思う」または「そう思う」と回答した患者さんは80.4%に上りました。その理由は、「症状が軽減したから」(57.3%)、次いで「日常生活の辛さが軽減したから」(37.8%)が上位でした(図8)。

図8

一方で、医師への調査においては、81.0%が診察している患者さんのなかに「もっと早く来院して欲しかった」と思う患者がいると回答しました。その理由として、「適切な治療を早く開始できた」(82.4%)、「QOLを維持できた」(64.7%)、「診断を早めることができた」(58.8%)が選択されました(図9)。

図9

これらの結果から、患者さんは、現在受けているPF-ILD治療に対して高い満足度と治療継続を希望される傾向があり、もっと早く受けたかったとの思いがあることが示されました。また、医師は早期診断・治療・QOLの維持につながるとの理由から、より早く来院または紹介して欲しいと考えている傾向が示されました。こうしたことから、PF-ILDが疑われる患者さんは早めの来院や紹介が望ましいと考えられました。

3 早期診断・治療介入における課題

では、実臨床ではどのような要因が早期診断・治療介入を妨げているのでしょうか。本調査の結果からいくつかの要因が示唆されました。

1 : 患者さんの疾患認知が低いことによる受診の遅延

今回の調査結果では患者さんの79.4%はPF-ILDと診断される前にPF-ILDを認知しておらず、85.3%の患者さんが多くの人にPF-ILDを認知してほしいと考えていました(図10左)。

また、医療機関を受診しようと最初に思った主なきっかけは「咳や息苦しさがあった」(59.8%)でしたが、呼吸器症状を認識してから実際の受診までの期間が3ヵ月以上であった割合は37.7%、6ヵ月以上であった割合は13.1%でした(図10右)。

図10

2 : 非専門医・かかりつけ医における疾患認知の低さによる適切な検査不足や専門医への紹介の遅延

今回の調査結果では、紹介元医師から提供された診療情報にHRCT検査が含まれていた患者さんの割合は40%(115名中46名)でした(図11)。

図11

ILDには、X線検査では検出できず、HRCT検査でしか確認できない病変もあります。HRCT検査が実施されなかったことで専門医への紹介の必要性が認識されなかった可能性も考えられました。

また、医師への調査では、早期診断を妨げる影響があると考えるものとして最も多かったのは、「患者の自覚症状が乏しい」(81.0%)や「患者のPF-ILD認知度が低い」(81.0%)といった患者さん側の要因でしたが、次いで「非専門医のPF-ILD認知度が低い」(66.7%)、「非専門医から専門医へ紹介するまでの期間が長い」(57.1%)といった医師側の要因も選択されました(図12)。

図12

非専門医・かかりつけ医のPF-ILDにおける早期診断や治療介入の重要性が十分に認知されれば、患者さんの症状が進行する前に、必要な検査の実施や専門医への紹介がなされる可能性も考えられます。

3 : 無治療経過観察による治療介入の遅延

今回の調査結果では、62.7%(220名中138名)の患者さんが初回来院から3ヵ月未満でPF-ILDと確定診断されていましたが、85.7%の医師が無治療経過観察を行っていました(図13)。
医師が無治療経過観察を行う理由としては、77.8%が「患者の希望」、44.4%が「疾患状態の推移を見極めるため」「医療費負担が大きいため」と回答しました。患者さんの回答としては、診断後すぐに治療が始まらなかった理由について36.8%が「医師より様子を見ますと言われた」、28.9%が「自分の希望」と回答しました(図14)。

図13

図14

これらの結果から、疾患挙動を確認するための経過観察や医療費の懸念、また患者さんの希望によって、治療介入が遅れるケースが存在することが示されました。

本調査で示された早期診断・治療介入における課題を克服するために、ILDやPF-ILDに関する疾患啓発および疾患の推移を把握するための定期検査の実施は重要と考えられます。

また、医師側の課題に対して、ILD患者のうちPF-ILDに進行する患者が一定の割合で存在すること、PF-ILDのリスクとなる背景疾患を有する患者さんでは1年に1回はHRCT検査による評価が必要であること、また、現在はPF-ILDで承認されている抗線維化薬による治療が可能なため、早期の検査および介入が必要であることの認識を深めていくことが重要と考えられます。

4 抗線維化剤オフェブの国際共同第Ⅲ相試験 INBUILD試験

抗線維化剤であるオフェブは、PF-ILDにおける治療選択肢のひとつです。ここで、オフェブの国際共同第Ⅲ相試験INBUILD試験についてご紹介します。

本試験の対象は、特発性肺線維症を除く進行性線維化を伴う間質性肺疾患の患者さん663例です。対象患者さんをオフェブ群あるいはプラセボ群に1:1の比率でランダムに割り付け、試験薬を52週間投与し、有効性と安全性を検討しました。主要評価項目は、投与52週までのFVCの年間減少率でした(図15)。

図15

本試験の結果、投与52週までのFVCの年間減少率は、オフェブ群-80.8mL/年及びプラセボ群-187.8mL/年であり、オフェブ群はプラセボ群に対し呼吸機能の低下を有意に抑制することが検証されました(図16左)。また、52週までのFVCのベースラインからの変化量は、図16右のグラフのように推移しました。

図16

また、本試験では、ベースライン時の%FVC別の部分集団解析も行われました。投与52週までのFVCの年間減少率は、%FVC 70%以下の集団において、オフェブ群-115.4mL/年、プラセボ群-207.1mL/年、%FVC 70%超の集団において、オフェブ群-31.3mL/年、プラセボ群-161.3mL/年でした(図17)。

図17

この結果を踏まえると、ILDの進行性線維化を認めた場合、%FVCが70%超と呼吸機能低下が比較的保たれている早い段階から、治療介入を検討することが重要と考えられます。

INBUILD試験 L-PFスコア

本試験では、オフェブの呼吸器症状に対する影響について、L-PFスコアを用いて検討されました。L-PFスコアは、肺線維症患者さんの症状に関する評価指標であり、symptomsとimpactsという2つのモジュールがあり、合計44項目の質問で構成されます。symptomsモジュールは、呼吸困難、咳嗽、疲労の3つのドメインで構成されています。symptoms及びimpactsスコアからL-PF総スコアが計算されます。 総スコア及びドメインスコアの範囲は0~100であり、スコアが高値であるほど、症状が重いことを示します(図18)。

図18

ベースライン時のL-PFスコアは、図19のとおりでした。

図19

INBUILD試験全体集団における投与52週時のL-PFスコアのベースラインからの変化量について、総スコア、symptomsモジュール総スコア、impactsモジュール総スコア、symptomsモジュールの呼吸困難、咳嗽、疲労の3つのドメインスコアのいずれも、オフェブ群でプラセボ群に対し変化量に有意差が認められました。symptomsの咳嗽ドメインスコアは、オフェブ群で減少が認められました(図20)。

図20

また、HRCTでUIP様線維化パターンがみられる集団においても、総スコア、symptomsモジュール総スコア、impactsモジュール総スコア、symptomsモジュールの中の呼吸困難、咳嗽、疲労の3つのドメインスコアのいずれも、オフェブ群でプラセボ群に対し変化量に有意差が認められました。symptomsの咳嗽ドメインスコアは、全体集団と同様、オフェブ群で減少が認められました(図21)。

図21

以上の結果から、オフェブによる治療介入は、咳や呼吸困難といった呼吸器症状の悪化抑制の観点においても有用と考えられます。

INBUILD試験 安全性

本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)に認められました。オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。オフェブ群において投与中止に至った有害事象は下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全4例、呼吸不全3例などでした(図22)。

図22

主な有害事象は、発現頻度が高い順にオフェブ群で下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)など、プラセボ群で下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした(図23)。

図23

続いて、投与52週までの下痢、嘔吐、悪心、肝酵素上昇の有害事象の重症度をお示しします。オフェブ群において、下痢は、有害事象共通用語規準を用いた評価ではGrade 1が66.5%、Grade 2が23.1%、Grade 3が10.4%でした。嘔吐と悪心、肝酵素上昇は有害事象の重症度の判定基準を用いて評価しています。嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%、悪心は軽度が80.2%、中等度が19.8%でした。肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした(図24)。

図24

5 まとめ

  • PPFやPF-ILDは予後不良であることから、早期診断と治療介入が重要である。
  • 医師とPF-ILD患者さんを対象としたオンラインアンケート調査の結果から、早期の専門医受診は、早期診断・治療・QOLの維持の観点に加えて、患者さんの希望や治療満足度の観点からも望ましいと考えられた。
  • オフェブは、INBUILD試験においてPF-ILD患者さんにおける有効性・安全性が検討されており、呼吸機能低下が比較的進行していない早い段階から治療介入を検討することが重要と考えられる。

PPFやPF-ILDは予後不良であることから、早期診断と治療介入が重要です。
医師とPF-ILD患者さんを対象としたオンラインアンケート調査の結果から、早期の専門医受診は、早期診断・治療・QOLの維持の観点に加えて、患者さんの希望や治療満足度の観点からも望ましいと考えられました。
オフェブは、INBUILD試験においてPF-ILD患者さんにおける有効性が検討されており、呼吸機能低下が比較的進行していない早い段階から治療介入を検討することが重要と考えられます。

今回ご紹介した内容を、ILD患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

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