CTD-ILDにおける炎症/線維化プロセスと抗線維化療法の重要性(静止画)
サイトへ公開:2025年06月27日 (金)
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ご監修・ご出演:熊ノ郷 淳先生(大阪大学 総長)
膠原病に伴う間質性肺疾患(CTD-ILD)においては、原疾患に対する抗炎症治療を行っても線維化の進行がしばしば認められます。そのため、間質性肺疾患(ILD)の発症早期から定期的に高解像度CT(HRCT)や呼吸機能検査を用いて進行性の線維化に対するモニタリングを行い、それらを見逃さずに適切なタイミングで抗線維化療法の開始を検討することが重要になります。今回は、CTD-ILDにおける炎症/線維化プロセスと抗線維化療法の重要性についてご紹介します。
1 CTD-ILD診療の重要性
ILDは、膠原病にみられる呼吸器疾患の中でも頻度が高く、生命予後への影響の大きな合併症のひとつです1)。
膠原病におけるILDの有病率は報告によって異なるものの、2023年に報告されたメタ解析では、関節リウマチで11%、全身性強皮症で47%、特発性炎症性筋疾患で41%、原発性シェーグレン症候群で17%、混合性結合組織病で56%、全身性エリテマトーデスで6%と報告されています(図1)。
図1

2 線維化所見確認の重要性
CTD-ILDの臨床経過は多様ですが、生命予後の観点で重要な所見が線維化であり、線維化が進行するような患者は予後不良といわれています。
国内単施設における後ろ向き観察コホート研究によると、線維化を伴うILDのうち進行性を示す割合は、全患者で42.1%であり、CTD-ILDにおいては27.0%でした(図2)。
図2

進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)の予後は基礎疾患によって異なるものの、一般的に不良です。フランスの医療データベースを用いた解析によると、各疾患における生存期間中央値は全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)で3.1年、関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)で3.5年、混合性結合組織病に伴う間質性肺疾患(MCTD-ILD)で3.6年でした(図3)。
図3

一方、CTD-ILDに対する抗炎症・免疫抑制療法の治療効果は、部分的である可能性があります。
通常型間質性肺炎(UIP)には、原則として抗炎症・免疫抑制療法は行われませんが、たとえば図4のように関節リウマチに伴うUIP(RA-UIP)では、臨床的に抗炎症・免疫抑制療法が行われ、部分的な改善がみられることがあります。これは、CTD-ILDが多様なパターンを呈し、UIPとNSIPを明確に分類しづらいことが影響している可能性があります2)。つまり、純粋なUIP病変には抗炎症・免疫抑制療法は効かないものの、混在した炎症細胞浸潤の部位に部分的な治療効果を示している可能性が考えられています3)。炎症所見の改善だけでなく線維化を抑制するためには、進行性線維化をターゲットとした治療が必要と考えられます。
図4
3 CTD-ILDの炎症と線維化のメカニズム
線維化に対する治療を考える上では、炎症と線維化のメカニズムについて理解しておくことも重要です。
CTDの病態にはマクロファージ・リンパ球の活性化や自己抗体の産生などによる炎症が関与していますが、ILDの発症後は、炎症と線維化が早期から相互に作用してILDが進行すると考えられています。
この病態形成のメカニズムについて、詳しくみてみましょう。
図5に示すように、CTD-ILDの病態は、M2マクロファージやTh2リンパ球、Th17リンパ球からの炎症性メディエーターの分泌によって繰り返される肺胞上皮細胞傷害とそれに続く異常修復のプロセスを経て形成されます。
図5

肺胞上皮細胞の傷害によって分泌されたPDGFやTGF-β、VEGF、FGFといった線維化メディエーターが線維芽細胞の増殖・遊走を引き起こし、筋線維芽細胞への分化やコラーゲン産生を促進します。従来は筋線維芽細胞から産生されると考えられていたコラーゲンですが、最近では活性化された線維芽細胞からの産生を示唆する報告もあります4)。これらによって肺組織の硬化や細胞外マトリックス(ECM)の沈着が引き起こされ、線維化メディエーターの活性化を介して線維芽細胞の増殖・遊走をさらに促進することで、線維化が継続的に進行していくループが生じていると考えられています。
このように線維化のメカニズムは、炎症が持続することで線維化が生じるだけではなく、肺胞上皮細胞の傷害時点ですでに線維化反応が始まっていることを表しています。
そのため、免疫抑制剤など抗炎症薬で原疾患に対して治療中であっても、ILDの発症早期から定期的にモニタリングを行い、線維化の進行を見逃さないことが重要です。
4 線維化所見のモニタリング
では、どのようにして線維化の進行性のモニタリングを行うべきなのでしょうか。
肺胞上皮細胞傷害に伴う臨床上の変化としては、労作時呼吸困難や乾性咳嗽の症状のほか、KL-6、SP-Dなどの血清バイオマーカーの上昇が認められることがあります(図6)。
図6

また、慢性的な線維化に伴う臨床上の変化として、呼吸機能検査におけるFVCやDLcoの低下、またHRCTにおいてすりガラス影などの画像所見がみられることがあります(図7)。
図7

そのため実臨床においては、呼吸器症状の確認、血液検査、HRCT、呼吸機能検査を定期的に行い、経時的な変化を見逃さないことが大切です。
5 抗線維化剤オフェブの作用機序
SSc-ILDやPF-ILDの患者さんの場合、治療選択肢のひとつとして抗線維化剤であるオフェブを検討することができます。
オフェブは、PDGFR-α、β、FGFR-1、2、3 及び VEGFR-1、2、3 を標的とする低分子チロシンキナーゼ阻害剤です。オフェブは、これらの線維化メディエーターによって誘導される線維芽細胞の増殖・遊走、筋線維芽細胞への分化やコラーゲン産生を抑制することで、CTD-ILDに対する抗線維化作用をもたらすと考えられています(図8)。
図8

6 オフェブの国際共同第Ⅲ相試験 INBUILD試験
ここで、オフェブの国際共同第Ⅲ相試験 INBUILD試験についてご紹介します(図9)。
図9

本試験の対象は、IPF以外のILDと診断され、スクリーニング前の24ヵ月以内に医師により適切と考えられた疾患管理を行ったにもかかわらず、図10に示すiからivのILDの進行性の基準のいずれかを満たす患者さん663例です。スクリーニングされた患者さんは、オフェブ群あるいはプラセボ群にランダムに1:1で割り付けられました。
主要評価項目は、投与52週までのFVCの年間減少率でした(図10)。
図10

本試験の結果、投与52週までのFVCの年間減少率は、オフェブ群-80.8mL/年及びプラセボ群-187.8mL/年であり、オフェブはプラセボに対し呼吸機能の低下を有意に抑制することが検証されました(図11左)。
また、52週までのFVCのベースラインからの平均変化量は、図11右側のグラフのように推移しました。
図11

本試験では、ベースライン時の%FVC別の部分集団解析も行われました。投与52週までのFVCの年間減少率は、%FVC 70%以下の集団において、オフェブ群-115.4mL/年、プラセボ群-207.1mL/年、%FVC 70%超の集団において、オフェブ群-31.3mL/年、プラセボ群-161.3mL/年でした(図12)。
この結果を踏まえると、ILDの進行を認めた場合、%FVCが70%超と呼吸機能低下が比較的進行していない早い段階から、治療介入を検討することが重要であると考えます。
図12
INBUILD試験 L-PFスコア
本試験では、オフェブの呼吸器症状に対する影響について、L-PFスコアを用いて検討されました。L-PFスコアは、肺線維症患者さんにおける症状に関する評価指標であり、symptomsとimpactsという2つのモジュールからなる44項目の質問で構成されます。なお、symptomsモジュールは、呼吸困難、咳嗽、疲労の3つのドメインで構成されています。symptoms及びimpactsスコアからL-PF総スコアが計算されます。
総スコア及びドメインスコアの範囲は0~100であり、スコアが高値であるほど、症状が重いことを示します(図13)。
図13

INBUILD試験全体集団における投与52週時のL-PFスコアのベースラインからの変化量について、総スコア、symptomsモジュール総スコア、impactsモジュール総スコア、呼吸困難、咳嗽、疲労の3つのドメインスコアのいずれも、オフェブ群でプラセボ群に対し変化量に有意差が認められました。symptoms咳嗽ドメインスコアについては、オフェブ群で減少が認められました(図14)。
図14

以上の結果から、オフェブによる治療介入は、咳や呼吸困難といった呼吸器症状の悪化抑制の観点においても有用と考えられます。
INBUILD試験 安全性
本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)に認められました。オフェブ群における重篤な有害事象として主なものは肺炎24例、間質性肺疾患19例、急性呼吸不全16例などでした。オフェブ群において投与中止に至った有害事象は下痢21例、ALT増加6例、薬物性肝障害5例などであり、死亡に至った有害事象は、急性呼吸不全4例、呼吸不全3例などでした(図15)。
図15

主な有害事象は、発現頻度が高い順にオフェブ群で下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)など、プラセボ群で下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした(図16)。
図16

続いて、投与52週までの下痢、嘔吐、悪心、肝酵素上昇の有害事象の重症度をお示しします。オフェブ群において、下痢は、有害事象共通用語規準を用いた評価ではGrade 1が66.5%、Grade 2が23.1%、Grade 3が10.4%でした。嘔吐と悪心、肝酵素上昇は有害事象の重症度の判定基準を用いて評価しています。嘔吐は軽度が78.7%、中等度が21.3%、悪心は軽度が80.2%、中等度が19.8%でした。肝酵素上昇は軽度が69.7%、中等度が27.6%、高度が2.6%でした(図17)。
図17
7 まとめ
- CTD-ILDにおける線維化所見のモニタリングは、適切な疾患評価と治療開始タイミング決定の観点から重要である。
- CTD-ILDにおける線維化は、肺胞上皮細胞が傷害された時点からすでに開始されている。
- 未治療のCTD-ILD患者さんはもちろん、抗炎症治療中であってもILDの発症早期から定期的に画像検査や呼吸機能検査によるモニタリングを行い、線維化の進行を見逃さないことが重要である。
CTD-ILDにおける線維化所見のモニタリングは、適切な疾患評価と治療開始タイミング決定の観点から重要です。
CTD-ILDにおける線維化は、肺胞上皮細胞が傷害された時点からすでに開始されていると考えられています。
そのため、未治療のCTD-ILD患者さんはもちろん、抗炎症治療中であっても、発症早期から定期的に画像検査や呼吸機能検査によるモニタリングを行い、線維化の進行を見逃さないことが重要です。
今回ご紹介した内容を、CTD-ILD患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。
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