間質性肺疾患の早期発見を目指して~看護師に期待する膠原病診療のサポート~(静止画)

サイトへ公開:2025年01月29日 (水)

ご監修:田中 良哉先生(産業医科大学医学部第1内科学講座 教授)

膠原病において、間質性肺疾患(ILD)は患者さんの予後に影響する合併症であり、早期発見が重要です。しかし、咳・息切れといったILDの症状は患者さん自身も気づきにくく、日常診療で見落とされてしまう可能性があります。この課題に対処するためには、医師を中心に看護師を含む多職種でILDの早期発見に取り組んでいくことも重要と考えられます。
本コンテンツでは、間質性肺疾患の早期発見を目指して看護師に期待する膠原病診療のサポートについて、
産業医科大学医学部第1内科学講座 教授 田中 良哉先生にうかがいます。

インタビュー実施場所:リーガロイヤルホテル小倉

Q 膠原病診療において、なぜILDの早期発見が重要なのでしょうか?

初めに強調しておきたいのは、呼吸器障害は生命に直結する場合がある、ということです。ILDの合併は、膠原病患者さんで高頻度に認められ1、全身性硬化症や特発性炎症性筋疾患、関節リウマチ、混合性結合組織病における死亡原因のひとつとなっています(図1)。

図1

ILDのうち、進行性の線維化を伴うものはPF-ILD※1と呼ばれ、関節リウマチに伴うILDでは40%、全身性硬化症に伴うILDでは32%、特発性炎症性筋疾患に伴うILDでは16%の患者さんが進行性線維化を伴うと推定されています2。そして、PF-ILDにおいて、線維化の進行が確認された時点からの生存期間の中央値は、関節リウマチに伴うILDで3.5年、全身性硬化症に伴うILDで3.1年と報告されています(図2)。こうしたことから、気づかないうちに線維化が進行し、呼吸機能が低下して患者さんが亡くなられることが問題となります。

※1 PF-ILD:進行性線維化を伴う間質性肺疾患

図2

また、現状のPF-ILD治療では、疾患の進行を遅らせることが治療目的です(図3)。そのため、進行がまだあまり進まないうちに治療介入することがポイントと考えられます。

図3

このように、膠原病に伴うILDは生命予後に影響を及ぼしうること、そして早期の治療介入がポイントとなることから、早期の発見が重要です。


Q ILDの早期発見のために、看護師にどのようなことが期待されますか?

膠原病に伴うILDのスクリーニング法として、呼吸機能検査や運動誘発試験、胸部画像検査などがありますが(図4)、早期発見の観点で特にお願いしたいのが、自覚症状の問診と聴診です。

図4

【自覚症状の問診について】

ILDでは、特徴的な症状として痰を伴わない空咳や労作時の息切れがみられます(図5)。しかし、症状が顕著になるのは、疾患がある程度進行してからです。早期の段階では、患者さんから自発的に症状について話されることは考えにくく、こちらから尋ねて注意を向けてもらう必要があります。

図5

たとえば、「体がだるくありませんか」、「疲れやすくありませんか」、「動いたときや階段の上り下りをしたときに息切れしませんか」といったことを患者さんに尋ねてください。
もしも、普段は予診として問診されているのであれば、膠原病の診断後にも尋ねてください。診断を受けることで、患者さんは自覚症状を思い起こしやすくなっているはずです。また、膠原病によって、関節などだけでなく、呼吸器にも症状が現れやすいことを、患者さんが理解したうえで尋ねることも必要です。
そして、呼吸器症状の聴き取りに、mMRC※2息切れスケール(図6)などの患者さんへの質問票を活用することも良い方法です。mMRCスケールは、日常生活に対する息切れの影響をグレード0から4までの5段階で測定する質問票であり、ILDに限らず、息切れの程度を評価する簡便な方法としてよく用いられています。

※2 mMRC:修正版Medical Research Council Scale

図6

【聴診について】

聴診において肺底部の捻髪音は、自覚できる症状が出ていない早期から聴取でき、特異度が高いことから、ILDのスクリーニングに使われます。早期発見は聴診に懸かっていると言っても過言ではありません。
私は膠原病患者さん全員に必ず肺底部も含めて聴診し、早期発見に努めています。看護師さんにも、ぜひ聴診を行っていただきたいと思っています。

Q 捻髪音の聴診方法を教えてください。

捻髪音の聴取では、背中の肺底部において聴診を行うことが重要です。下肺野に聴診器をあて、大きく深呼吸をしてもらいます。深く息を吸った最後の頃に、バリバリとした音(捻髪音)が聞こえるか確認します。左右で確認して両方で捻髪音があればILDが強く疑われるため医師に伝えてください。
ポイントは、背中の下部に聴診器をあてること、大きく息を吸ってもらうこと、また、複数回行って再現性を確認することです(図7)。

図7

膠原病診療に携わっていらっしゃる看護師・医師の方々へのメッセージをお願いします。

膠原病診療に携わる医師の多くが、検査や診断、治療まで、全般的に看護師さんのサポートが不可欠だと感じていることと思います。
膠原病には、患者さんにとって理解が難しい疾患が多くあります。そのため、疾患や治療については医師からだけでなく看護師さんからも説明いただくことは非常に重要です。特にILD治療は効果を自覚しづらいため、看護師さんからの易しい言葉での説明が患者さんの心に響き、スムーズな治療につながることも決して少なくありません。膠原病にILDが潜んでいることを看護師さんに認識していただき、聴診や呼吸器症状の確認の重要性を医師からも伝えていくことが大切だと考えています。

私は、患者さんを良くするためには多職種連携がきわめて重要であることを、すべての医療従事者がしっかりと認識することが最も重要だと考えています。医師も率先して実践することで、看護師さんやほかの職種のみなさんにも理解していただけると考えています。
ぜひ、目の前の患者さんのために、多職種で共に勉強しながら診療に取り組んでいただければ幸いです。

図8

【参考文献】

  1. 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. pp.2-5. 2020
  2. Olson A. et al.: Adv Ther 2021; 38(2): 854-867. 本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。

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P-Mark 作成年月:2025年1月