看護師さんができる間質性肺疾患患者さんのサポート(静止画)
サイトへ公開:2024年05月30日 (木)
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ご監修:近藤 康博先生(公立陶生病院 副院長 呼吸器・アレルギー疾患内科)/土井 ひとみ様(公立陶生病院 看護局)
間質性肺疾患は、患者さんの肺の間質が徐々に厚く、硬くなる「線維化」が起きる疾患であり、症状として空咳(痰の出ない、コンコンといった咳)や労作時の息切れ(坂道や階段の上り下りでの息切れ)が認められます。間質性肺疾患の中には、その代表的な疾患である特発性肺線維症のように予後不良となる疾患が含まれています。
間質性肺疾患に対する治療を早期に開始し、継続するためには、看護師さんによる患者さんへのサポートが重要です。
本コンテンツでは、看護師さんができる間質性肺疾患患者さんへのサポートについて、公立陶生病院 副院長 呼吸器・アレルギー疾患内科 近藤 康博先生と、公立陶生病院 看護局 土井 ひとみ様にうかがいます。
【インタビュー実施場所】名古屋東急ホテル
【インタビュー実施日】2023年10月26日(木)
Q 間質性肺疾患患者さんに関わる看護師は、どのように患者さんをサポートすることが求められるでしょうか?
近藤先生:
施設によって、看護師の方に求められる間質性肺疾患患者さんのサポートは異なると思いますが、どのような施設であっても、医師と看護師を含む多職種が役割を分担し、互いにその役割を理解しあったうえで連携することは大切だと思います。チームという明確な体制がなかったとしても、多職種が連携することで、多面的に患者さんをサポートすることができると思います(図1)。

図1
当院の場合、看護師の方には、患者さんの社会的・経済的背景や心理的な側面、日常生活の悩みや困りごとなどを聞き取り、その情報を医師に共有することを中心に担っていただいています。このようなサポートは、患者さんに間質性肺疾患を理解していただき、適切な治療を進めるうえでも重要だと思います。
さらに、患者さんを支えるご家族の方のサポートも、看護師の方が中心的な役割を担っています。ご家族が患者さんをサポートする中で生じる悩みや困りごと、不安を聞き取って、日常生活のアドバイスや情報提供を看護師の方からも行ってもらっています。
土井様:
患者さんとそのご家族の中には、悩みや困りごとなどがあっても、医師には話しづらいと感じられていることがあります。患者さんやご家族から悩みや困りごとをお聞きしたときには、話していただいたご本人の気持ちを受け止めて、言葉を選びながら対応しています。内容によっては、医師に直接相談することを促すようにしています。
Q 患者さんに間質性肺疾患を理解していただくために、看護師はどのようなサポートができるでしょうか?
近藤先生:
診断時などに医師から患者さんに間質性肺疾患の説明はしていますが、一部、医師からの説明だけでは理解しきれないという患者さんや、理解はしても疾患を受け止め切れない患者さんもいらっしゃいます。このような患者さんから、間質性肺疾患に関する質問や相談を看護師の方が受けた場合には、「患者さんがどのように疾患を受け止めているか」ということをまず聞き取ってほしいと思います。このほかにも、インターネットで間質性肺疾患のひとつである特発性肺線維症の予後(図2)を見て、不安を持たれている患者さんもいらっしゃいます。不安を持たれている患者さんに対しては、特発性肺線維症と同じように進行性の肺線維化がみられる間質性肺疾患であっても、疾患の種類などの個人差によって予後に違いがみられること(図3)などをお伝えすると、不安を和らげることができるかと思います。一方で、予後に関わる疾患であるにもかかわらず、楽観視されている患者さんもいらっしゃいます。そのような方に対しては、向き合う必要がある疾患であることを看護師の方からお伝えするとよいと思います。

図2

図3
土井様:
患者さんの間質性肺疾患に対する受け止め方の聞き取りは、患者さんが外来を受診されたタイミング、入院されたタイミングなど、さまざまなタイミングが考えられますが、看護師から患者さんへお声がけすることが重要だと思います。
患者さんに聞き取りをするときには、まず「先生からどのように聞きましたか?」と、患者さんがどのように医師の説明をとらえたのかを確認するようにしています。看護師から補足的に説明することもありますが、医師の説明と患者さんのとらえ方に乖離があった場合などは医師に情報を共有して、あらためて医師から患者さんに説明していただくなど、医師の説明と看護師の説明にずれが生じないように注意しています。
Q 間質性肺疾患の治療を進めるうえで、看護師はどのようなサポートができるでしょうか?
近藤先生:
患者さんからの治療に関する質問や相談に対し、医師が立てた治療方針にずれが生じない範囲で看護師の方から説明することや、医師の説明と患者さんのとらえ方に乖離があった場合に医師に情報を共有することは、患者さんに納得して治療を受けていただくためのサポートとして重要だと考えています。これに加えて、患者さんは、治療に前向きになれないお気持ちや、副作用の辛さなどを医師に話せなくても、看護師には話されていることも多くあります。このような、患者さんが医師の前には見せない姿を看護師の方がとらえ、医師に情報共有をすることが、患者さんにとって適切な治療の提供につながると考えています。
土井様:
患者さんが「先生の前では元気にしているけれど、実は症状が辛い」といった話を看護師にするのは、本当は医師に伝えてほしいと患者さんが思っているからではないかと考えています。そのため、私は患者さんが医師に直接伝えられていないことを積極的に医師に共有するようにしています。
また、治療中の患者さんが予後や治療について悲観的にとらえている場合に、看護師から患者さんが前向きになるような言葉かけをすることも看護師ができるサポートのひとつだと考えています。たとえば、患者さんから「あとどれぐらい生きられますか?」と聞かれたときには、「あとどれくらい、というのはわからないけど、あなたが頑張っていて症状が悪くなっていないことを大事にして、前向きに病気に付き合っていきましょう」といったような言葉をかけています。疾患が進行して在宅酸素療法となったことを悲観的にとらえている患者さんに対しては、「在宅酸素療法をすることで、お風呂に入ったり、自分の身の回りのことが自分でできるようになったよね」など、患者さんができていることやできるようになったことに目を向けてもらうように言葉かけをしています。
Q 間質性肺疾患の治療選択肢のひとつである抗線維化剤オフェブによる治療を進めるうえで、看護師はどのようなサポートができるでしょうか?
近藤先生:
オフェブは、肺の線維化を抑えて呼吸機能の低下を抑制し、病気の進行を遅らせることを目的とする薬剤です(図4)。オフェブの主な副作用として、下痢や悪心・嘔吐、肝機能障害があげられます(図5)。

図4

図5
まずは、オフェブによる治療中の患者さんがこのような副作用に困っていないか、看護師の方には聞き取りをしてほしいと思っています。患者さんは副作用が出ていたとしても、「下痢はどうですか?」といったように具体的に聞かないと、言わない場合があります。医師も具体的に聞くことを心がけてはいるものの、患者さんは医師には伝えづらいと思っていたり、伝えるつもりでいても医師の前では忘れてしまったりといったことがあると思います。看護師の方から聞き取ってもらうと、患者さんも緊張せずに副作用について話すことができるのではないかと思います。
これに加えて、看護師の方が患者さんから副作用に関する情報を聞き取った場合は、医師への共有をお願いします。看護師から患者さんの副作用を共有してもらうことで、対症療法やオフェブの用量調整など、患者さんの状況に応じた適切な対応をとることができるようになります。
土井様:
当院の場合は、副作用に関する悩みや困りごとを患者さんから聞き取ることに加えて、副作用に対するセルフケアについても看護師から説明することもあります。たとえば、下痢であれば、食事の状況などをお聞きして、避けたほうがよい食品があることや、水分をしっかりとることをお伝えしています(図6)。

図6
また、オフェブの処方とあわせて止瀉剤が処方されることも多いので、患者さんから止瀉剤の服用状況を聞き、その情報を看護師から医師に連携しています。
最後に、ご覧になる看護師の方にメッセージをお願いします
近藤先生:
間質性肺疾患は種類によっては徐々に進行していくため、患者さんの中には悩んだり、将来に対する不安を持たれる方も多くいらっしゃいます。そのような状況でも、薬物治療やリハビリテーション、酸素療法などさまざまな治療選択肢が登場してきています。患者さんにとって適した治療を提供できるように、看護師の方には、患者さんのいろいろな悩みや困りごとなどを聞いて、医師と連携をしていただけますと幸いです。
土井様:
看護師として間質性肺疾患患者さんを支える中で、ときにどのように対応をすればよいのか、迷う場面も出てくるものと思います。患者さんからの情報の聞き取りと医師への連携や、患者さんへの言葉かけといった当院の取り組みの一部でも、ご覧いただいた看護師の方の参考にしていただけますと幸いです。そして、一緒に間質性肺疾患患者さんをサポートする看護に取り組んでいけたら嬉しく思います。
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