進行性の肺線維化という概念と基準(静止画)

サイトへ公開:2025年09月29日 (月)

ご監修:近藤 康博 先生(愛知医科大学 医学部 内科学講座(呼吸器・アレルギー内科)特命教授)

近年、進行性の肺線維化という疾患挙動を表す進行性肺線維症(PPF)という概念が提唱されています。PPFは、2022年にアメリカ胸部医学会(ATS)、ヨーロッパ呼吸器学会(ERS)、日本呼吸器学会(JRS)、およびラテンアメリカ胸部医学会(ALAT)によって発表された国際診療ガイドライン1)で定義され、特発性肺線維症(IPF)を除く進行性の線維化を示すあらゆる間質性肺疾患(ILD)を表します。
しかし、進行性の肺線維化という疾患挙動を特定するための直接的な基準はガイドラインや主要な臨床試験によってさまざまです。オフェブの国際共同第Ⅲ相試験であるINBUILD試験2,3)で定義された「進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)」は、進行性の肺線維化を特定する疾患進行基準のひとつです。今回は、進行性の肺線維化という概念と基準について、ご紹介します。

1 PPFの疾患概念4)

間質性肺疾患(ILD)は、肺間質における慢性炎症や線維化を特徴とする不均一な肺疾患群です。従来、ILDは病因に基づいて分類されてきました。そのうち原因が不明なILDの一種であるIPFは、不可逆的な線維化や肺機能の低下を示し、予後不良な疾患です。しかし、IPFではないILDでも、IPFと類似した疾患挙動(Disease behavior)を示す症例があることが知られています。

そこで近年、この疾患挙動を踏まえた進行性肺線維症(PPF)という概念が国際診療ガイドラインで提唱されています。PPFとは、IPF以外の進行性の肺線維化を生じるILDを表した疾患概念です。現在、国際的にはこのPPFという用語の使用に統一されつつあります。

しかし、用語と異なり、進行性の肺線維化という疾患挙動を特定するための直接的な基準は、ガイドラインや主要な臨床試験によってさまざまです(図1)。たとえばINBUILD試験では、この疾患挙動を示すものをPF-ILDとして定義し、「2年間で対標準努力肺活量(%FVC)の減少が10%以上」などを基準として定めました。

図1

2 ガイドラインや主要な臨床試験における基準の違い4)

 

図2は、INBUILD試験におけるPF-ILDの基準と、2022年のATS/ERS/JRS/ALAT国際診療ガイドラインにおけるPPFの基準を詳細に比較したものです。主に4点の違いが見られます。

一点目は観察期間です。INBUILD試験では、2年以内とするのに対し、ガイドラインでは過去1年以内とされています。

二点目は%FVC低下の評価です。INBUILD試験では相対的低下に基づくのに対し、ガイドラインでは絶対的低下に基づいて評価します。また、INBUILD試験では%FVCの10%以上の相対的低下は単独で考慮されます。ただし、%FVCの相対的低下が5%以上10%未満の場合、呼吸器症状の悪化を認めた場合や、HRCTでの線維化の範囲の増加がある場合は、ガイドライン同様、2項目以上が必要とされています。

三点目は、肺拡散能(DLCO)の評価です。INBUILD試験では、DLCOの評価は臨床試験における登録基準に含まれていませんが、ガイドラインでは、基準のひとつとしてDLCOの10%以上の絶対的減少が含まれています。

そして四点目は、放射線学的進行についてです。INBUILD試験では放射線学的進行に関する具体的な基準が示されていませんが、ガイドラインでは、放射線学的進行を示す所見が挙げられています。

このように、両基準には細かな違いがありますが、呼吸器症状・呼吸機能などの生理学的視点・HRCTなどの放射線学的視点が進行性の肺線維化(PPF)を見過ごさないために重要となります。

図2

3 PPFという呼称について

ATS/ERS/JRS/ALAT国際診療ガイドラインでは「進行性肺線維症(PPF)」という呼称を提案した背景として、医師と患者さんの両方によく知られた用語である「肺線維症(pulmonary fibrosis)」との互換性など、複数の要因が挙げられています(図3)。

図3

4 PPFの予後

しかし、どのような基準を用いたとしても、進行性が認められた場合の予後は不良です。

実際にこちらの多施設コホート研究では、3つの臨床試験の基準と2022年のATS/ERS/JRS/ALAT国際診療ガイドラインの基準を用いてPPFとされたIPF以外の線維化性ILD患者さんのデータが評価されました。その結果、無移植生存率は、INBUILD試験の基準を使用した場合もガイドラインの基準を使用した場合も有意な差はありませんでした。これは、異なる基準で特定されたPPF患者さんが類似した背景特性を持っていたことを示唆しています(図4)。

図4

また、IPF以外のPF-ILD患者さんを対象とした別のコホート研究では、診断名別の予後が評価されました。線維化の進行が確認された時点からの生存期間の中央値は、混合性結合組織病に伴う間質性肺疾患(MCTD-ILD)で3.6年、関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)で3.5年、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)で3.1年などでした(図5)。さらに、いずれの疾患も1年生存率はすでに90%を下回り、RA-ILDでは72.4%、SSc-ILDでは73.6%、MCTD-ILDでは71.5%でした(図6)。

図5

図6

このように、進行性が認められた場合はその基準や基礎疾患にかかわらず予後不良です。そのため、PF-ILDやPPFの患者さんにおいては、進行性の判断のために呼吸機能検査を定期的に実施することが重要だと考えられます。そして、加療中にもかかわらず呼吸器症状の悪化や呼吸機能の低下や画像上の変化など線維化進行の兆候が認められた場合は、抗線維化薬の処方も検討することが望ましいと考えられます。

5 まとめ

● PPFは進行性の肺線維化という疾患の挙動を示す概念である。
● PPFを特定する基準はガイドラインや主要な臨床試験によってさまざまであるが、いずれを用いた場合もIPFと同様に予後は不良である。
● 呼吸器症状の悪化や呼吸機能の低下、画像上の変化など線維化進行の兆候が認められた場合は早期の治療介入が重要と考えられる。

PPFは進行性の肺線維化という疾患の挙動を示す概念です。
PPFを特定する基準はガイドラインや主要な臨床試験によって異なりますが、いずれを用いた場合もIPFと同様に予後は不良です。
呼吸器症状の悪化や呼吸機能の低下、画像上の変化など線維化進行の兆候が認められた場合は早期の治療介入が重要と考えられます。

今回ご紹介した内容を、ILD患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

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