CKD診療における腎予後予測マーカーeGFRスロープの重要性 第1回

サイトへ公開:2025年02月26日 (水)

新しい腎予後予測マーカーeGFRスロープとは?

ご監修:
久留米大学内科学講座 腎臓内科部門 主任教授 深水 圭 先生

臨床試験のサロゲートエンドポイントや腎予後予測マーカーとして注目されているeGFRスロープの重要性について、久留米大学内科学講座腎臓内科部門の深水 圭先生に、第1回ではeGFRスロープの概念やその臨床における意義についてご解説いただきます。

eGFRスロープの概念

eGFRスロープは、過去のeGFRの検査値を基に算出し、eGFRが1年あたりどの程度変化したかを示します(図1)。負の値が小さいほど腎機能低下が緩やかであることを示し、図のように傾斜が緩やかなほう(青)より傾斜が急峻なほう(オレンジ)が、より短期間で末期腎不全へ至る可能性が高いと考えられます1。慢性腎臓病の評価と管理のためのKDIGO診療ガイドラインでは、eGFRが-5.0mL/分/1.73m2/年を超えて低下する場合は、rapid progressionと定義されています2
eGFRスロープの変化は、末期腎不全のサロゲートエンドポイントや腎予後予測マーカーになりうるとして注目されています34
KDIGO:国際的腎臓病ガイドライン機構 Kidney Disease: Improving Global Outcomes

eGFRスロープの歴史的背景

臨床試験のエンドポイントとして、早期における腎機能低下から将来的に発生するイベントを予測できるエンドポイントがなかったこと、従来の血清クレアチニンの倍化や末期腎不全への進行といったハードエンドポイントではイベントを観察するのに多くの患者を組み入れ長期間にわたってフォローアップする必要があったことなどの問題がありました5。そのため、新たなサロゲートエンドポイントが検討され、2018年にNKF/FDA/EMAが主催するワークショップで、早期CKD患者においてeGFRスロープが緩やかになることが腎疾患の進行抑制のサロゲートエンドポイントとなりうることが提唱されました(図2)6
NKF:米国腎臓財団 National Kidney Foundation、FDA:米国食品医薬品局 United States Food and Drug Administration、EMA:欧州医薬品庁 European Medicines Agency

eGFRスロープの低下抑制の重要性

上述のワークショップの提言に加え、いくつかの研究において、2~3年程度のeGFRの検査値から得られたeGFRスロープにより腎疾患の進行を予測できる可能性が報告されています78。糖尿病患者の診療録データベースであるJ-DREAMSを用いた研究においても、アルブミン尿の程度によらず、eGFRスロープが緩やかになることが、末期腎不全リスクの低下と関連していることが示されており、末期腎不全のサロゲートエンドポイントとなりうるとされています9
また、日本人を対象とした疫学調査では、eGFRスロープの傾きが急峻なほど、心血管イベントリスクが高くなることも報告されています10(図3)。

したがって、eGFRスロープを活用して急速な腎機能の低下を早期にとらえ、速やかに治療介入することでスロープの傾きを緩やかにし、透析などの腎代替療法の導入時期を遅らせたり心血管イベントリスクを抑制することが重要と考えられます(図4)。

eGFRスロープの課題と展望

eGFRスロープにはいくつかの課題も指摘されています(表)。
腎疾患進行の評価において日常診療でeGFRスロープを活用することで、患者と医師が治療目標を共有し、早期治療介入の促進が期待されます。

おわりに

臨床試験のサロゲートエンドポイントや腎予後予測マーカーとして注目されているeGFRスロープの概念やその臨床における意義についてご紹介しました。
日本では成人5人に1人が慢性腎臓病(CKD)と推計されており、新たな国民病と言われています15。また、CKDは透析リスクだけでなく、心血管イベントリスクとも強い相関があることから10、早期診断、早期治療が重要です。
早期CKD患者の腎予後予測マーカーとして有用なeGFRスロープを日常診療にぜひ取り入れていただき、先生方のCKD診療にお役立ていただければと思います。

References

  1. O'Hare AM, et al. Am J Kidney Dis. 2012 ; 59 : 513-22.
  2. KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney Int Suppl. 2013 ; 3 : 63-72.
  3. 日本腎臓学会. 早期慢性腎臓病の治療薬開発におけるサロゲートエンドポイントを用いた臨床評価ガイドライン.    
    https://jsn.or.jp/academicinfo/report/surrogate-endpoint_guideline_20230222.pdf(2024年11月19日閲覧)
  4. 日本腎臓学会 編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023, 東京医学社, 2023.
  5. 腎領域における慢性疾患に関する臨床評価ガイドラインの策定に関する研究班. 日腎会誌. 2018 ; 60 : 67-100.
  6. Levey AS, et al. Am J Kidney Dis. 2020 ; 75 : 84-104.
  7. Inker LA, et al. J Am Soc Nephrol. 2019;30:1735-45.    
    著者にベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社より助成金等を受領している者が含まれる。
  8. Itano S, et al. Clin Exp Nephrol. 2023 ; 27 : 847-56.    
    著者にベーリンガーインゲルハイム社より研究助成金等を受領している者が含まれる。
  9. Sugawara, et al. Clin Exp Nephrol. 2024 ; 28 : 144-52.    
    著者にベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社より助成金等を受領している者が含まれる。
  10. Zhang L, et al. BMJ Open. 2022 ; 12 : e052246.
    著者にベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社より講演料等を受領している者や、ベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれる。
  11. Greene T, et al. J Am Soc Nephrol. 2019 ; 30 : 1756-69.    
    著者にベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社より助成金等を受領している者が含まれる。
  12. Weldegiorgis M, et al. Am J Kidney Dis. 2018 ; 71 : 91-101.    
    著者にベーリンガーインゲルハイム社/イーライリリー社のコンサルタントが含まれる。
  13. Vonesh E, et al. Stat Med. 2019 ; 38 : 4218-39.
  14. Kim K, et al. Kidney Res Clin Pract. 2021 ; 40 : 220-30.
  15. 日本腎臓学会 編. CKD診療ガイド2024. 東京医学社, 2024.

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