データで考える2型糖尿病のある方における慢性腎臓病治療
サイトへ公開:2024年07月30日 (火)
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先生は、2型糖尿病のある方においてeGFRの低下(G3a、51mL/min/1.73m2)がみられるものの、尿蛋白(-)である場合、治療方針についてどのように考えますか?
今回は、このような2型糖尿病のある方におけるeGFRの低下および慢性腎臓病(CKD)による心血管死・腎イベントリスクや生活への影響についてご紹介します。

eGFRの低下による心血管死・腎イベントリスクへの影響
まずはこちらをご覧ください。
eGFRの低下は、心血管死および腎イベントの独立したリスク因子であることが報告されています。
心血管死および腎イベントリスクとeGFRおよびUACRの影響を検討したADVANCE試験の結果、正常アルブミン尿でもeGFRが60を下回ると、心血管死や腎イベントリスクが高まることが示されました。

また、糖尿病のある方におけるeGFR別の心血管死発現リスクを評価した研究では、CKDステージ G1を対照とした場合、G3aの時点で心血管死のハザード比は1.32となり、G3bに進展すると2.08まで上昇したことが示されました。

これらのことから、2型糖尿病のある方におけるCKDでは尿蛋白(-)やG3aといった早期から腎機能に対する治療介入が必要と考えられます。
eGFRの低下による生活への影響
また、2型糖尿病のある方におけるCKD治療では、CKDステージがG3b以降になると食事制限などの負担も増加すると考えられます。
糖尿病では血糖管理のためバランスの良い食事が求められます。一方で、G3b以降のCKDでは、腎症の進展防止のためより厳しい食事制限があり、CKD患者さんの73%が日常生活への負担や心配として食事制限をあげています1)。
このように、2型糖尿病のある方におけるCKD治療では、G3b以降になると食事制限などの負担が増加することからも、制限の少ないG3aから腎機能の低下を防ぐことが大切です。

以上のように、アルブミン尿の有無にかかわらず、eGFRの低下による心血管死・腎イベントリスクや生活への影響が報告されている2型糖尿病のある方におけるCKDの治療選択肢のひとつにSGLT2阻害薬 ジャディアンスがあります。
EMPA-KIDNEY試験
ここからはジャディアンスの有効性および安全性を評価した国際共同第Ⅲ相・検証試験 EMPA-KIDNEY試験をご紹介します。
試験概要
本試験は、腎疾患進行のリスクのあるCKD患者さん6,581例を対象に、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間に対する有効性および安全性をプラセボと比較検討しました。

主要評価項目は、腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間でした。その他の評価項目として、eGFRcr(CKD-EPI)の年間変化率(eGFRスロープ)についても評価しました。
解析計画はご覧のとおりです。

本試験にはCKDステージ G3a以下や正常アルブミン尿など、幅広いCKD患者さんが組み入れられました。

有効性
主要評価項目である腎疾患進行*または心血管死のリスクは、ジャディアンス10mg群で27%低下し、ジャディアンス10mg群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(99.83%CI:0.59-0.89、p<0.0001、Cox回帰モデル)。
*腎疾患進行:ESKD※1、eGFRが10mL/min/1.73m2未満に持続的に低下※2、腎疾患による死亡、または無作為化割付後にeGFRが40%以上持続的に低下※2のいずれか。
※1 ESKDは、維持透析の開始または腎移植の実施と定義した。
※2 eGFRの低下における「持続的」の定義は、以下のいずれかとした。
・予定されたフォローアップ来院時に2回連続して(30日以上の間隔で)認められた場合。
・予定された最終フォローアップ来院時、または死亡、同意撤回もしくは追跡不能となる前の最終予定来院時に認められた場合。

また、本試験ではその他の評価項目としてeGFRスロープについて評価しました。
eGFRスロープとはeGFRの年間変化率で、負の値が小さいほど腎機能低下が緩やかであることを示します。eGFRスロープの0.5~1.0mL/min/1.73m2/年 程度の抑制が、腎疾患進行のサロゲートエンドポイントのひとつであるとの報告もあります。

その結果、eGFRスロープはベースラインから最終フォローアップ来院までの全期間で、ジャディアンス10mg群-2.16、プラセボ群-2.90であり、2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院までの慢性期で、ジャディアンス10mg群-1.37、プラセボ群-2.74でした。

さらに、慢性期におけるeGFRスロープについてサブグループ解析を行った結果、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)にかかわらず、eGFRスロープの負の値はジャディアンス10mg群でプラセボ群よりも小さかったことが示されました(正常群:p=0.0008、微量および顕性アルブミン尿群:各p<0.0001、いずれも名目上のp値、shared parameterモデル)。

安全性
治験薬投与期間中央値21.82ヵ月での有害事象発現割合は、ジャディアンス10mg群43.9%(1,444/3,292例)、プラセボ群46.1%(1,516/3,289例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風231例(7.0%)、コロナウイルス感染98例(3.0%)、急性腎障害93例(2.8%)など、プラセボ群で痛風266例(8.1%)、急性腎障害117例(3.6%)、コロナウイルス感染107例(3.3%)などでした。
重篤な有害事象の発現率は、 ジャディアンス 10mg群33.0%(1,086/3,292例)、プラセボ群35.4%(1,164/3,289例)でした。
投与中止に至った有害事象は、ジャディアンス 10mg群7.0%(232/3,292例)、プラセボ群7.3%(240/3,289例)に認められました。
死亡に至った有害事象は、ジャディアンス 10mg群3.8%(126/3,292例)、プラセボ群4.1%(135/3,289例)でした。
それぞれの有害事象における内訳はご覧のとおりです。

今回は、ご覧のようにeGFRの低下(G3a、51mL/min/1.73m2)がみられるものの尿蛋白(-)の2型糖尿病のある方におけるeGFRの低下およびCKDによる心血管死・腎イベントリスクや生活への影響と、ジャディアンスの有効性および安全性を評価した国際共同第Ⅲ相・検証試験 EMPA-KIDNEY試験についてご紹介しました。
CKD※治療における新たな選択肢のひとつであるSGLT2阻害薬 ジャディアンス錠10mgを、このようなCKD患者さんにぜひご検討ください。
※ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。
【引用】
- Yagi N, et al.: Adv Ther. 2023; 40(3): 853-68.