ヘルネクシオス®の作用機序 -結合特性から見る有効性と安全性(静止画)

サイトへ公開:2026年09月11日 (金)

ご監修:後藤 功一 先生(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科長(副院長 診療担当))

HER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に対する新たな治療選択肢として、チロシンキナーゼ阻害剤であるヘルネクシオス®が登場しました。
本コンテンツでは、LC-SCRUM-Asiaにおける解析によって示された日本人HER2遺伝子変異陽性NSCLC患者の現状、ヘルネクシオス®のHER2に対する結合特性及び承認根拠となったBeamion LUNG-1試験の第Ib相1,2)におけるヘルネクシオス®の有効性と安全性について、国立がん研究センター東病院 呼吸器内科長(副院長 診療担当) 後藤 功一 先生にご説明いただきます。

1)社内資料:国際共同第I相試験(Beamion LUNG-1)[承認時評価資料]
2)Heymach JV. et al.: N Engl J Med 2025; 392(23): 2321-2333. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われた。

HER2遺伝子は、様々ながん腫において遺伝子増幅や遺伝子変異が認められています。
また、HER2遺伝子変異はNSCLCにおいてもドライバー遺伝子異常の一つとして知られており、一般にNSCLC患者の2~4%に認められることが報告されています3)
では、日本人ではどうでしょうか。LC-SCRUM-Asiaに2015年3月~2023年6月までに登録された日本人NSCLC患者15,251例の解析において、HER2遺伝子変異陽性の割合は2.6%(402例)でした4)

3)Yu X. et al.: Front Oncol 2022; 12: 860313.
4)Kato Y. et al.: Lung Cancer 2024; 197: 107992.

ここからは、日本人におけるHER2遺伝子変異陽性NSCLCの治療成績について見ていきましょう。
肺癌診療ガイドライン2025年版において、HER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する一次治療は、投与を避けるべき患者を除き、ドライバー遺伝子変異/転座陰性NSCLCの初回治療に準じて、免疫チェックポイント阻害薬(以下、ICI)を含む治療が推奨されています。
そこで、日本人HER2遺伝子変異陽性NSCLC患者を対象とした、プラチナ製剤併用化学療法±ICIによる一次治療の治療成績を紹介します。

日本人におけるHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の治療成績5)

初回治療としてプラチナ製剤を含む化学療法にICIを併用した患者(Chemo-ICI群:95例)と、化学療法単独を投与した患者(Chemo群:173例)の治療成績を比較した結果、無増悪生存期間(PFS)中央値は、Chemo-ICI群で8.5ヵ月、Chemo群で6.3ヵ月であり、Chemo-ICI群はChemo群に比べてPFSの有意な延長が認められています[HR:0.66(95%CI:0.50-0.88)、p<0.005、log-rank検定]。
また、全生存期間(OS)中央値は、Chemo-ICI群で31.1ヵ月、Chemo群で23.3ヵ月であり、両群間に有意差は認められませんでした[HR:0.80(95%CI:0.57-1.12)、p=0.20、log-rank検定]。
客観的奏効率(ORR)は両群ともに35%、DCRはChemo-ICI群で76%、Chemo群で69%でした。

5)Kato Y. et al.: Lung Cancer 2024;197: 107992.

これまで、HER2遺伝子変異陽性NSCLCに対して、二次治療を含めて選択できる有効な分子標的薬は存在せず、その開発が求められていました。
現在、ヘルネクシオス®を含む分子標的薬の登場により、肺癌診療ガイドライン2025年版では、二次治療以降においてHER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する分子標的療法が推奨されています。

肺癌診療ガイドラインにおけるヘルネクシオス®の位置づけ

二次治療以降の標準治療は、これまで分子標的薬はトラスツズマブ デルクステカンだけでしたが、肺癌診療ガイドライン2025年版にヘルネクシオス®が掲載されました。ガイドラインでは、「二次治療以降でゾンゲルチニブ単剤療法を行うよう強く推奨する。」と記載されています。

ヘルネクシオス®の効能又は効果、用法及び用量

ヘルネクシオス®は、Beamion LUNG-1試験において有効性と安全性が検討され、日本では2025年9月に承認を取得しました。

ヘルネクシオス®の作用機序

ヘルネクシオス®は、経口投与可能な新規のHER2チロシンキナーゼ阻害剤であり6)、エクソン20挿入変異等を有するHER2のチロシンキナーゼ活性を阻害し、下流のシグナル伝達を阻害することにより、腫瘍の増殖を抑制すると考えられています7)
また、ヘルネクシオス®の野生型EGFRに対するキナーゼ阻害活性は、HER2に対するキナーゼ阻害活性の0.0195倍でした8)

6)Heymach JV. et al.: N Engl J Med 2025; 392(23): 2321-2333.
7)ヘルネクシオス®錠60mg 電子添文 2025年11月改訂(第2版)
8)社内資料:非臨床薬効薬理試験(in vitro、キナーゼ阻害作用)(CTD 2.6.2.2)[承認時評価資料]

このようにHER2への選択性を示すヘルネクシオス®ですが、HER2を標的とした治療薬の開発には、様々な課題があったと考えられます。
ここからは、HER2標的治療薬の開発における課題と、その課題を克服しHER2標的治療を可能としたヘルネクシオス®の構造的特徴について解説します。

ゾンゲルチニブのHER2結合特性

HER2はHER(ErbB又はERBB)受容体チロシンキナーゼファミリー(以下、HERファミリー)に属しており、HERファミリーはHER2を含めた、HER1(EGFR)、HER3、HER4の4種類から構成され、いずれも構造的類似性を有することが報告されています9)
HER2遺伝子変異による細胞増殖シグナルを抑制する際には、このような構造的類似性の高さを考慮しながら、HER2のみを選択的に活性阻害することが求められます10)
また、HER2にはATP結合ポケットが存在し、薬剤はこの部位に結合することで活性を阻害しますが、HER2遺伝子変異陽性NSCLCの代表的なサブタイプであるHER2 YVMA変異ではATP結合ポケット周辺の構造が変化するため薬剤の結合が困難とされてきました10)
このような課題に対して、ヘルネクシオス®は、以下の化学構造をとることで“HER2への特異的な結合”を可能にしました。

●アクリルアミド構造
HER2のキナーゼドメイン内にあるフロントポケットに存在するCys805との共有結合により、ATP結合ポケットに不可逆的に結合することで、ATPの結合を阻害し、下流のシグナル伝達を抑制する10)

●メチルベンゾイミダゾール構造
HER2のバックポケットにはSer783、EGFRにはCys775という結合部位が存在するが、この構造によりSer783に特異的に水素結合し、EGFRとは結合しないという特性を有する10)

9)Abud HE. et al.: Front Cell Dev Biol 2021; 9: 685665.
10)Wilding B. et al.: Nat Cancer 2022; 3(7): 821–836.

このようなゾンゲルチニブの特性により、HER2に対する選択性について、in vitro実験における各種キナーゼの阻害作用のデータをお示しします。

ゾンゲルチニブにより阻害されるキナーゼ

EGFRを含む複数のキナーゼに対してゾンゲルチニブの阻害作用を評価した結果、HER2において最も低いIC50値を示し、HER2に対する高い選択性が確認されました。
また、グラフに示すように、野生型HER2及び野生型EGFRのIC50値はそれぞれ8nM、410nMであり、ゾンゲルチニブは野生型EGFR阻害活性に必要な濃度の0.0195倍の濃度でHER2阻害活性を示しました。

以上のようなヘルネクシオス®の構造的特徴に基づいたHER2の選択的結合特性を踏まえ、ここからはヘルネクシオス®の有効性と安全性を評価した「国際共同第I相試験Beamion LUNG-1試験」についてご紹介します。

試験概要

Beamion LUNG-1試験の第Ib相(用量拡大パート)では、進行/転移性のHER2変異陽性NSCLC患者を対象に、ヘルネクシオス®の有効性と安全性を評価しました。
同試験では、日本を含む18ヵ国で241例が登録され、そのうち日本人患者は26例でした。
同試験の第Ib相用量拡大パートのうちコホート1では、まず初めに用量最適化を目的として、治療歴のあるHER2変異陽性NSCLC患者を、ヘルネクシオス®120mg群又は240mg群にランダムに割り付け、治療を実施しました。
その後、用量最適化のデータを踏まえて、120mgが推奨用量と判断され、コホート1を含むすべてのコホートで240mg群への組入れは中止となりました。

 

試験結果

主要評価項目である客観的奏効率(ORR※1)は66.7%(50/75例、97.5%CI:53.8-77.5)と事前に規定された基準(ORR 30%)を上回りました(片側p<0.0001、検証的な解析結果、1標本z検定)。
また、副次評価項目である病勢コントロール率(DCR※2)は92.0%でした。
※1:ORR=CR+PR、※2:DCR=CR+PR+SD

FDAの指示に基づき、コホート1の全患者について6ヵ月以上の奏効期間フォローアップデータ及び3ヵ月安全性データを更新するため、追加解析が実施されました。
追加解析の結果、客観的奏効率(ORR)は70.7%(53/75例、95%CI:59.6-79.8)でした。

ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された有害事象は75例中73例(97.3%)に認められました。
主な有害事象は下痢(54.7%)、AST増加(24.0%)、発疹(22.7%)、ALT増加(21.3%)などでした。

ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された重篤な有害事象は3例(4.0%)に認められ、ALT増加、AST増加が報告されました。
ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された死亡に至った有害事象は報告がありませんでした。

中止に至った有害事象は2例(2.7%)に認められ、ALT増加、AST増加、血中ALP増加、GGT増加及び発熱が報告されました。
休薬に至った有害事象は25例(33.3%)に認められ、2例以上にみられた有害事象はAST増加、駆出率減少、発疹、ALT増加及び嘔吐が報告されました。
減量に至った有害事象は5例(6.7%)に認められ、AST増加、ALT増加、好中球数減少、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、GGT増加、高トランスアミナーゼ血症及び薬物性肝障害の疑いが報告されました。

【後藤先生のお⾔葉】

本コンテンツに紹介したLC-SCRUM-Asiaは、肺がん患者さんに有効な治療薬を届けることを目的として2013年に発足した、がんの遺伝子変化を調べる産学連携プロジェクトです。
現在、LC-SCRUM-Asiaでは、国内及び複数のアジア地域にゲノムスクリーニング基盤を構築しており、希少変異を有する肺がんに対する治療開発、個別化医療の確立に貢献しています。
これまで、HER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する治療選択肢は限られており、アンメットメディカルニーズとしてTKIの開発が長らく求められてきました。
このような状況の中、LC-SCRUM-Asiaは、ヘルネクシオス®においても、治療開発をサポートしてきました。
その結果、Beamion LUNG-1試験で得られた臨床成績に基づき、HER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する新たな治療選択肢として、チロシンキナーゼ阻害剤であるヘルネクシオス®が2025年9月に承認を取得しました。
ヘルネクシオス®は、その構造的特徴により、HER2に対する高い選択性を示し、実臨床においてHER2遺伝子変異陽性NSCLCの腫瘍増殖及び疾患進行を抑制することが期待されています。
薬剤特性の理解は、有効性及び安全性プロファイルを適切に解釈するうえで重要であり、作用機序ならびに有効性・安全性データを総合的に評価したうえで治療選択を検討することが重要であると考えます。

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