ヘルネクシオス®の安全性と副作用マネジメント
サイトへ公開:2025年11月18日 (火)
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進行/転移性のHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象に、新規のHER2チロシンキナーゼ阻害剤であるヘルネクシオス®の有効性と安全性を評価した非盲検国際多施設共同試験、Beamion LUNG-1試験 第Ib相 用量拡大パート1,2)が報告されました。今回は、本試験の治験参加医師である静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 部長 釼持 広知先生にヘルネクシオス®の安全性と副作用マネジメントについてお伺いしました。
試験概要
Beamion LUNG-1試験の第Ib相パートでは、進行/転移性のHER2変異陽性NSCLC患者を対象に、ヘルシオネクス®の有効性と安全性を評価しました。
同試験では、日本を含む18ヵ国で241例が登録され、そのうち日本人患者は26例でした。
コホート1では、まず初めに用量最適化相として、治療歴のあるHER2変異陽性NSCLS患者を、ヘルシオネクス®120mg群または240mg群にランダムに割り付け、治療を実施しました。
その後、用量最適化相のデータを踏まえて、120mgを推奨用量とし、コホート1を含むすべてのコホートで240mg群への組入れは中止となりました。

試験結果
主解析において主要評価項⽬である客観的奏効率(ORR※1)は66.7%(50/75例、97.5%CI︓53.8-77.5)と、事前に規定された基準(ORR 30%)を上回りました(⽚側p<0.0001、検証的な解析結果、1標本z検定)。
また、副次評価項⽬である病勢コントロール率(DCR※2)は92.0%でした。
※1︓ORR=CR+PR、※2︓DCR=CR+PR+SD

FDAの指示に基づき、コホート1の全患者の6ヵ月以上の奏効期間フォローアップデータ及び3ヵ月安全性データを更新するため、追加解析が実施されました。主要評価項⽬である客観的奏効率(ORR)は70.7%(53/75例、95%CI:59.6-79.8)でした。
また、ベースラインからの腫瘍縮⼩率の中央値は-43%(範囲:-100-22)でした。

副次評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値は12.4ヵ月でした。

ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された有害事象は75例中73例、97.3%に認められました。
主な有害事象は下痢(54.7%)、AST増加(24.0%)、発疹(22.7%)、ALT増加(21.3%)、悪心(14.7%)などでした。

ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された重篤な有害事象は、3例(4%)に認められ、ALT増加、AST増加が報告されました。
ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された死亡に至った有害事象は報告がありませんでした。

投与中止に至った有害事象は2例(2.7%)に認められ、ALT増加、AST増加、血中ALP増加、GGT増加及び発熱が報告されました。
休薬に至った有害事象は25例(33.3%)に認められ、2例以上にみられた有害事象はAST増加、駆出率減少、発疹、ALT増加及び嘔吐が報告されました。
減量に至った有害事象は5例(6.7%)に認められ、AST増加、ALT増加、好中球数減少、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、GGT増加、高トランスアミナーゼ血症及び薬物性肝障害の疑いが報告されました。

重要な副作用に対するマネジメント
次に、重要な副作用に対するマネジメントについてご紹介します。
NSCLC患者において、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)治療後にチロシンキナーゼ阻害剤を使⽤した場合に、重度の有害事象が認められています3,4)。これは、いずれの器官や組織でも起こる可能性があり、複数の器官が同時に影響を受けることもあります。
ICIによる治療歴があり、遅発性免疫関連有害事象が疑われる場合には、『免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル』等も参照の上、適切な処置を⾏ってください。
■重度の下痢
発現時の対処法
下痢が発現した場合は、Gradeに応じて本剤の投与継続⼜は休薬を判断し、適切な処置を実施してください。
また、ICIによる治療歴があり、遅発性免疫関連有害事象が疑われる場合には、『免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル』等も参照の上、適切な処置を⾏ってください。
厚⽣労働省:免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル(令和4年2⽉)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1q05.pdf(2025年10⽉現在)

■肝機能障害
発現時の対処法
ALT増加、AST増加及び総ビリルビン増加のGradeに応じて本剤の投与継続、休薬⼜は中⽌を判断してください。
投与再開時には60mgで再開してください。1⽇1回60mgに減量しても忍容性が認められない場合は、本剤の投与を中⽌してください。
また、ICIによる治療歴があり、遅発性免疫関連有害事象が疑われる場合には、『免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル』等も参照の上、適切な処置を⾏ってください。
厚⽣労働省:免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル(令和4年2⽉)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1q05.pdf(2025年10⽉現在)

参考 Beamion LUNG-1試験、第Ib相の検査スケジュール(⼀部抜粋)

ヘルネクシオス®錠60mg 適正使⽤ガイドより引⽤
■血球減少
発現時の対処法
発熱性好中球減少症が発現した場合は、Grade 1以下⼜はベースラインに回復するまで休薬し、回復後は60mgで再開してください。ただし、必要に応じて投与を中⽌することも考慮してください。
発熱性好中球減少症以外の⾎球減少が発現した場合は、Grade 1以下⼜はベースラインに回復するまで休薬し、症状に応じて適切な⽀持療法を⾏ってください。回復後は60mgで再開してください。ただし、必要に応じて投与を中⽌することも考慮してください。
また、ICIによる治療歴があり、遅発性免疫関連有害事象が疑われる場合には、『免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル』等も参照の上、適切な処置を⾏ってください。
厚⽣労働省:免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象対策マニュアル(令和4年2⽉)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1q05.pdf(2025年10⽉現在)
へルネクシオス®錠60mg 適正使⽤ガイドより引⽤
■間質性肺疾患
発現時の対処法
Gradeに応じて本剤の投与継続⼜は休薬を慎重に判断し、適切な処置を実施してください。
Grade 1では、患者の状態を⼗分に観察し、治療の有益性が危険性を⼤きく上回ると判断された場合のみ、投与を継続することができます。
Grade 2では、本剤を休薬し、適切な⽀持療法を⾏ってください。14⽇以内にGrade 1以下に回復しない場合、本剤の投与を中⽌してください。14⽇以内にGrade 1以下に回復し、治療の有益性が危険性を⼤きく上回ると判断された場合のみ、投与を再開することができます。投与再開時には60mgで再開してください。再度悪化した場合は本剤の投与を中⽌してください。
Grade 3⼜は4の間質性肺疾患が発現した場合は、本剤の投与を中⽌してください。

■心機能障害(心不全、左室駆出率低下)
発現時の対処法
駆出率減少が発現した場合は、Gradeに応じて本剤の投与継続⼜は休薬を判断し、適切な処置を実施してください。
なお、Grade 3⼜は4の駆出率減少が発現し、休薬後4週間以内に正常範囲⼜はベースラインから5ポイント以内に回復しなかった場合、再開後にベースラインから10ポイント以上低下した場合は、本剤の投与を中⽌してください。
駆出率減少以外の⼼機能障害が発現した場合は、Grade 1以下⼜はベースラインに回復するまで休薬し、症状に応じて適切な⽀持療法を⾏ってください。回復後は60mgで再開してください。ただし、必要に応じて投与を中⽌することも考慮してください。
必要に応じて循環器内科に相談の上、適切な処置を実施してください。

参考 Beamion LUNG-1試験、第Ib相の検査スケジュール(⼀部抜粋)

【釼持先⽣のお⾔葉】
ヘルネクシオス®錠60mg(⼀般名︓ゾンゲルチニブ)は、HER2(ERBB2)遺伝⼦変異陽性の⾮⼩細胞肺癌(NSCLC)を対象とした、国内で初めてとなるHER2チロシンキナーゼ阻害剤です。ヘルネクシオス®の有効性と安全性を評価したBeamion LUNG-1試験の結果に基づき、2025年9⽉に「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝⼦変異陽性の切除不能な進⾏・再発の⾮⼩細胞肺癌」を効能⼜は効果として、承認を取得しました。
Beamion LUNG-1試験における有効性の結果において、客観的奏効率(ORR)は主解析で66.7%、追加解析で70.7%、無増悪⽣存期間(PFS)中央値は12.4ヵ⽉でした。
ヘルネクシオス®との因果関係ありと判断された主な有害事象として、下痢、AST増加、発疹、ALT増加などが報告され、重篤な有害事象は4.0%でAST増加及びALT増加が報告されました。有害事象により、治療を中⽌した症例は全体の2.7%でした。また、投与中に発現する可能性のある重要な副作⽤として、重度の下痢、肝機能障害、⾎球減少、間質性肺疾患及び⼼機能障害が報告されています。
副作⽤は、早期発⾒・早期対応を⾏うことで重症化を予防できることがあります。患者さんのQOLを維持しながら治療を継続し、治療効果を最⼤化させるためにも、医療従事者がヘルネクシオス®の副作⽤マネジメントへの理解を深めることが重要です。
ヘルネクシオス®投与中には副作⽤に注意しながら診療を⾏い、副作⽤が確認された場合には、適正使⽤ガイド等の情報を参照の上、休薬、減量⼜は中⽌などの適切な処置を⾏いましょう。
参考 各有害事象のGrade分類

LLN:(施設)基準値下限
※治験ではGrade 2に満たない駆出率減少をGrade 1と定義した。
JCOGホームページ https://jcog.jp/index.htm(2025年10⽉現在)
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