EGFR遺伝子変異に基づく個別化医療の可能性 #1(静止画)

サイトへ公開:2025年06月27日 (金)

ご監修・ご出演:田中 洋史先生(新潟県立がんセンター新潟病院 院長)

EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌におけるUncommon mutation に対するEGFR-TKI治療のデータとして、アファチニブと化学療法を比較したランダム化比較試験、ACHILLES試験1)が報告されました。今回は、本試験の研究責任医師である新潟県立がんセンター新潟病院 院長の田中 洋史先生に、ACHILLES試験の意義や結果についてお伺いしました。

■ACHILLES試験の意義

――EGFR遺伝子変異に基づく治療を行う上で、Uncommon mutationにおける課題とは?

現在、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌(NSCLC)の標準治療はEGFR-TKIとなっています。そして、これまでにEGFR-TKIによる治療効果はEGFR変異のタイプによって異なることが、様々な研究から明らかにされてきています2,3)
Common mutationに有効な治療法については研究が進んでいく一方、これまでUncommon mutationに有効な治療についてはデータが乏しく、in vitro試験など限られたものとなっていました。

――ACHILLES試験はどのような試験ですか? 

ACHILLES試験は、Uncommon mutationsを持つEGFR遺伝子変異陽性NSCLCにおいて、一次治療としてのジオトリフ単剤療法と化学療法を比較したランダム化比較試験です。
対象には、EGFR-TKIを含む化学療法未治療かつSensitizing uncommon mutation変異を有するNSCLC患者さん109例が含まれました。Sensitizing uncommon mutationとは、in vitroデータなどからジオトリフに感受性があると考えられる変異を意味しており、exon20挿入変異とdenovo T790M変異を除くUncommon/Compound EGFR遺伝子変異を指します。

対象は、ジオトリフ群またはプラチナ製剤+ペメトレキセド(PtD+PEM)群にランダムに割り付けられました。
この化学療法とのランダム化比較試験という点がACHILLES試験の重要な価値を成しています。
標準治療の確立に寄与するためには、よりエビデンスレベルの高い試験デザインとする必要がありました。症例の少なさに起因する現実的な制限や統計的に必要とされるサンプルサイズの問題がありましたが、化学療法との比較試験を実現することができました。

■ACHILLES試験の患者背景

――患者背景について教えてください。

まず、EGFR変異タイプについては、Compound mutationが全体の31.2%を占め、Uncommon/Uncommonが22.0%、Common/Uncommonが9.2%でした。また、Single mutationとしてはG719X変異が39.4%、L861Q変異が18.3%でした。
平均年齢はジオトリフ群71.0歳、PtD+PEM群66.5歳で、75歳以上はそれぞれ26.9%および13.9%含まれました。
非喫煙者の割合はジオトリフ群52.1%、PtD+PEM群36.2%でした。

■ACHILLES試験の結果から

――ACHILLES試験の結果について教えてください。

本試験では、主要評価項目として無増悪生存期間(PFS)を評価しました。その結果、PFS中央値は承認用量であるジオトリフ40mg群で12.0ヵ月、PtD+PEM群で5.0ヵ月であり、ハザード比0.128でジオトリフ40mg群における有意な延長が示されました。

全有害事象の発現割合はジオトリフ群で71/73例(97%)、PtD+PEM群で32/35例(94%)でした。ジオトリフ群における主な有害事象は、下痢60例(82%)、爪囲炎43例(59%)、皮疹41例(56%)、口内炎/粘膜炎40例(55%)などでした。
また、G3以上の有害事象の発現割合と事象については、こちらの表の通りでした。

ランダム化比較試験において、化学療法と比較してPFSの延長が認められたことから、ジオトリフ40mgはUncommon変異に対する重要な治療選択肢と考えられます。

■今後の解析予定

――今後の展望について教えてください

今後は、全生存(OS)や後治療についても解析を進めるほか、患者背景が治療効果に与える影響なども含めて臨床へのメッセージとしてお伝えしていく予定です。
また、Uncommon mutationと一口に言っても、生物学的にバリエーションに富み、多様性のある集団です。今後、変異タイプ別の結果についても議論を深めていけたらと考えています。


 

【引用】

  1. Miura S, et al.: Journal of Clinical Oncology. Apr 16 2025: JCO2402007. Online ahead of print.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された。
  2. Robichaux JP. et al.: Nature 597(7878):732-737, 2021
    著者にベーリンガーインゲルハイム社より研究助成やコンサルタント料等を受領している者が含まれる。
  3. Kohsaka S. et al.: Sci Transl Med 9(416): eaan6566, 2017

本ページは会員限定ページです。
ログインまたは新規会員登録後にご覧いただけます。

会員専用サイト

医療関係者のニーズに応える会員限定のコンテンツを提供します。

会員専用サイトにアクセス​

より良い医療の提供をめざす医療関係者の皆さまに​

  • 国内外の専門家が解説する最新トピック
  • キャリア開発のためのソフトスキル
  • 地域医療と患者さんの日常を支える医療施策情報

などの最新情報を定期的にお届けします。​

P-Mark 作成年月:2025年6月