GPP患者に寄り添った診療を実現するために~患者が抱える疾病負荷や悩み~
サイトへ公開:2024年07月30日 (火)
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監修:
多田 弥生 先生
帝京大学医学部 皮膚科学講座 主任教授
1.はじめに
膿疱性乾癬(generalized pustular psoriasis; GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する疾患です。そのため診療にあたっては皮膚症状だけでなく、全身症状の管理も重要となります1)。
GPPの臨床プロファイルや治療に伴う経済的負担についてはレセプトベースの研究結果が報告されているものの2-4)、患者と医師双方の視点に基づいたGPPの疾病負荷についてはほとんど明らかになっていません。
近年、さまざまな疾患の診療において、患者と医療者間の共有意思決定の手法であるShared decision making(SDM)が注目されています。SDMは、治療のメリットとリスクを話し合い、患者の価値観や背景を考慮したうえで治療方針を決定し、協力して最適な治療ゴールに向かっていくためのプロセスです5)。そして、その実現のためには患者との良好なコミュニケーションが欠かせません。患者と医師双方の視点を理解することは、GPP診療におけるコミュニケーションを改善し、ひいては患者のQOL向上につながると考えられます。
ここでは、GPP患者と皮膚科医を対象に実施されたWebアンケート調査の報告6)からわかってきた、GPPの症状に対する患者と医師の間での認識の違いと患者が抱える悩みについて紹介します。
2.調査概要6)
調査の対象は皮膚科医によりGPPと診断を受けた18歳以上の患者46人と、日本皮膚科学会が承認した生物学的製剤使用認定施設で現在1名以上のGPP患者の診療にあたっている皮膚科医66人で、調査はWebアンケート形式の質問票を用いて実施されました(表1)。
アンケートは、GPPの症状、疾患説明、日常生活、周囲の理解などに関して、患者向け51問、皮膚科医向け44問の構成で実施されました(図1)。


3.疾病負荷に関する調査結果6)
1) GPPの症状
GPPの症状に関し、確定診断時の患者の自覚症状や状態は、膿疱80%、皮膚のただれ61%、皮膚が赤く腫れた状態54%であり、皮膚症状を多く経験していることが示されました(図2)。また、患者が診断時に最もつらかった症状についても、膿疱(33%)や皮疹(28%)など、「皮膚症状」という回答が83%に上っています。一方で、皮膚科医が第一に取り除くべきだと考える症状は、「全身症状」が58%(「発熱や悪寒」52%、「全身の倦怠感」6%)、「皮膚症状」が41%(「膿疱」15%)と皮膚症状を重視しつつも、全身症状により重きを置いていることが明らかとなりました(図3)。


2) 皮膚症状が落ち着くまでの期間
皮膚症状が落ち着くまでの平均日数については、患者は32日と回答したのに対し、医師は16日と回答し、皮膚以外の症状が落ち着くまでの平均日数は患者が28日、医師が12日と回答しました(図4)。
回復に要した期間について患者と医師の回答の間には約2倍の違いがみられ、患者と医師では回復の状態に関して認識の違いがあることが示唆されました。

3) 日常生活に関する悩み、周囲の理解に関する悩み
GPPに関連する日常生活への支障を感じたことがないと回答した患者は1名(2%)のみであり、ほとんどすべての患者が日常生活で悩みを抱えていることが明らかとなりました。日常生活においては、対人関係、仕事・学校関係でつらい思いをしたと回答した割合が高く、周囲の理解に関しては、相談できる環境がなかった、うつると思われた、避けられたという経験を訴える回答が多く挙がりました(図5、図6)。
また、約90%の医師は患者の悩みについて相談を受けたことがあると回答し、日常生活に関しては「仕事・学校生活への影響」、周囲の理解に関しては「うつると思われたり、避けられたこと」が相談の内容の最も多くを占めました。
多くの医師が患者の悩みについて相談を受けたと回答した一方で、約3割の患者は病気について周囲に相談できる環境がないと感じており、患者はすべての悩みを医師に相談できているわけではない可能性が示唆されました。このように患者の多くが医師に対し質問や相談をすることを躊躇したり、消極的であり、また、医師においても十分に患者とコミュニケーションをとる時間がないことなどが影響して、患者・医師間に認識の差が生じている可能性が考えられます。


4.おわりに
本調査では、症状が落ち着くまでの期間について、医師に比べGPP患者の方がより長いと認識していることが明らかとなりました。また、日常生活や周囲の理解に関する悩みについては、多くの医師が相談を受けたと回答した一方で、約3割の患者は周囲に相談できる環境がないと感じていることが報告されました。このような認識の違いは、患者が自身の症状を正確に伝えられない、また伝えることを躊躇していることも要因の一つとなっている可能性があります。
GPP患者は疾患そのものの症状による負担に加え、ここで示したような日常生活や周囲の理解に関するさまざまな負担を抱えています。患者自身が症状を記録できる手帳やアプリなどを活用することで、より適切な患者と医師のコミュニケーションが可能となるかもしれません。患者に寄り添った診療を実現するためには、患者の意思を共有し、共通の治療目標をもって診療に取り組むことが重要です。先生方には医療スタッフの協力、さらには手帳やアプリといった記録ツールの活用など、さまざま手段をご検討いただき、患者が医師とコミュニケーションを取りやすい環境を整えていただければと思います。
References
- 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年版. 日皮会誌. 2015; 125(12): 2211-2257.
- Morita A, et al. J Dermatol. 2021; 48(10): 1463-1473.
(本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています) - Okubo Y, et al. J Dermatol. 2021; 48(11): 1675-1687.
(本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています) - Miyachi H, et al. J Am Acad Dermatol. 2022; 86(6): 1266-1274.
- Hoffmann TC, et al. JAMA. 2014; 312(13): 1295-1296.
- Yagi N, Tada Y, et al. Future Rare Dis. 2023; 3(2).
(本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています)