抗凝固療法の最前線:千葉県南部の医療を支える(静止画)

サイトへ公開:2026年08月07日 (金)

ご監修:水上 暁 先生(亀田総合病院 循環器内科 部長)

インタビュー:千葉県南部の医療を支える。抗凝固療法の最前線

亀田総合病院 循環器内科 部長
水上 暁 先生

2026年1月20日 亀田総合病院にて開催

この記事でわかる3つのポイント

1.    血栓塞栓症のリスクを踏まえた“アブレーション周術期における抗凝固療法”の重要性
2.    プラザキサを適切に継続するために重要な服薬指導(正しい服用方法、飲み忘れ時の対応、自己判断での
休薬を避けるなど)
3.    服薬指導の工夫と、多職種連携によるアドヒアランス維持の取り組み

 心房細動に対するカテーテルアブレーション(以下、アブレーション)は、技術やデバイスの進歩を背景に施行数が年々増加している。一方、アブレーションは出血性合併症や血栓塞栓症のリスクを伴うため、周術期における適切な抗凝固療法が欠かせない。近年は、アブレーション治療の場にパルスフィールドアブレーション(PFA)が登場し、出血性合併症のリスク低減が期待されているものの、術中の出血がなくなるわけではない。そのため、PFAが普及しても抗凝固療法の重要性は変わらないと考えられる
 本インタビューでは、心房細動治療のエキスパートである水上 暁先生に、アブレーション周術期における抗凝固療法の実際、プラザキサ投与時の留意点や医療スタッフとの連携について伺った。

千葉県南部の医療を支える現場

 当院は千葉県南部の基幹病院として、千葉県南部の医療を守るという誇りをもって診療に当たっています。都心から公共交通機関で2時間以上を要し、決してアクセスが良いとは言えないものの、常に最新機器を取り入れながらチーム一丸となって患者さんのニーズを満たす医療の実現を目指しています。循環器内科では、不整脈をはじめとするさまざまな疾患を扱っていますが、2024年の不整脈治療に対するアブレーションの施行数は444例1)でした。

アブレーション周術期における抗凝固療法

 近年の技術の進歩により、アブレーションに伴う患者さん負担はより低減されています。手術と聞くと1週間程度の入院をイメージされる患者さんも少なくありませんが、当院では基本的に2泊3日でアブレーションを行っています。しかしながら、アブレーション周術期では合併症、特に血栓塞栓症への注意が必要なことに変わりはありません。アブレーションは侵襲的手技であり、少なからず出血を伴いますが、抗凝固療法下で出血が生じても、多くの場合は止血処置や中和剤の投与により対応が可能です。一方で、血栓塞栓症は一度発症すると後遺症が残り、患者さんの人生に重大な影響を及ぼす可能性があります。当院では2024年からPFAを導入していますが、PFAの周術期においても抗凝固療法の継続を基本としています。

・ポイント
亀田総合病院では、アブレーション周術期の血栓塞栓症リスクを踏まえ、アブレーション周術期は抗凝固療法を継続している。

RE‑CIRCUIT試験が示したこと

 わが国のガイドラインでは、RE-CIRCUIT試験2)の結果を受けて、プラザキサによる「休薬なしでのAF(心房細動)アブレーション施行」が推奨クラスI、エビデンスレベルAとして記載されています(表)3)。当院では、RE-CIRCUIT試験の結果やガイドラインの推奨を踏まえ、プラザキサをアブレーション周術期に使用する抗凝固薬の主要な選択肢の一つとして位置づけています。また、当院でプラザキサを採用している理由としては、本剤の特異的中和剤であるプリズバインドの存在もあります。プリズバインドはプラザキサの抗凝固作用を迅速かつ完全に中和し、その効果は持続的であることが示されています(図1)4)

【エビデンス解説:RE‑CIRCUIT試験】
 本試験は、日本を含む11ヵ国が参加した国際共同無作為化実薬対照比較試験であり、発作性または持続性の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者678例を、プラザキサ継続群(150mg×2回/日)またはワルファリン継続群[目標プロトロンビン時間国際標準化比(PT-INR):2.0~3.0として用量調整]に1:1で無作為化割付けし、アブレーション開始から施行後8週までの安全性と有効性を検討した(図2)2)
 主要評価項目であるアブレーション施行後8週までの国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血の発現率は、プラザキサ継続群1.6%、ワルファリン継続群6.9%であり[絶対リスク差 -5.3%、95%CI(-8.4, -2.2)、名目上のP値<0.001、χ²検定]、プラザキサ継続群で有意なリスク減少が認められた[ハザード比(HR)0.22、95%CI(0.08, 0.59)、Cox比例ハザードモデルおよびWald信頼区間](図3)2)
 全ての有害事象の発現率は、プラザキサ継続群66.6%、ワルファリン継続群71.6%であった。プラザキサ継続群の重篤な有害事象は63例で認められ、主なものは心房粗動(20例)で、また投与中止に至った有害事象が19例認められ、主なものは胃腸障害(8例)がみられた点には注意が必要である。なお、両群とも試験期間中の死亡例は報告されなかった(図4)2)

【エビデンス解説:プリズバインドの安全性】
 重大な副作用として、ショック、アナフィラキシーを含む過敏症状があらわれることがある(0.2%)5)
 主な副作用は、血小板減少症、脳卒中、頭痛、心停止、心房血栓症、徐脈、上室性頻脈、深部静脈血栓症、低血圧、肺塞栓症、下痢、びらん性胃炎、発疹、四肢痛、溢出、注入部位疼痛が報告されている(いずれも1%未満)。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシーを含む過敏症状があらわれることがある(0.2%)。

服薬指導と医療スタッフとの連携の重要性

 直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)のアドヒアランス維持には、ワルファリンにはない難しさがあると感じています。例えば、ワルファリンであれば血液検査で効果判定ができるため、患者さんが自己判断で服薬を中断してもすぐに気づき、速やかな服薬指導を行うことが可能です。一方、DOACは抗凝固効果を日常診療で評価する手段が限られており、介入のタイミングを逃すこともあります。実際に、出血に対する不安が強い患者さんでは、自己判断で減量したり、服用回数を減らしたりすることがあります。また、服薬を忘れた際に、まとめて服用しようとする方もおられるため、「飲み忘れても一度に2回分を服用しない」ことを含め、服薬行動全般に関する注意点をお伝えするようにしています。
 そのため、プラザキサに限らずDOACを処方する際には、リスク‐ベネフィットを踏まえつつ、血栓塞栓症を予防するためには用法・用量通りに服用を継続する必要があることを患者さんに理解していただくことが重要だと考えています。

・ポイント
プラザキサを適切に継続するには、正しい飲み方、飲み忘れ時の対応や自己判断での休薬を避けるなど、適切な服薬
指導を行うことが重要である。

プラザキサの服薬指導の工夫

 プラザキサに関しては、カプセルが飲みにくいと感じる患者さんもいるようですが、「顎を引いて飲む」といった飲み方のポイントをきちんと伝えるようにしています。また、プラザキサの主な副作用の一つである胃腸障害が生じると、服薬アドヒアランスの低下につながることもあります。そのため、胃腸障害への対応として、コップ1杯の水で服用し、きちんと胃まで薬剤を落とすように指導しています。当院では、プラザキサ導入当初は医師が患者さんに服薬指導を行っていました。しかし、限られた診察時間の中で十分に説明することは容易ではなく、現在は薬剤師が中心となって服薬指導を行っています。

・ポイント
医師と医療スタッフ(薬剤師、看護師など)が連携しながら、それぞれが役割を担う体制を整えることで、医師はDOACの選択や治療方針の検討などにより集中できるようになる。

アブレーション周術期における抗凝固療法の今後の展望

 アブレーション治療は、今後も技術革新が進み、手術時間の短縮や患者さんの身体的負担のさらなる軽減が期待されます。その一方で、出血性合併症や血栓塞栓症のリスクが完全に消失することはなく、少なくとも当面は、周術期における抗凝固療法の重要性が変わることはないと考えられます。
 心房細動に起因すると考えられる症状を有する患者さん、将来的に進行することが懸念される患者さんについては、症状の有無にかかわらず、できるだけ早期の段階で、専門施設に相談・紹介することが重要です。また、高齢者においても、年齢のみを理由にアブレーションを治療選択肢から除外するのではなく、全身状態や併存疾患などを踏まえて、個々の患者さんの状況に応じた治療を検討していく姿勢が、今後ますます求められると考えています。

<文献>

  1. 亀田総合病院 循環器内科 Webサイト
    https://medical.kameda.com/general/medi_services/index_16.html#cases(2026年2月閲覧)  
  2. Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376(17): 1627-1636.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。  
  3. 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf(2026年1月閲覧)  
  4. プリズバインド 承認時評価資料
    Yasaka M, et al. Res Pract Thromb Haemost 2017; 1(2): 202-215.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました  
  5. プリズバインド添付文書 2025年4月改訂(第5版)  

 

表:AFアブレーション周術期の抗凝固療法の推奨とエビデンスレベル
-2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版不整脈非薬物治療-

日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf (2026年2月閲覧)

図1:イダルシズマブ投与後のdTT(希釈トロンビン時間)への作用(国内第Ⅰ相試験 Part2:日本人健康成人男性)

承認時評価資料
Yasaka M. et al.: Res Pract Thromb Haemost 2017; 1(2): 202-215.
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました

図2: 試験概要(RE-CIRCUIT試験:主要評価項目)(国際共同試験)

Calkins H, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1627-1636.
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました

図3: ISTH基準による大出血(RE-CIRCUIT試験:主要評価項目)(国際共同試験)

Calkins H, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1627-1636.
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました

図4:安全性(RE-CIRCUIT試験)(国際共同試験)

Calkins H, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1627-1636.
本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました
社内資料

本ページは会員限定ページです。
ログインまたは新規会員登録後にご覧いただけます。

会員専用サイト

医療関係者のニーズに応える会員限定のコンテンツを提供します。

会員専用サイトにアクセス​

より良い医療の提供をめざす医療関係者の皆さまに​

  • 国内外の専門家が解説する最新トピック
  • キャリア開発のためのソフトスキル
  • 地域医療と患者さんの日常を支える医療施策情報

などの最新情報を定期的にお届けします。​

P-Mark 作成年月:2026年7月