副島 京子 先生 アブレーション周術期の抗凝固療法における薬剤選択について

サイトへ公開:2021年01月28日 (木)

心房細動カテーテルアブレーション周術期における抗凝固療法とダビガトランの位置づけ

副島 京子 先生

副島 京子 先生

杏林大学医学部 循環器内科 教授
2023年8月30日 東京にてインタビュー実施 

当院における心房細動カテーテルアブレーション治療

カテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)の施行を目的に当院に紹介される心房細動患者さんの特徴としては、以前は発作性心房細動が多かったのですが、最近は持続性心房細動が増えている印象があります。持続性心房細動患者さんの場合は、年齢に加えFrailty(虚弱度)や症状、治療の成功率などを考慮してアブレーション施行の適否を患者さんと相談しながら決定しています(図1)。 

図1

なお、当院ではアブレーションにおける厳密な年齢制限の上限は設けていませんが、患者さんの身体的な健康状態であるとかや症状によって相談しながら判断させていただいています。また、患者さんの中には1回のアブレーションで根治すると考えている方も少なくないため、アブレーション施行に際してはリスクベネフィットまた治療の成功率を患者さんに説明し、よくご理解していただいた上で治療に臨んでいます。そうすることで、アブレーション施行後に再発した場合など、患者さんのストレスを軽減できると考えています。アブレーション周術期には脳梗塞や心タンポナーデなどの合併症に注意が必要です(図2)。

図2

脳梗塞の予防対策としては、丁寧な手技を心がけることは最重要ですが、周術期における適切な抗凝固療法が非常に重要です。血栓リスクの高い患者さんではアブレーション周術期も抗凝固療法を継続するようにしています。一方で、心タンポナーデの発現予防として丁寧な手技は必須ですが、リスクはどうしてもゼロにできないため、心タンポナーデが発現した際に速やかに対応できるように、術中は継続的に血圧をモニターするとともに、血圧の変化や患者さんの顔色等、疑いがある場合はなるべく迅速に透視を行う、あるいは心エコーを行ってモニタリングに努めると同時に早期発見に努めています。

ダビガトランの開発経緯

ダビガトランは、ベーリンガーインゲルハイム社が開発した直接トロンビン阻害剤であり、胃内 pHの影響を受けないように適切なバイオアベイラビリティ※1の確保を目指したカプセル製剤です。そのための工夫として、ダビガトランカプセルには、添加物である酒石酸コアに原薬をコーティングしたペレットが含まれています(図3)。 
※1投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標

図3

ダビガトランカプセルを服用後、胃液内でカプセルの崩壊が始まり、ペレットのダビガトランと酒石酸コアが溶解します。その際に、酒石酸コアが局所的に酸性の微小環境をつくるように働くことで、ダビガトランの溶解度が最大化し、吸収が高まるように設計されています(図4)。

図4

こうした製剤学的工夫によって、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用などによる胃液のpH上昇時においてもダビガトランは適切なバイオアベイラビリティの確保が目指せるよう設計されており1,2,3、高齢になるとPPIを服用していなくても胃内のpHが上昇する患者さんも少なくないため、ダビガトランは高齢の患者さんにおいても適切なバイオアベイラビリティが期待できると考えられます。

心房細動アブレーション周術期におけるダビガトランの位置づけ

ダビガトランの特異的中和剤プリズバインドが登場し、さらにRE-CIRCUIT試験というダビガトラン継続投与のエビデンスが示されました(図5)。

図5

このエビデンスをふまえ、2019年3月に発表された「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」では、心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法として、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしで心房細動アブレーションを施行することが推奨される(クラスI、レベルA)」と記載されています(図6)。

図6

RE-CIRCUIT試験に続き、国内からダビガトラン短期休薬(1~2回休薬)とワルファリン継続と有効性を検証したABRIDGE-J試験も実施されており、本試験においてもダビガトランの有効性が報告されています(図5)。このように、アブレーション周術期におけるダビガトラン投与の有効性については臨床成績が集積されつつあり、アブレーション周術期における抗凝固療法の継続と短期休薬について、患者さんごとに最適な選択基準が検討されていくことを期待しています。

文献

  1. 社内資料: 心房細動および整形外科手術施行患者の母集団薬物動態解析 (2011年1月21日承認, CTD 2.7.2.2)
  2. Stangier J, et al. Clin Pharmacokinet 2008; 47: 47-59.
  3. Liesenfeld KH, et al. J Thromb Haemost 2011; 9: 2168-2175.

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