田中先生 スペシャルインタビュー 不整脈非薬物治療ガイドラインをふまえて
サイトへ公開:2023年08月30日 (水)
⽥中 宣暁 先生
桜橋渡辺病院⼼臓・⾎管センター不整脈科⻑
2023年7月13日 大阪にて開催
心房細動カテーテルアブレーション(以下、アブレーション)早期治療介入の重要性
技術・デバイスの進歩により、近年のアブレーションは成績が向上し、その施行数も増加の一途を辿っています(図1)。

ここで認識しておきたいのは、早期治療介入の重要性です。心房細動の発作性から持続性心房細動の年間移行率は5%と言われており、14年で77%の患者さんが発作性から持続性心房細動へ移行し、特に基礎心疾患をお持ちの方はその移行が早いことが報告されています1)。心房細動は持続年数が長くなるに連れて治りにくくなることが知られており、本邦のガイドラインにおいても、長期持続性心房細動へのアブレーション治療の適応レベルは発作性・持続性よりも低くなっています(図2)。このようにアブレーションによる心房細動を治すと言う観点からは、持続年数が非常に大事であり、早期の発見・治療介入が重要です。かかりつけ医の先生方が心房細動を発見された場合は、「抗不整脈薬を試さず、アブレーションを行うことを考えるべき症例も有る」こと、「特に持続年数2年以内の心房細動はアブレーションによる洞調律維持効果が高い」ことを念頭においていただき、早めに専門医にご相談いただければと考えています。

ダビガトランの開発経緯
ダビガトランは、ベーリンガーインゲルハイム社が開発した直接トロンビン阻害剤であり、胃内 pHの影響を受けないように適切なバイオアベイラビリティ※1の確保を目指したカプセル製剤です。そのための工夫として、ダビガトランカプセルには、添加物である酒石酸コアに原薬をコーティングしたペレットが含まれています(図3)。
※1 投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標

ダビガトランカプセルを服用後、胃液内でカプセルの崩壊が始まり、ペレットのダビガトランと酒石酸コアが溶解します。その際に、酒石酸コアが局所的に酸性の微小環境をつくるように働くことで、ダビガトランの溶解度が最大化し、吸収が高まるように設計されています(図4)。こうした製剤学的工夫によって、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用などによる胃液のpH上昇時においてもダビガトランは適切なバイオアベイラビリティの確保が目指せるよう設計されており2,3,4)、高齢になるとPPIを服用していなくても胃内のpHが上昇するケースも少なくないため、ダビガトランは高齢の患者さんにおいても適切なバイオアベイラビリティが期待できると考えられます。

心房細動アブレーション周術期におけるダビガトランの位置づけ
アブレーションは、出血と塞栓症ともに重篤合併症として起こり得る特殊な手技になり、そのため周術期の適切な抗凝固療法は肝要です。アブレーション周術期におけるダビガトラン継続投与の安全性および有効性を検討したRE-CIRCUIT試験(図5)において、同剤の周術期における継続投与の安全性と有効性が検討されました。
本試験では、アブレーションの施行が予定された非弁膜症性心房細動患者678例を対象に、対象をプラザキサ継続群(150mg×2回/日)またはワルファリン※継続群に1:1の比率で無作為化割付けし、アブレーション開始からアブレーション施行後8週までの安全性と有効性について検討を行いました。主要評価項目は、「安全性:国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血」でした。
同試験の結果、ダビガトラン継続投与群ではワルファリン継続投与群と比べて出血性合併症が少なく(HR 0.22(95%CI:-8.4, -2.2)、名目上のP値<0.001, x2検定)、血栓塞栓性イベント(脳卒中/全身性塞栓症/TIA)はダビガトラン群で0例、ワルファリン継続群で1例と報告されています。また、この試験における全ての有害事象の発現率は、ダビガトラン継続投与群338例中225例(66.6%)、ワルファリン継続投与群338例中242例(71.6%)でした。ダビガトラン継続投与群のみ、胃腸障害による投与中止が8件あったことには注意が必要です。なお、両群で試験期間中の死亡は報告されませんでした。

このような結果を受け、不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)ではワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者さんでは、休薬なしで心房細動アブレーションを施行することがクラスⅠ、レベルAで推奨されています(図6)。加えて、ダビガトラン内服例では大出血の際、速やかに効果が発現する特異的中和剤使用で、過凝固への懸念が小さいと考えられ、良好な止血が期待できます。アブレーションは症状・予後改善などのエビデンスが報告されていますが、この効果を最大限活かすには安全な心房細動アブレーションが最優先です。適切なアブレーション法の選択とともにダビガトランがその一助を担ってくれることを期待しています。

これからの心房細動カテーテルアブレーション適応
ガイドラインにおいて、抗不整脈薬を試さずにアブレーションが第1選択として考慮しても良いと推奨されるようになったことの意義は大きいと考えています5)。さらにこれが今後どう変わるのか方向性を示唆してくれている論文によると、今までは症状ありきであったものの、アブレーションのハードエンドポイントの改善のエビデンスを踏まえ、より積極的に洞調律維持を目指す意義は、現在無症状でもあることが述べられています(図7)。今後ますます適応が拡大し、1人でも多くの患者さんがアブレーション治療による恩恵を受けられるようになることを期待しています。

文献
- Kato.T et al. Circ J 2004;68:568-572
- 社内資料: 心房細動および整形外科手術施行患者の母集団薬物動態解析 (2011年1月21日承認, CTD 2.7.2.2)
- Stangier J, et al. Clin Pharmacokinet 2008; 47: 47-59.
- Liesenfeld KH, et al. J Thromb Haemost 2011; 9: 2168-2175.
- 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)