作用機序を踏まえた心房細動における抗凝固療法の選択

サイトへ公開:2022年05月30日 (月)

第4回 作用機序を踏まえた心房細動における抗凝固療法の選択

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各抗凝固薬の作用機序からみたプラザキサ®の有用性とRE-LY試験における検討結果についてご紹介します。

出血リスクの観点からみたプラザキサ®の作用機序の有用性は?

プラザキサ®は、現在国内で使用可能な抗凝固薬の中で唯一、「直接トロンビン阻害薬」という作用機序の薬剤です。作用点がトロンビンであることから、止血反応の起点となる第VII因子への影響が少なく、そのことが出血性脳卒中を含む出血リスクの低減に寄与する可能性があるといわれています1)(図1)。

図1

出血が生じた際の止血反応は第VII因子と組織因子の結合によって開始されます。出血が生じると、組織因子に第VII因子が結合することで「外因系凝固反応」が開始され、止血に至ります。トロンビンは、この「外因系」へのポジティブフィードバックを持たないため2)、止血反応への影響が少ないことが示唆されます(図2)。

図1

出血が生じた際の止血反応は第VII因子と組織因子の結合によって開始されます。出血が生じると、組織因子に第VII因子が結合することで「外因系凝固反応」が開始され、止血に至ります。トロンビンは、この「外因系」へのポジティブフィードバックを持たないため2)、止血反応への影響が少ないことが示唆されます(図2)。

図2

実際に臨床試験におけるプラザキサ®投与下のデータをみてみましょう(図3)。

図3

ワルファリンに対するプラザキサ®の有効性と安全性は?

図4はRE-LY試験における活性化第VII因子の経時的推移をお示ししたものです。ベースライン時に抗凝固薬投与経験があった患者では、開始時点で10mU/mL程度であった活性化第VII因子レベル中央値がプラザキサ®投与後は40~50mU/mLでした。また、ベースライン時に抗凝固薬投与経験のなかった患者においても、開始時点で60mU/mL程度であった活性化第VII因子レベル中央値がプラザキサ®投与後は40~50mU/mLでした。全体では、3、6、12ヵ月時点でそれぞれ群間に有意差がみとめられ(p<0.0001、線形回帰分析*)、プラザキサ®は、生体での第VII因子への影響が小さいことが、臨床データから示されています。

* 活性化第VII因子レベルの自然対数を結果変数、ランダム化された治療、ベースラインにおける抗凝固薬使用の有無、ベースラインにおける活性化第VII因子レベルの自然対数、およびベースラインにおける抗凝固薬使用の有無とベースラインにおける活性化第VII因子レベルの自然対数の間の相互作用を独立変数とした。

図4

RE-LY試験は、日本を含む世界44ヵ国、951施設で実施された国際共同第III相試験です。脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動患者の脳卒中/全身性塞栓症の発症抑制について、ダビガトラン(プラザキサ®)2用量の有効性と安全性がワルファリンと比較されています(図5)。

図5

対象患者18,113例がダビガトラン150mg×2回/日群、ダビガトラン110mg×2回/日群、あるいはワルファリン群に無作為に割り付けられ、観察期間2年(中央値)における有効性、安全性が評価されました(図6)。

図6

本試験の結果、脳卒中または全身性塞栓症の発症率は、全集団でダビガトラン150mg×2回/日群1.12%、ダビガトラン110mg×2回/日群1.54%、ワルファリン群1.72%であり、ダビガトラン両群のワルファリン群に対する非劣性とダビガトラン150mg×2回/日群の優越性が認められました(いずれもp<0.001、Cox比例ハザードモデル)。なお110mg×2回/日では優越性は認められませんでした。

アジア集団では、ワルファリン群に対してダビガトラン110mg×2回/日群では有意差が認められず、ダビガトラン150mg×2回/日群では55%のリスク減少が示されました(図7)。

図7

さらに、脳卒中のうち出血性脳卒中の発症率はダビガトラン両群ともにワルファリン群と比較して低下し、ダビガトラン150mg×2回/日群では74%、110mg×2回/日群では69%のリスク減少が認められました(いずれも名目上のP値:P<0.001、Cox比例ハザードモデル、図8)。

図8

続いて、出血イベントについてです。大出血の発現率は、全集団でダビガトラン150mg×2回/日群3.40%、ダビガトラン110mg×2回/日群2.92%、ワルファリン群3.61%でした。ワルファリン群に対してダビガトラン150mg×2回/日群では有意差は認められず、ダビガトラン110mg×2回/日群では20%のリスク減少が認められました(名目上のP値:P=0.003、Cox比例ハザードモデル)。

なお、アジア集団ではダビガトラン両群とも43%のリスク減少が示されました(図9)。

図9

また、消化管出血の発現率はワルファリン群と比較してダビガトラン150mg×2回/日群で有意に上昇しました(名目上のP値:P=0.001、Cox比例ハザードモデル)。一方、アジア集団における消化管出血の発現率に有意差は認められませんでした(図10)。

図9

また、消化管出血の発現率はワルファリン群と比較してダビガトラン150mg×2回/日群で有意に上昇しました(名目上のP値:P=0.001、Cox比例ハザードモデル)。一方、アジア集団における消化管出血の発現率に有意差は認められませんでした(図10)。

図10

本試験において有害事象は、プラザキサ®150mg×2回/日群1,332例(22.0%)、プラザキサ®110mg×2回/日群1,243例(20.8%)、ワルファリン群949例(15.8%)で認められました。主な有害事象はプラザキサ®150mg×2回/日群で消化不良178例(2.9%)、悪心73例(1.2%)、上腹部痛69例(1.1%)等、プラザキサ®110mg×2回/日群で消化不良187例(3.1%)、下痢69例(1.2%)、鼻出血66例(1.1%)等、ワルファリン群で鼻出血107例(1.8%)、PT-INRの延長71例(1.2%)、挫傷68例(1.1%)等でした。

また、主な重篤な有害事象、投与中止に至った有害事象、死亡に至った有害事象およびアジア集団における有害事象は、こちらのとおりでした(図11、12)。

図11

図12

「各抗凝固薬は作用機序によって、止血反応の開始にかかわる外因系への影響が異なるんですね。」

「そのとおり。直接トロンビン阻害薬は、その作用機序から止血の開始点である第VII因子へ影響しにくいといえるんだ。これは出血リスクを考える上で重要な視点だよ。」

「抗凝固療法について、理解が深まりました。ありがとうございました。」

【引用】

  1. Ogawa S, et al. Circ J 2011; 75: 1539-1547.
  2. Jesty J, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol 2005; 25: 2463-2489.

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