カテーテルアブレーション施行が検討される患者さんにおける抗凝固療法
サイトへ公開:2022年04月27日 (水)
先を見据えた抗凝固療法 第3回


非弁膜症性心房細動(AF)においてカテーテルアブレーション(アブレーション)の施行が検討される患者さんにおける抗凝固療法について、ガイドラインを中心にご紹介します。
心不全を合併するAFへのアブレーションの適応は?
AFにおける心不全合併率は高く、図1に示すように日本ではおよそ5人に1人が心不全を合併していると報告されています。また、AFは心不全患者さんの予後不良因子と考えられていることから1)、心不全を合併するAF患者さんにおいて、洞調律の維持は特に重要です。

図1
近年、AFに対するアブレーションの有用性が評価され、2018年より症候性発作性AF患者さんに対する第一選択の治療法としてアブレーションがガイドラインで推奨されるようになりました(図2)。

図2
さらに心不全合併AFに対するアブレーションの有用性として、アブレーションと薬物療法を比較したRCTのメタ解析では、アブレーションによる全死亡率や心不全による入院の減少、QOL の向上などが報告されています2)。
「2021 年 JCS / JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療」では、「低心機能を伴う心不全(HFrEF)を有するAF患者の一部において、死亡率や入院率を低下させるためにカテーテルアブレーション治療を考慮する」ことが推奨クラスIIa、エビデンスレベルBで推奨されています3)。
こうしたことから、心不全を合併する症候性発作性AF患者さんには、アブレーションの施行が良い選択肢になると考えられます。
AFアブレーションの施行を見越した抗凝固薬の選択とは?
AFアブレーションは、出血リスクと血栓塞栓症リスクのいずれも高い処置であることから、周術期には出血リスクを考慮しながら適切な抗凝固療法を行う必要があります。
そのため不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では、ワルファリンあるいはDOACはいずれもアブレーション周術期に休薬しないことが推奨ないし合理的とされています。
このうちワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしでAFアブレーションを施行することが推奨クラスIで推奨されています(図3)。

図3
AFアブレーション周術期におけるプラザキサ®継続投与の臨床成績は?
RE-CIRCUIT試験は、AFアブレーション周術期におけるプラザキサ®継続投与の安全性・有効性を、ワルファリン継続投与を対照に検討した試験です(図4)。

図4
本試験では、アブレーションの施行が予定された非弁膜症性心房細動患者678例を対象に、プラザキサ®継続群またはワルファリン継続群に無作為に割り付け、アブレーション開始から施行後8週までの安全性と有効性を検討しました(図5)。

図5
本試験の患者背景を図6に示します。心房細動の分類は発作性が最も多く、プラザキサ®継続群で67.2%、ワルファリン継続群で68.9%でした。また、平均CHA2DS2-VAScスコアはそれぞれ2.0および2.2でした。

図6
アブレーション当日および施行後8週までの安全性・有効性は?
本試験の結果、主要評価項目であるISTH基準による大出血の発現率は、アブレーション開始からアブレーション施行後8週まで図7のように推移しプラザキサ®継続群で有意な減少が認められました。

図7
アブレーション施行後8週時点までの発現は、プラザキサ®継続群317例中5例(1.6%)、ワルファリン継続群318例中22例(6.9%)であり、相対リスク減少率は77.2%でした(図8)。

図8
さらに生じた大出血の内訳として、アクセス部位である鼠径部の出血、血腫はプラザキサ®継続群でそれぞれ2例、0例、ワルファリン継続群ではそれぞれ2例、8例でした(図9)。

図9
本試験において血栓塞栓性イベント(脳卒中、全身性塞栓症、TIA)はプラザキサ®継続群0例、ワルファリン継続群1例で発現しました。また、小出血はプラザキサ®継続群59例(18.6%)、ワルファリン継続群54例(17.0%)で発現しました。大出血と血栓塞栓性イベントの複合イベントの発現はプラザキサ®継続群5例(1.6%)、ワルファリン継続群23例(7.2%)でした(図10)。

図10
なお、有害事象の発現率は、プラザキサ®継続群225例(66.6%)、ワルファリン継続群242例(71.6%)でした。
主な重篤な有害事象は、心房粗動がプラザキサ®継続群20例、ワルファリン継続群19例、心房細動がそれぞれ6例および13例、心タンポナーデがそれぞれ1例および4例等でした。
投与中止に至った有害事象は、プラザキサ®継続群19例、ワルファリン継続群8例で、死亡例は報告されていませんでした(図11,図12)。;

図11

図12
「心不全を合併した症候性発作性AF患者さんを含め、アブレーション治療の適応になりえる患者さんには、プラザキサ®が良い適応なのですね。」
「そうだね。休薬なしでAFアブレーションを施行することについて、プラザキサ®は最も高い推奨度(推奨クラスI)で推奨されているからね。
それから、RE-CIRCUIT試験で特に大事な点は、アブレーション当日および施行後8週までのプラザキサ®継続投与の安全性・有効性が検討されている点だよ。」
「プラザキサ®はAFアブレーションの周術期から施行後までを見据えた選択肢でもあるんですね。
教えていただいたことも踏まえて、今回の患者さんの治療方針について検討してみます。ありがとうございました。」
【引用】
- Mamas MA, et al. Eur J Heart Fail. 2009;11(7):676-83.
- Turagam MK, et al. Ann Intern Med. 2019;170(1):41-50.
- 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2021年 JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf、2022年1月閲覧)