Q&Aで基礎からわかる!間質性肺疾患の急性増悪(静止画)
サイトへ公開:2024年12月19日 (木)
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同窓会で1年ぶりに再会した大倉先生と谷部先生。
最近の互いの診療状況について話が盛り上がるうちに、
間質性肺疾患(ILD)の急性増悪に関する話題に移ります。
谷部先生
昨年、ILDについて詳しく教えていただいたおかげで、以前よりILD疑い患者さんを見つけられるようになりました。
大倉先生
それは良かったです。
見つけたILD疑い患者さんは、呼吸器専門医に紹介していますか?
谷部先生
呼吸器専門医には咳や息切れといった症状を訴える患者さんを紹介しています。
症状がみられない場合は自分で経過をみています。
大倉先生
症状がみられなくても早期に呼吸器専門医に紹介したほうが望ましいですよ。
谷部先生
えっ、なぜですか?
大倉先生
ILDは急性増悪することがあります。
呼吸器専門医に紹介することは、急性増悪の発現抑制という観点からも重要なんですよ。
谷部先生
急性増悪ですか?
聞いたことはありますが、あまり経験したことがないので、詳しく教えてください。
Q 急性増悪がILD患者さんの臨床経過に与える影響は?
谷部先生
そもそも、急性増悪はILD患者さんにどのような影響を及ぼしますか?
大倉先生
急性増悪は特発性肺線維症(IPF)に代表されるILDの臨床経過に影響を及ぼします。患者さんによって臨床経過はさまざまですが、状態が比較的安定していてもBのように急性増悪が発現した場合、疾患が急速に進行し死亡に至ることがあります(図1)1)。
図1

谷部先生
急性増悪の発現によって死亡に至る場合もあるのですね。
あまり、急性増悪になじみがないですが、ILD患者さんの死亡原因として、急性増悪は多いのでしょうか?
大倉先生
日本国内の線維化を伴うILD(FILD)患者さん1,019例を対象とした単施設研究では、死亡した患者さん350例のうち、急性増悪が死亡原因となった患者さんの割合は26%と、慢性呼吸不全が死亡原因となった患者さんの割合46%に次いで高かったことが報告されています(図2)2)。
図2

谷部先生
急性増悪は、ILD患者さんの直接の死亡原因となるのですね。
Q ILDの種類による、急性増悪の定義、発現頻度、予後の違いは?
谷部先生
ILDにはIPFをはじめ、さまざまな種類がありますよね。ILDの種類によって急性増悪の定義や頻度に違いはありますか?
大倉先生
まず、急性増悪の定義や診断基準については、そのほかのILDに先行してIPFで2016年に定められました3)。
このIPFの急性増悪の定義及び診断基準を外挿した案が、IPF以外のILDの急性増悪の定義及び診断基準として提案されていますよ(図3)4)。
図3

谷部先生
IPFの急性増悪の定義及び診断基準をもとに、IPF以外のILDの急性増悪の定義及び診断基準も考えられているのですね。
急性増悪の発現頻度はILDの種類によって異なりますか?
大倉先生
ILDの種類ごとに急性増悪の発現頻度は異なります。
たとえば、先ほど紹介した日本国内のFILD患者さん1,019例を対象とした単施設研究では、急性増悪の発現頻度はIPFで8.38/100人年、慢性過敏性肺炎で6.05/100人年、膠原病に伴う間質性肺疾患で3.19/100人年、非特異性間質性肺炎で1.77/100人年と報告されています2)。
谷部先生
発現頻度は異なっていても、どの種類のILDでも急性増悪が発現する可能性があるのですね。
急性増悪発現後の予後にILDの種類による違いはありますか?
大倉先生
同じ研究では、急性増悪を起こしたIPF患者さん124例とIPF以外のFILD患者さん69例を対象に急性増悪後90日間の生存率が検討されています。
その結果、急性増悪を起こしたそれぞれのFILDサブタイプの患者さんの生命予後は、急性増悪を起こしたIPF患者さんと同様でした(p=0.414、log-rank検定)(図4)2)。
ILDの種類にかかわらず急性増悪の発現リスクがあることや急性増悪発現後の予後の悪化を考えると、ILD診療では急性増悪の発現を抑制する必要があるといえますね。
図4

Q かかりつけ医として急性増悪の発現を抑制するためにできることは?
谷部先生
かかりつけ医として、ILDの急性増悪の発現を抑制するために何ができるでしょうか?
大倉先生
呼吸機能が低下する前にILD疑い患者さんを発見し呼吸器専門医に紹介することが、ひいては急性増悪の発現抑制につながると考えられます。
『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022 改訂第4版』では、かかりつけ医の先生方がILD疑い患者さんを見つけた場合には、無症状であっても発見時に紹介することが望ましいと示されています(図5)5)。呼吸器専門医では、紹介されたILD疑い患者さんに対し、正確な診断、病態や重症度、治療適応の評価、予後の予測を行います5) 。呼吸器専門医が呼吸機能の低下前にILDを診断し、急性増悪の発現リスクを把握することは、治療方針を決めるうえでも重要です6)。
図5

谷部先生
呼吸器専門医の先生に急性増悪の発現リスクを把握したうえで治療方針を決めていただくためにも、発見時に無症状であっても、かかりつけ医からILD疑い患者さんを呼吸器専門医に紹介することが重要なのですね。
まとめ
谷部先生
お話をまとめると、
・ILDの状態が比較的安定していても、急性増悪が発現すると疾患が急速に進行し、死亡に至ることがある
・ILDの種類によって急性増悪の発現頻度は異なるが、どの種類のILDでも急性増悪が発現する可能性がある
・呼吸器専門医の先生が急性増悪の発現リスクを把握したうえで治療方針を決めるためにも、発見時に無症状であって
も、かかりつけ医からILD疑い患者さんを呼吸器専門医に紹介することが重要である
ということですね。
教えていただいた内容をこれからの診療に役立てたいと思います。
ありがとうございました!
【参考文献】
- Cottin V. et al.: Eur Respir Rev. 2014 ; 23(131):106-110.
- Suzuki A. et al.: Respirology. 2020; 25(5): 525-534.
- Collard HR. et al.: Am J Respir Crit Care Med. 2016;194(3):265-275.
- Kershaw CD. et al.: Respir Med. 2021;183:106400. 著者にベーリンガーインゲルハイム社のアドバイザリーボードメンバーが含まれる。
- 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編:特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022 改訂第4版, p.167-169, 2022, 南江堂
- Drakopanagiotakis F. et al.: Int J Mol Sci. 2023;24(12):10196.
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