病理組織像から考えるCTD-ILDの病態と線維化に対する治療介入(静止画)
サイトへ公開:2024年10月30日 (水)
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ご監修:福岡 順也先生(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 情報病理学 教授/亀田総合病院 臨床病理科 特任包括部長)
膠原病に伴う間質性肺疾患(CTD-ILD)の一部では、進行性の肺線維化がみられることがあります。肺の線維化の多くは、炎症性と線維化性の要因が互いに影響しあい、ループを形成することで進行します1-4)。
CTD-ILDの病理組織像の中には、発症早期であっても炎症と線維化の病変が混在して認められるものがあります。
CTD-ILDの病態を理解することは、適切な治療選択のためにも重要です。
今回は、病理組織像から考えるCTD-ILDの病態と線維化に対する治療介入について紹介します。
CTD-ILDで認められる肺病変
CTD-ILDでは、肺の間質、血管、気道、胸膜といったように、肺の複数の解剖学的構造に波及して病変が認められることが多いです。
肺の間質で認められる病変として、線維化や器質化、急性傷害、細胞浸潤などが挙げられます。
血管では血管炎や出血が、気道では細気管支炎/気管支炎や気管支拡張症といった病変が認められます。
胸膜では胸膜炎やリウマチ結節が認められます(図1)。
図1

各CTD-ILDで認められる病理組織像の特徴
ここからは、ほかの膠原病に比べて患者数が圧倒的に多いために診療で遭遇する機会が多いとされる関節リウマチに伴う間質性肺疾患(RA-ILD)5)、発現頻度が高いとされる多発性筋炎/皮膚筋炎に伴う間質性肺疾患(PM/DM-ILD)、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)5)について、特徴的な病理組織像をみていきましょう。
RA-ILD6,7)
RA-ILDでは、一般的にUIP※1、NSIP※2、OP※3が種々の割合で混在しますが、UIPまたはNSIPがみられることが多いとされています。
また、細気管支炎(細胞性/濾胞性収縮性細気管支炎)が高頻度に合併するとともに、形質細胞浸潤と胚中心を伴うリンパ濾胞が目立ってみられます。
さらに、細胞性胸膜炎も比較的高頻度に合併します。
図2は、72歳女性RA-ILD患者さんの膠原病内科初回受診から6ヵ月時点の病理組織像です。
これらの組織では、破壊性の線維化やリンパ濾胞がみられます。
これらの所見から、IPAFの特徴を有するUIPと判断し、IPFガイドラインに基づいて、Indeterminate for UIPと病理診断を行いました(図2)。
図2

UIP:通常型間質性肺炎
NSIP:非特異性間質性肺炎
OP:器質化肺炎
IPAF:自己免疫特徴を伴う間質性肺炎
※1 UIP6)
時相が多彩な病変を形成する。間質の炎症は乏しい。線維化についてはコラーゲン蓄積が斑状に認められるが、線維芽細胞は認め られない。
※2 NSIP6,8)
時相が一様な病変を形成する。間質では炎症が目立つ。線維化についてはコラーゲン蓄積が多彩かつびまん性に認められ、ときに線維芽細胞もびまん性に認められる。炎症細胞の浸潤と線維化の程度でcellular NSIPとfibrotic NSIPに分けられる。
※3 OP6)
時相が一様な病変を形成する。間質の炎症は乏しい。線維化については、コラーゲン蓄積および線維芽細胞ともに認められない。
PM/DM-ILD6,7)
PM/DM-ILDでは、大多数が急性から亜急性の炎症所見を示します。
組織像はcellular NSIP※4とOPが混在したものとDAD※5を認めることが多く、慢性病変ではfibrotic NSIP※6やUIPが認められ、瘢痕状のOPを形成している様子も認められます。
図3、4は、48歳女性PM/DM-ILD患者さんの膠原病内科初回受診から26ヵ月、疾患再発から2ヵ月時点の病理組織像です。
こちらの組織では、NSIPの所見であるびまん性のまばらな線維化と気腔の中を埋めるOP病変もみられます(図3)。
別の場所では、全体的に間質肥厚などの病変がみられるものの慢性の線維化はみられないといった、急性肺傷害の所見がみられます(図4)。
これらの所見から、急性肺傷害とNSIPとOPが混在した組織像と判断し、IPFガイドラインに基づいて、Alternative Diagnosisと病理診断を行いました(図3、4)。
図3

図4

DAD:びまん性肺胞傷害
※4 cellular NSIP(細胞浸潤性NSIP)9)
NSIPのうち、肺構造がよく保たれており、間質にリンパ球、形質細胞がびまん性に浸潤する様子が認められる。
※5 DAD6)
時相が一様な病変を形成する。間質の炎症は乏しい。線維化については、コラーゲン蓄積は認められないが、線維芽細胞はびまん性に認められる。
※6 fibrotic NSIP(線維性NSIP)9)
NSIPのうち、肺胞壁を主とした間質に線維化による肥厚がみられ、細胞浸潤は比較的少ない。
SSc-ILD6,7)
SSc-ILDでは、炎症細胞浸潤の目立たないびまん性線維化が認められることが多くあります。
多くはfibrotic NSIP※6ですが、部分的にUIP※1を示す場合もあります。
病理学的な気腫を伴い、喫煙関連性間質性肺疾患と類似していることが多いです。
また、小型~中型血管の内膜肥厚を高頻度に合併します。
ときに、誤嚥に伴う肉芽腫が認められることもあります。
図5は、54歳男性SSc-ILD患者さんの膠原病内科初回受診から8ヵ月時点の病理組織像です。
こちらの組織では、内部に気腔が保たれている、びまん性の慢性線維化がみられます。
これらの所見から、fibrotic NSIPと判断し、IPFガイドラインに基づいて、Indeterminate for UIPと病理診断を行いました(図5)。
図5

病理組織像から考えるCTD-ILDの病態のまとめ
CTD-ILDでは、肺の複数の解剖学的構造に波及して病変が認められることが多いです。
各CTD-ILDで特徴的な病理組織像や、高い頻度でみられる病理組織が存在します。しかしながら、特異性は高くない点には留意する必要があります。
さらに、今回ご紹介した各CTD-ILD患者さんの病理組織像のように、発症早期のCTD-ILDでも炎症と線維化が混在した病変が認められる場合があります。
したがって、CTD-ILD患者さんの病態は、膠原病の種類や発症からの経過時間を考慮しつつも、病理組織検査などの所見から総合的に考えることが重要となります(図6)。
図6

今回ご紹介した内容を、CTD-ILD患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社よりCTD-ILD治療について紹介いたします。
病理組織像から考えるCTD-ILD治療
病理組織像のうち、UIPは進行性・非可逆性の挙動を示すことがあるとされている組織像となります10)。
さらに、RA-ILDやSSc-ILDなどの一部のCTD-ILDにおいて、UIPの患者さんはUIP以外の患者さんと比較して予後不良となる場合があることが報告されています11,12)。
CTD-ILDも含め、ILD全般において、予後不良が予測される場合には、より早期から治療介入を行うことで生命予後を延長できる可能性が考えられています。

CTD-ILDの治療選択肢として、進行リスクが低い場合は免疫抑制薬の使用が、進行性の線維化がみられる場合には抗線維化薬単剤の使用、または抗線維化薬と免疫抑制薬の併用が示されています13)。
炎症と線維化が混在した肺の病理組織像など、発症早期でも進行性の肺線維化の可能性が考えられる検査所見がCTD-ILD患者さんで得られた場合は、抗線維化薬の導入を治療選択肢のひとつとしてご検討いただけますと幸いです。
【参考文献】
- Saketkoo LA. et al.: J Scleroderma Relat Disord 2020; 5(2 Suppl): 48-60. 著者にベーリンガーインゲルハイム社のコンサルタント等に関わる者が含まれる。
- Wells AU. et al.: Nat Rev Rheumatol 2014; 10(12): 728-739. 著者にベーリンガーインゲルハイム社よりコンサルタント料を受領している者が含まれる。
- Wollin L. et al.: J Scleroderma Relat Disord 2019; 4(3): 212-218. 著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれる。
- Wollin L. et al.: Eur Respir J 2019; 54(3): 1900161. 著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれる。
- 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.2-5. 2020, メディカルレビュー社
- Ozasa M, Fukuoka J, et al.: Practical Pulmonary Pathology (Fourth Edition): A Diagnostic Approach, A Volume in the Pattern Recognition Series, Elsevier, 2024, p.231-302.
- 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.15-28. 2020, メディカルレビュー社
- 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.90-102. 2020, メディカルレビュー社
- 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会. 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022, 改訂第4版, p.80-88, 2022, 南江堂
- 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.42-44. 2020, メディカルレビュー社
- Nakamura Y. et al.: Respir Med. 2012;106(8):1164-1169.
- Fischer A. et al.: Chest. 2008;134(3):601-605.
- Johannson KA. et al.: Lancet 2021; 398(10309): 1450-1460. 著者にベーリンガーインゲルハイム社より助成金、コンサルタント料等を受領している者が含まれる。
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