膠原病に伴う間質性肺疾患診療における呼吸器内科と膠原病内科の連携の重要性(静止画)
サイトへ公開:2024年12月19日 (木)
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ご監修:
伊藤 聡先生(新潟県立リウマチセンター 院長)
田邊 嘉也先生(新潟県立新発田病院 呼吸器内科 副院長)
間質性肺疾患(ILD)は膠原病に合併する頻度の高い疾患であり、患者さんの予後にも直接影響を与えます。そのため、膠原病内科にてILDの合併が疑われる患者さんを早期に発見し、呼吸器内科と連携して適切な診断及び治療介入につなげることが重要です。
新潟県立リウマチセンターでは、関節リウマチをはじめとする膠原病患者さんを年間約2,000名診療されています。スクリーニングの結果、ILDの合併が疑われた患者さんについては、早期に隣接する新潟県立新発田病院 呼吸器内科に連携されています。
本コンテンツでは、膠原病に伴う間質性肺疾患診療における呼吸器内科と膠原病内科の連携の重要性について、
新潟県立リウマチセンター 院長 伊藤 聡 先生と、新潟県立新発田病院 呼吸器内科 副院長 田邊 嘉也 先生にうかがいます。
お話をうかがった先生
膠原病内科
新潟県立リウマチセンター 院長 伊藤 聡 先生
呼吸器内科
新潟県立新発田病院 呼吸器内科 副院長 田邊 嘉也 先生
インタビュー実施場所: 新潟県立リウマチセンター
実施日:2024年6月18日(火)
膠原病内科におけるILDのスクリーニングと呼吸器内科との連携の重要性
膠原病内科 伊藤 聡 先生

膠原病の中には、全身性強皮症や関節リウマチ、多発性筋炎・皮膚筋炎など、ILDが合併する疾患が多くあります1)。また、膠原病治療に用いる薬剤の中には、ILDが合併する患者さんへの使用を避けたほうがよいものがあります。このようなことから、膠原病患者さんに対して初診時にILDのスクリーニングを行うことが重要だと考えています。
新潟県立リウマチセンターの場合、特に全身性強皮症に伴うILDについては、数年の経過で緩徐に進行し呼吸不全に至る例もあることから、ILDを見つけ次第すぐに新発田病院 呼吸器内科に連携するようにしています。関節リウマチなどのそのほかの膠原病でILDの合併が見つかった患者さんについては、当センターで経過観察を行い、胸部高分解能CT(HRCT)などの画像所見などで進行が確認された場合に呼吸器内科に連携しています。
呼吸器内科 田邊 嘉也 先生

ILDは膠原病に合併する頻度が高いだけでなく、患者さんの予後にも直接影響を与える合併症です1)。この点からも、膠原病内科でしっかりとILDのスクリーニングを行い、呼吸器内科と連携して診療することが重要だと考えています。膠原病内科のスクリーニングでILDの合併が見つかって連携された患者さんは、原疾患がわかっている分、呼吸器内科専門医としては対応しやすいように感じています。
ILDの経過はさまざまですが、状態が比較的安定していた患者さんでも、ときに急性増悪が起こり、命に関わる事態となることがあります。それまで呼吸器内科で経過を診ていた患者さんであれば、ILDの急性増悪が起きた場合でも過去の検査データを確認することができます。このように、ILDの急性増悪に備える観点からも、膠原病内科でILDをスクリーニングし、呼吸器内科と連携していただく意義があると考えています。
膠原病内科と呼吸器内科それぞれで実施する検査の目的と種類
膠原病内科 伊藤 聡 先生
新潟県立リウマチセンターでは、膠原病患者さんの初診時にILDのスクリーニングとして、問診で咳嗽及び労作時呼吸困難の確認を行っています。ときに、患者さんご自身には自覚症状がなくても、患者さんが院内を移動する様子から看護師さんが労作時呼吸困難に気付いて、医師に伝えてくれることもあります。
初診時に必ず実施するILDのスクリーニング検査は、両側肺底部背側の聴診による捻髪音の確認や胸部X線検査、KL-6の測定、サチュレーションモニターによる安静時SpO2の測定です。咳・息切れといった呼吸器症状が認められ、胸部X線画像でILDが疑われる異常があり、KL-6が500U/mL以上の患者さんや、安静時SpO2が95%程度に低下している患者さんはILDの合併を疑い、さらにHRCT検査を行います。
初診時のスクリーニングでILDの合併を疑う所見が認められなかった患者さんについては、胸部X線検査とKL-6の測定を年に1回の頻度で実施しています。
呼吸器内科 田邊 嘉也 先生
新潟県立リウマチセンターと新発田病院はカルテを共有しており、検査結果を互いに確認できる環境となっています。
リウマチセンターからILDの合併が疑われる患者さんが連携される場合は、原疾患である膠原病の診断と、ILDの診断に必要な画像検査や血液検査などの所見が揃った状態となっています。そのため、呼吸器内科では呼吸機能検査や6分間歩行テストといった、ILDの重症度を判定するために必要な検査を追加で実施しています。ILDの重症度判定には、膠原病内科から共有された画像検査所見や血液検査所見、安静時SpO2の所見も参考にしています。
図1

膠原病に伴うILDに対する治療介入における膠原病内科と呼吸器内科の連携
膠原病内科 伊藤 聡 先生
当センターでは、膠原病に伴うILDに対する治療については、薬剤の処方から副作用への対応まで、新発田病院 呼吸器内科に全面的に対応してもらっています。
一方で、患者さんがILDに対する治療に前向きになっていただくために、膠原病内科医からもILDに対する治療介入意義を患者さんにお伝えするようにしています。たとえば、「全身性強皮症に伴う間質性肺疾患」や「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」の適応を有する抗線維化剤オフェブについては、臨床試験結果も含めて有用性をお話ししています。すでにオフェブを服用されている患者さんが下痢などの副作用の辛さをお話しになった場合も、その辛さを受け止めつつも、副作用に対応しながら服用を継続したほうがよいことをお話ししています。そのうえで、副作用に対して具体的にどのような対応をするかについては、呼吸器内科の先生と相談するようにお伝えしています。
患者さんにILDに対する治療介入意義をお伝えすることに加え、膠原病として指定難病の医療費助成の受給資格を取得できるように必要な検査を行うことにより、経済的な側面からILDに対する治療介入を支援することも膠原病内科医の役割だと考えています。
呼吸器内科 田邊 嘉也 先生
膠原病に伴うILDに対する治療については、『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針2020』に掲載の各膠原病のILD治療アルゴリズムに沿って、副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬、抗線維化薬による治療を行っています(図2)。抗線維化薬については、治療介入が早期であるほど、呼吸機能の低下を早い段階で阻止、もしくは遅らせることが期待できます。そのため、呼吸機能の低下が軽度な早期のタイミングで抗線維化薬を導入できないか、日ごろから意識して患者さんの状態を診るようにしています。
抗線維化薬のひとつであるオフェブの導入にあたっては、患者さんが医療費の負担を懸念されて、なかなか前向きになれないということがあります。新潟県立リウマチセンターから連携された患者さんの中でも特に全身性強皮症の患者さんについては、すでに全身性強皮症として指定難病の医療費助成の受給資格を取得されていることが多く、資格を有する場合は高くとも月30,000円の自己負担で治療を受けていただくことができるため2)、オフェブの導入をお勧めしやすいと感じています。全身性強皮症以外の膠原病のうち、悪性関節リウマチ、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)については、重症度分類の基準の一部に特発性間質性肺炎の重症度分類でⅢ度以上に該当することが含まれています3)。2024年4月の特発性間質性肺炎の重症度分類改定により、安静時PaO2の値で重症度Ⅲ度以上と判定される場合に加えて、安静時PaO2では重症度Ⅰ~Ⅱ度と判定される場合でも、6分間歩行時最低SpO2が90%未満の場合は重症度Ⅲ度に分類されるようになりました(図3)。これにより、悪性関節リウマチやMPA、GPA、EGPA患者さんでも指定難病の医療費助成の受給資格を満たす可能性が広がり、オフェブの導入をお勧めしやすくなったと感じています。
図2

図3

膠原病患者さんを診療されている先生へのメッセージ
膠原病内科 伊藤 聡 先生
膠原病診療では、初診時に患者さんの咳・息切れといった呼吸器症状を含めた全身状態をしっかり確認することが重要です。ILDのスクリーニング検査としては、両側肺底部背側の聴診や胸部X線検査、労作時のSpO2及びKL-6の測定を実施するようにしてください。
ILDに対する治療については、専門である呼吸器内科の先生に実施いただくのが、患者さんにとっても膠原病内科の先生方にとってもよいと考えています。ご施設によっては、新潟県立リウマチセンターと新発田病院のように、膠原病内科と呼吸器内科が連携して診療できる環境もあれば、膠原病内科やリウマチ内科、関節リウマチの場合は整形外科が単独で膠原病患者さんを診療するという環境もあると思います。いずれの環境においても、膠原病に伴うILDについて速やかに呼吸器内科の先生に相談できる体制を作っておくことが大切だと思います。
呼吸器内科 田邊 嘉也 先生
膠原病内科の先生方から、ILDのスクリーニング検査の結果をご共有いただくと、呼吸器内科医はILDの重症度判定や治療方針の検討に注力することができます。特に、呼吸機能が低下する前にILDを合併した膠原病患者さんをご紹介いただけると、呼吸器内科医と患者さんが時間をかけて治療方針をしっかり話し合うことができます。しっかり話し合って治療方針を決めることが、結果として患者さんが納得した治療を受けることにつながると感じています。
現在では、呼吸機能の低下を抑制することを目的として、オフェブを治療選択肢として検討できるようになっています。患者さんの呼吸機能が低下する前に治療選択肢のひとつとしてオフェブを提示するためにも、膠原病診療でILDの合併が見つかった患者さんを速やかに呼吸器内科に連携いただけますと幸いです。
【引用】
- 一般社団法人 日本呼吸器学会/一般社団法人 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.2-5. 2020
- 難病情報センター. 指定難病患者への医療費助成制度のご案内(https://www.nanbyou.or.jp/entry/5460、2024年7月30日アクセス)
- 「指定難病に係る診断基準及び重症度分類等について」の一部改正について(健生発1030第1号 令和5年10月30日)
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