関節リウマチ診療における間質性肺疾患治療の重要性(静止画)

サイトへ公開:2024年10月09日 (水)

久保 智史先生(産業医科大学医学部 分子標的治療内科学講座 准教授)

今回は、関節リウマチ診療における間質性肺疾患(ILD)治療の重要性について紹介します。

関節リウマチの疾患活動性のコントロールとILDの関連

関節リウマチの治療は、2003年以降の生物学的製剤やJAK阻害薬といった分子標的薬の登場以降、大きく変化してきました。
現在は、『関節リウマチ診療ガイドライン2024改訂』に示されているように、”6か月以内に治療目標である「臨床的寛解もしくは低疾患活動性」が達成できない場合には、次のフェーズに進む”を原則にし、フェーズⅠからフェーズⅢまで順に治療を進めます1)。各フェーズにおける薬剤選択については図1のとおりです。

JAK:ヤヌスキナーゼ

図1

フェーズⅢに進んだ患者さんのなかには、2つ以上のクラスの生物学的製剤やJAK阻害薬を使用しても臨床的寛解や低疾患活動性を得られない、difficult-to-treat RA(D2T RA)2,3)の患者さんがいらっしゃいます。D2T RA患者さんの割合については、本学とその関連施設で生物学的製剤もしくはJAK阻害薬を導入したリウマチ・膠原病患者さんを登録したFIRSTレジストリを用いた研究において、登録症例2,128例のうち353例と約17%を占めていたことを報告しています2)
D2T RAとILDの関連については、非D2T RA患者さんよりもD2T RA患者さんでILDの合併率が有意に高かったことや(D2T RA群24% vs. 非D2T RA群7%、p<0.001、Student’s t-test)4)、ILDを含む肺疾患の合併がD2T RAの予測因子となることが報告されています5)。さらに、関節リウマチの疾患活動性のコントロール状況と、胸部HRCT画像上の線維化病変の広がりや呼吸機能によって評価したILDの重症度が有意に関連することも報告されています(DAS28-ESRと胸部HRCT画像上の線維化病変の広がり:標準化係数=0.199、p=0.03※1;DAS28-ESRと予測%FVC:標準化係数=-0.230、p=0.047※26)

DAS:Disease Activity Score
ESR:赤血球沈降速度
HRCT:高分解能CT
FVC:努力肺活量
※1 多変量線形回帰分析(年齢、性別、喫煙状況、抗CCP抗体価で調整)
※2 多変量線形回帰分析(年齢、性別、喫煙状況、RF値、抗CCP抗体価で調整)
 RF:リウマトイド因子
 CCP:シトルリン化ペプチド

ILDを合併した関節リウマチ患者さんの予後とILDに対する治療介入意義

関節リウマチの死亡原因のうち、呼吸器疾患は悪性腫瘍に次いで2番目に多く、そのなかでもILDは肺炎に次ぐ頻度で報告されています(図2)7)

図2

ILDを合併した関節リウマチ患者さんのなかでもHRCT画像においてUIPパターンを示した患者さんは、それ以外のパターン(NSIPなど)を示した患者さんよりも予後不良であることが報告されています。
たとえば図3は、99例の関節リウマチに伴うILD(RA-ILD)患者さんを対象にHRCT画像のパターン別に生存率を調べた結果です。HRCT画像においてUIPパターンを示すRA-ILD患者さんでは、それ以外のパターンを示す患者さんと比較して生存率が有意に低下していたことが示されました(UIPパターン vs UIPパターン以外、p=0.04、log-rank検定)8)

NSIP:非特異性間質性肺炎
UIP:通常型間質性肺炎

図3

そのほかにも、複数の研究でUIPパターンの有無別にRA-ILD患者さんの予後が調べられています。報告されたRA-ILD患者さんの生存期間中央値は研究ごとに異なるものの、NSIPパターンでは7.8〜17年だったのに対し、UIPパターンでは3.9〜10.2年でした(図4)9-13)

図4

さらに、UIPパターンを示すRA-ILD患者さんは、それ以外のパターンを示す患者さんよりも急性増悪の累積発現率が有意に高かったことも報告されています(UIPパターン vs 非UIPパターン、p=0.018、log-rank検定)。1年発現率については、UIPパターンで6.5%、非UIPパターンで1.7%、5年発現率についてはそれぞれ33%、3%と報告されました(図5)14)

図5

これらの結果から、関節リウマチ患者さんにおいてHRCT画像でUIPパターンを示すILDが認められた場合は、ILDに対する治療介入を積極的に考える必要があることがおわかりいただけると思います。

関節リウマチ診療におけるILDに対する治療の進め方

ILDを合併した関節リウマチ患者さんにおける治療目標は、ILDを合併していない関節リウマチ患者さんの治療目標と変わりはありません。すなわち、抗リウマチ薬を用いて低疾患活動性あるいは寛解の達成を目標に治療を行います。ただし、ILDを合併している場合には、低疾患活動性あるいは寛解を達成するための治療を選択するとともに、ILDによる呼吸器症状やILD急性増悪のリスク因子を考慮に入れることも重要です。一方で、ILDにフォーカスを当てた治療は、関節症状の良好なコントロール(低疾患活動性あるいは寛解)が得られた場合に行います(図6)13)


図6

①関節リウマチが高疾患活動性の場合

ILDがあっても関節リウマチが高疾患活動性の場合の基本的な治療の考え方は、『関節リウマチ診療ガイドライン2024改訂1)』で示されているアルゴリズムと共通しています。特に疾患活動性とILDの出現や増悪が関連することから6,15,16)、抗リウマチ薬を用いた関節リウマチの治療を徹底的に行うと同時に、呼吸機能検査や胸部HRCT検査を定期的に行い、ILDの出現や増悪をモニタリングする必要があります。ILD急性増悪のリスク因子としては、呼吸機能の低下(%FVC<70%、%DLco<50%)や放射線画像診断における蜂巣肺、高齢などが挙げられています。急性増悪し救命が優先されるような状況では、グルココルチコイドやエンドキサン間歇静注療法が用いられます。

②関節リウマチの良好な疾患活動性コントロールが得られている場合

治療により良好な疾患活動性コントロールが得られた場合の治療の進め方は、ILDが進行性肺線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)に該当するかどうかで異なります。
PF-ILDに該当しない場合は、関節炎に対する治療を継続します。そして、疾患挙動を定期的に観察するタイミングで、咳・息切れといった呼吸器症状の確認や呼吸機能検査、HRCT検査などによってILDをモニタリングします。
PF-ILDに該当する場合で、特に線維化が優位と判断した場合は、オフェブが治療選択肢となります。なお、慢性RA-ILDのアルゴリズム案(図6) には、感染リスクが高い場合やILD急性増悪の発現歴がある場合にもオフェブを検討可能であることが示されています。線維化の指標には、HRCT画像のUIPパターンや蜂巣肺といった線維化変化、気管支肺胞洗浄(BAL)や肺生検による病理所見などが有用です。
PF-ILDは予後に大きく関わるため、抗リウマチ薬による治療だけでなく、抗線維化薬による積極的な介入が必要な場合があることを認識する必要があります。

まとめ

ILDは関節リウマチの疾患活動性に関連するだけでなく、患者さんの予後にも直接影響を及ぼす合併症です。なかでも、HRCT画像においてUIPパターンを示すILDは、それ以外のパターンを示すILDよりも患者さんの予後が不良であることや急性増悪発現率が高いことから、ILDに対する治療を積極的に考える必要があります。
関節リウマチ治療においては、低疾患活動性あるいは寛解を目指すとともに、ILDの出現や増悪の有無を定期的に確認する必要があります。PF-ILDに該当し、かつ、線維化優位な病態を示すILDが確認された際には、オフェブによる治療介入をご検討ください。

今回ご紹介した内容を、関節リウマチ患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。

【参考文献】

  1. 日本リウマチ学会 編. 関節リウマチ診療ガイドライン2024改訂―若年性特発性関節炎 少関節炎型・多関節炎型診療ガイドラインを含む. 診断と治療社; 2024:16-19
  2. Ochi S. et al.: Arthritis Res Ther. 2022;24(1):61. 著者に日本ベーリンガーインゲルハイム社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。
  3. Smolen JS. et al.: Ann Rheum Dis. 2023;82(1):3-18
  4. Hecquet S. et al.: Rheumatology (Oxford). 2023;62(12):3866-3874
  5. Watanabe R. et al.: Immunol Med. 2022;45(1):35-44
  6. Ito Y. et al.: Arthritis Res Ther. 2024;26(1):95. 本研究は、日本ベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われた。
  7. Nakajima A. et al.: Scand J Rheumatol 2010; 39(5): 360-367
  8. Kim EJ. et al.: Eur Respir J 2010; 35(6): 1322-1328
  9. Tsuchiya Y.et al.: Eur Respir J. 2011;37(6):1411-1417
  10. Solomon JJ. et al.: Eur Respir J. 2016;47(2):588-596
  11. Yunt ZX. et al.: Respir Med. 2017;126:100-104.
  12. Yamakawa H. et al.: J Thorac Dis. 2019;11(12):5247-5257.
  13. Yamakawa H. et al.: J Clin Med 2021; 10(17): 3806.
  14. Hozumi H. et al.: BMJ Open 2013; 3(9): e003132.
  15. Sparks JA. et al.: Arthritis Rheumatol. 2019;71(9):1472-1482.
  16. Akiyama M. et al.: Autoimmun Rev 2022; 21(5): 103056. 著者に日本ベーリンガーインゲルハイム社より講演料等を受領している者が含まれる。

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