特発性肺線維症(IPF)における臨床調査個人票の記入方法(静止画)
サイトへ公開:2025年02月27日 (木)
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ご監修:千葉 弘文 先生(札幌医科大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学講座 教授)
指定難病の医療費助成申請のための診断基準等が2024年4月にアップデートされ、今まで外科的肺生検が実施できない等の理由で申請が困難であった特発性間質性肺炎(IIPs)患者さんも指定難病の医療費助成を申請しやすくなりました。医療費助成申請の際には、アップデートされた診断基準及び重症度分類に基づいた、新様式の臨床調査個人票で申請いただく必要があります。
今回は、特発性肺線維症(IPF)における臨床調査個人票の記入方法についてご紹介します。
1 指定難病 医療費助成申請のためのIIPsの診断基準
アップデートされたIIPsの診断基準では、診断のカテゴリーとしてDefinite(組織診断群)とProbable(臨床診断群)が設定されました。臨床診断群が設定されたことで、外科的肺生検による組織所見がない場合でも、「A.主要所見」「B.検査所見」の①血清学的検査と②呼吸機能に関する基準のいずれか、「B.検査所見」の③胸部高分解能CT(HRCT)所見の全てを満たせば、「D.鑑別診断」を行ったうえでIIPsの診断が可能です(図1)。
図1

また、IPFについてはIIPsの臨床診断群の基準を満たしたうえで、胸部HRCT検査で「肺底部・胸膜下優位の陰影分布」「蜂巣肺」の所見を認める場合はIPF「確実」として診断されます。そして、胸部HRCT検査で「肺底部・胸膜下優位の陰影分布」「牽引性気管支・細気管支拡張を伴う網状影」の所見を認める場合は、蜂巣肺が認められない場合でも、外科的肺生検を行わずにIPF「疑い」としての診断が可能です(図2)。
図2

2 臨床調査個人票 記載のポイント
IIPsで医療費助成申請を行う際には、アップデートされた診断基準及び重症度分類に基づいた、新様式の臨床調査個人票で申請いただく必要があります。
よくある間違いとして、旧様式の臨床調査個人票を使用しているケースがあります。また、新様式を使用していても、従来の基準から変更された箇所は間違いやすい部分です。具体的には、検査値やHRCT所見の記載方法を誤っているケース、重症度分類の判定を誤っているケースなどがあります。また、HRCT所見で蜂巣肺のない、Probable UIPパターンのIPFや、IPFではないIIPsでは外科的肺生検が必須だと誤って認識されていることがあります(図3)。
図3

スムーズに申請を進めていただくためには、アップデートされた診断基準及び重症度分類を踏まえて、新様式の臨床調査個人票の記載方法を確認しておくことが重要です。
3 臨床調査個人票の記載方法
ではここから、図4のIPF患者さんを例に、実際の臨床調査個人票の記載方法をご紹介します。
図4

この症例では、胸部HRCT所見として、蜂巣肺は見られないものの、両肺の背側胸膜直下優位の網状影と牽引性気管支拡張を認めるProbable UIPパターンとなっています。
このような症例では、従来であれば申請のために外科的肺生検が必要でしたが、現在は外科的肺生検を行っていなくても申請することができます。実際に記載方法を確認していきましょう。
A. 主要所見
まず、主要所見についてです。以前は、捻髪音、乾性咳嗽、労作時呼吸困難、ばち指のうち、捻髪音を含む2項目以上を満たす場合に陽性と判定されていましたが、新たな基準では、捻髪音は必須ではなく、いずれか2項目以上を満たす場合に陽性と判定されます(図5)。
図5

今回の症例では、乾性咳嗽と労作時呼吸困難が認められるため、臨床調査個人票の「該当」とそれぞれの所見にチェックマークをつけます(図6)。
図6

B. 検査所見 ①血清学的検査
続いて、血清学的検査についてです。以前は、KL-6、SP-D、SP-A、LDHのいずれかの上昇を満たす場合に陽性と判定されていましたが、新基準では、LDHが削除され、KL-6、SP-D、SP-Aのいずれかの上昇を満たす場合に陽性と判定されます(図7)。
図7

今回の症例では、KL-6の上昇が認められますので、「該当」と「KL-6の上昇」にチェックマークをつけます。それぞれの検査値は、「その他の事項」に設けられた欄に記載します(図8)。
図8

B. 検査所見 ②呼吸機能検査
続いて、呼吸機能検査についてです。以前は、拘束性障害(%VC<80%)、拡散障害(%DLco<80%)、低酸素血症のいずれか2項目を満たす場合に陽性と判定されていましたが、新基準では、いずれか1項目を満たす場合に陽性と判定されます(図9)。
図9

臨床調査個人票においては、呼吸機能検査の結果に「該当」「非該当」「不明」選択式が追加されました。FVCの記載欄は「その他の事項」へ、「6分間歩行時SpO2試験の実施」は「重症度分類に関する事項」へ移動しています。
今回の症例では、拡散障害(%DLco:65.0%)と低酸素血症(6分間歩行時SpO2:89%)が認められますので、それぞれの結果についてチェックマークをつけ、値を記載します。FVCを含む呼吸機能の検査値は「その他の事項」、6分間歩行時SpO2については「重症度分類に関する事項」に設けられた欄へ記載します(図10)。
図10

B. 検査所見 ③胸部HRCT所見
続いて、画像所見についてです。以前は、胸部X線画像所見と病理診断を伴わないIPFにおける胸部HRCT画像所見について基準が設けられていましたが、新基準ではいずれも削除され、胸部HRCT所見として網状影、すりガラス陰影、浸潤影(コンソリデーション)のいずれか1項目以上を両側性に認める場合に陽性と判定されます(図11)。
図11

また、臨床調査個人票においても、胸部X線画像所見の項目が削除されています。
今回の症例では、両側性に網状影が認められるため、「該当」と「網状影」「両側」にそれぞれチェックマークをつけます(図12)。
図12

C. 組織所見 及び D. 鑑別診断
続いて、組織所見と鑑別診断についてです。臨床調査個人票におけるこれらの記載項目は、以前の内容から大きく変更ありません。
外科的肺生検を行っていない場合には、外科的肺生検の「未実施」にチェックマークをつけます。また、鑑別して除外できた疾病にチェックマークをつけます(図13)。
この鑑別診断まで漏れなく記載することが重要です。
図13

Probable(臨床診断群)の細分類
臨床診断群については、さらにIPF及びiPPFEの臨床診断基準を用いて診断を行います(図14)。
図14

臨床調査個人票においては、「その他の事項」に「Probable(臨床診断群)の細分類」として記載欄が設けられています。
今回の症例では、IIPsの臨床診断群の診断基準を満たしており、胸部HRCT所見として「肺底部・胸膜下優位の陰影分布」及び「牽引性気管支・細気管支拡張を伴う網状影」を満たすことから、「2.特発性肺線維症(IPF)疑い:以下の主要項目の①と、②のa、cを満たす」にチェックマークをつけます(図15)。
図15

重症度分類
また、IIPsの重症度分類も診断基準とともにアップデートされています。これにより、全てのIIPsにおいて、安静時PaO2が80Torr以上の場合でも、6分間歩行時最低SpO2が90%未満の場合は、指定難病の医療費助成の対象となる重症度Ⅲ度と判定されます※(図16)。
※ ただし、症状の程度が疾病ごとの重症度分類等に該当しない軽症者でも、高額な医療を継続することが必要な人は、医療費助成の対象となる(軽症高額)1)
図16

今回の症例は、安静時PaO2 80Torr以上のため、従来の基準では重症度Ⅰ度となりますが、6分間歩行時最低SpO2 90%未満のため、新たな基準ではⅢ度となり、医療費助成の申請が可能になります。
臨床調査個人票においては、重症度分類「Ⅲ」にチェックマークを入れ、安静時PaO2と6分間歩行時最低SpO2試験の実施についてそれぞれ記載します。なお、安静時PaO2が60Torr未満の場合は、6分間歩行テストの結果について記載する必要はありません(図17)。
図17

4 まとめ
● 2024年4月の指定難病診断基準のアップデートにより、特発性間質性肺炎の診断基準・重症度分類が変更された
● 蜂巣肺のないHRCT所見(Probable UIPパターン)のIPFにおいて、外科的肺生検は必須でない
● 安静時PaO2 80Torr以上でも、6分間歩行時最低SpO2 90%未満であれば重症度Ⅲ度となる
● 指定難病の医療費助成の申請にあたっては、新様式を使用する
今回は、2024年4月にアップデートされた新たなIIPsの指定難病診断基準等に基づき、臨床調査個人票の記入方法をご紹介しました。
アップデートによって、蜂巣肺のないIPFで、これまで外科的肺生検がハードルとなって組織所見を得られなかった患者さんにも診断ができるようになりました。さらに、安静時PaO2では重症度Ⅰ度の判定でも、6分間歩行時最低SpO2 90%未満であれば、指定難病の医療費助成の対象となる重症度Ⅲ度とすることが示されました。
従来の基準では指定難病の医療費助成対象外であったために、抗線維化薬などの高額な治療の開始を躊躇されていた患者さんもいらっしゃったかと思います。アップデートされた診断基準及び重症度分類に基づいて、新様式の臨床調査個人票で申請いただくことで、患者さんに必要な治療の検討をスムーズに進められるようになることを願っています。
今回ご紹介した内容を、IIPs患者さんのご診療にお役立ていただけますと幸いです。
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