SScに伴う間質性肺疾患の診断と治療(Limited disease)静止画
サイトへ公開:2022年02月28日 (月)
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ご監修・ご出演:桑名 正隆先生(日本医科大学大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授)
ご視聴の先生が次のような症例をご診療される場合、どのような管理が考えられるでしょうか。


全身性強皮症の死亡原因とSSc-ILDの予後
全身性強皮症(SSc)では皮膚をはじめとして、肺、心臓など全身のさまざまな臓器に病変が生じます。
こちらはSSc患者さんの主な死亡原因です。
EUSTARデータベースを用いた研究では、間質性肺疾患(ILD)が35.2%と、SSc関連死の最も多くを占めていました。

SSc-ILDは、胸部HRCTにおける肺病変の広がりが大きくなるほど生存率が低下すること、また、%FVCが70%未満では70%以上と比較して生存率が低下することが報告されています。
したがって、疾患が進行する前の早期から治療介入を検討することが重要であると考えられます。

SSc-ILDは病態の主体である線維化や血管障害によって、不可逆的に肺の組織構造が破壊されるため、一度低下した機能の回復は難しいのが現実です。したがって、疾患進行の遅延・阻止が治療目標となります。治療介入が早期であるほど、より高い肺機能を維持できると考えられます。

SSc-ILDの治療アルゴリズム
では、治療介入が必要な患者さんはどのように見極めればよいのでしょうか。
『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020』では、図のような治療アルゴリズムが提案されています。
SSc患者さんでILDありと診断された場合は胸部HRCT所見と呼吸機能検査によってLimited diseaseあるいはExtensive diseaseに病期分類を行います。
Extensive diseaseに分類された場合、すでに高度肺機能低下があるケースを除いて、薬剤による治療介入を行います。
一方、Limited diseaseと分類された場合、ILDの進展予測を行い、高リスクの場合は治療介入の対象となります。また、低リスクの場合でも、定期的なモニタリングの結果、線維化の進行が認められれば治療を行います。

SSc-ILDの予後・進展予測
Limited diseaseに分類された場合のSSc-ILDの進展予測については、SADLモデル、SPARモデル、KL-6高値などが示されています。
SADLモデルは、喫煙歴(Smoking)・年齢(Age)・DLcoをスコア化し、合計の値からリスクを3段階で評価します。

SPARモデルは、「6分間歩行テスト後のSpO2」および「関節炎のエピソード」を評価し0点もしくは1点で点数化し、その合計点を用いて1年後のILD進行を予測します。1点以上の場合は感度84.0%、2点以上の場合は特異度98.6%で疾患進行を予測できることが報告されています。

SADLモデルは、DLcoが60%未満に低下して初めてスコアとしてカウントされるため、ある程度進行した患者さんにおける進展予測に有用なモデルであるといえます。一方、Limited diseaseに分類されるような早期例における進展予測の評価には、SPARモデルが特に有用と考えられます。
また、診断時KL-6の値が1273 U/mLを超える患者さんでは、将来的に末期肺病変に至る可能性が高いことが示されており、進行性のILDのリスクがある患者さんの特定に役立つ可能性があります。

SSc-ILDの病態メカニズムとオフェブの作用機序
『膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020』では、SSc-ILDの治療選択肢のひとつとして、抗線維化剤オフェブが記載されています。
SScで生じる皮膚や肺などの線維化は、病変局所に存在する線維芽細胞の細胞外マトリックス(ECM)産生能の亢進に起因していると考えられています1)。そして、その原因は完全には明らかにされていないものの、図に示すような種々の液性因子や細胞内分子の関与が明らかになっています。

オフェブは、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)のそれぞれの受容体のATP結合ポケットに競合的に結合することで、細胞内シグナルを抑制するチロシンキナーゼ阻害剤です。オフェブは、これらのシグナル経路が介在する筋線維芽細胞の活性化を直接阻害します。
なお、線維芽細胞から筋線維芽細胞への形質転換を誘導する代表的な因子としてトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)が知られていますが、オフェブはTGF-βによって引き起こされるSMAD2のリン酸化は抑制しません。このことから、オフェブの抗線維化作用はTGF-βシグナルに依存しないと考えられます。

まとめ
SSc-ILDでは、診断時の胸部HRCTにおける病変の広がりと呼吸機能により生命予後の予測が可能なことが報告されています。ただし、早期例では診断時にILDが軽度の場合があります。SSc-ILDにおける呼吸機能の低下は不可逆的であるため、早期に治療介入を検討し、疾患の進行遅延・進行阻止を行うことが重要です。
SSc-ILDの診断時にLimited diseaseの患者さんであっても、高リスクの場合には、早期の治療介入を検討することが推奨されています。また、低リスクの場合であっても定期的なモニタリングを行い進行がみられれば治療介入を検討することで患者さんの良好なアウトカムに貢献できる可能性があります。
今回ご紹介した内容が、SSc-ILD患者さんのご診療の参考になりましたら幸いです。
【引用】
- 公益財団法人 日本リウマチ財団 教育研修委員会, 一般社団法人 日本リウマチ学会 生涯教育委員会 編集. リウマチ病学テキスト 改訂第2版. 診断と治療社. p211, 2016
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