IIPs診療における医師と理学療法士の連携(前編)6分間歩行テストの実施意義

サイトへ公開:2024年07月30日 (火)

ご監修:大石 景士先生(山口大学医学部附属病院 呼吸器・感染症内科 助教)/石光 雄太様(独立行政法人国立病院機構 関門医療センター リハビリテーション科、同機構 山口宇部医療センター 臨床研究部 院外研究員)

特発性間質性肺炎(IIPs)診療において、6分間歩行テストは重症度評価や予後予測、呼吸リハビリテーションの有効性評価に用いられる検査です。このうち、重症度評価としての6分間歩行テストは、難病医療費助成の申請に必要な項目のひとつです。2024年4月に指定難病としてのIIPsの重症度分類が診断基準とともに改定されたことで、重症度評価における6分間歩行テストの実施意義が高まっています。          
正確に6分間歩行テストを実施するためには、その目的や意義、実施方法などの専門知識が必要です。医学的リハビリテーションの専門職である理学療法士と連携することは、円滑に6分間歩行テストを実施し、適切なIIPs診療を患者さんに提供することにつながります。

本シリーズでは、前編・後編の2回にわたって、IIPs診療における医師と理学療法士の連携について、山口大学医学部附属病院 呼吸器・感染症内科 助教 大石 景士先生と、独立行政法人国立病院機構 関門医療センター リハビリテーション科、同機構 山口宇部医療センター 臨床研究部 院外研究員 石光 雄太様にうかがいます。前編は、重症度評価を中心とした6分間歩行テストの実施意義についてです。

【インタビュー実施場所】 山口グランドホテル          
【インタビュー実施日】 2024年3月6日(水)          
※インタビューを実施した2024年3月時点において石光様のご所属は山口宇部医療センター リハビリテーション科であり、本コンテンツ内では当時の取り組みについてお話しいただいております。

Q IIPs診療における6分間歩行テストの実施意義として、どのようなものがありますか?

大石先生:

IIPs診療における6分間歩行テストの実施意義として、重症度評価や予後予測が挙げられます。IIPsを含む間質性肺疾患(ILD)は、2021年の死亡者数が20,774人、2022年が22,905人と増加していることから1、予後不良となる疾患のひとつとして注目されています。IIPs患者さんの予後改善のためには、6分間歩行テストなどによって重症度評価や予後予測を適切なタイミングで行い、その判断とともに適切に治療介入を行う必要があります。          
そのほかにも、拡散障害や肺高血圧症といった併存症の推定や呼吸リハビリテーションの効果判定なども、IIPs患者さんに対する6分間歩行テストの実施意義として挙げられます。          
また、患者さんご自身がIIPsという疾患を理解するためにも、6分間歩行テストの実施意義があると考えています。たとえば、早期に発見された軽症のIIPs患者さんでは、安静時に低酸素血症が認められなかったり、日常生活で呼吸困難などの自覚症状がみられなかったりすることから、IIPsという疾患を実感できない場合があります。このような患者さんに対し医療従事者と一緒に6分間歩行テストを実施し、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)という客観的な指標が低下していることを伝えます。患者さんが実際に酸素化能の低下を体感することで、安静時にはあまり症状を感じていなくとも、IIPsという疾患を発症しているということを患者さんに実感していただけると思っています。

大石先生ご提供

石光様:

6分間歩行テストは、労作時の低酸素血症の発生有無を非侵襲的に調べることができるツールとして有用だと思っています。線維性ILD患者さんを対象とした研究で6分間歩行テスト時の低酸素血症と無移植生存期間との関連性が報告されていますので、患者さんの生命予後を予測することに役立てることができます(図1)。

図1

また、専門職として呼吸リハビリテーションにかかわる理学療法士の立場からは、ATS(American Thoracic Society;米国胸部学会)のステートメントにも示されているとおり2、慢性呼吸器疾患の呼吸リハビリテーションの効果判定として6分間歩行テストの実施は必須と考えています。呼吸リハビリテーションの前後に6分間歩行テストを行うことで、有効な改善が得られたかを確認し、さらにどのような介入を行っていくべきかを考えることができます。

Q 指定難病としてのIIPsの重症度分類が改定されたことで、6分間歩行テストを実施する意義はどのように変わりましたか?

大石先生:

指定難病としてのIIPsの重症度分類が改定されたことで、重症度評価における6分間歩行テストの実施意義が高まっていることは自明です。  
改定されたIIPsの重症度分類では、安静時動脈血酸素分圧(PaO2)が80Torr以上であっても、6分間歩行テストで最低SpO2が90%未満になると、難病医療費助成の対象となる重症度Ⅲ度になります(図2)。改定前はPaO2が80Torr以上の場合は、デサチュレーションの有無にかかわらず重症度Ⅰ度の分類であり、難病医療費助成を受けるには、高額な医療を継続することが必要※1な場合として軽症高額の認定を受ける必要がありました。患者さんにとっては、重症度Ⅲ度に認定されるか重症度Ⅰ度に認定されるかで、経済的な負担が大きく変わってくるため、重要な改定のポイントだと思います。

※1 「高額な医療を継続することが必要」とは、医療費総額が33,330円を超える月が支給認定申請月以前の12月以内に3回以上ある場合をいいます。

図2

石光様:

今回のIIPsの重症度分類の改定は、6分間歩行テストに対する患者さんの受け入れにも影響する内容だと思います。6分間歩行テストでは、患者さんに30mの直線路を6分間努力歩行してもらいますが、実際にやってみると健常者でもきつく感じる動作です。このような負荷の高い検査の実施を患者さんにお願いする際は、実施の目的をお伝えすることが重要です。目的とあわせて、難病医療費助成の対象範囲が広がったことをお伝えすることで、患者さんが6分間歩行テストにきつさを感じても受け入れてくれる理由のひとつになるのではないかと考えています。

 

Q 重症度評価における6分間歩行テストの実施意義が高まったことは、IIPs診療にどのような影響を及ぼすと考えられるでしょうか?

大石先生:

直接的な影響として、6分間歩行テストを実施する機会や実施すべき患者さんの人数が増えると考えています。そのため、IIPs患者さん全員に必要なタイミングで6分間歩行テストを実施できるよう、実施場所や用具、理学療法士をはじめとするスタッフを施設として確保し、環境を整えていく必要があると思っています。これまでは、6分間歩行テストの実施意義が十分に浸透していないといった事情で、6分間歩行テストの実施環境の整備が難しかった施設もあったかと思います。今回の重症度分類の改定を機に、6分間歩行テストの実施環境の整備を進める施設も多いのではないでしょうか。                   
先生方の中には、施設にリハビリテーション科があり理学療法士が6分間歩行テストを実施できる環境があるにもかかわらず、6分間歩行テストのオーダーを出すことに躊躇されている方もいらっしゃるかもしれません。その背景には、医師側が理学療法士の負担を懸念しているといった事情があるのではないかと思います。このような場合には、実際に理学療法士がどこに負担を感じているのかを聞き、オーダー方法の整備といった取り組みを理学療法士と一緒に行うことで、解消していけるのではないでしょうか(図3)。

図3

石光様:

理学療法士としても、重症度評価における6分間歩行テストの実施意義が高まったことを認識し、必要なタイミングで実施できる環境を整えていくことは重要だと考えています。特に、医療従事者の中でも専門職である理学療法士がいち早く6分間歩行テストの実施意義を認識することは、医師や看護師といった他職種の方に6分間歩行テストへの理解を広めていくためにも必要なことだと思っています。

コラム | 理学療法士の役割

石光 雄太 様          
一般に理学療法士というと、ケガや病気などで身体に障害のある患者さんや障害の発生が予測される患者さんに対して、運動療法などを用いて機能回復を促すイメージがあると思います。そのような活動ももちろんですが、実は患者さんの日常生活動作をマネジメントすることも役割のひとつです。たとえば、呼吸器疾患の患者さんであれば、生活の中で息切れを感じたときにどうセルフマネジメントするか、どうやって楽に、安全に過ごすかという工夫をお伝えします。先生方にもこのような理学療法士の役割をもっと広く知っていただき、理学療法士の役立つ機会が増えればと考えています。

IIPs診療に取り組まれる先生方にメッセージをお願いします

大石先生:          
2024年4月、指定難病としてのIIPsの重症度分類が診断基準とともに改定されました。これによって、重症度評価で用いられる6分間歩行テストの実施意義は、これまで以上に高まっています。これを機に、IIPs患者さん全員に必要なタイミングで6分間歩行テストが実施できるよう、ご施設の環境整備をぜひ検討していただきたいと考えています。

石光様:          
IIPsの重症度分類が改定されたことは、6分間歩行テストに対する患者さんのモチベーションにも影響するものだと思います。このことを理学療法士としても認識し、先生方と一緒に、6分間歩行テストの実施環境を整える取り組みをしていきたいと考えています。

後編は、6分間歩行テストの実施方法についてお話しいただきます。

【参考文献】

  1. 厚生労働省. 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況 2023.(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei22/dl/11_h7.pdf、2024年3月15日アクセス)
  2. ATS Committee on Proficiency Standards for Clinical Pulmonary Function Laboratories.: Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(1):111-117.

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P-Mark 作成年月:2024年7月