薬剤師の先生にお伝えしたいオフェブを服用される患者さんとのコミュニケーション(静止画)
サイトへ公開:2025年01月29日 (水)
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ご監修:
渥美 達也先生(北海道大学大学院 免疫・代謝内科学教室 教授)
小野寺 駿先生( 北海道大学病院 薬剤部)
抗線維化剤オフェブは、「特発性肺線維症(IPF)」「全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)」「進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)」の適応を有する薬剤です。
オフェブを服用される患者さんは、疾患や生活、治療、服用する薬に対し、さまざまな悩みや不安を抱えていると考えられます。
オフェブを処方された患者さんが感じている不安(一例)

患者さんの中には、悩みや不安を上手く言葉にすることや医師に対して自分から打ち明けることができず、薬剤の専門家として、あるいは患者さんと接する医療者のひとりとして、薬剤師の先生に打ち明ける患者さんもいるのではないかと思います。
北海道大学病院 薬剤師の小野寺先生は、何気ない一言から患者さんの悩みや不安を拾い上げてコミュニケーションをされています。
今回は、薬剤師の先生にお伝えしたいオフェブを服用される患者さんとのコミュニケーションについて、キーフレーズごとに小野寺先生にご紹介いただきます。
オフェブ服用患者さんの
悩み・不安に気付くキーフレーズ
患者さんから次のような悩みを打ち明けられたとき、先生ならどう答えますか?
①自分が病気だとは信じられません
②薬を飲まないといけないのでしょうか
③この薬はいつまで飲むのでしょうか
④この薬を飲み続けるのがつらいです

オフェブ服用患者さんの悩み・不安に気付くキーフレーズ①
「自分が病気だとは信じられません」
薬剤師解説
キーフレーズ①に対するコミュニケーション
患者さんが「自分が病気だとは信じられません」といったようなお話をされた場合は、症状の乏しさなどから患者さんご自身が病気であることを受け止め切れておらず、とまどいや不安を感じている可能性があります。このような患者さんに対しては、まずは患者さんの気持ちに寄り添い共感を示すようにします。そのうえで、オフェブの適応であるIPF、SSc-ILD、PF-ILDの症状や疾患経過について、患者さんにとってわかりやすい言葉でお伝えします。
… 会話例 …
患者さん
自分が病気だとは信じられません。
薬剤師
突然のことだと理解が追い付かないですよね。今はどんなことを感じていますか?
患者さん
咳や息切れは年のせいだと思っていたので、自分が病気であると言われても実感できません。この先どのようになっていくのかもわからないし、不安です。
薬剤師
○○さんが病気を少しずつでも受け入れられるように、サポートしますね。まずは、どのような症状がみられる病気かお話しさせてもらってもよいでしょうか…?
医師解説
オフェブを処方される患者さんの症状・疾患経過
IPF、SSc-ILD、PF-ILDでは、空咳(痰の出ない、コンコンといった咳)や労作時の息切れ(坂道や階段の上り下りでの息切れ)が症状としてみられます(図1)1,2)。
図1

これらの疾患の経過は多岐にわたり、急速進行するものや慢性進行するもの、安定していても急性増悪によって進行が進むものなどがあります。疾患が進行した場合、死亡に至ることもあります(図2)3)。
図2

コラム
薬剤師の先生方にお願いしたい間質性肺疾患(ILD)でみられる呼吸器症状の聞き取り
IPFをはじめとするILDでは空咳や労作時の息切れが症状としてみられます。このような呼吸器症状の悪化は、PF-ILDの診断に必要なILDの進行性の基準にも含まれています(図3)4, 5)。
咳や息切れといった症状は、患者さんが自覚していたとしても、高齢だからだろうなどと考えて医師に症状を伝えていないことがあります。また、患者さんの中には、医師に対して症状や悩みをなかなか打ち明けられないという方もいらっしゃるかと思います。
ILD疑い患者さんを早期に発見し、適切な治療介入につなげるため、特に膠原病など高頻度にILDを合併する疾患の患者さんに対しては、ILDの診断がついていなくても、空咳や労作時の息切れがみられないか、患者さんとの面談の際に薬剤師の先生方から患者さんに聞き取りをしていただけますと幸いです。
図3

オフェブ服用患者さんの悩み・不安に気付くキーフレーズ②
「薬を飲まないといけないのでしょうか」
薬剤師解説
キーフレーズ②に対するコミュニケーション
オフェブ服用患者さんが「薬を飲まないといけないのでしょうか」といったようなお話をされた場合は、オフェブによる治療目標を理解されていない可能性があります。まずは、この質問を患者さんがどのような意図でされたのか、患者さんから聞き出してみましょう。患者さんがオフェブによる治療目標を理解していない場合には、患者さんにとってわかりやすい言葉で治療目標を説明します。
… 会話例 …
患者さん
薬を飲まないといけないのでしょうか。
薬剤師
「薬を飲まないといけないのでしょうか」とのことですが、薬について心配されていることがありますか?
患者さん
この薬を続けて飲んでいても、呼吸の苦しさが変わらないような気がしていて…続ける意味があるのでしょうか?
薬剤師
薬の効果を実感できないと、不安になってしまいますよね。オフェブという薬の主な作用は呼吸機能の低下を抑制することですが、臨床試験で咳や息苦しさの悪化も抑制することが示されています。効果が実感できなくても、服用しない場合と比べて、呼吸機能の低下や症状の悪化を穏やかにすることができるため、継続的な服薬が大切です。
呼吸機能が下がってしまうと入院や死亡のリスクが高くなってしまうため、薬を継続することがこの先の生活を考えるうえで非常に重要です。医師の先生の指示どおり、服用を継続しましょう。
医師解説
オフェブの治療目標・臨床試験結果
オフェブによる治療は、疾患の進行を遅らせることを目標としています。
治療介入が遅れた場合は、機能予後に対する好ましい影響は限定的となりますが、早期に治療介入を行えば、呼吸機能の低下を早い段階で阻止、もしくは遅らせることが期待できます(図4)6)。
図4

オフェブの有効性と安全性は、適応ごとの臨床試験で検討されています。
PF-ILDの適応については、国際共同第Ⅲ相試験INBUILD試験で検討されました(図5)4, 5)。
図5

本試験の対象は、IPF以外のILDと診断され、スクリーニング前の24ヵ月以内に医師により適切と考えられた疾患管理を行ったにもかかわらず、図6に示すiからivのILDの進行性の基準のいずれかを満たす患者さん663例でした。スクリーニングされた患者さんは、オフェブ群あるいはプラセボ群にランダムに1:1で割り付けられました。
主要評価項目は、投与52週までのFVCの年間減少率でした(図6)。
図6

本試験の結果、投与52週までのFVCの年間減少率は、オフェブ群-80.8mL/年及びプラセボ群-187.8mL/年であり、オフェブはプラセボに対し呼吸機能の低下を有意に抑制することが検証されました(図7左)。
また、52週までのFVCのベースラインからの変化量は、図7右側の図のように推移しました(図7右)。
図7

本試験では、オフェブの呼吸器症状に対する影響について、L-PFスコアを用いて検討されました。L-PFスコアは、肺線維症患者さんにおける症状に関する評価指標であり、symptomsとimpactsという2つのモジュールからなる44項目の質問で構成されます。なお、symptomsモジュールは、呼吸困難、咳嗽、疲労の3つのドメインで構成されています。symptoms及びimpactsスコアからL-PF総スコアが計算されます。
総スコア及びドメインスコアの範囲は0~100であり、スコアが高値であるほど、症状が重いことを示します(図8)。
図8

L-PF:Living with Pulmonary Fibrosis
本試験の全体集団における投与52週時のL-PFスコアのベースラインからの変化量について、総スコア、symptomsモジュール総スコア、impactsモジュール総スコア、呼吸困難、咳嗽、疲労の3つのドメインスコアのいずれも、オフェブ群でプラセボ群に対し変化量に有意差が認められました。symptoms咳嗽ドメインスコアについては、オフェブ群で減少が認められました(図9)。
図9

本試験の全期間における有害事象は、オフェブ群で326例(98.2%)、プラセボ群で308例(93.1%)に認められました。重篤な有害事象、投与中止に至った有害事象、死亡に至った有害事象は、図10のとおりでした。
図10

主な有害事象は、発現頻度が高い順にオフェブ群で下痢240例(72.3%)、悪心100例(30.1%)、嘔吐64例(19.3%)など、プラセボ群で下痢85例(25.7%)、気管支炎64例(19.3%)、呼吸困難57例(17.2%)などでした(図11)。
図11

投与52週までの下痢、嘔吐、悪心、肝酵素上昇の有害事象の重症度は図12のとおりでした。
図12

オフェブ服用患者さんの悩み・不安に気付くキーフレーズ③
「この薬いつまで飲むのでしょうか」
薬剤師解説
キーフレーズ③に対するコミュニケーション
オフェブ服用患者さんが「この薬いつまで飲むのでしょうか」といったようなお話をされた場合は、患者さんが薬を継続することに負担を感じられている可能性があります。薬を継続することに負担を感じる理由のひとつとして、医療費負担が考えられます。この質問を患者さんがどのような意図でされたのか理由を聞き出す際に、医療費を負担に感じている可能性も考えるとよいでしょう。
医療費を負担に感じている患者さんに対しては、オフェブの患者さん向け資材(図13)を示しながら、医療費助成制度についてこれまでに話を聞いたことがあるか確認します。患者さんが医療費助成制度について話を聞いたことがないようであれば、オフェブ服用患者さんが利用できる医療費助成制度について案内しましょう。
図13

… 会話例 …
患者さん
この薬いつまで飲むのでしょうか。
薬剤師
「この薬いつまで飲むのでしょうか」とのことですが、薬を続けることについてご心配なことがありますか?
患者さん
価格の高い薬だなと感じていて…。
薬剤師
医療費を負担に感じていらっしゃるのですね。オフェブを服用されている患者さんは医療費助成制度を使って医療費の自己負担を減らせる場合があることを、これまでに聞いたことはありますか?こちらの冊子を一緒に見ながらどのような制度なのか、お話ししますね。
医師解説
オフェブ服用患者さんが利用できる医療費助成制度
オフェブ服用患者さんは、難病医療費助成制度や高額療養費制度を使うことで医療費の自己負担を減らせる可能性があります(図14)。
図14

オフェブ服用患者さんの医療費自己負担額の目安については、日本ベーリンガーインゲルハイム社のwebサイトに用意されている、医療費自己負担額計算ツールで簡単に算出することができます。本ツールで、「診断名」を選択後、「重症度」「年齢」「所得(標準報酬月額/市区町村民税)」の各項目をチェックし、最後に「計算する」ボタンを押すと、オフェブ服用患者さんの検査費、薬剤費等を含む医療費自己負担額の目安が算出されます(ただし、一部の患者さんでは、薬剤費のみの自己負担額が算出される場合があります)(図15)。
オフェブ服用患者さんに治療にかかる医療費の目安について説明する際の参考として、本ツールを活用するとよいでしょう。
図15

オフェブ服用患者さんの悩み・不安に気付くキーフレーズ④
「この薬を飲み続けるのがつらいです」
薬剤師解説
キーフレーズ④に対するコミュニケーション
「この薬を飲み続けるのがつらいです」といったようなお話をされた場合は、患者さんが副作用に悩まれている可能性があります。副作用に悩まれている患者さんに対しては、まずは患者さんのつらい気持ちを受け止めるようにします。次にどのような副作用をつらく感じているのか、具体的に患者さんにお話ししてもらいます。そのうえで、副作用への対応方法を患者さんにお伝えするようにします。
… 会話例 …
患者さん
この薬を飲み続けるのがつらいです。
薬剤師
薬でつらい思いをされているのですね。何がつらいのか、具体的に話してもらえますか?
患者さん
薬を飲み始めてから下痢になることがあります。
薬剤師
それはおつらいですね。今回は下痢止めの薬が出ていますので、しっかり飲んでくださいね。それから、下痢が起こると脱水症状となることがあるので、こまめに水分補給をしてください。食事については、下痢が悪化する可能性がある脂っこいものや刺激の強いもの、食物繊維の多いもの、カフェインを多く含むものやアルコールなどは避けるようにしてくださいね。また、次回以降の診察の際に医師の先生にもご相談ください。
医師解説
オフェブの副作用マネジメント
オフェブの主な副作用として、下痢、悪心・嘔吐、肝機能障害が認められます。
これらの副作用が認められた場合の対処法は、それぞれ次のとおりです。
下痢(図16)
オフェブの投与に伴う下痢は、通常、初回発現時にできるだけ速やかにロペラミドなどの止瀉剤による対症療法を行います。
適切な対症療法にもかかわらず、下痢が継続する場合には、本剤の減量・中断又は投与中止を考慮します。対症療法にもかかわらず持続するような高度(重度)の下痢の場合は、本剤による治療を中止し、再投与は行わないようにします。
図16

悪心・嘔吐(図17)
悪心・嘔吐に対しては、標準的な対症療法を行います。適切な対症療法にもかかわらず、悪心・嘔吐が継続する場合には、本剤の減量又は中断を検討します。高度の症状が継続する場合は、本剤の投与を中止します。
図17

肝機能障害(図18)
本剤の投与に伴い、AST、ALTが基準値上限の3倍を超えた場合は、本剤を減量又は中断し、患者さんの状態を十分に観察します。黄疸などの肝機能障害の徴候や症状が認められた場合には、本剤の投与を中止し、再投与は行わないようにします。
副作用・有害事象への対処については、電子添文もあわせてご確認ください。
図18

このほかに、下痢、悪心・嘔吐については、患者さんご自身に食事などを工夫していただくという対処法もあります(図19)。
図19

下痢
・脱水症状を引きおこすことがあるため、こまめな水分補給を心がけるようにします。
・常温の水やスポーツ飲料をゆっくり飲むようにします。
・食事は、1回の量を少なくして、何回かに分けて食べるとよいでしょう。
・あっさりした食事(ご飯やめん類、バナナ、パン、鶏肉)をとるようにします。
・下痢を悪化させる可能性がある脂っこいもの、刺激の強いもの、食物繊維の多いもの、カフェインを多く含むものやアルコールなどを避けるようにします。
悪心・嘔吐
・食事は、1回の量を少なくして、何回かに分けて食べるとよいでしょう。
・刺激の少ない、消化のよいものを食べるように心がけます。
・においの強いものは避けるようにします。
・食後は安静にします。
・吐き気を催したら、深呼吸をするとよいでしょう。
・しめつけの少ない洋服を着るとよいでしょう。
コラム
薬剤師が果たす役割の広がり~特定薬剤管理指導加算3~
患者さんに対する薬剤の説明において、薬剤師が果たす役割が大きくなっています。
令和6年度の診療報酬改定では、「特定薬剤管理指導加算3」が追加されました。
「特定薬剤管理指導加算3」は、
・患者向けRMP資材を用いて指導した初回
・調剤前に「選定療養の対象である先発医薬品希望の患者さんに選定療養の説明」または「流通不安定な薬を別銘柄に変更せざるを得ない場合に説明及び指導」を行った初回
に加算されます。
なお、同処方でもそれぞれ要件を満たしている場合であれば、「特定薬剤管理指導加算3」を「特定薬剤管理指導加算1(ハイリスク薬)」や「特定薬剤管理指導加算2(抗がん剤)」と併算定することが可能となっています(図20)7)。
図20

今回ご紹介した内容を、
オフェブを服用される患者さんのサポートに
お役立ていただけますと幸いです 。
【参考文献】
- 日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編. 特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022(改訂第4版). p.9. 2022
- 日本呼吸器学会 日本リウマチ学会. 膠原病に伴う間質性肺疾患 診断・治療指針 2020. p.2. 2020
- Cottin V. et al.: Eur Respir Rev. 2014 ; 23(131):106-110.
- Flaherty KR. et al.: N Engl J Med 2019; 381(18): 1718-1727. 本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われた。
- オフェブ承認時評価資料
- 佐藤伸一編. 強皮症の基礎と臨床―病態の解明から最新の診療まで. p.196. 2016.
- 厚生労働省. 令和6年度診療報酬改定について 個別改定項目について(令和6年2月14日)(3月7日)
(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001220531.pdf、2024年6月28日)
その他の関連情報