ILD患者さんに医療費助成制度を利用いただくためのMSWとの連携(静止画)
サイトへ公開:2024年08月29日 (木)
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森山 寬史先生(国立病院機構 西新潟中央病院 呼吸器内科医長)/吉田 大輔様(国立病院機構 西新潟中央病院 医療相談室 医療社会事業専門職)
間質性肺疾患(ILD)患者さんの一部は、難病医療費助成制度や高額療養費制度といった医療費助成制度を利用することが可能です。これらの医療費助成制度を患者さんにご利用いただくためには、医療従事者から患者さんへ適切な情報提供を行うことが必要です。医療費助成制度に関する情報提供を医療ソーシャルワーカー(MSW)と連携して行うことは、より円滑にILD患者さんが医療費助成制度を利用することにつながります。
本コンテンツでは、ILD患者さんに医療費助成制度を円滑に利用していただくためのMSWとの連携について、国立病院機構 西新潟中央病院 呼吸器内科医長 森山 寬史先生と、同院 医療相談室 医療社会事業専門職 吉田 大輔様にうかがいます。
【インタビュー実施場所】 国立病院機構 西新潟中央病院
【インタビュー実施日】 2024年4月25日(木)
Q ILD患者さんに医療費助成制度に関する情報提供を行う意義について、お考えを教えてください
森山 先生:
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ILD患者さんが利用できる医療費助成制度として、難病医療費助成制度や高額療養費制度などがあります。
難病医療費助成制度は、厚生労働大臣が定める「指定難病」の患者さんを対象とする医療費助成制度です。「指定難病」となりうる主なILDには、特発性肺線維症、特発性非特異性間質性肺炎などの特発性間質性肺炎、全身性強皮症や多発性筋炎/皮膚筋炎などの膠原病に伴うILD、サルコイドーシスなどのそのほかのILDがあります。このような「指定難病」と診断され、疾患ごとの「重症度分類等」に照らして病状の程度が一定程度以上の患者さんは難病医療費助成制度を利用することができます。また、症状の程度が「重症度分類等」の基準を満たさない軽症の患者さんであっても、高額な医療を継続することが必要な患者さんは、軽症高額の認定を受けることで難病医療費助成制度を利用することが可能です。一方、高額療養費制度は過敏性肺炎や関節リウマチに伴うILDなど、「指定難病」以外の疾患の患者さんでも利用可能な医療費助成制度です(図1)。
図1

これらの医療費助成制度のことをILD患者さんが知らないと、患者さんが本来利用できるサポートを利用できなくなってしまいます。これによって、経済的な理由から必要な治療を受けられない、あるいは、経済的に不安を抱えながら治療を受けるといった不利益が患者さんに生じてしまう可能性があります。このような不利益が患者さんに生じないように、医師をはじめとする医療従事者が医療費助成制度について患者さんにお伝えすることは重要だと思います。
吉田 様:
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ILD診療の目標は、労作時の息切れといった呼吸器症状のコントロールだけでなく、患者さんのQOL向上にもあると考えています。
患者さんのQOLを損なう因子には、症状以外にも不安や抑うつ、そして経済的な不安などが知られています。
そのなかでも、経済的な不安を解消する手段のひとつとして、医療費助成制度の利用があります。患者さんのQOL向上という観点からも、医師と私たちMSWが連携して患者さんに医療費助成制度を紹介し、利用していただくことが重要だと考えています。
QOL:生活の質
Q ILD患者さんに医療費助成制度を利用いただくためには、どのような情報提供が望ましいのでしょうか?
森山 先生:
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ILD患者さんに医療費助成制度をご利用いただくためには、
①疾患や治療に関する情報と、②医療費助成制度に関する情報の2つを患者さんにお伝えすることが重要です。
①疾患や治療に関する情報については、ILDの診断、治療を行う医師が主体となってお伝えするのが良いと思います。特に、なぜILDに対する治療が必要なのか、という点は医師から患者さんにお伝えすべきだと考えています。ILDに対する治療が必要な理由を患者さんに正しく理解していただくことが、患者さん自身が前向きに治療に取り組む気持ちにつながります。患者さん自身が前向きに治療に取り組む気持ちがあってこそ、医療費助成制度の積極的な利用や、ひいては治療の継続が実現します。
②医療費助成制度に関する情報については、MSWの方が専門的に詳しく把握していますので、MSWの方に患者さんへの情報提供をお願いするのが良いと思います。MSWの方に患者さんの診断名や重症度、治療開始の目安時期などをお伝えすると、それぞれの患者さんの状況に合わせて利用可能な医療費助成制度を紹介してもらえます。実際に医療費助成を申請するという点においても、申請手順を熟知しているMSWの方にサポートしてもらえると円滑に進められ、医師は診断・治療に専念することができます。
図2

吉田 様:
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先生ご自身がおひとりで診断から治療の導入、医療費助成制度等の説明や申請のサポートをしていくのは非常に難しいことだと思います。医療費助成制度の説明については、専門職であるMSWにお任せいただければ、患者さんの状況に応じた適切な医療費助成制度をご紹介することができます。
MSWが医療費助成制度等の説明や申請のサポートを行うことで、医師である先生方が本来の業務であるILDの診断や治療に専念できるようになると考えています。医療費助成制度等の説明のような、先生方が診断・治療に専念する時間の損失につながる業務を削減することによって、ひとりでも多くのILD患者さんに診療機会を提供することができるようになります。このことは、目の前の患者さんだけでなく、ご施設で診療を受けられるすべてのILD患者さんのQOL向上にもつながりますので、積極的にMSWへの連携を進めていただきたいと思っています。
コラム | MSWの役割 吉田 大輔 様
MSWは、国家資格である社会福祉士免許を保有しており、相談援助の理論や技術などを身につけています。これらの理論や技術に基づいて、患者さんとそのご家族が安心して療養できるよう、医療費助成制度をはじめとする多様な社会資源を念頭に置き、外来や入院、在宅医療に伴う不安の解消を援助しています。
ILD患者さんやそのご家族の場合、診断を受けたときに驚きや不安といった感情を抱いていることと思います。このような感情を患者さんやご家族が受け入れ、治療に向き合えるように、ほかのメディカルスタッフと同様、MSWは相談援助を行っています。
医療費助成制度に関する情報提供や申請のサポートはあくまでもその相談援助の一部ですが、MSWと患者さんが接点を持つきっかけになることが多いです。MSWの支援介入につなげるためにも、医療費助成制度に関する情報提供については、積極的にMSWへ委ねていただきたいと思っています。
Q ILD患者さんに対する医療費助成制度の情報提供において、医師とMSWはどのように連携すると良いのでしょうか?
森山 先生:
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当院の場合、外来患者さんが必要な医療費助成の申請が円滑にできるように、どのようなILD患者さんが外来を受診予定か、MSWの方にあらかじめ伝えるように心がけています。特に、特発性間質性肺炎などの指定難病の患者さんの場合は、診断や重症度判定を行った段階でMSWの方に連絡し、治療開始の目安時期も含めて共有します。一報入れることで、MSWの方が患者さんへの医療費助成制度に関する説明を事前に用意できるようにしています。
MSWの方との連携によって、当院を受診されている医療費助成制度の対象となる患者さんの8~9割は、なんらかの医療費助成制度を利用している状況です。
このような実績からも、難病医療費助成制度をはじめとする社会資源を熟知し、患者さんの不安や悩みに寄り添いながら適切なサポートを提供する専門家として、当院のMSWの方を信頼しています。
吉田 様:
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MSWは、指定難病なのか指定難病ではないのか、指定難病であれば重症度がいくつなのか、という情報をご共有いただければ、患者さんが利用できる医療費助成制度を判断することができます。あわせて、患者さんが加入されている健康保険証の情報から、付加給付制度※が利用できるかどうかも確認しています。これらの情報から患者さんが利用できる社会資源を選択して、情報提供を行っています。
先生からは、診断名や重症度、治療開始の目安時期とあわせて、患者さんご自身の認知機能に関する情報やご家族など付き添いの方に関する情報をご共有いただくことがあります。これらの情報は、医療費助成制度に関する情報提供を患者さんおひとりのタイミングで行うことができるか、それとも、ご家族と来院されたタイミングで行った方が良いのか判断するのに役立てています。
先生からILD患者さんにMSWとの連携についてお伝えされる場合には、「ILDに対する治療薬は高額なんだけれども、医療費の負担軽減につながる制度があるから、MSWの方に詳しい話を聞いてね」といったような伝え方をしていただくのが良いかと思います。こうすることで、MSWが患者さんに対して具体的な負担額をお示しした際、患者さんが「先生から高いと聞いて、不安で来たんだけど、この金額であれば払える」といったように、前向きに治療を考えていただけることがあります。
※ 健康保険組合においては、健康保険法で定められた法定給付に上乗せする形で、独自に付加給付を支給することができます1)。
図3

Q ILD患者さんに対する医療費助成制度の情報提供において、施設内のMSWとの連携が難しい場合、どのように対応すれば良いでしょうか?
吉田 様:
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一般的な医療費助成制度の説明については、全国にある難病相談支援センターや、そのほかの行政のサポート窓口でも対応可能だと思います。一方で、ILDに特化したサポートという点では、「オフェブ®医療費相談室」が適していると思います。ILD患者さんが利用できる医療費助成制度は、診断名や重症度で異なります。「オフェブ®医療費相談室」であれば、ILD患者さんの診断名や重症度といった情報に基づいて、利用可能な医療費助成制度を的確に情報提供していただけます。
図4

ILD診療に取り組まれる先生方へのメッセージ
森山 先生:
ILD患者さんに医療費助成制度を利用して治療を受けていただくということになっても、その説明や手続きに負担を感じられる先生もいらっしゃると思います。MSWの方と連携し、難病医療費助成制度を含む各種医療費助成制度の詳しい説明や申請のサポートをお願いすることは、患者さんに円滑に医療費助成制度を利用していただくことにつながるだけでなく、医師の負担軽減にもつながります。そのうえで、医師がすべきことは、疾患や治療について患者さんにしっかり説明し、患者さんに医療費助成制度を利用してまで治療が必要な理由を理解していただくことだと思います。
医師とMSWの方の役割分担や連携方法に関しては、ご施設の状況に応じてさまざまだと思います。ILD患者さんに対してどのように医療費助成制度の情報提供を行うと円滑な医療費助成制度の利用につながるのか、ぜひご施設のMSWの方とご相談していただきたいと思います。
吉田 様:
MSWは、医療費の事前評価、患者さんの病状などに応じた各種医療費助成制度の説明や申請のサポート、疾患や治療に対する患者さんの不安や疑問の解消といったサポートをしています。これらのサポートによって、患者さんのQOLの向上を目指しています。
患者さんが利用できる社会資源は、難病医療費助成制度だけでなく、高額療養費制度、付加給付制度などさまざまなものがあります。患者さんが経済的な不安なく、治療を納得して受けられるように、MSWとしてはこれらの社会資源について的確に情報提供し、その利用方法を患者さんにご提案したいと思っています。
医療費助成制度の情報提供をMSWにご依頼いただく場合は、診断名と指定難病の場合は重症度、治療開始の目安時期といった情報をいただければ、その患者さんにどのような医療費助成制度を紹介すべきか判断することができます。抗線維化薬などのILD治療に対する経済面のハードルを軽減し、患者さんに適切な治療を受けていただくためにも、医療費助成制度についてはMSWにご相談いただけますと幸いです。
【参考文献】
- 厚生労働省 保健局 高齢者医療・被用者保険について(平成26年10月6日)
(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000060238.pdf、2024年5月17日アクセス)
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