新皮質のレヴィ小体の存在はパーキンソン病認知症を必ずしも意味するとは限らない

サイトへ公開:2023年04月27日 (木)

ご監修:武田 篤 先生(独立行政法人 国立病院機構 仙台西多賀病院 院長)
Neocortical Lewy Body Pathology Parallels Parkinson’s Dementia, but Not Always

Martin WRW, et al. Ann Neurol 2023; 93: 184-195
Pubmedアブストラクト

背景

パーキンソン病(PD)の発症には,ドパミン作動性黒質線条体経路に影響を及ぼす神経細胞の数の減少が関与している。レヴィ小体(LB)及びレヴィ神経突起はカテコールアミン作動性脳幹核の神経細胞の減少と関連して発生し,PDの疾患進行とともに明らかになることが多い。初期のPDは認知機能が保たれているが,しばしば認知症を伴うPD(PDD)へと進行する。一方,PDDに類似した病理変性を示すレヴィ小体型認知症(DLB)は,運動性パーキンソニズムが発現する前または,運動性パーキンソニズムの発現と同時に認知機能障害を認める。
PDDでは大脳辺縁系又は新皮質にα-シヌクレイン病変を認める一方で,アルツハイマー病(AD)の病理変性であるβ-アミロイド及び神経原線維変化(NFT)が一部の症例で認められ,PDにおける認知症の発症に寄与する可能性が近年の研究から示唆されている。また,脳アミロイド血管障害(CAA)とPDにおける認知症との関連性についての報告はなく,PDDとDLBにおける認知症の病理変性の違いについては,未だ明らかにされていない。
本研究は,PDDはAD神経病理学的変化(ADNC)や脳小血管病理よりも新皮質におけるLBと強く関連すると仮定し,PDで認められる認知症と新皮質におけるプロテイノパチーとの関連性を評価することを目的として実施した。さらに,DLBとPDDの病理変性の違いについて検討した。

方法

1996年から2019年にかけて,ワシントン大学セントルイス(WUSTL)の運動障害センターで治療を受けていたPD患者211例の臨床データを使用した。発症時の年齢はPDの運動症状が最初に発現した時点における年齢,罹病期間はPDの運動症状の発現から死亡までの期間と定義した。LB病変の病期分類はBraak LB stageを用いた。βアミロイド斑,NFT,神経突起斑については米国国立老化研究所/Alzheimer病協会ワークグループ(NIA-AA)のガイドラインに従って評価した。同様にADNCの重症度は「なし」「低」「中」「高」として定義し,動脈硬化及びCAAの重症度については「なし」「軽度」「中等度」「重度」に分類した。
認知症とBraak LB stage,ADNCの重症度,脳小血管病変(動脈硬化及びCAA)の重症度との関連性を,性別,人種,教育レベル,発症時の年齢及び死亡時の年齢を共変量としたロジスティック回帰モデルを用いて検討した。また,新皮質におけるLBと認知症との関連性についても検討した。

結果

PD患者211例中,165例が組み入れ基準を満たした。臨床的に認知症を認めた128例のうち,運動症状の発現から認知症発症までの期間が1年以下であった14例は,現行のDLB臨床診断基準(2017)に基づいてDLBを伴うPD患者としてDLB群へと割り当てられ,PDD群は114例となった。なお,認知症を伴わないPD(PDND)患者の群は37例であった。
認知症を伴うDLB群及びPDD群は,PDND群と比較して,運動症状の発現時の年齢及び死亡時の年齢がわずかに高かったが,罹病期間は同等であった。DLB群,PDD群及びPDND群のBraak LB stageと死亡時の年齢との関連性を図1に示す。
Braak LB stageは認知症と有意に関連し(p=0.002),Braak LB stage 6は認知症の診断を予測する独立因子であることが示されたが(p=0.004),Braak LB stage 5は認知症の診断を予測する独立因子ではなかった(p=0.078)。ADNCの重症度,動脈硬化及びCAAの重症度は認知症の診断と有意に関連しなかった(それぞれp=0.818,p=0.436,p=0.427,いずれもロジスティック回帰モデル)。
新皮質のLBの有無について,Braak LB stage 1~4を「新皮質のLBなし」,stage 5,6を「新皮質のLBあり」で分類すると,「新皮質のLBあり」は認知症の診断を有意に予測した(p=0.001)。ただし,PDD群の6%(114例中7例)は新皮質にLBを認めなかったが,PDND群の68%(37例中25例)で新皮質にLBを認めた。
ADNCの重症度について,「なし又は低」「中又は高」の2つに分類して認知症の診断を予測するか検討したところ,ADNCの重症度は認知症の診断を有意に予測しなかった(p=0.232,いずれもロジスティック回帰分析)。DLB群及びPDD群の死亡時の年齢,認知症発症時の年齢,認知症発症までの期間及び全罹病期間については図2に示すように,有意差が認められた(それぞれ,p=0.011,p<0.001,p<0.001,p<0.001,One-way多変量ANCOVA)。
一方,PDD群及びDLB群ではBraak LB stage,ADNCの重症度,動脈硬化及びCAAの重症度の間に有意差は認められなかった(それぞれ,p=0.407,p=0.526,p=0.518,p=0.737,いずれもロジスティック回帰分析)。

結論

新皮質のLBはPDD患者では大抵の場合において認められる一方,多くのPDND患者においても新皮質のLBは認められた。場合によっては,新皮質のLB,ADNCや脳小血管病理が認められないPD患者でも認知症を発症する可能性がある。つまり,新皮質のLB,ADNC及び脳小血管病理のいずれでもない,まだ解明されていない他の要因がPDにおける認知症の発症に関与している可能性が示唆されており,今後の研究に期待が持たれる。

結論01 結論02

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P-Mark 作成年月:2023年4月