パーキンソン病における遺伝子と環境の相互作用

サイトへ公開:2024年05月30日 (木)

ご監修:武田 篤 先生(独立行政法人 国立病院機構 仙台西多賀病院 院長)

背景

パーキンソン病(PD)は、遺伝的要因と非遺伝的要因である生活習慣や生活にかかわる環境を含む環境的要因が複雑に関係して発症する神経変性疾患である。遺伝的要因について、近年、PDの病因として一定の役割が認められる遺伝子のうち、グルコセレブロシダーゼ(GBA)遺伝子座が注目すべきリスク因子として明らかにされている。一方、PDの発症に寄与する環境的要因としては頭部外傷や農薬への曝露、喫煙、カフェイン摂取のほか、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、BMIなどが要因として報告されているが、PDの発症におけるGBA遺伝子と環境の相互作用についてはほとんどが明らかにされてはいない。  
そこで本研究では、大規模な研究データベースを用いて、PDに関連する環境的要因と遺伝的要因との相互作用を系統的に検討した。検討にあたっては、多遺伝子が関与する疾患の複数の遺伝子バリアントをスコア化し、疾患の発症や進展を予測するPRS(ポリジェニックリスクスコア)を使用した。PRSは遺伝的要因と環境的要因との相互作用を同定する際に有用とされるものである。

方法

遺伝子検査企業である23andMe, Inc.のデータベースにあるPD患者及び対照として年齢と性別を一致させた症例からなる研究データセットを構築した。

過去のPD疫学研究での報告を基に、環境的要因について下記の7つの因子を抽出し変数とした。  
①    2型糖尿病(診断の有無)  
②    喫煙歴(生涯喫煙本数100本の喫煙歴の有無)  
③    カフェイン摂取量(コーヒー、紅茶、炭酸飲料、エナジードリンクのいずれかの摂取量[mg/日]を測定)  
④    BMI(男女別に分位数を正規化)  
⑤    農薬曝露(有無)  
⑥    頭部外傷(有無)  
⑦    身体活動量(30分以上の身体活動を1週間に行った回数)

遺伝的要因については参加者の唾液からDNAを抽出して遺伝子型を判定し、GBAバリアントの保因状態を評価した。さらに、PDに関連する欧州のゲノムワイド関連解析(GWAS)で得られた結果を基にPRSを算出した。

上記の環境的要因と遺伝的要因について、PD発症との相互作用を解析した。

結果

研究データセットには、PD患者18,819例(女性40.2%)と対照として非PDの545,751例(女性55.7%)が含まれた。データ収集時のPD患者の平均年齢は73.1歳、対照の平均年齢は73.0歳で、PD患者のPD罹病期間の平均年数は6.8年であった。  
7つの環境的要因及び2つの遺伝的要因がPDに与える影響をロジスティック回帰モデルによって解析した結果、カフェイン摂取量[オッズ比(OR)0.43,95%信頼区間(CI) 0.41-0.46,p=1.80×10-167]、喫煙歴(OR 0.70,95%CI 0.68-0.72,p=2.42×10-108)、BMI(OR 0.79,95%CI 0.78-0.80,p=2.48×10-190)、2型糖尿病(OR 0.86,95%CI 0.82-0.91,p=1.97×10-8)はPD発症リスクと負の相関を示していたのに対し、農薬曝露(OR 1.16,95%CI 1.11-1.22,p=8.17×10-10)、頭部外傷(OR 1.31,95%CI 1.25-1.38,p=7.03×10-28)、PRS(SDあたりのOR 1.41,95%CI 1.39-1.43)、GBAバリアント保因状態(OR 1.73,95%CI 1.63-1.83)はPD発症リスクと正の相関を示していた。PDと身体活動量との間には有意な関連はみられなかった(OR 0.99,95%CI 0.99-1.00,p=0.111)。  
次に、環境的要因と遺伝的要因の相互作用をロジスティック回帰モデルによって解析した結果、PRSと2型糖尿病(OR 0.87,95%CI 0.83-0.91,p=6.502×10-8)、PRSとBMI(OR 0.97,95%CI 0.96-0.99,p=4.314×10-4)、PRSと身体活動量(OR 1.01,95%CI 1.01-1.02,p=8.745×10-5)、PRSと喫煙(OR 0.95,95%CI 0.92-0.98,p=2.236×10-3)との間に有意な相互作用が確認された(図1、表1)。一方、GBAバリアント保因状態ではいずれの環境的要因との間にも有意な相互作用は確認されなかった。  
さらに,PRSを四分位に分類し上位四分位群と下位四分位群のPRSと2型糖尿病、BMI、身体活動量、喫煙歴とPDの有病率をそれぞれのデータセットで確認した。その結果、BMIが高い場合と喫煙歴が有る場合ではPRSの上位四分位群と下位四分位群の両群においてPDの有病率は低かった。一方、2型糖尿病及び身体活動量については上位四分位群と下位四分位群の各群において異なり、遺伝的要因の変化でPD発症率も変化する可能性が示唆された。

※上記にあるp値は、すべて名目上のp値であり多重性の調整はされていない。

結論

本研究の結果、PDの発症に関して、遺伝的要因(PRS)と環境的要因(BMI、2型糖尿病、身体活動量、喫煙)との間に有意な相互作用が確認された。しかしながら、2型糖尿病及び身体活動量については遺伝的要因に応じてPD発症リスクが変化し、遺伝的リスクが低い場合、環境的要因がより大きく影響する可能性も示唆された。本研究ではPDや環境的要因の状況について自己報告に基づいていたことや欧州の集団のみを対象としていたことなどが限界として挙げられるが、今後さらなる知見が集積し臨床試験への応用に期待が持たれる。

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P-Mark 作成年月:2024年5月