心腎連関を考慮した心不全治療 ―EMPEROR試験、EMPA-KIDNEY試験から考える―
サイトへ公開:2024年06月14日 (金)
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心腎連関が心不全に与える影響を示す疫学データとともに、ジャディアンスの慢性心不全と慢性腎臓病に対するエビデンスを紹介します。

心腎連関と心不全患者の腎機能が予後に与える影響

血圧や体液の恒常性は、心臓と腎臓が相互に影響を及ぼしあうことで、正常に保たれています。しかし、心不全や慢性腎臓病(CKD)等、一方の臓器の機能不全が生じると、もう一方の臓器の機能低下を引き起こします。
心不全では、心臓のポンプ機能障害等を代償するため、心臓血管系、神経体液性因子や臓器血流分配が変化します。心拍出量の低下に伴う臓器血流分配の変化では、腎臓の血流分配の低下が大きく、心不全が腎機能障害の予後因子であると報告されています1)。
同様に、腎機能障害による病態生理学的な変化が心血管疾患の悪化を惹起することから、心臓と腎臓の相互の機能不全につながる悪循環は心腎連関として知られています。
そのため、CKDに対する早期からの対策と積極的な治療は、心血管疾患の発症と進行を抑止し、QOLおよび予後の改善に重要であると報告されています1)。
1) 清野精彦. 日内会誌. 2008; 97(9): 2142-8

実際に、CKDを合併すると、心不全患者の予後が悪化することが疫学研究にて報告されました。
日本人を含む心不全患者を対象とした国際共同研究では、HFrEFとHFpEFのそれぞれでCKD・糖尿病とも非合併の群とCKDのみ合併する群の予後を比較した結果、HFrEF、HFpEFのいずれにおいても、1年時の全死亡または心不全による入院のリスクはCKDのみ合併する群で高かったと報告されました(HFrEFのハザード比:1.43、HFpEFのハザード比:2.54)。
ここから、心不全治療におけるCKD対策は、左室駆出率にかかわらず必要であるといえます。

また、腎機能低下と心不全の予後の関係性については、国内の前向き観察研究で検討されました。
心不全による入院をした患者を対象として、退院後6ヵ月間のeGFR変動別に、全死亡または心不全による入院の累積発現率を検討した結果、eGFRの変動が小さいほど、心不全の予後悪化のリスクが低かったと報告されており(p<0.001、Log-rank test)、心不全治療では、腎機能への影響を考慮した治療選択が望ましいことが示されました。
ジャディアンスのエビデンス①
左室駆出率が低下した(LVEF≦40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPEROR-Reduced試験 CKDの有無別解析)

SGLT2阻害薬であるジャディアンスでは、慢性心不全に対する有効性を検証したEMPEROR-Reduced試験、EMPEROR-Preserved試験の両方で、CKDの有無別解析を行いました。
HFrEFを対象としたEMPEROR-Reduced試験では、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性のプラセボ群と比較検討を、全体集団解析に加え、CKD合併とCKD非合併に分けた事前規定されたサブグループ解析で行いました。
なお、CKD合併の定義は、eGFR<60mL/min/1.73m2または尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)>300mg/gとしました。

HFrEFの全体集団における、心血管死または心不全による入院のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.75(95.04%CI:0.65~0.86)、p<0.001(Cox比例ハザード回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(検証的な解析結果)。
また、CKD合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.78(95%CI:0.65~0.93)、CKD非合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.72(95%CI:0.58~0.90)(交互作用のp値:0.63、名目上のp値)でした。

【参考情報】
腎機能への影響を示すeGFRスロープ (mL/min/1.73m2/年)(負の値が小さいほど、1年あたりのeGFRの低下が少ないことを示す)は、CKD合併のジャディアンス10mg群で-0.22±0.32、プラセボ群で-1.33±0.32、CKD非合併のジャディアンス10mg群で-0.93±0.33、プラセボ群で-3.33±0.33でした。
ジャディアンス10mg群とプラセボ群の差はCKD合併で1.11、CKD非合併で2.41でした。

EMPEROR-Reduced試験の全体集団での有害事象の発現割合は、ジャディアンス10mg群で76.2%(1,420/1,863例)、プラセボ群で78.5%(1,463/1,863例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全332例(17.8%)、低血圧130例(7.0%)、腎機能障害105例(5.6%)等、プラセボ群で心不全444例(23.8%)、低血圧119例(6.4%)、高カリウム血症、高尿酸血症各115例(6.2%)等でした。重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全332例、心室性頻脈55例、肺炎53例等、プラセボ群で心不全444例、肺炎62例、急性腎障害55例等でした。なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。
また、CKDの有無別の有害事象の発現割合は、CKD合併のジャディアンス10mg群で80.2%(787/981例)、プラセボ群で82.9%(825/995例)、CKD非合併のジャディアンス10mg群で71.9%(632/879例)、プラセボ群で73.5%(636/865例)でした。CKDの有無別の事前規定された特に注目すべき有害事象および特定の有害事象は表のとおりでした。
ジャディアンスのエビデンス②
左室駆出率が保たれた(LVEF>40%)慢性心不全患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPEROR-Preserved試験 CKDの有無別解析)

HFpEFを対象としたEMPEROR-Preserved試験でも、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性のプラセボ群と比較検討を、全体集団解析に加え、CKD合併とCKD非合併に分けた事前規定されたサブグループ解析で行いました。
なお、CKD合併の定義はeGFR<60mL/min/1.73m2またはUACR>300mg/gとしました。

HFpEFの全体集団における、心血管死または心不全による入院のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.79(95.03%CI:0.69~0.90)、p<0.001(Cox比例ハザード回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(検証的な解析結果)。
また、CKD合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.80(95%CI:0.69~0.94)、CKD非合併でのプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.75(95%CI:0.60~0.95)(交互作用のp値:0.6682、名目上のp値)でした。

【参考情報】
腎機能への影響を示すeGFRスロープ (mL/min/1.73m2/年)は、CKD合併のジャディアンス10mg群で-0.70±0.15、プラセボ群で-2.13±0.15、CKD非合併のジャディアンス10mg群で-1.87±0.16、プラセボ群で-3.19±0.15でした。
ジャディアンス10mg群とプラセボ群の差はCKD合併例で1.43、CKD非合併で1.31でした。

EMPEROR-Preserved試験の全体集団での有害事象の発現割合は、ジャディアンス10mg群で85.9%(2,574/2,996例)、プラセボ群で86.5%(2,585/2,989例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全449例(15.0%)、尿路感染236例(7.9%)等、プラセボ群で心不全594例(19.9%)、高血圧256例(8.6%)、心房細動223例(7.5%)等でした。重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群で心不全448例、肺炎100例、心房細動92例、急性腎障害81例等、プラセボ群で心不全594例、肺炎119例、急性腎障害107例等でした。なお、投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。
また、CKDの有無別の有害事象の発現割合は、CKD合併のジャディアンス10mg群で89.0%(1,436/1,614例)、プラセボ群で89.2%(1,411/1,581例)、CKD非合併のジャディアンス10mg群で82.4%(1,135/1,378例)、プラセボ群で83.4%(1,167/1,400例)でした。CKDの有無別の事前規定された特に注目すべき有害事象および特定の有害事象の発現割合は表のとおりでした。
ジャディアンスのエビデンス③
腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とした国際共同第Ⅲ相・検証試験
(EMPA-KIDNEY試験)

ジャディアンスでは、CKDに対する有効性を検証したEMPA-KIDNEY試験が評価され、ジャディアンス10mgの効能又は効果として慢性腎臓病※の追加が承認されました。
EMPA-KIDNEY試験では、スクリーニング時およびその3ヵ月以上前に治験実施施設で測定したeGFR 20以上45未満(mL/min/1.73m2)、またはeGFR 45以上90未満かつUACRが200mg/gCr以上(または尿中蛋白/クレアチニン比が0.3g/gCr以上)のいずれかを満たす、腎疾患進行のリスクのあるCKDを対象として、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与した時の有効性および安全性をプラセボと比較検討しました。
※ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

CKDにおける腎疾患進行または心血管死のプラセボ群に対するジャディアンス10mg群のハザード比は0.73(99.83%CI:0.59~0.89)、p<0.0001(Cox回帰モデル)であり、ジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(検証的な解析結果)。

eGFRスロープ(mL/min/1.73m2/年)は、ベースラインから最終フォローアップ来院まで(全期間)において、プラセボ群-2.90に対してジャディアンス10mg群-2.16でした。
また、SGLT2阻害薬投与においては投与初期1ヵ月間にGFR低下が認められ、その後eGFRスロープが緩やかになることが報告されていること2)、急性変化の影響を取り除く方法として、急性変化の時期のeGFRを採択せずにそれ以降のスロープ(慢性期のeGFRスロープ)のみを計算する方法などが考えられること3)から事前規定された、2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院まで(慢性期)のeGFRスロープは、プラセボ群-2.74に対してジャディアンス10mg群-1.37であり、ジャディアンス10mg群はプラセボ群に対してeGFRスロープの低下が小さかったことが示されました(いずれもp<0.0001、名目上のp値、shared parameterモデル)。
2)日本腎臓学会編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023, 東京医学社, 2023. p13-4.
3) 濱野高行. 日腎会誌. 2018; 60(5): 577-80.

eGFRスロープについての事前規定されたUACR別のサブグループ解析では、慢性期において、UACRにかかわらず、eGFRスロープの負の値はジャディアンス10mg群でプラセボ群よりも小さかったことが示されました(正常群:p=0.0008、微量および顕性アルブミン尿群:各p<0.0001、いずれも名目上のp値、shared parameterモデル)。

EMPA-KIDNEY試験では、安全性評価項目としての有害事象を、事前に規定した非重篤有害事象および全ての重篤な有害事象に限定して収集した結果、それらの発現割合はジャディアンス10mg群で43.9%(1,444/3,292例)、プラセボ群で46.1%(1,516/3,289例)でした。
主な有害事象は、ジャディアンス10mg群で痛風231例(7.0%)、コロナウイルス感染98例(3.0%)、急性腎障害93例(2.8%)等、プラセボ群で痛風266例(8.1%)、急性腎障害117例(3.6%)、コロナウイルス感染107例(3.3%)等でした。また、重篤な有害事象は、ジャディアンス10mg群でコロナウイルス感染98例、急性腎障害93例、血中カリウム増加76例等、プラセボ群で急性腎障害117例、コロナウイルス感染107例、血中カリウム増加87例等でした。投与中止、死亡に至った有害事象は表のとおりでした。

ジャディアンスは1日1回10mgで慢性心不全※1、慢性腎臓病※2、 2型糖尿病に対して投与することが可能です。
慢性腎臓病※2に対する効能又は効果の追加が2024年2月に承認されました。
慢性心不全※1と慢性腎臓病※2に対するジャディアンスの用法及び用量は1日1回10mgの経口投与です。朝食前または朝食後のどちらでも服用可能です。
※1 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

左室駆出率を問わず処方可能なジャディアンスには、EMPEROR-Reduced試験、EMPEROR-Preserved試験でのCKD有無別サブグループ解析に加え、CKDを対象としたEMPA-KIDNEY試験等のエビデンスがあります。
左室駆出率を問わず、慢性心不全※の標準的な治療を受けている患者さんにジャディアンス錠10mgの処方をご検討ください。
※ ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。