数字で見る、慢性心不全治療 第1回(静止画)

サイトへ公開:2024年06月27日 (木)

心不全患者におけるCKD割合

先生は、このような腎機能が低下している患者さんに対する今後の心不全治療をどのようにお考えになりますか?

この患者さんのeGFRは43.8mL/min/1.73m2です。心不全患者において、eGFR<60mL/min/1.73m2の割合はどれくらいだと思われますか?

心不全患者におけるeGFR<60mL/min/1.73m2の割合は・・・ 
↓ 
71.2%

本邦の前向き観察研究JCARE-CARD研究では、心不全の悪化により入院した患者の71.2%が退院時にeGFR<60mL/min/1.73m2でした1。 
今回は、このような腎機能低下がみられる心不全患者のリスクと心腎連関の重要性についてご紹介します。

心不全患者における腎機能低下のリスク

腎機能低下が心不全患者の予後に悪影響を及ぼす危険因子であることは、過去の多くの疫学研究から示唆されています1-5。 
心不全患者を対象としたJCARE-CARD研究では、対象の71.2%がeGFR<60mL/min/1.73m2であり、退院時のeGFR分布のピークは30~59mL/min/1.73m2の範囲にありました(図1)。

図1

本研究では、eGFRが低いほど全死亡および心不全による再入院のリスクが高かったことが報告され、eGFR別の生存曲線はそれぞれご覧のとおりでした(図2)。

図2

こうした腎機能低下によるリスクは、左室駆出率の低下の有無にかかわらずみられる可能性が示唆されています。 
ASIAN-HF Registryに参加した心不全患者を対象とした調査では、HFrEFおよびHFpEFのどちらにおいても全死亡または心不全による入院のハザード比が1.00を超えることが報告されました(図3)。

図3

心腎連関による悪循環

心不全患者における腎機能低下によるリスクは、各病態によって生じる生理学的作用の相互依存的な悪循環によって説明されると考えられています6。 
心不全では、腎血流量の減少や腎血流障害およびその結果として生じる虚血性腎障害によって、腎機能低下が促進されます。一方、慢性腎臓病(CKD)では、体液過剰(fluid overload)、貧血、尿毒症、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)および交感神経の活性化の結果として、左室リモデリング/線維化、心機能不全が促進されます(図4)。

図4

こうした悪循環を断ち切るためにも、心不全患者では腎機能を含めた管理が重要であると考えられます。

心腎連関を意識した心不全治療にジャディアンスという選択肢

ジャディアンスは、慢性心不全※1の転帰を改善する複数のメカニズムに影響を与える可能性があります。 
腎においてグルコースのみならずナトリウム再吸収を抑制することで、尿細管糸球体フィードバックの増加、心臓の前負荷および後負荷の低減、ならびに交感神経活性の抑制など生理的機能に変化を及ぼす可能性があります (図5)。

図5

また、ジャディアンス10mgは、2024年2月に慢性腎臓病※2の効能又は効果が追加承認されました。 
そこで、本追加承認の根拠となったEMPA-KIDNEY試験の結果をご紹介します。

※1 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。 
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象としたEMPA-KIDNEY試験

国際共同第Ⅲ相・検証試験のEMPA-KIDNEY試験では、腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病(CKD)患者6,581例を対象に、ジャディアンス10mgを1日1回経口投与したときの腎疾患進行または心血管死の初回発現までの期間に対する有効性および安全性をプラセボと比較検討しました(図6)。

図6

主要評価項目は腎疾患進行※3または心血管死の初回発現までの期間であり、その他の評価項目としてeGFRcr(CKD-EPI)の年間変化率(eGFRスロープ)が評価されました。 
なお、本試験は、有効性の中間解析の結果、事前に規定した2つの早期中止の基準をいずれも満たし、早期中止となりました。

※3 腎疾患進行:ESKD*1、eGFRcr(CKD-EPI)が10mL/min/1.73m2未満に持続的に低下*2、腎疾患による死亡、または無作為化割付後にeGFRcr(CKD-EPI)が40%以上持続的に低下*2のいずれか。 
*1 ESKDは、維持透析の開始または腎移植の実施と定義した。 
*2 eGFRcr(CKD-EPI)の低下における「持続的」の定義は、以下のいずれかとした。 
・予定されたフォローアップ来院時に2回連続して(30日以上の間隔で)認められた場合。 
・予定された最終フォローアップ来院時、または死亡、同意撤回もしくは追跡不能となる前の最終予定来院時に認められた場合。

本試験の結果、主要評価項目である腎疾患進行または心血管死のリスクは、ジャディアンス10mg群で27%低下し、プラセボ群に対するジャディアンス10mg群の優越性が検証されました(HR=0.73; 99.83%CI: 0.59-0.89;p<0.0001、Cox回帰モデル)(図7)。

図7

その他の評価項目であるベースラインから最終フォローアップ来院までの全期間のeGFRスロープはジャディアンス10mg群で-2.16、プラセボ群で-2.90、2ヵ月目の来院から最終フォローアップ来院までの慢性期のeGFRスロープはジャディアンス10mg群で-1.37、プラセボ群で-2.74でした。また、eGFRのベースラインからの変化量の経時推移はご覧のとおりでした(図8)。

図8

本試験における治験薬投与期間中央値21.82ヵ月での有害事象発現割合は、ジャディアンス10mg群43.9%、プラセボ群46.1%でした。ジャディアンス10mg群で発現割合が2%以上の有害事象は、痛風7.0%、コロナウイルス感染3.0%、急性腎障害2.8%などでした。 
ジャディアンス10mg群では重篤な有害事象が33.0%、投与中止に至った有害事象が7.0%、死亡に至った有害事象が3.8%に認められ、各内訳はご覧のとおりでした(図9)。

図9

【参考情報】CKD患者の体液量に対するジャディアンスの影響

また、本試験の対象患者のうち、生体インピーダンス測定を実施した患者を対象に、生体インピーダンス測定値より導出した「体液過剰」および脂肪量に対するSGLT2阻害薬の影響を評価した結果をお示しします。 
試験概要はご覧のとおりです(図10,11)。

図10

図11

本解析の主要評価項目である生体インピーダンス法による「体液過剰」絶対量の平均値に対するジャディアンスの影響と、そのサブグループ解析はそれぞれご覧の結果でした(図12,13)。 
なお、本解析では安全性に対する評価は行われませんでした。

図12

図13

腎機能を含めた管理が求められる慢性心不全※1患者の治療選択肢のひとつとして、慢性腎臓病※2の効能又は効果が追加承認されたジャディアンス錠10mgを、ぜひお役立てください。 
※1 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。 
※2 ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。

【引用】

  1. Hamaguchi S, et al.: Circ J. 2009; 73(8): 1442-1447.
  2. Hillege HL, et al.: Circulation. 2000; 102(2): 203-210.
  3. McAlister FA, et al.: Circulation. 2004; 109(8): 1004-1009.
  4. Go AS, et al.: Circulation. 2006; 113(23): 2713-2723.
  5. Ahmed A, et al.: Am J Cardiol. 2007; 99(3): 393-398.
  6. Ryan DK, et al. Eur Cardiol. 2022; 17: e17.

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