ジオトリフ座談会 EGFR遺伝子変異陽性肺癌の治療について(静止画)
サイトへ公開:2024年08月29日 (木)
ご監修:
【司会】前門戸 任 先生(自治医科大学 内科学講座 呼吸器内科学部門 教授)、
吉岡 弘鎮 先生(関西医科大学附属病院 呼吸器内科 準教授)、
善家 義貴 先生(国立がん研究センター 東病院 呼吸器内科 医長)、
山口 哲平 先生(愛知県がんセンター 呼吸器内科部 医長)
日時:2024年4月21日
会場:フォーシーズンホテル東京丸の内 7階 プライベートダイニングルーム
4名のエキスパートの先生方にお集まりいただき、EGFR遺伝子変異陽性肺癌の治療に関する座談会を開催しました。
Opening remarks:さらなる生存期間延長のために

前門戸先生
EGFR遺伝子変異の発見やEGFR-TKIの登場から20年以上の月日が経過し、今年、ジオトリフは発売から10年を迎えました。
国内の肺癌患者さんを対象とした患者調査では、抗がん剤治療に期待することとして、全生存期間(OS)の延長が最も重要視されていることが示されています1)。
そうした中で、私たち医師がどのようにOSの延長を図るべきかについて、今回はEGFR遺伝子変異に焦点を当てて、先生方よりご意見を伺えればと思います。
Short presentation1:日本人EGFR遺伝子変異陽性肺癌の生存期間

山口先生
私からは、現状として、日本人EGFR遺伝子変異陽性肺癌の治療と生存期間についてご紹介します。
肺癌診療ガイドラインでは、EGFR遺伝子変異陽性(Del 19またはL858R陽性)の一次治療について、「CQ47. PS 0-1の場合、一次治療として薬物療法が勧められるか?」で取り上げられています2)。2023年版の改定で、このCQ47には第一世代のEGFR-TKIを対照とした第Ⅲ相臨床試験での結果が示されているレジメンのみが記載され、ジオトリフの単剤療法を含む、そのほかのレジメンについては「BQ1. PS 0-1の場合、一次治療としてEGFR-TKIが勧められるか?」で紹介されるようになりました2)。
これらのレジメンについて、ガイドラインでは、全体集団における無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)の結果が掲載されています。しかし、日本人患者さんにおける生存期間の延長を考えるためには、グローバル試験であれば日本人サブグループ解析の結果もあわせて参照することが重要です。
ここで例として、ジオトリフのLUX-Lung 3試験3-6)の結果についてご紹介します。
本試験では、Uncommon mutationを含むEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌患者を対象に、一次治療におけるジオトリフ単独療法とPEM+CDDP併用化学療法の有効性と安全性が検討されました。

その結果、主要評価項目であるPFS中央値は、ジオトリフ群11.1ヵ月、PEM+CDDP群6.9ヵ月であり、ジオトリフ投与によるPFSの有意な延長が検証されました(両側層別ログランク検定 p=0.0004)。

また、日本人サブグループ解析では、PFS中央値はジオトリフ群13.8ヵ月、PEM+CDDP群6.9ヵ月であり、ジオトリフ投与による有意な延長が示されました(両側層別ログランク検定 p=0.0014 名目上のp値)。また、日本人サブグループ解析におけるOS中央値は、ジオトリフ群46.9ヵ月、PEM+CDDP群35.8ヵ月でした。

副作用は、ジオトリフ群229例中228例、99.6%、PEM+CDDP群111例中106例、95.5%に認められました。主な副作用は、ジオトリフ群で下痢、発疹/ざ瘡、口内炎、爪の異常など、PEM+CDDP群で悪心、食欲減退などでした。

Discussion
『肺癌診療ガイドライン2023年版』の改訂の影響は?
前門戸先生
山口先生、ありがとうございます。『肺癌診療ガイドライン2023年版』での改訂について、先生方はどのようにとらえていますか?
善家先生
2022年度版の肺癌診療ガイドラインでは、第一世代のEGFR-TKIと化学療法、それぞれを対照とした第Ⅲ相比較試験が同一のCQの中で取り扱われていました。しかし、2023年版では前者のみがCQ、一方、後者についてはBQとして整理されることとなりました。
LUX-Lung 3試験では対照群がCDDP+PEMであったため、ジオトリフに関しては今回の改訂でBQ1に記載されることになりました。
吉岡先生
ガイドラインでは、治療選択の評価のために臨床試験の質をある程度揃えて比較しなければなりません。これまでも対照群(標準治療群)が異なる第Ⅲ相試験を同一のCQの中で取り扱うことの妥当性について常に議論になっていたため整理されたと考えています。
前門戸先生
今回の肺癌診療ガイドラインの改訂によって、ジオトリフに関してはBQで記載されることになりましたが、山口先生の治療方針に影響を及ぼしますか。
山口先生
今回の診療ガイドラインの改訂は私の治療方針にはほとんど影響がないですね。ジオトリフに関してはネガティブなデータが出たわけではありません。私は今でも重要な選択肢のひとつと考えています。
臨床試験のOS、またそのサブグループ解析をどのようにとらえるか?
前門戸先生
では続いて、EGFR-TKIの第Ⅲ相試験の全体および人種別サブグループ解析におけるOSデータを、どのようにとらえていらっしゃいますか?
吉岡先生
全体とサブグループ解析それぞれのOSデータを見た場合に、特に人種やEGFR変異タイプによって同じ傾向を示さないケースが知られるようになってきているので、その背景を探索していく必要があると思っています。
山口先生
全体と人種別サブグループ解析で同じ傾向を示さないケースについては、人種差だけでなく、社会における医療環境も重要だと、私は考えています。
たとえば後治療をどのくらいしっかりと行うかは、国によって異なる部分だと思います。ですから、日本人のデータというよりは、日本でのデータが重要なのではないでしょうか。
Short presentation2:遺伝子変異タイプ別のEGFR-TKIの有効性

善家先生
私からは遺伝子変異タイプについてお話しします。
EGFR遺伝子変異のcommon mutationであるDel 19とL858Rは、元々ひとまとめに解析されてきました。しかし近年、この2つのサブタイプでEGFR-TKIへの治療反応性に差があることが知られるようになりました7)。
ジオトリフについても、オシメルチニブと比較したレトロスペクティブ研究8)において、変異タイプによって異なる傾向が見られていますのでご紹介します。
本研究は、病理診断にてNSCLCと診断された、変異型を問わないEGFR遺伝子変異陽性患者554例を対象とした後ろ向き観察研究です。一次治療としてジオトリフを投与した群とオシメルチニブを投与した群が比較されました。

主要評価項目である、EGFR-TKI投与中止までの期間(TD-TKI)の中央値は、ジオトリフ群で18.6ヵ月、オシメルチニブ群で20.5ヵ月であり、ハザード比は1.15でした(ログランク検定 p=0.204 名目上のp値)。

サブグループ解析となるL858R変異陽性かつ脳転移のない患者において、OSはジオトリフ群でより長く、そのハザード比は2.31でした(ログランク検定 p=0.047 名目上のp値)。

なお、本研究では安全性情報は収集されていません。

こうしたことから、L858Rの治療を今後どうとらえていくかは注目されるポイントです。
Discussion
遺伝子変異タイプ別に治療を考えるべきか?
前門戸先生
ひとつのポイントとして、もともとDel 19とL858Rはひとまとめに扱われてきた経緯がありますが、ガイドライン委員会の中でこれらを分けて論じるという議論はあったのでしょうか?
善家先生
これは昔から大きな論点になっています。ただ、現状では、いずれかの変異タイプのみに対象を絞った臨床試験がなく、あくまでもサブグループ解析の結果であるために、ガイドラインでは2つの変異を分けていません。
前門戸先生
やはり、議論はされているのですね。実臨床においては、遺伝子変異タイプ別に治療を考えるべきだとお考えになりますか?
善家先生
エビデンスがまだサブグループ解析にとどまることを考慮すると、強く推奨されるとは考えていませんが、患者さんの遺伝子変異タイプを含めた背景や希望を踏まえて、患者さん個々に適切な治療を考えていく必要性があります。
吉岡先生
ガイドライン委員会で分けるかどうかを議論されているくらいですから、実臨床においても、遺伝子変異タイプ(Del 19とL858R)は治療戦略を分けて考えていくときが来ているのだと、私も思います。
山口先生
遺伝子変異タイプも含めて、患者さん個々に適切な治療を考えていくことは必要ですよね。私は何より、複数の治療選択肢が存在することを患者さんに説明するのがまず大切だと思います。
セカンドオピニオンを受けると、1つの治療についてしか説明を受けていない患者さんをよく見かけます。各治療法について十分に説明をして、それぞれの治療のリスクベネフィットと患者さんの背景や好み、希望を踏まえて選択することが大切だと考えています。
Short presentation3:ジオトリフによるシークエンス治療の可能性

吉岡先生
私は、OSの延長を目的とした治療を考える上で、シークエンスを目指す治療は重要な治療選択肢のひとつと考えています。そこで私からは、ジオトリフから開始してシークエンスを目指す治療に関するデータとして、最近報告された韓国のリアルワールドデータ9,10)をご紹介します。
本検討では、ジオトリフで一次治療を開始したEGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌患者を対象に、一次治療および二次治療における臨床アウトカムが評価されました。

主要評価項目であるTime On Treatment(TOT)の中央値は、全症例で25.9ヵ月であり、ジオトリフ→オシメルチニブ投与群では35.4ヵ月、ジオトリフ→その他治療群では20.8ヵ月でした(ログランク検定 p<0.001 名目上のp値)。

また、OS中央値は、全症例で49.1ヵ月であり、ジオトリフ→オシメルチニブ投与群では54.3ヵ月、ジオトリフ→その他治療群では41.3ヵ月でした(ログランク検定 p=0.019 名目上のp値)。

なお、本研究では安全性情報は収集されていません。

OS延長を目的とした治療戦略として、二次治療以降の選択も重要となります。オシメルチニブで初回治療を行った場合の二次治療は化学療法になり、ジオトリフやエルロチニブ+血管新生阻害剤併用療法、あるいは第一世代・第二世代EGFR-TKIで初回治療を行った場合はPDになった際に再生検でT790M変異が検出された場合は、オシメルチニブへシークエンスできます。
また、二次治療でT790M変異が検出できずシークエンスできなくても、その後に、三次治療、四次治療と、治療変更の機会があるたびに、リキッドバイオプシーを含めて可能な限り再生検を行ってT790M変異を検出するといった医療者側の努力も、患者さんの予後に影響するのではないかと考えています。
Discussion
ジオトリフ治療を検討する患者像は?
前門戸先生
吉岡先生、ありがとうございました。先生は、どのような患者さんにファーストラインとしてジオトリフを考慮されますか?
吉岡先生
私は、どの患者さんにも、オシメルチニブから開始する戦略と、エルロチニブ+血管新生阻害剤併用療法もしくはジオトリフから開始するシークエンス戦略の2つをご説明しています。
シークエンス戦略を選ばれる方では、血管新生阻害剤への適応となるかどうかや、投与方法、通院頻度といった点を患者さんとお話しして一次治療を選んでいただくことにしています。
Del 19の患者さんとL858Rの患者さんで、それぞれの治療で期待されるOSの説明を変えており、L858Rの患者さんにはシークエンス戦略をより推奨する形でお伝えしています。どちらの場合でも、後治療の存在に価値を感じてシークエンス戦略を選択される患者さんは、やはりいらっしゃいますね。
善家先生
私は、L858Rの患者さんの場合にジオトリフを考慮することが多いです。L858Rで長期生存を望まれている患者さんには、シークエンスを目指した治療として、エルロチニブ+血管新生阻害剤併用療法またはジオトリフによる一次治療を説明するようにしています。
前門戸先生
シークエンスを目指した治療では、やはり再生検が大切だと思いますが、善家先生のご施設では、ジオトリフを選択した場合にその後のT790M変異をどのように検出されていますか?
善家先生
基本的には、より高い検出率が期待できる気管支鏡検査で再生検を行っていますが、1回目で出ない方は2回目、3回目を気管支鏡検査で行うことが難しいので、その場合は血漿で行うようにしています。そのほかにも、転移部位から生検することもありますが、無理せず、安全に実施することに努めています。また、患者さんによってはクライオ生検をすることもあります。
ICにおける患者さんとのコミュニケーションのポイントは?
前門戸先生
では、ジオトリフのICで患者さんに伝えなければならないポイントは何だとお考えになりますか?
善家先生
オシメルチニブへのシークエンスに移行できるかどうかが分からないところが、患者さんも、そして私たち臨床家も悩むところだと思います。
ですから、ICのポイントとしては、オシメルチニブに移行できなかった場合にどのような戦略で治療をしていくかを伝えることです。たとえば、再生検を血漿も用いながら繰り返し検査することなどを患者さんにお話しすることが大切だと考えています。
山口先生
私は、治療選択肢について患者さんに説明する際に、各EGFR-TKIの副作用をよく説明するようにしていて、一般的なEGFR-TKIの副作用であるILDについても、頻度を含めてご説明するようにしています。ジオトリフの場合は、下痢や皮疹といった副作用が予測されるので、減量・休薬してコントロールしながら治療を続けましょうと説明しています。
また、ジオトリフに限ったことではありませんが、化学療法ももちろん大切だというお話は必ずします。
前門戸先生
確かに過去に遡ると、化学療法が先か、EGFR-TKIが先かということで激論が交わされていた時代がありましたね。化学療法も重要な治療選択肢のひとつですから、EGFR-TKIでPDとなった場合には化学療法が治療選択肢となることを、一次治療の検討段階で伝えておくことは大切ですね。
山口先生
はい。EGFR-TKIでの治療を続けていくと、いつかはPDになって化学療法を挟むだろうということや、その後にEGFR-TKIのリチャレンジをすることがあることを伝えていますね。
吉岡先生
やはり、長期生存を目指すという点では、EGFR-TKIのリチャレンジを含めて、元気であれば何次治療でもやっていただくことがOS延長につながると思うので、化学療法の説明は大切ですね。シークエンスの説明にも化学療法が登場するので、私も患者さんには必ず話しています。
Closing remarks
前門戸先生
今日は含蓄のある、非常に意義深いお話を伺うことができました。
患者さんのできるだけ長く生きたいという思いを尊重してOS延長という治療目標に立ち返ると、ジオトリフ・オシメルチニブのシークエンス治療も含めた複数の治療選択肢の中から、患者さんに最も適した治療を選ぶことの大切さを、数々のお話の中で伺いました。
本日は3名の先生方にご参加いただき、非常に意味深い座談会になったと思います。先生方、ありがとうございました。
【引用】
- Sugitani Y. et al.: Front Pharmacol 12, 697711, 2021
- 日本肺癌学会 編. 肺癌診療ガイドライン2023年版.
- 社内資料 国際共同第Ⅲ相試験(LUX-Lung 3)[承認時評価資料]
- Sequist LV. et al.: J Clin Oncol 31(27), 3327, 2013※
- Yang JC. et al.: J Clin Oncol 31(27), 3342, 2013※
- Kato T. et al.: Cancer Sci 106(9), 1202, 2015※
- Sheng M. et al.: Eur J Clin Pharmacol 72(1), 1, 2016
- Ito K. et al.: ESMO Open 6, 100115, 2021※※
- Kim T. et al.: Cancer Res Treat 55(4), 1152, 2023
- Kim T. et al.: Cancer Medicine 10, 5809, 2021
※:本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施された
※※:著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料を受領している者が含まれる